IS-Junk Collection-【再起動】   作:素品

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Phantomが売っていたので買いました。

今でこそ虚淵は何かと叩かれていますが、この時代の虚淵は本当に好きです。

ていうか、Phantomを知ってる人いるんすかね?

ということで、日常+フラグ回


第十五幕 昼食騒動

「・・・・・・聞いた話とは何か違うわね」

 

箸の先で注文したラーメンの麺を摘まみながら、鈴音はそう呟いた。

 

時間は昼休み。昼食をとるため食堂へ来た一夏たちを待っていたのは、朝に出会った中国代表候補生の鈴音であった。

 

「ここのラーメンって何かしらあったっけか?」

 

「誰もラーメンの話なんてしてないわよ。まぁ、ここのは妙に美味しいけど」

 

一夏は鈴音の独り言に、ズルズル啜っていたラーメンを飲み込み、そう聞き返した。ちなみに一夏と本音はそれぞれ塩味と味噌のラーメンを、セシリアはサンドイッチといったメニューで鈴音の座るテーブルで食事を進めている。

 

「大方、『あの事』じゃありませんか?」

 

「ん? あぁ、俺がせっしーに代表を代わるように 脅 し た、ってやつか?」

 

セシリアが濁して言ったことに、一夏はニヤニヤと笑いながら『脅した』の部分をわざと周りに聞こえるように強調して話す。それに反応した数人の女子を視界の端に捉えると、より一層愉しげに喉を鳴らして笑うのだ。

 

ISの出現により、社会では行きすぎた女尊男卑の風潮が問題になっている。この学園も例に違わず、そういった思想を持つ女性が多くいる。

 

そして、件の噂というのはそんな者たちによる嫌がらせのようなものである。

 

「まぁ、本人はそれで楽しんでいるんですから、世話のない話ですわね」

 

セシリアはそう言って、紅茶のカップを置きながらに言う。

 

彼女の言うとおり、言われている本人は気にするどころか笑っている。別に一夏が誹謗中傷を受けて喜ぶ特殊な人間という訳ではなく、彼自身の性根が螺曲がっているため、彼にとってはそんな影口が賛美の声、尻尾を足に挟んで唸るだけの滑稽なチワワに見えているのだ。

 

言ってしまえば、『吠えるしかできねぇ犬なんだから、精一杯可愛がってあげないと』みたいなノリである。

 

「おりむー、悪い顔してるよ?」

 

「ハハッ! マジかよ、ちょっと写メってくんね? 新聞部脅して掲載してもらうから」

 

「もー! そういうのは、やっちゃダメなんだよー?」

 

「なーに、少しオハナシすりゃぁ誰であろうと―――」

 

「ダ メ だ よ ?」

 

「了解しました Sir」

 

「・・・・・・ホントによく判んないヤツ」

 

そんな会話をしている二人に渋面をつくりながら、鈴音は正面に座るセシリアに向き直る。

 

「ねぇ、せっしーって言ったっけ? アイツと戦ったんでしょ? ぶっちゃけどうなの?」

 

「セシリア・オルコットですわ。どう、と言いますと?」

 

「だぁかぁら! 勝ったのはアイツなのか、アンタなのかってこと!」

 

若干の苛つきも含めて、怒鳴るように質問をぶつける鈴音に、セシリアは優雅に残りの紅茶を飲み干すと少しの間を空けて、ゆっくり答えた。

 

「試合に勝ったのはわたくしですが、勝負に勝ったのは彼、というところですかね」

 

「はぁ?」

 

「噂に流されて質問してきた方々にわたくしからの答えですが、『身を裂かれるまで』ヤり合ってみれば、嫌が応にでもよく判りますわ」

 

「・・・・・・・・・・・・ッ」

 

その答えは曖昧で、結論にいたっては判断を相手に丸投げ、というものだった。

 

だが、セシリアには凄みがあった。

 

有無を言わさぬ真っ直ぐな眼差しは、鈴音に伊達や酔狂で言っていないことを理解させるには充分であった。

 

「そんなことより、貴女は何か一夏さんに用事があるんじゃないんですか?」

 

「えっ!?」

 

セシリアは鈴音に向けていた"圧"を納め、目を伏せながらにそう切り出した。

 

言われた方は核心を突かれた急な質問に、仰け反るように驚愕する。どういうわけだか顔も赤い。

 

「な、何で知ってんのよ!?」

 

「転校生の筈ですのに朝のホームルーム前から校内を彷徨き、他のクラスの人間の元に名指しで会いにきたことが一つ。まぁ、あの後すぐに織斑先生が来ましたから、うやむやになってしまったようですが」

 

「うっ」

 

「さらに、今。貴女は昼食時を狙って彼を待ち構え、一緒に食事をとるように話を運びました。加えて、朝から貴女なりに彼について調べていたような節もありますわ」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

「以上のことから、貴女が一夏さんに対して何かしらの目的あって接触してきたのは明白です。それに、言質も戴きましたしね」

 

「アンタって、探偵かなにか?」

 

「ただのしがないイギリス代表候補生ですわ」

 

そう言ってセシリアは二杯目の紅茶を自分でカップに注ぎ、食後のお茶を楽しんでいる。

 

「なぁなぁ、さっきから何の話してんだよ?」

 

そんな二人の間に割って入るように出てきたのは、話の人物である一夏だった。どうしてか、その膝の上には本音がニコニコしながら乗っており、一夏は本音の頭に顎を乗せてグリグリと遊んでいる。

 

そんな二人に視線を合わせながら、鈴音はちらりとセシリアの方を見る。それに気づいたセシリアは、口元まで持ってきていたカップを少し離すと、軽く顎をしゃくるような動作をする。

 

無言の『行け』という命令に他ならなかった。

 

そんなセシリアと一夏&本音ツインズに挟まれ少し躊躇いを見せるが、意を決したように一夏たちに問い掛けた。

 

「二人って、付き合ってんの!?」

 

「ぶふっ」

 

セシリアは紅茶を噴いた。

 

一夏と本音もキョトンとした顔をし、「え? あれ?」と戸惑う鈴音も合わせて何とも間の抜けた光景である。

 

「鳳さん? なぜそんな頓珍漢なことを?」

 

「だって朝は何か抱き合ってたし、今だって仲良さげに一緒に座ってるし・・・・・・。ていうか、鈴でいいわよ?」

 

そんな鈴音の言葉に、セシリアは思わず頭を抱えそうになってしまった。

 

よく考えずとも確かに彼女の言うとおりだった。四六時中一緒にいるのは当たり前。やたらに距離が近い、というかずっとくっついている。年頃の男女にしては距離感がおかしいという問題ではなく、二人がそういう関係でなきゃ問題な点がゴロゴロある。

 

あまりにも日常的なものであったためか、どうやら認識が麻痺してしまっていたようだ。

 

そして、言われた本人たちは・・・・・・。

 

「ついにバレちまったな、本音」

 

「・・・・・・そうだね、いちか」

 

悪ノリしていた。

 

「でも、いつかはこうなるって分かってたことだよ?」

 

「そうだったな。でも、バレたところで俺たちの関係は変わらない。そうだろ?」

 

「当たり前だよ!」

 

「本音・・・・・・」

 

「いちかぁ・・・・・・」

 

「はいはい、茶番はその辺にしてくださいまし」

 

二人の顔がワリと洒落にならないほどに大接近し始めたところで、セシリアが手を叩いて止めに入る。

 

「もー、せっしーノリが悪いよー」

 

「貴方たちが良すぎるだけですわ・・・・・・」

 

「ホントに空気読めよせっしー。そんなんだからネッシーなんだよオメェは」

 

「意味が解りませんが喧嘩売ってるんですわね? そうなんですわね?」

 

「っだよ、ヤんのかコラ?」

 

「えぇ、もちろん戦って殺りますわよ」

 

ある意味これも彼らにとっては日常風景なのだが、これも他の人から見れば険悪以上の何物でもないだろう。

 

「ちょ、ちょっと!? なに喧嘩してんのよアンタたち!」

 

「うるせぇぞ中華貧乳共和国第一名誉国民」

 

「そうですわ。もうちょっと謙虚な心を学んだら如何ですか? その慎ましげなお胸のように」

 

「おい、テメェら表出ろよ。久しぶりにプッツンきちまったわ」

 

それからしばらく、千冬が来るまで三人の乱闘が続いたそうである。

 

◇ ◇ ◇

 

放課後。一夏は一人で中庭のベンチに座っていた。

 

彼自身、別に一人でいることは珍しくなかったが、最近は同室の人間と上手くいっておらず、遅くになるまでこうして一人でいるのである。

 

「やっぱり、ここにいましたか」

 

そんな一夏に声を掛ける人間がいた。

 

振り返って見てみれば、そこには眼鏡と三つ編みという出で立ちの女子生徒がいた。リボンの色から、彼女が三年生であることが判ったが、一夏にとってはそれ以上にその顔つきに見覚えがあった。

 

「本音の、お姉さんですか?」

 

「・・・・・・はい、姉の布仏 虚です。いつも、妹がお世話になっているようで」

 

やはりか、と一夏は内心で納得する。

 

同時に軽く舌打ちをしそうになるのを堪える。彼の記憶が正しければ彼女は生徒会の会計である。加えてこの状況から、次に彼女が言うであろう言葉は容易に想像がついた。

 

「生徒会長があなたをお呼びです。一緒に来ていただけますか?」

 

彼にとって、IS学園初となる厄介事が舞い込んできた。




そう言えばUAが10000を越えました!

これからも皆様のご愛好に応えられるよう書いていきたいです。

欲を言えば感想なんか戴けたら作者は喜びます(チラッ

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