IS-Junk Collection-【再起動】   作:素品

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なんか言われそうな展開

あと短い

フラグ回


第十幕 An innocent laughter

「負けちゃた☆」

 

「「・・・・・・」」

 

「負けちゃったぜい☆」

 

「戻ったならISを解除しろ。アリーナの使用時間が迫ってる」

 

「流石姉貴華麗なスルー」

 

試合が終了し、ほぼ全壊に近い状態でピットに戻ってきた一夏のテンションは高かった。背景に花が飛び散るほどに高かった。

 

「いやー、負けるべくして負けたって感じだね! 流石はイギリスの代表候補、美人なだけじゃなく実力も心の強さも一級品。身心IS共にボロッボロにされちまった!」

 

「まったくだ、ここまで徹底的に破壊されおって・・・・・・」

 

「・・・はっ! そうです! 体は大丈夫ですか!? ケガとか骨折とか咳に熱とか有りませんか!?」

 

「少し落ち着け山田君・・・・・・」

 

ワタワタと慌てる真耶を制しつつ、千冬は再び一夏にISを解除するように促す。

 

それに従い、一夏は吐き出されるような形で白式から降りる。本来ISには待機形態という、いわばアクセサリーのような小さな状態にすることができ、今回一夏がそれをしなかったのは、白式の損壊が激しく、そのまま修理に出すことになると察し展開状態のままにしたのだ。

 

予想通りなのか、すぐに白式はハンガーに掛けられ、真耶と共に何処かへ運ばれていった。

 

「なぁ、姉貴」

 

不意に一夏が千冬に声をかけた。

 

まるで色のない、平坦で簡単な声で。

 

「あれって、白式っていうんだぜ?」

 

「あぁ」

 

「しかも、とんでもねぇピーキーな欠陥品」

 

「あぁ」

 

「あの"兎"、なに考えてんだろぉね」

 

「・・・・・・時間まであと十分だ。それまでにここを出ろ、いいな」

 

千冬はそれだけ言うと、一夏に背を向けてピットを後にした。

 

その背中が消えるまで眺め、一夏は自身に向けられている視線へと顔を向ける。

 

「さて、何かお話でも? 箒ちゃん」

 

▼ ▼ ▼

 

そう言って一夏は振り向いて私を見た。いつものように、ヘラヘラとした軽薄な笑みを貼り付けて。

 

「さっきの試合について?」

 

ISスーツの上からジャージを着ながら一夏が言う。

 

ある意味、予想通りなことではあった。ただ、試合結果を見れば一夏はオルコットに敗北している。私の『一夏が勝つ』という確信は、外れたということだ。

 

所詮は結果だけ。

 

あの試合、いや試合とすら言えないあの蹂躙劇。どちらが勝ち得たと言えばオルコットだろう。だが、どちらが相手を負かしたか、"殺し得た"かと言えば間違いなく一夏だった。

 

「・・・・・・お前はISを動かすのは二回目だったか?」

 

「まぁね。案外スルリと動くもんなんだなぁ、ISって。かのライト兄弟がさっきの見たら卒倒すんじゃねーか?」

 

「本当にか?」

 

「舌先三寸口八丁の大嘘は得意だが、意味のない嘘はつかないよ。公的にもそう発表してるしね」

 

ニコニコと楽しげに一夏は笑う。それは子供のように純粋で無邪気なもので、それ故にひどく残酷なものに見えるそれは、私の心胆に氷を落とすようだった。

 

そんな私の心象を知ってか、一夏はより一層笑みを深めた。

 

「なぁ、運命って信じる?」

 

「・・・・・・なに?」

 

「運命の輪、赤い糸。人間の生涯は予め決められた一本の道である。嫌になるよ。どれだけ頑張ったって結局は『世界』の予定調和。掌で踊ってはい終了」

 

唐突に一夏が語りだした内容は、意味が判らなかった。

 

脈絡も何もあったもんじゃない。あまりにも突然すぎる話に、無意識に全身に力が入る。

 

そんな私を尻目に、彼は謳うように続ける。

 

「この世は、言っちまえば豪華絢爛な大舞台なのさ。ただし、表だけを着飾ったハリボテの。その上で人間は糸に吊るされた人形でしかないのさ。アレをしよう、コレがしたいって考えて行動している全ては、糸を操る『世界』がそう仕向けているから。

今回の試合だってそうさ。大筋から外れない程度に俺はオルコットに負けた。偶然とかそんなんじゃない、これは確定事項なのさ。俺は負けていた。何もしなくても、あれ以上に何かしようともね」

 

「何を、言っているんだ・・・・・・?」

 

ここまできて、私は一切理解できないでいた。いや、むしろ目の前の男の正気さえ疑い始めている。

 

明らかに異常だ。もはやオカルト染みた話に頭痛すら覚える。

 

つまり、お前が言っているのはこういうことか?

 

「お前はこの世界が、誰かの筋書きで動いているとでも言いたいのか?」

 

干上がった喉から出る声は掠れていた。

 

自分の声であるか疑いたくなるほどに。

 

そんな私とは逆に一夏は笑い、真っ暗な瞳は少しの光も写さずに笑う。

 

「正解、大正解。中身なんて薄っぺらくて三流二流以下の駄文で埋め尽くした、中学生の妄想小説のような物語。『世界』はそんなのに沿って動いてんだよ」

 

笑う。

 

やはり、笑う。

 

私の知らない顔。再会してから気づいた新しい一夏の顔。

 

だが、違う。

 

新しいのではなく、まるで違うように感じらた。

 

考えれば考えるほどに噛み合わなくなる記憶と今の歯車が、私の中で引き付けを起こしたかのように呻いて蠢き始めている。

 

「・・・・・・本気で言ってるのか?」

 

「いや、冗談」

 

「本当か?」

 

「あぁ、勿論」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

「にひひ、そんな顔で睨むなよ。あいにく、俺はいま機嫌がいいんだ。誰かに晩飯を奢りたくなるくらい非常に機嫌がよくて仕方がないんだ」

 

そう言うと一夏は私の手を取って歩きだした。その足取りは軽く、遠足に行く子供のように浮かれていた。

 

それなのに私は、私の手を包み込むその手を握り返すことも出来ずに、ただ引かれ流されていく。

 

なぁ、お前は結局なにが言いたかったんだ?

 

お前の言うことが本当なら、私のこの想いも紙の上のインクでしかないのか?

 

なぁ、一夏・・・・・・

 

「腹減っちまったよ、さっさと行こうぜ!」

 

「・・・・・・あぁ、そうだな」

 

お前は一体、誰なんだ?


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