大丈夫なんだろうか・・・・・・
その少年の夢は、正義の味方だった。
小さな子供の言う憧れだと大人は一蹴するが、彼にとっては何物にも代えがたい、もはや信念に近い願いだった。
少年がそう思うようになったのは、彼のただ一人の家族である姉の影響が大きく関わってくる。
二人に親はいない。事実上、少年を育てたのは彼女である。そんなただ一人の肉親である姉に感謝し、同時にその凛とした佇まいや冷静かつ勇猛果敢な姿に、少年は憧れていた。
「強さ」というものの規範のような人であった。
他者のために「強さ」を奮い、教え導くために「強さ」を示し、誰もが心を奪われる「強さ」を併せ持つ人物。完璧を詰め合わせたような超人。人の上に立つためにいるような人間であった。
人々は口々に賞賛の言葉を投げ掛け、のちに世界最強とまで謳われるようになる彼女を、天才として祭り上げた。
だが、少年だけは知っていた。
そんな彼女の「弱さ」を。
常に先駆けとなって走り抜け、世に荘厳な背中を見せながら、傷つき痛みに涙を流す顔をひたに隠し続けるその生き様を、人の上に立つのを強制されたかのような有り様を、少年は知っていた。
いつしか少年は思い始めた。
―――自分が強くなれば、それを代わってやれるのでは、と
子供ながらに、「誰かを気遣える心」の持ち主だった。自分に向けられる好意にはひどく鈍感なところがあったが、人の痛みを理解できる子供だった。
だからだろう、少年は幼くありながらも、大切な姉のために正義の味方になることを決意していたのだ。
今はまだ無理でも、そんな彼女を支えながら、いつの日かその肩に並び、その「強さ」を肩代わりできるようになることを夢見ながら。
だが、終わりは唐突に訪れる。
一人の、少年の姉とは違う「強さ」を持った天災によって、世界そのものが犯された。
絵に書き出されたような、ひたすらに惨たらしい悲劇によって少年はその思いを塗り潰される。
黒く、暗く、一欠片の光さえ許さぬ闇が、少年を深く深く呑み込んでいった。
そして、少年は「強さ」を手に入れた。かつての自分が切望したものとは真逆のものを。
生きることも死ぬことも許されない地獄
突きつけられた真実
切り刻まれる思いと希望
純然たる悪意によって産み落とされる子供たち
深淵の闇の果てで、諦めと絶望の中で少年は最初で最後の足掻きを行った。
使える「強さ」の全てを使い。
そして、その足掻きも無為に終わった。
だが、少年は心のどこかでこの結末を予想し、確信もしていた。
どうやろうと、自身が救われる道はないことを理解していた。
それでも、少年は足掻いた。足掻き、暴れ、破壊し、殺戮した。
―――生きたい、生きていたい、と
ただ、それだけを願いながら、あの温かな世界を夢想しながら暴虐の限りを尽くした。かつての自分さえ欠片も残っていないというのに、まさしく癇癪を起こした子供のように当たり散らした。
いつしか、動くものもいなくなり、少年らしき"ナニカ"だけが一人立ち尽くしていた。
―――まるで糸の切れた人形のように
―――打ち捨てられた廃棄物のように
―――コントローラーを抜かれたゲームのように
異形のソレは動くのをやめたのだった。
以上で、この少年の物語は終焉を迎えました。
これより先に始まりますのは、主人公という柱を欠いた人形劇にございます。
憎悪をもって己の正気とし、復讐を自らの存在証明と定め、狂気の赴くままに刃を振るう壊れた人形の物語にございます。
目には目を
歯には歯を
殺意には殺意を
外道な侵略には正道をもって復讐を
己の守るべき矜持もなく、貫き通す誇りもなく、自分を慰める涙を持たず、強く在るための執着すらない
虚ろな「壊人」は、粛々と世界の理を破断していくのみ
これはそんな歪な物語でございます。
いかがでしたでしょうか
次の更新はまったくの未定です!
・・・・・・スイマセン