麻帆良で生きた人   作:ARUM

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第六十一話 満月の下

 

 

 ――話は、白の少女が地に隠れる船から飛び立つ、少し前にさかのぼる。

 

 

 

 一人の少年が、小さな決意をもって戦いに臨もうとしていた。

 

 きっかけは、自分の生徒、自分が傷つけようとしてしまった生徒ともにいた、自分より年上の、燕尾服を着こなした背の高い少年が持ってきた一通の封書。

 

 それは、自分が出した果たし状の返答だった。

 

 相手の執事のような少年は、それを少年に渡すと、用は果たしたとばかりに去って行った。

 

 何を訊いても『全てはそこに書いてある、自分が話すことはない』という趣旨を丁寧な口調で語られ、何も教えてはくれなかった。

 

 その内容は、まとめると『満月の晩に、戦いを受ける』という非常にシンプルなもの。手紙の最後には、流麗な筆記体でEvangeline・A・K・McDowellの署名がなされていた。

 

 少年は、自らが勝利することによって生徒を正しい道に、授業を受けさせ、悪いことを辞めさせようと決意を新たにする。

 

 ……自らが相対するのが、歴史に刻まれる程の悪だけでは無いことも知らずに。

 

 

 

  ◆

 

 

 

「兄貴……絶対無理ですって。止めときましょうって!」

 

「ううん。僕だけじゃなくて、皆にも被害が出てるんだもん。だから、授業をうけてもらうとか、悪いことを止めさせるとかだけじゃなくて……まず止めないといけないんだ。それが、きっと教師としての僕の仕事なんだと思う」

 

「だがよー……」

 

 

 夜。麻帆良の市街地にくりだす少年は、いつものスーツではなく麻帆良に来たときのような動きを阻害しない軽装にマントを羽織り、幾つもの骨董魔法具を身に付け、戦闘準備を整える。

 

 その足下に、一匹の獣がいた。

 

 アルベール・カモミール。猫の妖精に並ぶ由緒正しきオコジョ妖精……のはずである。

 

 下着泥棒という罪をおかしており、イギリスなどの魔法使い圏なら仮契約の仲介を行うということで多少は多めに見られるかもしれないが、ここは日本である。

 

 先日、当然関西関東ともに呪術協会では賛成率九割オーバーで排除が決定されているが、いろいろな幸運によって今日まで生き延びてきた淫獣である。

 

 そんな獣でも、兄貴と呼んだ少年、ネギのことは本気で心配しているのだろう。なにせ相手は闇の福音。六百年生きた真祖の吸血鬼だ。

 

 

「せめて明日菜の姐さんに頼みましょうよ。勝てっこねえですって!」

 

「ごめんね、カモくん。でも、アスナさんにもこれ以上迷惑はかけられない。だから、僕一人で行く」

 

「兄貴―」

 

 

 ネギは、獣……カモの言葉を無視して、杖にまたがり飛行姿勢をとって飛ぶ用意をする。

 

 

「ああ、もう! あっしは知りませんぜ!!」

 

「あ、カモ君……」

 

 

 自分の杖から飛び降りたカモを、首を回して後ろに見た。現状たった一人(一匹)の仲間すら失い悲しみに包まれるが、こみ上げてくる物をこらえて前を向く。

 

 

「ごめんね、カモ君。でも、やっぱり僕は……」

 

 

 杖の柄を握る手に込める力を一層強くし、杖により多くの魔力を流し込む。はやる気持ちを抑えるように。

 

 

「一人で、行く」

 

 

 最高級の魔法媒体である杖は、流し込まれた魔力と少年の意志によって加速する。

 

 風を切り向かう場所は、エヴァに指定された大浴場。

 

 今は夜であるので消灯されているが、エヴァは吸血鬼、多少の暗闇は関係ないのだろうとネギは結論づける。

 

 建物に入り、飛ぶのをやめる。

 

 自身が風呂嫌いなためあまり来ることはないが、かといって迷うようなこともない。大浴場の湯船の中を進む。膝上まで水につかり、マントも濡れるが気にせず進む。

 

 

「エヴァンジェリンさん、ネギ・スプリングフィールドです!」

 

 

 名乗り上げ。臆することなくよく通る声でしたそれは広い大浴場によく響いた。

 

 

「――そうわめくな。ここにいる」

 

 

 聞こえたのは、上。屋内にある小さな屋根に、いた。

 

 闇の福音。そして、その従僕たる茶々丸と――

 

 

「あれ……?」

 

 

 ネギは、ふと首をかしげる。

 

 

「あの……エヴァンジェリンさんですよね?」

 

「他に誰に見える? 私の夢をのぞき見たくせに」

 

 

 本当はエヴァが大人の女性のような姿について訊きたかったのだが、先にいわれて慌ててネギは矛先をかえた。エヴァの寝言に出てきた父のことに興味を持ち、誘惑に負け夢を覗いてしまったことに対する羞恥もあった。

 

 

「う……。い、いや、そうじゃなくてですね、その、そちらの方は誰なのかと……」

 

「ん? ああ、こいつか」

 

 

 ネギが見るのは、エヴァを挟んで反対側。茶々丸と同じく不安定な足場であるにもかかわらず微動だにしない燕尾服の少年。

 

 

「見てわからんか? 執事だ。臨時雇いだがな」

 

「執事? それも臨時って……」

 

「まぁ気にするなよぼうや。それよりも、よく逃げずに来たじゃないか。それも一人で」

 

 

 エヴァの声にあるのは、あざけりではない。強者としての当然の余裕とでもいうべきか。

 

 

「……エヴァンジェリンさん。約束してくれますか?」

 

「約束、か。言ってみろ。内容如何では考えてやる」

 

「僕が勝ったら、真面目に授業を受けて下さい。悪いことも全部止めてもらいます。……それからっ」

 

「坊やの父親のことか?」

 

 

 その言葉に、ネギの顔つきが変わる。それを愉快そうにエヴァンジェリンは眺めて、

 

 

「ああ、いいとも。答えてやるさ。坊やが私に勝てたらな。だが、私が手を出すまでもないかもしれんぞ?」

 

 

「それはどういう――」

 

 

 

 ――ジャキン。

 

 

 

「え……」

 

 

 鈍く響く鉄の音。ネギに向けられた鋼の銃口。

 

 その音の出所の一つはエヴァンジェリンから見て右側、茶々丸が構えた大きな砲。

 

 もう一つは、執事こと玄凪煌が両手に構えるマシンガン。

 

 特異な形状から余りにも有名なその銃の名前はーーUZI・SMG……ウージーと言った。

 

 

「さぁ、どうする坊や。感情のない純然たる暴力にどう抗う?」

 

 

 エヴァの言葉を皮切りに、鋼の獣が砲火を伴い歌い始めた。

 

 

 

  ◆

 

 

 

「よかったんすか、長。このタイミングで煌君に好きにさせて」

 

 

 麻帆良内にある、玄凪邸。その居間。

 

 大きな炬燵に、今麻帆良にいる幹部格の全員がそろってます。

 

 私を筆頭に、さよさん、時雨、志津真、白露、空里君の六人です。彼ら彼女らと鍋をつつきつつ見ているのは、大きなテレビ。

 

 そこに映るのは、夜の麻帆良を杖に乗って必死に逃げる赤毛の少年と、八八ミリのような砲を持って飛ぶロボメイドと、両手にマシンガンを持つ執事。そしてその後ろを行く金色の吸血鬼だ。別に映画やアニメを見ているわけではありませんよ?

 

 関東開発班の副次的な発明品であるスパイカメラで、エヴァによるネギの力試しが生中継されているのです。

 

 

「いいんですよ。あの煌が初めて私に自分のやりたいことを、自分の意志で決断し伝えたんですから。多少の無茶は目を瞑ってやるのが親というものでしょう。そうでなければ強くは育ちません。ま、欲をいうなら私に許可をとらずとも実行できるだけの我の強さがあればよかったんですが……煌らしいということでよしとしましょう」

 

 

 テレビから目を離さぬまま、隣のさよさんによそってもらった器を受け取る。バランスよく鶏肉、豚肉、春菊、白菜、エノキ、椎茸、豆腐などが入ったそれに、ふっと顔をゆるめる。

 

 

「肉、肉、肉、お肉~♪」

 

 

 時雨はひたすらに肉をさらい。

 

 

「よもや主と同じ卓を囲んで食を共にする日が来るとはのう……」

 

「良いことだ。……しかし、なぜだろうな。私は何かを失ったような気がする」

 

 

 白露と志津真が語らい、

 

 

「しっかし、急に俺のコレクションから幾つか銃を借りたいなんて来たからまさかとは思ったっすけど、こうなるとは……そういや、どうして闇の福音が動けてるんすか?」

 

「あ、なんでも擬似的な封印を自分で自分にかけて、存在の“格”を弱く見せているのだとか。ここの学園結界は低級な妖怪とかだと入ってきてますからね。他にも式神の類とかも入れるそうです」

 

「なるほどッス……」

 

 

 空里はしみじみつぶやき、セイがそれに答える。

 

 エヴァによるネギの襲撃。ネギ君からすれば一大事だが、私達からすれば煌の、家族の成長の一幕に一幕にすぎないのですよ。

 

 

 ――そんな現場とは真逆のほのぼのとした状況で、突然さよから空里に向けてキラーパスが飛ぶ。

 

 

「ところで空里君は、いつ那三ちゃんと結婚するんですか?」

 

「ぶふぁっ!?」

 

「お肉お肉~っっっ!? 汚っ!?」

 

「ごふげふ、かはっ……な、何で!?」

 

「え、だって付き合ってるんでしょう?」

 

「いや、違うッスよ!? どこからそんなガセネタが!?」

 

「本人から」

 

「あの女外堀から……! な、なんで信じたんすか!?」

 

「だって、ねぇセイさん?」

 

「神里忍軍の緑ジャージ、着てましたよ? あなたがあげたものだって言って。嘘なんですか?」

 

「いや、あげたのはホントッスけどあれはそういう……」

 

「……面白そうな話よのう。酒の肴くらいにはなるか?」

 

「え、いやいやそれは待ちましょうって狐の姐さん! ほら、いいとこですよ、煌君!」

 

 

 突如ふってわいた己のピンチに、空里君は煌を生け贄にささげた。確かに、テレビの映像は佳境を迎えているようだった。

 しかし私の息子をこんな風に使うとは良い度胸です。忘れなければいつかしめてやりましょう。

 

 

「ふむ、案外少年も逃げるのは上手いか……いや、若が遊んでいるだけか?」

 

「そうなんですか?」

 

 

 テレビ画面の中では煌が燕尾服を翻し屋根の上を駆けながら二挺のウージーで煌が弾幕を張り、そうして追い立てつつ時折茶々丸が砲をぶちかまし、それを必死に逃げるネギ少年を後ろからエヴァが追いつつ鑑賞しているという一つの図式ができあがっていた。

 

 エヴァ本人はまったく手を出していないのに、ネギ少年は既に装備の大半を失っている。

 

 しかも、エヴァ側にはメイドと執事がいる。まともにやれば、ネギ少年では誰かひとりを倒すのも普通に考えればまぁ無理だでしょう。

 

 しかし、まだネギ少年の目からは光が失われていない。彼のすぐ先には、麻帆良と外の境界、麻帆良大橋があった。

 

 

「罠っすかね? ひっかからないっしょ」

 

 

 それに答えたのは、鍋からつみれをよそおうとしていた白露。

 

 

「どーかのう。案外わざとひっかかるやもしれんぞ。ああいう手合いは」

 

 

 ちょうどそのとき、画面では煌、茶々丸、エヴァの三人が白露の言葉通り橋の上に設置されていた捕縛結界に捕まっていました。

 

 

『や、やったー!!』

 

「ああ、ああ。ぬか喜びしちゃって」

 

 

 上手く捕縛できたことに、喜ぶネギ。しかし――

 

 

『ふん。まだまだ甘いな……やれ』

 

『はい』

 

 

 タン。パキィィィン……

 

 

『え……? えぇ!? そ、そんな!?』

 

 

 煌が、足を一度踏みならす。それだけで、捕縛結界が繊細な硝子細工のように砕け散った。当然、ネギ少年には何が起きたのか理解が追いついていないでしょう。

 

 

「あー、そういや煌君の革靴って、仕込んだ鉄板にいろいろ術式が刻まれてるんでしたっけ」

 

 

 煌は、一時期……というか今も執事を本気で目指しているらしく、主の為に紅茶を入れている時であったとしても、それをやめることなく術式が発動可能な媒体がないか模索し、開発班を頼った。その結果が靴だったらしい。

 

 他にも時計など幾つか案が出たらしいが、執事の形を崩さず、なおかつ隠密性にもすぐれるという理由で靴になったそうだ。

 

 とにかく、捕縛結界は破れた。

 

 ネギ少年はエヴァに杖を投げ捨てられ、悔しさからか俯いて涙をこぼしている。

 

 

「あーあー。まぁあのレベルのを投げ捨てられたら泣いちゃうか」

 

「もうそろそろ終わりですかー。あ、セイさん、よそいますね」

 

「あ、お願いします。さよさん」

 

「あ、マスター、誰か来るよ」

 

「んむ、ん……ふぅ、乱入者?」

 

 

 豚肉を口に運んで咀嚼した後で、画面に目をやる。突貫してきたのはオレンジ髪の少女と、その肩にのった獣。

 

 

「あの獣、ついに一般人をこの道にまきこんだか」

 

 

 オコジョが何か……おそらくはマグネシウムリボンを燃やして強力な光をつくった隙に、少女がエヴァンジェリンを蹴り飛ばした。“障壁の存在をまるで無視するかのように”。それに、私以外の者が瞠目する。

 

 その衝撃でエヴァンジェリンはもとの幼女の姿に戻り、その間にネギ少年達は柱の影に隠れ、獣の敷いた魔方陣でパクティオ-を交わした。

 

 交わして、しまった。

 

 

「……やはりあの獣、潰しましょうか。ある程度なら魔法使いを潰すときのネタにできるかとも思いましたが、これは酷いですね」

 

 

 ほのぼのしていた場が荒む。ありえないことだが、熱い鍋が冷え切りそうなほどだ。

 

 テレビの向こうでは、獣も入れれば三対三の構図ができあがっていた。

 

 そして、いざ動き出そうかというそのときに。

 

 

 

『ぬ……? がぁっ!?』

 

 

 

 エヴァの腹部。そこから、“赤い槍”が突き出ていた。

 

 

 

  ◆

 

 

 

「ぬ……? がぁっ!?」

 

 

 感じたのは、トンっ……という軽い衝撃と、腹部の些細な違和感だった。だが、その違和感はすぐに爆発的な痛みに変化した。

 

 見れば、そこにあったのは自分を貫く赤い槍。血の色ではなく、そのやり自体がもとから深紅の色を纏っているのだ。

 

 気配はまるで感じなかった。平和ぼけしていたとはいえ、夜の女王である自分が。

 

 その事実に戦慄しているうちに、槍が引き抜かれた。痛みをこらえ、振り向きざまに遠心力を乗せてローキックを見舞う。

 

 それは背後の襲撃者をとらえ、自分から引き離す。

 

 そして目にしたのは。

 

 

 

「ば、かな……」

 

 

 

 そこにいたのは、色こそ違えど、自分だった。鏡に映したような、白いこと以外何も変わらぬドッペルゲンガー。

 

 それが、深紅の槍に付いた自分の血を、ほんの少し指ですくって、口に運ぶ。

 

 

「……にがい」

 

「貴様、よくも……!」

 

 

 傷が、たちまちふさがる。だが、そんなことは些細なことだ。

 

 ネギ達は状況の変化についていけないようだが、既にメイドと執事はネギ達を無視し、突如出現した白いエヴァンジェリンに全ての注意を向け、油断無く武器を構えていた。

 

 こいつは、何だ――?

 

 疑問の答えが出ぬうちに、白エヴァが真っ赤な口を開いた。

 

 

「はじめまして、おりじなる」

 

「オリジナル、だと?」

 

「そう、おりじなる。わたしたちはあなたを、あなたとよくにたなまえのへいきをもしてつくられたりょうさんがた」

 

 

 ねたようだけど。と白エヴァは続ける。

 

 

「私達、か。仲間はどうした?」

 

 

 エヴァも、得たいのしれない相手に情報を集めようと、会話ができるのかどうか試す。ただし、いつでも迎撃できる用意はとりながら。

 

 

「とめられちゃった。ほんとは、かんせいしてもあなたとのおさけのせきとかでのよきょうでおめみえするまでつかわれないはずだったんだって。でも、ぱぱがあついこーひーをこぼしてあわてたせいで、たまたまどうりょくがはいっちゃったの。だから、わたしたちはぷろぐらむにしたがってうごいたわ。そーしたら、ぱぱのどうりょうにみんなとめられちゃったの」

 

「ふむ、で? 貴様はなにをしにきた? プログラムとはいったいなんだ?」

 

「えっと、わたしたちは“きゅうげき”をさいげんするの。ほんとはそらからみんなでぶわーってきて、ろんぎぬすでぶすってやって、がつがつがつっていくの。でも、わたしひとりしかいないから、それはあきらめる。だからーー」

 

 

 

 ――アナタヲ、タベサセテ?

 

 

 

「ふん、だが断る!!」

 

「え? どうして?」

 

「……どうしてって、タベサセテ? と言われて食べられる馬鹿はおらん」

 

「えっと、えっと。こういうときは……」

 

 

 槍を持ったまま頭に手をやり、くるくる回る。どうやら、思考のうずにはまったらしい。

 

 

「あの、エヴァンジェリンさん……/?」

 

「黙れ坊や。今は貴様の相手をする暇はない。また今度ちょちょっと相手をしてやるから黙っていろ」

 

「あうっ!?」

 

 

 仮契約までしたのに、もはやネギはエヴァの眼中にはないらしい。カモにしても、下手に動かないほうが良いと判断を下す。こういうのには人一倍勘の働く獣だ。

 

 

「うん、そうだよ。とりあえず、たべちゃえばいいんだ」

 

 

 そうこうしているうちに、白エヴァが回るのをやめこちらを向く。

 

 赤い瞳は、エヴァだけを見ている。

 

 

「やっぱり、ろんぎぬすでうがってさしてぬいつけて、それからたべることにする。ぷろぐらむかめいれいのへんこうは、ぱぱかぐらんどますたーじゃないとできないもの」

 

「グランドマスター?  そいつの名前を聞いてもいいか?」

 

 

 どうせ答えないだろうがな。エヴァンジェリンはそう思いつつも一応訊ねる。すると、意外なことに答えが返ってきた。

 

 

「いいよ。ぐらんどますたーは……」

 

 

 

 せい、って、いうんだよ?

 

 

 

「ぶふっ!?」

 

 

 こんどは、セイがむせた。

 

 

「セイさん……?」

 

「違います!!」

 

「ちょ、長、あれが何か知ってるんすか!?」

 

「い、いえ、知りません。しかし私をグランドマスターなどと呼ぶと言うことは、おそらく開発班の仕業じゃないかと……。基本的に彼らは緊急時に備えて私か朴木さんのどちらかを最上位に設定していますから。とにかくちょっと行ってきます!」

 

「あ、長!」

 

 

 予期せぬ事態に、セイは転移術式を起動する。もともと近右衛門辺りがのぞき見ているのは承知の上で煌が暴れた後の言い訳は考えているが、流石にここで開発班の機体?が出てくると具合がよろしくないのだ。

 

 さよもまた、セイにしがみつき共にいく。

 

 

 

  ◆

 

 

 

「はいストーップ!!」

 

「え……ぐらんどますたー?」

 

「父さん!?」

 

 

 突如橋に現れたセイとさよ。部屋着のままだが二人とも術師なので問題はない。その一方で、ますます混乱するのは今までその場にいたエヴァンジェリン達だ。

 

 

「おい貴様、“これ”は一体何なんだ!? 納得のいく説明をしろ!!」

 

「あー、はい。一言でいうと部下の暴走です。私も何が何だかさっぱりで」

 

「父さん、これは一体どういうことです! 手出し無用だって約束したじゃないですか!」

 

「いや、私が命令した訳じゃ」

 

「とにかくもっと詳しく説明しろ!!」

 

「父さん!!」

 

「ぐらんどますたー♪」

 

 

 

 橋の上は、混沌としていた。

 

 

 

「え? ええ?」

 

「……ドンマイ、兄貴」

 

 

 

 ――決意をかためていたはずの少年を置き去りにして。

 

 

 

 


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