麻帆良で生きた人   作:ARUM

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挿話の四

 

 

 やぁ皆さん。この挨拶も久方ぶりです。セイです。随分とご無沙汰だったような気もします。

 

 実は今切実な問題に悩まされています。

 

 それは……人手が足りないんです。

 

 理由は、ここ最近三人でまわしてきた総合文具雑貨・黒兎堂。そこそこ繁盛しましてね。

 

 正直、無理です。だって四両あるんですよ?  もともと一両を三人でまわすつもりでしたからローテーションも組めませんし……

 

 かといってぬらりひょんが動かないわけはないですし、いざというときに路面電車を放り出すわけにもいきませんし、このままではたちいきません。いや、隠れ蓑とはいえ店が繁盛するのは良いんですけどね?

 

 ではどうするのか?

 

 いろいろ悩んだ結果、諸般の事情も鑑みて一般からアルバイトを採用することにしました。

 

 採用枠は十二。ただし、本当の意味での枠は“一”。残りは最近麻帆良に一般人として潜入させた“木乃根”と、こちらに呼び寄せた関東呪術協会の神里配下の忍者系の隠密や潜入に長けた人員で固めます。

 

 なので、実際に採用審査するのは一枠。それでも目くらましの為に人を集める必要があるので、条件は結構良い物を用意する。

 

 おおまかな条件は以下のような物。

 

―――アルバイト急募―――

店・総合文具雑貨黒兎堂。

人・採用予定数、十二人。

仕事内容・接客やレジ、商品の管理など。

午前の部、午後の部、夕方の部があり、それぞれで四人ずつ採用予定。

曜日別交渉有り。

一部資格所有者優遇。

学生可。

時給、千円。

連絡先……

 

 とまあこんなもんです。張り出してから一週間程度で締め切るつもりです。まぁほぼ出来レースですからねえ。とりあえず人が集まれば良いんです。

 

 ま、それにしたって無茶苦茶な人数は集まらないでしょうから、気楽にいきましょう。

 

 

 

  ◆

 

 

 

 気楽にいこう。そう思っていた時期もありました。一週間前の自分が恨めしい。

 

 

「セイさん、がんばりましょうよ。ほら、あと少しですから」

 

「うう、ありがとうございます、さよさん」

 

 

 目の前にあるのは、山脈のような履歴書の山。それを、明かりを灯して夜の内に延々と処理していく。

 

 気楽なつもりだったのに、なぜか莫大な量の不採用通知を書き続けるという苦行をする羽目になりました。

 

 コピー機? 開発班がどんなギミックを付けてるかもわからないのに使えませんよ。

 

 ……原因は、麻帆良の学生をなめていたこと。全体の九割五分が学生で、上は大学院から下は中学生まで合わせて軽く千以上。

 

 なめてた。ええなめてました。麻帆良の学生、アグレッシブすぎます。まさかこの私の予想を超えてくるとは……ここまで予想を外した事はほとんどなかったのに……!

 

 

「それでセイさん。結局どんな人を採用したんですか?」

 

 

 さよさんの声に、はたと我にかえる。

 

 

「ああ、それは……ええとどこにっと……あ、これです。これ」

 

「これは……」

 

「どうです? この山の中では最善だと思うんですが」

 

「でも、普通の子ですよ?」

 

「いいんですよ、別に取って食おうってわけじゃなし。普通に仕事をしてくれればなんの問題もありません。というか普通じゃないと逆に困ります」

 

 

 

  ◆

 

 

 

「――あれー、クギミン柿崎達は? 今日何かあるの?」

 

「クギミン言うなっ、パル! ……今日から新しいバイト。文化祭でバンドの計画しててさ、ドラムのレンタル代を稼ぎたいんだ!」

 

「へー……頑張って、クギミン!」

 

「だーかーらクギミン言うなっ!!」

 

 

 

 


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