麻帆良で生きた人   作:ARUM

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挿話の三

 

 

 

 近衛木乃香は学生である。

 

 それは純然たる事実だ。いくら親が魔法の国の大戦の英雄であり、知り合いのおじさんやおばさんのほぼ全てが裏の重鎮であったとしても、平日の昼間は学校に行き、日夜学友とともに勉学にいそしんでいる。

 

 そして、彼女が“女子校”の生徒である以上、セイは諸々の理由で彼女を監視することが出来ない。

 

 そのため今の所式神に監視を任せているが、ではその間、時間が空いた彼は何をしているのか?

 

 無論、関東の仕事もしている。だが、基本的にそれらは天乃五環で処理することであり、この麻帆良で行うのはお悩み相談コーナーの書き込みに返事を書くなど、ばれても組織の運営には問題の無い物ばかりである。

 

 ではその間、時間が空いた彼は何をしているのか?

 

 

 

 

「昨日オープンしました総合文具雑貨“黒兎堂”でーす! セールやってまーす!」

 

 

 

「今日だけ全品特別価格で割り引きでーす! 最大30パーセントオフですよー!」

 

 

 

 答え。

 

 日中はさよや志津真と共に、隠れ蓑として用意した移動雑貨店で働いているのである。

 

 

 

  ◆

 

 

 

 総合文具雑貨・黒兎堂。

 

 私が表と木乃香ちゃんに対する隠れ蓑として用意したお店、というか車両です。

 

 そう、“車両”です。

 

 四両編成の路面電車で、車体は黒塗りで窓枠の周りは落ち着いた焦げ茶の木の枠。

 格調の高さを演出するために所々に施された金を思い起こさせる真鍮の細工

 

 各車体の横側には黒兎堂と漢字で書かれています。文字の色は白で、誰が書いたのか知らないがまたえらく達筆。最後の堂の字の右には白丸の中にデフォルメされた黒い兎が。

 

 先頭車両前面には投光器のように大きく丸いライト。その下に同じく白で黒兎堂の文字。

 

 さらに、各車体上部にはなんに使うのかわからないハードポイントが四つずつ。

 

 おかしいですよね。私は関東の開発部に一両編成で地味な物と言って制作を指示したのに。

 

 なのに、家と一緒に魔法球の中にあったのは、気品を漂わせる四両編成の路面電車。

 

 中には、男女それぞれの制服と制帽、腰に巻くタイプのエプロンがサイズ別に三着ずつ。

 

 そして、運転席のシートの上に置かれた封書。中身はこの車両と制服などの説明と、運転の手引き書。その最後の一枚に、そこだけ手書きでこんな一文が載っていました。

 

 

『腕によりをかけました☆』

 

 

 殺意がわきました。どうやらこれは朴木さんではなく開発部の誰かの仕業のようです。

もしこれが朴木さんなら、こんなもんじゃすみません。きっと装甲列車並の装備になってますからね。

 

 

「すいませーん、これくださーい」

 

「はーい!」

 

 

 

 そんな思考を中断して、セイは今日もまた勤しむのであった。

 

 

 

 





 短いのはご勘弁を。

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