どうも皆さん、セイです。私は今とある南の国にさよさんと二人で旅行に来ています。
ふふふ……なんと新婚旅行なのですよ!
時雨と千草ちゃんを本山に預けて、飛行機を乗り継いで日本から遠く離れた秘境とも言える島国までやって来たのです。
籍をいれてから二年くらいたってしまいましたがやっと来ることができました。もう少し早く連れてくることができれば良かったんですが……
旅費は関西呪術協会から出ていた給料でまかないました。
給料、出てたんですよ。驚きですよね、実は関西呪術協会って給料制だったんです。
私の場合は名前だけ貸している状況なので額はそれなりですが、それにしたって丸二年分ですから結構な額です。
二年分の給料を紙封筒じゃなくて紙袋でドンと渡されるのもなかなか無い経験ですね。
それで予算を組んで、海の綺麗な小さな南の島国に決めて、二人っきりで十何日か過ごすことにしたんです。ホテルも良いホテルを探して、海の見えるホテルにしました。
ここ二週間ほどは楽しかったですよ。二人で買い物に行ったり、古代遺跡の観光をしたり、海で泳いだり、地元の名物を食べ歩いたりもしましたね。
――そんな中、事件は最終日前日の夜に起きました。
二人で地元で有名なお店で軽い夕食を取った後、数人の男達に車に連れ込まれそうになっていた褐色の肌の少女を助けたのです。
意識を刈り取った男たちを引き渡すため、私が憲兵を呼びにいっている間にさよさんと少女が意気投合し、今夜はその少女の家にお呼ばれるになることに。
……この時点で少女の熱い視線に気づくべきだったのです。
「いやぁ、よく娘を助けてくださった! ささ、どうぞお食べください!」
少女と同じ褐色の肌に金色の髪、少女の父親に勧められるままに目の前に並べられた料理に手をつける。
少女の家は宮殿と見まごうばかりの豪邸で、少女の父親から随分と感謝されました。
なんでもこの国でもかなり高い地位にいるらしく、娘である彼女も狙われているので普段は護衛をつけているのだが、今回は少女が護衛の目をぬすんでぬけだしたのが原因らしい。
「いや、しかし随分とお強いのですな! どうです? なんなら家の娘を妻にでも?」
ゴフッ。
おもわずむせてしまいました。
ちらっとさよさんの方を見る。大丈夫、まだ黒くない。
「は、ははは。残念ながら、私にはすでにさよさんがいますので」
「なに、この国なら三人まではオーケーですぞ」
……この人、本気かもしれません。目が笑ってない。少女もなんか恥ずかしそうにモジモジしてますし。
ここは、さよさんが黒くなる前に逃げたほうがいいかもしれません。
「ああ、今晩は少し予定が入っていたのを忘れていました。申し訳ありませんが、ここらでお暇させていただきましょう。さ、さよさん行きましょう」
私がそう言って、さよさんの手をとって立ち上がらせようとした時、突然食堂の扉が開かれて、顔を一つ目が書かれた布で隠し、腰には剣を装備した兵士らしき者たちが数人足音も荒々しく入り込んできました。
こちらに兵の数と同じだけのMGの銃口が向けられます。
「……どういうつもりです?」
私が少女の父親に問いかけると、彼は悲しそうな顔をしていました。
「私もこんなことはしたくないのです。……しかし」
「しかし?」
「しかし、娘の初恋だというなら、かなえてやるのが親というもの!!」
「はぁ!?」
「あなたには、私の娘の婿になっていただく。なに、生活の一切は保障するし、一人の妻に三人の夫がいてもこの国では問題ない。安心してくれていい」
安心って……この親父、相当な馬鹿ですね。頭のネジ数本ぶっ飛んでるんじゃないでしょうか。
ああ、ほら。さよさんから黒い物が出てるじゃないですか。こうなったら……
「むん」
「え!? わわわ、セイさん!?」
さよさんが暴走する前に、お姫様だっこをして逃げます。今とれる最善の逃走ルートは……窓か!
「それでは!」
窓を突き破り、芝生の地面に着地。気で強化したひざで無理矢理衝撃を殺し、そのまま一気に駆け出す。
「ま、待て!」
誰が待つものですか。私達が泊っているホテルは外資系のホテルですから、そこまでたどり着ければ逃げ切ったと言っていいでしょう。
私は屋敷の庭を駆け抜けます。しかし、ちょうど門の辺りまでたどり着いたとき、私はあり得ないものを見ました。
「なっ……」
ウミガメが空を飛び、それに人が乗って槍を構えて三騎編成がひと固まりでこちらに向かってくるのです。
ミューとか鳴いてますが、でかいウミガメが飛ぶなんて地球ではありえないでしょう!?
「しかも速っ!!」
空を飛んでいるだけあって、かなり速いです! あまり一般人には見せたくありませんが、瞬動を使わないと逃げ切れないかも……!
―――その後、結局セイはホテルまでたどり着くことはできたが、たどり着いた時には精神的に疲労困憊していたという。
◆
一方件の屋敷では、少女の父親が無線機からの通信を聞いてため息をついていた。
「すまない、娘よ。逃げられたらしい」
「いいのです、お父様。私はまだ諦めたわけではありませんから」
少女は、父に向って微笑んで見せた。
この時のセイはまだ知らない。
十数年後、関西呪術協会の本山に、セイの娘を名乗るカオラ・スゥという少女が訪れ、嵐を巻き起こすことを。
今日はここで打ち止めです。時間がかかりそうなので挿話はやめました。いつか時間があれば。
それと、旧版であったひぐらし編と十字界編は自重します。本編が終わったらやるかもしれません。
以上です。ご意見ご感想誤字脱字の指摘批評など、よろしくお願いします。
追記
単なる悪ふざけに見える話が伏線だったりそうじゃなかったりします。