「単刀直入に申しあげます。私たちの仲間になりませんか?」
◆
もう何なんでしょうね、今日は。
仕事で出向いた先で赤いガキに不愉快な思いをしてやっと帰ってきたと思ったら、また勧誘です。
まあこっちは古代語上位魔法ぶっ放してませんし、まだまともな話ができそうです。
「宗教の勧誘なら間に合ってますよ」
私も腰を下ろします。たったままする話でもなさそうですからね。
「それに、急に来ていきなり『私たちの仲間になりませんか?』などと言われてもなれるわけがないでしょう」
おっと、雰囲気が変わりましたね。静かな闘気、いえ殺気ですか。どうやら裏の人間で間違いなさそうです。その中でも、おそらくはとびっきりの腕利きでしょう。
「それはどういった理由で?」
「仲間になるとは具体的にどういうことです。どこかの組織への参加? もしくはどこかの会社に雇用したいと?
単刀直入すぎて不明瞭なんですよ。もっと細かい話を先にしてくれないと考えようもありません。私にだって生活がありますからね。ただ働きなんてごめんですよ」
そう言うと、彼から殺気が消えました。
「そうですか。では、主ともう少し話を詰めてから参ります」
彼が横に置いてある自分のマントに手を伸ばします。
「待ちなさい。人の家を訪ねてきたんです。名前くらい名乗っていきなさい」
「……水のアダドー、と申します」
「偽名ですか、まあいいでしょう」
〈水のアダドー〉。そう名乗った彼は、近日中にまた来るといって、私たちの家を後にしました。
やれやれ……どうしてこうやっかいごとばかり増えていきますかね。やっぱり私なにかに呪われてるんじゃないでしょうか。
次に関西呪術協会に行く機会があったら、お祓いしてもらえるように頼んでみましょう。
◆
「なめられてるんですかね、私? ねぇ、司書長、なんとかいったらどうなんです?」
コツコツコツコツコツコツコツコツ……。苛立ち交じりに指で机をタップする。
今私の目の前で、司書長が日本式で相手に最大限の誠意を見せるときに使う土下座を実行しています。
司書長は日本にいったことはないはずなんですが、なんで知ってるんでしょうね?
いえ、今はそんなことはどうだっていいんです。問題は、司書長と彼女が土下座する前に話していたことです。
「せっかく回収してきた特二種指定禁術大全集、報酬が出ないとは、どういうことです?」
水のアダドーが帰った次の日。朝一番で司書長にブツを渡し、報酬が届くのが昼になるからまた来てくれというので昼になってから来てみれば、報酬が払えないという。
「それが~、その~……あーっと、ええっとぉ……なんと言えばいいのか」
いらっ。
「司書長」
「はい?」
ぺしんっ。
「痛っ……え、紙って、符!?」
司書長の額に符を一枚貼り付けました。発動はしていませんよ?
次に、同じ符を分厚い木でできたドアに貼り付けて、今度は発動します。
ドアは見る間に崩れて土くれになってしまいました。丁度向こう側にいた職員が手に持っていた書類の束を驚いて取り落としています。
おや、どうしたのでしょう?
司書長がへたり込んで震えています。まだ符を貼っただけだというのに、どうしてそんなに私の顔を見て怯えているんでしょうか?
「……ねぇ、司書長」
「は、はひっ!」
「いいから話しなさい。全部」
「はいぃっ!」
・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
「ふ、ふふ、ふふふふふふふ……」
「ク、クロトさん?」
なるほどなるほど。
実はあの特二種指定禁術大全集、貸し出すのを命令したのがウェスペルタティア王国の高官から賄賂をもらったアリアドネーの上層部の一部で、総長にばれる前にもみ消しに動いた、と。
「ふはっ、ははは、はははは!」
で、既にそいつらの部下によって強制的に本は司書長から回収され、書類も何も改ざん済み、貸し出されてなどいないことになったと。
「はははは! ははは! あはははははっ!!」
当然、貸し出されていない本に対する報酬などなく、抗議に行った司書長も部下によって門前払い、と。
つまり、私の累計二万キロ以上のアリアドネーからウェスペルタティアまでの往復も、オスティアでの不愉快なくそガキとの一連の出来事も、すべてなかったことになる、と。
なるほど。
なるほど。
「ク、クロトさん? ……ひぃっ!?」
司書長が悲鳴をあげました、なぜでしょう? 人の“とびっきりのイイ笑顔”を見て悲鳴をあげるなんて失礼な。
「ときに司書長、その上層部の一部、今どこにいるかご存じで?」
「え、ええたぶん。この時間なら、市街地の中央部のって、まさか!?」
「ふふふふふふ……ついてきなさい」
「い、いやああぁぁぁぁっ!?」
さぁて……どうしてくれましょうか……!
にじふぁん時代にあった水のアダドー視点が消えているのはミスではなく削除したからです。