麻帆良で生きた人   作:ARUM

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第百十話 訳知り顔で笑う人

 

 

 

「ほう?」

 

「……どうしたね、エヴァンジェリン」

 

「いや何、随分と面白いことが起きそうだと思ってな」

 

「……」

 

「どうした?」

 

「貴女が面白いと言うのは、ろくな事じゃナイヨ!」

 

 

 エヴァと超、二人がいるのはいつものモニターに囲まれた地下のアジト……では、無い。

 

 今いる場所は、初日から麻帆良上空を回航していた飛行船の内部、その一室である。超にとって必要不可欠なネットワーク端末を始めとした各種機器も充分揃っているが、壁一面を天井までモニターが埋め尽くしていた地下の物に比べてしまうとどうしても小規模である。本来であれば三日目までは待ちの一手、地下で傍観を決め込むつもりだった。しかし、そうも言っていられない理由が発生してしまったのだ。

 

 

「そうはいってもなぁ……幾ら私でも、ああなるとは思っていなかったさ」

 

「そうだろうね! 私だってやつらが図書館島を水没させる何て思わなかったヨ!!」

 

 

 超が若干顔を引きつらせて叫ぶ。半ばヤケになっているように見える……実際少しやけになっているのだが、その理由は二式大艇から降下した関東の忍者部隊にあった。

 紫紺の装束に身を包んだ彼らは、避難を促す放送のおかげで無人となっていた図書館島の地表、及び上層付近の制圧をてきぱきと完了させた後、壁面や天井に爆薬を設置し、そのまま複数箇所を同時に吹き飛ばしたのだ。

図書館島は地表に露出している部分はごく僅か。麻帆良湖に浮かぶ小島に建物こそ立っているが、蔵書の大半はそこから蟻の巣のように延々と広がる地下図書館に納められている。その広さは小島に収まるような物では無く、何倍から何十倍、平面上にして真上から見たとすれば湖を越えて岸の方まで伸びている通路もあるほどだ。

そんな広大極まる地下図書館の表層付近で隔壁、天井などが発破をかけられたとなればその結果。どうなったかと言えば。

 

 

「図書館島中層の狭小通路が狙い澄まされたように完全に水没っ、上層付近の装甲防火扉が爆破された物以外軒並緊急閉鎖と水圧、回線断裂などで開放不能っ、下層と最深部は浸水して無いとは言え転移なしに侵入することが出来ず、上層の閉鎖に伴って逃げ場を失った水の一部が学園の地下施設にも……奴ら狙ってやりやがったナ!?」

 

「だろうな。私も驚いた。流石に今度ばかりは徹底している」

 

 

 残念そうな顔をしてそうは言いつつも、堪えきれなかったのかくつくつと笑いをこぼすエヴァンジェリン。超は睨みつけるがどこ吹く風、しょうがないと何度目かの肩を落とす。

 

 

「フヌー……、移動するには早すぎた気もするのダガ……まごついていたら今頃閉じ込められていたしネ、やむをえんカ。全く冗談じゃない」

 

「そうそう悲観する事ばかりでもないだろう? 関東が学園結界を潰しに動いたおかげで、茶々丸も戦力に組み込めたじゃないか」

 

「それはそうだが、それにしたって被害が大きイ。……ちなみに今度は何が起きそうなのカナ?」

 

「わからん。何かが起きる」

 

「バカにしてるカ? 買うヨ? ケンカなら買うヨ?」

 

「違う違う、本当に何が起きるかわからんのだ。だが何か起きるのは間違いない。ほれ、アレを見て見ろ」

 

「これは……大気中の魔力濃度が上がって来てイル?」

 

 

 エヴァに促され超が目をやったのは、地下にあった物よりか幾分小さいモニターに表示されたグラフの一つ。その数値が過去の推計による想定よりも跳ね上がっていた。

 

 

「そうだ。この分だと遠からず学園結界は崩壊するぞ。無理矢理魔力濃度を上げられて、ほんの少しの切っ掛けがあれば臨界に達して焼き切れる。一度崩壊してしまえば触媒が壊れているから魔力濃度が下がっても結界は復活しない。普通学園全体をカバーする結界を焼き切ろうなどと考えもしないし、計画したところで実行できるはずがないが……奴は賢者の石でも用意したのかもしれんぞ?」

 

「賢者の石? バカバカシイ、あってたまるカ、そんなもの」

 

「クク、そうだな。普通はありえんだろうな」

 

「……どういうことダ?」

 

「貴様の話から察するに、あいつは本来いるはずのない人間なんだろう? そんな状況下で、そんなこと在るはずがないと決めつけるのがどれだけ愚かなことかわからんのか? 

無論私だって伝承通りの賢者の石が実在するなど思ってはおらん。あんな物は所詮錬金術師の伝えるおとぎ話の範疇にすぎん。

だがな……魔法使い自体、世間一般にすれば充分おとぎ話の範疇だということを忘れるな」

 

「それは……」

 

「一片の真実もない嘘はいかに上手くできていようが所詮はすぐに廃れるものだ。しかし逆に」

 

「ひとカケラの真実があれば、真実たり得るト? それこそテンナインの嘘の最後の1が真実なら、真実である可能性がアルと言っている様な物ダ。現実味がなさ過ぎル」

 

「だからそこに油断があると……ほれ、言ってるうちに、来たぞ」

 

 

 言葉と共に、飛行船が揺れる。遠く南海の小国で、軍船としても使われている飛行船が、大きく、揺れる。

 

 

「ハカセ、何ゴトネ!」

 

『そ、それが何がなんだか……麻帆良大橋で揺れの原因と思われる爆発は麻帆良大橋での学園側と関東の戦闘の余波だと思われるんですが、ほぼ同じタイミングで学園側の広場方面の防衛線でも複数の爆発が』

 

「……わからんのか? 聞くまでも無からろうに」

 

「……ご説明、願おうカ? 闇の福音」

 

「あいつが前に出てきたのだろう。……どうした? まだ正念場ですらないぞ、未来人」

 

 

 

 












 しばらくネットに触れなくなるので、次回更新は三月ごろになる予定です。それまでに完成したら随時投稿します。ご了承ください。

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