麻帆良学園の生徒の中には、要注意生徒として広域指導員に特にマークされている生徒がいる。素行不良である、といった一般的?な理由から、表沙汰にはできない理由まで多岐にわたるがその中には特異な物もある。
例えば、科学技術の粋を集めた時代にそぐわないほどのガイノイドであるとか。
例えば、経歴不詳かつ常識外れの天才であったりとか。
例えば、元世界一の高額賞金首の吸血鬼だったりとか。
他、etc……
「――よくもまあ、ここまで問題児ばかり集めたものです」
そんな問題児達の一覧にしたリストを見て、魔法世界はオスティア信託統治領の総督、クルト・ゲーデルは眉間に深い皺をつくった。
クルトが旧世界に来るに当たって経由したのは日本からは遠く離れたイギリスはウェールズのゲート。そこから日本までは飛行機で移動し、さらに空港についてからはタクシーを使用して……やっと麻帆良についたのは日も暮れた頃だった。
クルトが今回連れてきた人員はおおよそ八百名ほどになるが、それだけの人員を一度に、しかも短時間で運ぶのは通常であれば不可能だ。今回クルトはその不可能を可能にしたわけだが、問題はそこではない。
「まったく、狸とは言い得て妙です。ああも情報操作と責任転嫁が上手いとは」
毒づくのは、つい先ほどの麻帆良の総責任者、近衛近右衛門との会談である。
極東の近右衛門と言えば名の知れた大物であるし、そうそう何ごともうまくいくとは思っていなかった。しかし普段から本国の元老院を相手に立ち回っているクルトをして驚かされたのは、今年に入ってから何度か増援として送っていた本国の魔法使いがいつの間にやら近右衛門の指揮下におかれていたということだ。
どうやら人員とともに派遣されていた前指揮官を更迭して、その代わりに近右衛門が指揮をしているということらしい。どうやら件の前指揮官の人望で少し指揮系統が完全に確立した訳ではなさそうだが、それも時間の問題。
何より恐ろしいのが、この件をクルトは一切“知らなかった”。麻帆良は極東の要所であるし、タカミチが在籍している上に英雄の息子であるネギまでいる。そのためクルトは情報網の一端を麻帆良にも伸ばしていたのだが……それがまったく機能しなかった。
麻帆良についてからの会談の内容も指揮権の在処などがメインだったが、ともすれば体よく子飼いの部下の指揮権まで奪われるところだった。結局正式に取り決めたのは一点。指揮権は互いに完全に独立する。そうでもしなければ、一体何からどんな災厄が降りかかるかわかった物では無いのだ。
「部隊の収容状況は?」
「あ、はい。中心部からは離れた複数の宿泊施設に部隊事に別れて行っています」
クルトが、一歩遅れて後ろを歩く秘書の少年が答える。柔らかそうなくせっ毛の少年で、クルト自身の刀も持たせている腹心と言って良いだろう。
「ん、連絡を密に取るように指示しておきなさい。私も近々合流します」
クルトはそう答えて、歩みを進める。もう日も暮れて夜になろうというのに、視界には途切れることのない人の波が映っている。
極東の経済大国、日本。
かつて旧世界で起きた大戦で敗戦し、しかしその後立ち直り異常なまでの経済成長を成し遂げた国。
オスティアでも同じことができるだろうかと、クルトはふと立ち止まって考える。
立地も違う。国民性も異なる。条件だって一致する条項は多くはないだろうが、それでも参考にできることはないだろうかと。
オスティア信託統治領総督。
元老院に疎まれる紅き翼にかつて所属していながらも、交渉技術を駆使してそこまで上り詰めたのも、たった一つ、かつて畏敬の念を抱いた一人の女性の意志を継いでのこと。
「――どうかなさいましたか、総督」
「いえ……」
「……ああ、買ってきましょうか」
「はい?」
秘書の少年が急に何を言い出したのかと思ったが、理由はすぐにわかった。クルトが丁度視線を向けていた先は丁度食べ物の屋台などが連なるフードコートのような場所だったからだ。
今もスーツを着た細目の優男と褐色の女性がテーブルの一つで何か汁のない白い麺類を食べている。
「違いますよ。随分な盛況だと思いましてね」
「なるほど。確かにこれだけの規模ですから。今年のオスティアもこうなるといいのですが」
「ええ。そう、です……ね……」
そんなクルトの視界の端を、何か通り過ぎた。
気になって目で追って見れば、一人の少女だった。
日本最大級の学祭、麻帆良祭。ツインテールにした少女など、捜せばいくらでも見つかるだろう。
しかし。
オレンジ色のツインテールを揺らした、その少女の姿が映った瞬間。
「総督……?」
クルトは、走り出していた。
セーフっ!! しかし今回も単発かつ短いです。それと明日明後日は更新お休みです。ご容赦を。
なお、塩焼きそばです。