麻帆良で生きた人   作:ARUM

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 今回の××には言葉は特に入りません。しかし○○○○にはちゃんと言葉が入ります。ネタバレは禁止です。ネタバレ禁止ですからね!


第九十六話 車中の会話

 

 

 

「ふぅ、人に酔う質では無いと思っていましたが、思ったよりも疲れましたねぇ」

 

「お疲れ様ッス」

 

 

 麻帆良を離れる車の中で、運転席から空里君が声をかけてくる。

 

 エヴァとの話の後、私は大通りばかりを狙って移動し“歩いて”麻帆良から離脱しました。

 これも麻帆良の認識阻害の弊害ですね。

世界樹の魔力の高まりと共に発生する発光現象に合わせて馬鹿みたいに人を入たせいで飽和状態になっていますから、仮に人払いを使ったとしても人の流れの出口は限られて移動速度も低下する。

 その流れに無理に逆らってその場に留まろうとするのではなく、合わせるように移動すれば脱出は用意なのですよ。人の波を盾に使ったような結果ではありますが、そもそも彼らがそういうつもりで麻帆良祭を行っているのでしょうから、とやかく言われる筋はありません。

 

 

 「しっかし随分と派手にやったもんっすねー。薄雲級を一度に六隻、今までじゃ考えられないッスよ」

 

 

 ハンドルを左に回しつつ、空里君がそう言います。足回りを特に入念に弄ってある無骨な四輪駆動車は、持ち主の意志をそのまま体現したように滑らかに無駄のないルートでカーブを曲がっていく。

 

 

「それはそうでしょう。世間一般は別として、彼ら魔法使いに対してはもう隠す必要がなくなったんですから。どうせやるなら派手にやるほうが良い。そうすることで隠せる物もまたありますからね」

 

「いや、潜入担当の家としてはあんまり派手にやり過ぎるのも困りもんなんすけどねー」

 

「苦労をかけます」

 

「そこは自重してくださいよ。まぁ、この様子なら追撃もないでしょうからいいっすけど」

 

 

 窓の外の景色は変わり、麻帆良の外縁部、市街地から徐々に緑が深くなってきている。それと、少しばかり勾配が急になったことを感じる。向かっているのは麻帆良とは逆方向の人の少ない山の方。襲撃をするには、もってこいのロケーションだが……

 

 

「しっかし長、スーツ似合わないッスねー」

 

「言ってなさい。あなただって今日はスーツでしょうに。それとそのバンダナ取ったらどうです」

 

「このバンダナは俺の信条を表してるんすよ! それに俺は着たくて着てるわっけじゃないっすよ。周りに着せられたんです」

 

「へぇ、周りに」

 

 

 バックミラー越しに、目があった。何か不穏な物を感じたのか、彼は直ぐに目をそらして前に向けました。

 

 

「……なんすか?」

 

「いや、その中に三城さんはいたのかなぁと思いましてね? どうでしたか?」

 

「…………いましたけど」

 

 

 くっく。反応を見るに、良い感じに尻に敷かれつつあるようですねー。

 

 まぁ、今はこれ以上弄らずとも良いでしょう。どうせ二日三日後には嫌が応でも弄られるでしょうからね。

 

 

「ま、いいでしょう。他の所はどうなってます?」

 

「報告っすか? ちゃんと来てるっすよ。天乃五環は超高高度をステルスモードで巡航中。柱を下ろした艦隊は本部跡に無事帰還。車両班も各所に分散して潜伏中。所定位置まで五分で急行できる位置っす」

 

「国外組はどうですか?」

 

「最後の定時連絡が二時間前ッス。トルコ、アメリカ組は現地に到着、現地組織とも接触したようっす。たーだイギリス組がちょっと時間をくってるみたいっすね」

 

「それはまたどうして?」

 

「イギリスは魔術、科学両面で警戒が厳しいってんで、表ルートから入る予定だったのはご存じッスよね? どうも裏の方で何かあったらしくて警戒レベルが跳ね上がったみたいっす。で、今は第二プランに移行して低空からドーバー海峡防衛ラインを抜くつもりらしいすけど、薄雲の回航ルートの調整で手間取ってるみたいっす」

 

「それは……」

 

 

 概ね全てが順調な中で、問題が出たのがイギリスというのに少し驚く。

 イギリス。多くの因縁の始まりでもある彼の国で問題が起きるというのは、少しばかり不吉な気がしないでもないです。

 まぁ。何が起ころうとも、ここまで来たからには止まるわけにはいかないんですがね。

 

 しかし……警戒レベルが跳ね上がるような事態というのは見過ごせませんねぇ。

 

 

「その件についての情報は?」

 

「目下収集中ッス。けどイギリス班も薄雲とのランデブーの準備で手一杯のようで中々上手くいってないっすね」

 

「……まぁ、こちらとは時差がありますからまだ余裕はあるでしょう。最悪、薄雲級なら一度強行突破した後でも再ステルスで幾らでも捲けます」

 

「高高度の薄雲級を利用した中継による長距離通信と、スパコンを同時使用しての暗号化……便利なもんっすねー」

 

「頼りすぎるのもよくないんですけどね」

 

「わかってますって。……ああ、それはそうと、ちょいと面白い情報が入ってるッスよ」

 

「ほう?」

 

「麻帆良の葛葉刀子が行方不明になってるって噂が出てるみたいなんすよ」

 

 

 刀子ちゃんが?

 

 

「……眉唾ですねえ」

 

「俺もそう思ってちょっと調べてみたっす。そしたら面白いところで見つけたッスよ」

 

「彼女はどこに?」

 

「首都圏内の、××ってとこっす」

 

「××……?」

 

 

 はて、××……?

 

 

「ああ、××。私も何度か足を運んだことがありますよ。○○○○があるところ、です……から……」

 

「あれ、どうしたっすか長。そんな深刻な顔して……」

 

「…………やられた! 流石刀子ちゃんだ!!」

 

「長!?」

 

「いやいやいや全く持って迂闊でした! 私としたことが! くっくく、いやしかしどうしてこう上手くいかないものか!!」

 

「いや、ちょっ。長!? どうしたっすか!?」

 

「空里君。至急連絡を飛ばして下さい。人員を少し割いて葛葉刀子を探索……いや、もう無駄ですね、撤回します。潜伏中の人員に刀子ちゃんと出くわしたら何より逃走を優先するように。決してマトモにカチ当たらないようにきつく言っといて下さい」

 

「へ、あ。はいっす」

 

 

 いやはや、刀子ちゃんもやってくれます。しかし、これで刀子ちゃんの行動が予想通りだったならば、彼女は台風の目になりますねぇ。

 

 いやはや、まったく!!

 

 

 

 

 





 短いのは勘弁してください。今日も単発です。

 まえがきでも書きましたがくれぐれも感想とかでネタバレは禁止ですよ!

 それと明日は投稿できないかもです。きりのいいとこまでいけたら投稿します。

 それではご意見ご感想誤字脱字の指摘などよろしくお願いいたします。

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