麻帆良で生きた人   作:ARUM

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第九十四話 Teachers

 

 

「さて、どうしたものかな」

 

 

 廊下を歩きながら、PCに何らかの情報を打ち込んでいた明石がぽつりと呟く。内用はもちろん警備体制の見直しについてである。

明石は近右衛門には配置を見直すとは言った。しかしそうは言っても人員には限りがあるし、この麻帆良ではそれが特に顕著な為、そこまで余裕は無い。どこかから人を持ってくれば、当然どこかに穴が開く。元がバランス重視で配置していたため、仮に薄くなった箇所を突かれれば突破されてしまうだろう。

 

 

「警備の配置ですか?」

 

「そうだよ。例えば今考えているのは麻帆良大橋の人員を減らして、それをそのまま駅の付近に配置すれば……って案なんだけど」

 

「えっと、良いんじゃないですか?」

 

「いや、だめだろう」

 

「そうだね、ちょっと難しいかな?」

 

 

 例を示す明石。よく考えずとりあえず賛意を示す瀬流彦。そしてそこにツッコミをいれるガンドルフィーニと弐集院。

 四人揃って廊下を歩いているわけだが、先頭の明石以外は手ぶらである。つまり、少なくとも目に見える形では杖などといった魔法発動媒体をもっていないのだ。しかし魔法が使えないかといえばそうでもなく、ネギのようにあからさまなのが異常なのだ。本来は日用品に擬装したり……とにかく、現状は四人で廊下を歩いている。

 

 

「瀬流彦君、麻帆良大橋は少しまずいんだよ何でかわかるかい?」

 

「えぇと……市街地と直結してるからですか?」

 

「いや、それもあるんだけどそれだけじゃないよ。麻帆良大橋はね、片側二車線なんだよ」

 

「それが?」

 

 

 答えたのは、瀬流彦に問を投げた弐集院ではなくガンドルフィーニ。

 

 

「つまり、大型車両を通せる。事実学祭の搬入車両もこちらを通っている。奴らが大型車両を使ってくるなら、人混みで動きを取られる学校区よりもこちらから来るだろう」

 

「そこが問題なんだよね。麻帆良大橋の今の受け持ちはガンドルフィーニ君だけど、他は魔法生徒が主体だから」

 

「え、でもガンドルフィーニ先生の受け持ちなら高音君や佐倉君ですから、車くらいなら……」

 

「瀬流彦君。」

 

 

それまで歩きながらでもPCをいじっていた明石が、ふと足を止め瀬流彦を見た。そこにいつもの柔和な笑みは無く、口を硬く引き結んだ、きりとした表情だった。

 

 

「僕らはね、魔法関係の仕事にかかりがちだけど、それでも教師なんだ。生徒だけを前に出すなんてことを考えちゃいけないよ。それに車と言っても、仮に戦車なんかが出てきたらどうするんだ」

 

「それは……」

 

 

 普段なら、明石も戦車などは想定に入れたりしない。少なくともこの日本においては市街地に突然戦車が出てくるなど絶対にあり得ないからだ。しかし、今度の相手、関東呪術協会ではそれが無いとは言い切れない。

 何せ、実際に双胴飛行船などと言う想像の産物を実際に創り出し、さらに運用してきた組織だ。

 そんな相手が、仮に戦車を持ち出してきたら? 自分の娘と同じくらいの生徒達だけに人を殺すためだけに造られた鋼鉄の塊の相手をさせるのか?

 

 あるいは、戦車を持っているからといって、学内の、魔法のことをカケラも知らない軍事系サークルに頼むのか?

 

 そんなことを、娘を持つ明石には出来なかった。

 

 

「すいません」

 

「いや、僕も少しきつく言って悪かった。そういうものだと覚えておいてくれればいいよ」

 

「はい……あっ」

 

「どうかしたかい?」

 

「本国派遣の人達に手伝ってもらうのはどうでしょう!?」

 

 

 瀬流彦を除く三人が、示し合わせたように顔を見合わせた。

 

 

「出来なくは無い、か。確か今は学園長が指揮権を掌握しているはず」

 

「……一考の価値はある、かな? とりあえず、誰かに連絡を取らないと」

 

「あ、それじゃあ僕アミークスさんの番号知ってるんで訊いてみますね」

 

「え?」

 

 

 明石に窘められしゅんとしていたが、どうやら自分の案で物事が進みそうな雰囲気に再びにこやかな笑顔を取り戻し、携帯を取り出した瀬流彦。

 

 しかし一方の明石は不思議そうな顔をしている。

 

 

「瀬流彦君、アミークス女史の番号って、携帯の番号?」

 

「え、はい。そうですけど」

 

 

 どうしてそんなことを訊くのか? この段階で、まだ瀬流彦は自らの致命的な失敗に気づかない。

 

 

「明石教授、瀬流彦君がアミークス女史の番号を知っていることに何か問題が?」

 

「いえ、彼女が麻帆良に来て直ぐに警備協力の観点から一度聞いたんですが、そのときは携帯電話を持っていないと答えられたので……」

 

「つまり、瀬流彦君はアミークス女史が携帯を手に入れてすぐにその番号を手に入れたわけだな?」

 

「そういえばその携帯、新しい機種だね。それにそのストラップ、確かペアじゃないともらえないキャンペーンの奴かな?」

 

「……ほう」

 

「ほほう」

 

 

 普段は見せない、何ともいえない笑顔を瀬流彦に向ける三人の教師達。

 

 

「あ、あはははははは……」

 

「うーん、公私混同は褒められたことじゃないけど……瀬流彦君?」

 

「はい……」

 

「ま、上手くいくといいねえ」

 

「頑張ってくれ。障害は多いだろうけど応援するよ」

 

「……瀬流彦君」

 

「なんでしょう、ガンドルフィーニ先生……」

 

「……娘はいいぞ。世界が変わる」

 

 

 

 明石、弐集院、ガンドルフィーニ。そういえば全員娘がいるのだなぁ、と思い出しながら、少しほっとした瀬流彦だった。

 

 

 

 




 えたったとおもったかい? ざんねん。てすとにぼうさつされていたのさ!

 はい、復活しました。こっからなるべくハイペースで更新していきたいと思います。
 旧版も使えるところは拾いつつやっていきますが、どんなに速くても一日一話が限界です。

 それでは今日はここで打ち止め。ご意見ご感想誤字脱字の指摘批評などよろしくお願いします。
 ※文頭の一字空けを手間の都合で省略しました。すいません。

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