絢の軌跡   作:ゆーゆ

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貴族としての

「早速、今月の実技テストを始めるとしましょうか」

 

コホンと1つ咳払いをした後、サラ教官がパチンとフィンガースナップを鳴らす。

と同時に、ブロンズ色の傀儡が瞬時にして姿を現した。

 

「また微妙に形状が変わっているな」

 

あの得体の知れない傀儡の相手をさせられるのは、これで3度目。

マキアスが言うように、前回同様見た目が少し変わっているような気がする。

勿論、変わったのは外見だけではないのだろう。

 

「はぁ。またアレの相手をすると思うと気が重いよ」

 

エリオットが肩を落としながら大きな溜息をつく。

最近分かってきたことだが、クラスの人数が少ないということは、それだけ生徒の負担は増す方向に働くようである。

単純に考えて、人数が半分ならこういった場面で自分に回ってくる回数は倍になる。

武術教練はともかく、ハインリッヒ教頭に当てられる回数が増えるのは勘弁してほしい。

 

「それにしても・・・・・・あのくねくねした動き、どうにかならないのかなぁ。気が散るんだよね」

「動き?何のこと?」

 

エリオットがきょとんとした表情で訊いてくる。

 

「あれが人間だったらって思うと、結構キツイよ?想像してみてよ」

 

手のひらを地面に向けて、リズミカルに肩を上下に動かしながら足踏みをする。

完全に変質者だ。踊りと言われればそう見えなくもないが、少しシュールすぎるだろう。

 

「・・・・・・勘弁してよ、アヤ。もう踊ってるようにしか見えないや」

「でしょ?」

「君達は何の話をしているんだ」

 

マキアスの突っ込みが入ったところで、頭を切り替える。

見た目はともかく、前回も前々回もあの傀儡には相当な苦労をさせられた。油断は禁物だ。

栄養は十分に確保した。体調も悪くない。

何より中間試験の結果を目にしてから、気分が高揚している。

今ならどんな相手とだってやれそうだ。

 

「ではこれより―――」

「フン、面白そうなことをしてるじゃないか」

 

サラ教官の言葉を遮るようにして、聞き覚えのある声が耳に入ってきた。

 

「あれは・・・・・・先日の」

 

ガイウスが言う先日とは、4日前の出来事を指しているのだろう。

グラウンドの階段を下りこちらへ向かってくるのは、パトリック・T・ハイアームズ。

周囲に取り巻いているのは、彼のクラスメイトだろう。

 

ほとんど完治しているはずの右手中指の傷が疼き出す。

気にしていないと言えば嘘になる。

どちらかと言えば、忘れたい。

 

「どうしたの、君達。《Ⅰ組》の武術教練は明日のはずだったけど」

「トマス教官の授業がちょうど自習となりましてね。せっかくだから、クラス間の『交流』をしに参上しました」

 

パトリックは言いながら、腰に携えていた剣を抜いた。

同時に周囲の空気が豹変したのを肌で感じる。

 

(ええ!?)

 

普通に考えれば、自習中に教室を抜け出した時点で説教ものだ。

彼らの意図は分からないが、少なくとも「交流を深める」気など微塵もないのだろう。

 

「本気、なのか?パトリック」

「たまには人間相手もいいだろう?僕達《Ⅰ》組の代表が君達の相手を務めてあげよう・・・・・・真の『帝国貴族の気風』を君達に示してあげるためにもね」

 

挑発的なパトリックの言葉と態度が、周囲の空気を益々悪化させた。

彼らと私達に挟まれた空間が、グニャリと歪んでいくかのような錯覚に陥る。

 

「フフン、中々面白そうじゃない」

 

パチンという渇いた音が再び鳴り響くと、ブロンズ色の傀儡はその力を示す前に姿を消した。

それが意味するところは―――1つしかなかった。

 

「―――実技テストの内容を変更。《Ⅰ組》と《Ⅶ組》の模擬戦とする!」

 

__________________________________________

 

4対4の多対多。補助アーツの使用を認め、制限時間は無し。

模擬戦とはいえ、実戦に近い条件と言える。

個人技よりも、4人の連携がポイントになるはずだ。

 

「あの、サラ教官。確認なんですけど・・・・・・本気なんですよね?」

「勿論。だって面白そうじゃない」

 

冷静になって考えてみれば、彼らの申し出を引き受ける必要はどこにもない。

というか、「面白そう」でこんなことを認めては駄目だろう。秩序が無さすぎる。

 

「だってさ。リィン、どうするの?」

「サラ教官の指示に従わないわけにもいかないだろう」

 

顎に手をやりながら、私達とパトリック達を交互に見やるリィン。

お互いの相性も考慮して、3人のメンバーを誰にするか思案しているのだろう。

・・・・・・4人の中に当然のようにして入れられたことについては、何も感じないのだろうか。

 

「よし。ラウラ、ユーシス、エマ。すまないが、手を貸してくれるか?」

「任せるがよい」

「フン、さっさと終わらせるぞ」

「わ、分かりました」

 

リィンの申し出に応えるように、3人が一歩前に歩み出る。

私がリィンでも、おそらく同じような人選をとる。

戦闘技術がずば抜けて高いフィーを選ばなかったのは・・・・・・ラウラとのことを、気遣った結果なのかもしれない。

 

だというのに―――彼の人選は、パトリック直々に却下を食らってしまった。

女子を傷付ける気はない、という言葉はまぁ納得できる。

だが貴族だという理由で、ユーシスまで外される理由がどこにも見当たらない。

そもそもリィンだって男爵家の長男だろう。

 

「何をしたいんだ、彼は」

「さあ・・・・・・そのままの意味なんじゃない?」

 

ガイウスの疑問は最もだ。

侯爵家の御子息に抱いていい感情ではないが、余りにも身勝手すぎる。

それに平民という指定が入る以上、そこに彼の思惑があるのだろう。

 

想像するに容易い。要するに彼らは、《Ⅰ組》としてこの場に立っているわけではない。

『貴族』として平民に私闘を吹っ掛けていると言っても過言ではないのかもしれない。

 

「ほらほらリィン、早く選びなさい」

「りょ、了解です」

 

人選をオール却下されたリィンが、困り果てた顔で私達を見渡す。

まぁ、彼らの指定に合致するメンバーは数少ない。必然的に、彼が選ぶ3人は―――

 

「マキアス、ガイウス、アヤ。お願いできるか?」

「リィン、喧嘩売ってる?」

「えっ」

 

「えっ」じゃないだろう。

その反応から察するに、真面目な顔でボケているわけではないらしい。

女性らしさが《Ⅶ組》の中では劣っているという自覚はあるが、これは結構心にくるものがある。

 

「ああっ!す、すまない。その、勘違いだ。別にそんなつもりは―――」

「最っ低」

「リィン・・・・・・」

「擁護のしようがありません」

「アヤ可哀想」

 

一斉に女性陣からの非難がリィンに集中する。無理もない。

憐れむような目をリィンに向ける男性陣の中で、ユーシスだけが口元に手をやりながら体を小刻みに震わせていた。

どうやらツボに入ってしまったようだ。

アルバレア家の御子息にも、笑いのツボというものは存在するらしい。

至極どうでもいい。笑いたければ笑え。

 

「お、おい。早くしたまえ。いつまで待たせるつもりだ」

 

結局リィンが選んだのは、マキアスにエリオット、それにガイウスの3人だった。

この3人しかパトリックが指定する条件に当てはまらないのだから、当然の選択だ。

 

「双方、構え」

 

サラ教官の号令が辺りに響き渡る。

同時に、《Ⅰ組》の面々が一斉に剣の鞘を払った。

どうやら彼らの得物は両刃剣で統一されているようだ。

 

「へぇ・・・・・・これは結構苦戦するかも」

「言っただろう。奴らの剣の腕は本物だ」

 

構えを見ただけで、相手の技量を見抜く術は身に付けているつもりだ。

ユーシスが言うように、4人が4人とも様になっている。

リィン達もそれを肌で感じ取ったようで、目の色が変わった。

 

______________________________________

 

カランカランという渇いた音と共に、私のすぐ前方に両刃剣が力なく横たわる。

リィンの太刀に得物を払われたパトリックは、力なく地面に膝を付いた。

 

立ち合いが開始してから5分間程度だろうか。

模擬戦ではあったが、条件が条件なだけに本格的な立ち合いだったと言えるだろう。

浅いとはいえ、お互いの身体に刻まれた傷がそれを如実に物語っていた。

 

「―――勝者、《Ⅶ組》代表!」

「よしっ」

「フン、及第点だな」

 

客観的に戦力を分析すれば、5分5分。贔屓目に見て、6-4でリィン達に分があった。

だが、私達には《Ⅰ組》にはない武器がある。

戦術リンクを駆使さえすれば、それは7-3にも8-2にもなる。

今回の結果は、その差がハッキリと出たにすぎないのだろう。

 

「・・・・・・いい勝負だった。あやうくこちらも押し切られるところだった」

 

太刀を収めながら、リィンがパトリックへと歩み寄る。

彼の言うように、これはこれでよい経験になったのかもしれない。

考えてみれば、多対多の対人戦の経験は―――

 

(―――え?)

 

パトリックの背中から、陽炎が立ち込めるかのような錯覚に陥る。

一体なんのつもりだろう。もう立ち合いは終了したはずだ。

だというのに、先程とは比べ物にならない程の闘志が溢れかえっていく。

 

「・・・・・・だだ」

「パトリック?」

「まだだっ・・・・・・まだ終わっていない!!」

 

声を荒げると同時に、パトリックが強引に仲間の1人が握る両刃剣を奪い、リィンにその剣先を向けた。

 

「ま、待ってくれパトリック。何のつもりだ」

「抜け、シュバルツァー・・・・・・認めん、俺は認めないぞ!!」

 

パトリックの気に当てられたのか、リィンは強引に剣を抜いた。

抜かされた、と言った方がいいのかもしれない。

後退して一旦間合いを取ったリィンは、サラ教官に戸惑うような視線を送ってくる。

剣を取ったはいいものの、これでは完全に私闘の域だ。判断を仰いでいるのだろう。

 

「汲んであげなさい、リィン」

 

(サラ教官・・・・・・)

 

この場にいる誰しもが、サラ教官の言葉に従わざるを得なかった。

パトリックの目は本気だ。口調すら変わってしまっている。

一度負けた相手に即座に再戦を申し込むなど、プライドも何もあったものじゃない。

 

「はああっ!!」

「ぐっ・・・・・・」

 

感情的をむき出しにしたパトリックの剣が、リィンに襲い掛かる。

上段からの連撃。怒りに我を忘れているのかと思いきや―――一太刀一太刀が、とてつもない鋭さを帯びていた。

あれでは脇構えを基本とする、リィン本来の型すら取らせてもらえない。

 

「・・・・・・気のせいかな。さっきよりも太刀筋がいいように見えるけど」

「フン、形振り構っていられなくなったといったところだろう」

「ユーシス、分かるの?」

「さあな」

 

帝国貴族としてのプライドか、それとも男子としてのプライドか。

或いは―――その両方か。

何を捨てて、何を守ろうとしているのかさえ分からない。

どちらも私の理解の範疇を超えている。そういう強さもあるのだろうか。

いずれにせよ、このままでは押し切られるのは時間の問題だ。

 

「リィンっ・・・・・・!」

「案ずるな、アリサ。リィンなら、きっと乗り越えてみせる」

「・・・・・・乗り越える?」

 

アリサの心配は最もだが、生憎私もラウラの意見に賛成だ。

彼は自身の剣を卑下し過ぎている。もっと自分自身を信じてもいい頃合いだ。

 

「はぁっ!!」

「がはっ・・・・・・!」

 

上段で剣を受けたのと同時に、パトリックの前蹴りがリィンの鳩尾へと的確に叩き込まれた。

 

息が上がっている状態であれを食らっては、意識が飛んでもおかしくはなかった。

実際、相当なダメージと疲労が蓄積しているのだろう。

膝がガクガクと笑ってしまっているが、辛うじて両の足で立つことはできるようだ。

 

一方のパトリックは切っ先を地に刺し、肩を上下に大きく揺らしながら立ち尽くしていた。

お互い連戦の身だ。どうやら彼も彼で、体力の限界が近いようだ。

とはいえ5分5分とは言い難い。このままでは、次の接触で力押しされてしまうかもしれない。

勝機があるとすれば、そこしかない。

 

「リィン!」

 

凛とした声で、ラウラがリィンの名を呼んだ。

ラウラは何も言わず、ただ、無言で視線をリィンに向けている。

立ち合いの最中に視線を逸らすなど以ての外だが―――吸い込まれるようにして、リィンが一瞬だけラウラと視線を交わした。

 

それだけで、リィンには十分だったようだ。

落ち着きを取り戻したリィンは大きく深呼吸をしながら、片手で八相に近い構えを取った。

 

「麒麟功っ・・・・・・」

 

穏やかで、それでいて力強い剣気がリィンの身体に漲っていく。

それでいい。今の私は、もう3か月前の私じゃない。

それはリィンだって同じはずだ。

 

「これで終わりだ、リィン・シュバルツァー!!」

「―――『二の型』疾風!!」

 

______________________________________

 

「・・・・・・わお」

 

思わず見惚れてしまった。

今目の前で起きたことを理解できた人間が、この場に何人いるだろう。

 

踏み込もうとしていたパトリックを、遥か後方に置き去りにする妙技。

『二の型』疾風、か。名前に負けず、まさしく風の如き見事な一太刀だ。とても真似できない。

 

一撃で剣を飛ばされた当のパトリックは、右手を押さえながら地に蹲っていた。

相当な衝撃だったのだろう。大事無ければいいのだが。

 

「はは・・・・・・ど、どれもぶっつけ本番だったけど、何とかなったみたいだ」

「謙遜はよい。見事な立ち合いだった・・・・・・無事で何よりだ」

 

一方のリィンも、ラウラにもたれ掛かるようにして何とか立っている状態だ。

お互い満身創痍の身だろう。ラウラが言うように、終わってみれば見事としか言いようがない。

 

多少おぼつかない足取りで、リィンがパトリックの下に歩み寄る。

 

「パトリック、礼を言わせてくれ」

「何、だと?」

「1つ、壁を超えられた感覚だ。おかげで俺は―――」

「貴様っ・・・・・・ふざけるな!!」

 

次の瞬間、乾いた破裂音のような音が周囲に鳴り響いた。

リィンが差し伸べた手を、パトリックは拒絶したのだ。

 

「いい気になるなよ、リィン・シュバルツァー・・・・・・ユミルの領主が拾った、出自も知れぬ浮浪児ごときが!!」

「・・・・・・っ!」

 

彼が放った言葉は、確かに聞き取れた。耳には入ったが、頭には入らない。

どういうことだろう。リィンはシュバルツァー男爵家の長男だ。

出自が知れないなんてことは―――

 

『それに養子だから、貴族の血は引いていないんだ』

 

(あ―――)

 

2か月前、リィンが列車内で口にした台詞を思い出す。

そういう意味なのだろうか。だとすれば、何て酷い言葉だ。

 

当のリィンは、目を瞑りながら口を閉ざしていた。

何かを耐えるような、堪えるような険しい表情で。

 

(リィン・・・・・・)

 

一方のパトリックは、次々に私達《Ⅶ組》に向かって罵声を浴びせていた。

整っていた髪は乱れ、制服も泥に塗れている。

2度の立ち合いの直後のせいなのか、眼は真っ赤に充血し、肩で息をしている。

大声を上げるだけでも苦しいはずなのに、一向に止まる気配がない。

そこには、貴族が纏う上品さの欠片も感じられなかった。

 

「―――よく分からないが。貴族というのはそんなにも立派なものなのか」

 

滝のように溢れ出るパトリックの言葉を遮ったのは―――ガイウスだった。

 

「故郷に身分は無かったため、いまだ実感が湧かないんだが。貴族は何をもって立派なのか説明してもらえないだろうか」

「き、決まっているだろう!貴族とは伝統であり家柄だ!」

 

ガイウスはあまり感情を顔に出さない。

おそらく、誰も気付いていないだろう。

 

「なるほどな。伝統と誇り、気品と誇り高さか」

 

少なくとも私は、こうして傍に立っているだけで明確な『怒り』に身を焦がれそうになる。

皆勘違いをしているのかもしれない。

表に出さないだけで、彼だって1人の人間なのだ。

それに気付こうとしないパトリックは、貴族の何たるかを捲し立てる様にして説いていた。

 

「ならそれさえあれば、先程のような言い方も許されるということなのだろうか」

「くっ・・・・・・」

「彼女に傷を負わせたことも、忘れてもいいということか」

「・・・・・・か、彼女?」

「どうしたんだ。まさか本当に忘れてしまったのか?」

 

ガイウスがゆっくりとパトリックの下に歩を進める。

案の定、皆ポカンとした顔でその姿を見守っていた。

―――そろそろ限界だ。

 

「もし今度アヤに手を掛けるような真似をしてみろ。俺はお前を―――」

「ガイウス」

 

パトリックの襟元を掴もうとしていたガイウスの右手を、私の右手で蓋をする。

見えているだろうか。私の中指の傷は、もう塞がっている。

 

「アヤ・・・・・・」

「気持ちだけ貰っておくから。だから、もういいよ」

 

私はずるい。

自分ではこう言っておきながら、これから私がしようとしていることはまるで真逆だ。

汚れ役を引き受けようと思う一方で、身勝手な感情が沸々と湧き上がってくる。

 

「その、パトリック様・・・・・・ううん、パトリック」

 

この場合、様はいらないだろう。

当のパトリックは何か言いたげな表情を浮かべていたが、構わないでおこう。

 

「さっきの立ち合い、凄かったよ。リィンを剣で圧倒する生徒が一回生にいるなんて、思ってもいなかった」

「な、何?」

「今度は私とも試合ってほしいかな。できれば剣だけで」

 

正直な感想だ。

あれ程の剣の腕は、一朝一夕で身に付くものではない。

長年の時を経て練り上げられた剣なのだろう。

英才教育とは聞こえはいいが、鍛錬の積み重ねであることに変わりはない。

同じ剣を握る1人の人間として、彼のような存在は嬉しい限りだ。

 

「フン、身の程を弁えたらどうだ。まぁどうしてもと懇願するなら―――」

「でも貴族のあなたは嫌い」

「は?」

「男性としてはもっと嫌いだよ。大っ嫌い。二度と私達に関わらないでね、パトリック『様』」

 

吐き捨てるように言った後、私は彼らに背中を向けた。

 

______________________________________

 

立っているのがやっとのリィンに代わって、エマが特別実習の内容が記された紙を配り始める。

ケルディックにセントアークとくれば、もう帝国内のどこが実習地に選ばれても驚きはしない。

 

「あれは結構心に刺さったはずだよね」

「しばらく立ち直れないんじゃないかしら」

「大方じゃじゃ馬娘の友人にでも影響されたのだろう」

「ぶっちゃけドSだね」

 

皆が口々に先程のことについて言及する。

・・・・・・全部丸ぎ声なのだが。隠そうとする気すらないのだろうか。

それにユーシスはともかくとして、フィー。それは絶対に誤解だ。

 

「それで、大丈夫なのか。貴族に無礼は厳禁だと言ったのはアヤだろう」

 

ガイウスが心配そうな色を浮かべながら聞いてくる。

 

「よく言うよ。殴りかかろうとしてたくせに」

「そ、そんな気はなかったが」

「ふーん・・・・・・まぁ、多分大丈夫だと思うよ」

 

家名と権力を行使すれば、私の居場所を奪うことは容易いだろう。四大名門の力は絶対だ。

とはいえ、パトリックもこれ以上自分を貶めるような言動はしないはずだ。

 

今し方見せたパトリックの言動と振る舞いは、彼の強さであり弱さでもある。

表面上の姿にすぎないのかもしれないが、いずれにせよ今の彼とは顔を合わせたくないもない。

リィンの、ガイウスのあんな表情は―――もう二度と見たくない。

 

「ほらほら君達。さっさと実習の内容を確認しなさい」

 

手を叩きながら催促するサラ教官。

まぁ、今はあれこれ言っても仕方がない。

教官が言うように、今週末の特別実習に気を向けるべきなのだろう。

 

「えーと・・・・・・え?」

 

私は今回A班。リィン、アリサ、エマ、ユーシス、ガイウス。

私を含め、6人編成のようだ。人数に偏りがある気がするが、考えがあってのことなのだろうか。

いや、それより―――

 

「古くより遊牧民が住む高地として有名な場所だな」

「あ、それって確か・・・・・・」

「―――ガイウスと、アヤの故郷だよな?」

「ああ。A班には高原にある俺達の実家に泊まってもらう。よろしくな、みんな」

 

―――どうやら、見間違いではなさそうだ。

 

「えええ!!?」

 

私の悲鳴のような声がグラウンドに鳴り響く。

何だか最近、叫んでばかりのような気がする。


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