アホばっかのバカ達へ~アホメンパラダイス~   作:黒やん

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第51問

「け・い・じ~!!」

 

「よっ、と」

 

玲さんが日本に帰ってきてしまった翌日。久しぶりに襲撃のない朝を迎え、のびのびと支度をしてからいつもより早めに寮を出ると、やはりと言うか何と言うか……優子に追い付かれてしまった。

後ろから飛び付くように跳ねた優子を、少し姿勢を低くして背負い投げの要領で投げ飛ばす。だが、優子は合気道で鍛えた運動能力を無駄に発揮し、一回転して地面に着地した。

 

「一緒に学校いこっ!」

 

「……わかったから引っ付くな。何月だと思ってやがんだお前は」

 

「すんすん……なるほど。これが佳史の汗の匂い……」

 

「一辺死んでこいこの残念な変態が」

 

「ふぎゅっ!?」

 

腕にはりついてくる優子(へんたい)に脳天チョップをプレゼントする。割と強めにやったにもかかわらず恍惚とした表情を浮かべているあたり、もうこの幼馴染みは駄目かもしれない。

 

「で、秀吉はいないのか?」

 

「朝練がないみたいで、珍しくのんびりしてたわよ? 一緒に行くか聞いたけど断られたし」

 

「そうなのか? 秀吉にしては確かに珍し……」

 

それを視界に入れた瞬間、俺は思わず思考をフリーズさせてしまった。そんな俺の様子を見てその方向に目を向けた優子も同じように固まった。

その時俺たちが見たもの。それは……

 

「うおおぉ!? し、翔子! やめろ! 頼むからズボンを返せ! そして大人しくしてくれ!?」

 

「……ダメ。トランクス」

 

「マジで正気に戻ってくれ!! 俺は真っ当な人生を歩みたいんだぁぁぁぁぁ!!」

 

何故かトランクス一丁という文月以外なら確実にわいせつ罪で捕まっているであろう奇抜なファッションの雄二と、片手に雄二のズボンを手にした、ハイライトの消えた目で雄二を追いかける霧島のコンビだった。

 

「……何があったんだあいつらは?」

 

「いや、アタシに聞かれても」

 

とりあえず、普通に学校へ向かう俺たちだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……いや、どういう状況?」

 

学校に着き、自分の座布団を枕にして寝ていたのたが、突然の大声が聞こえてつい起きてしまった。

すると、何故か瑞希と美波(あの後ちゃんと謝ってきた。どうやら俺のいない間の試召戦争で何かあったらしい)に泣き付かれ、雄二が明久に怒りの表情で詰め寄っており、康太が涙目の女子二人を激写していた。いや、マジで何があったんだよ。状況を把握出来ないんだが。

 

「秀吉」

 

「ワシが教室に着く

明久爆弾発言

阿鼻叫喚←今ここ、じゃ」

 

「把握。やはり明久のせいか」

 

「佳史!? 君いつにもまして酷いんじゃないかな!?」

 

何か裏切られたような顔をこちらに向ける明久だが、ヤツに同情の余地はない。何で昨日もっと早く玲さん襲来を知らせてくれなかったんだよ。判決・有罪(ギルティ)

え? 逆恨み? サテ、ナンノコトヤラ。

 

「ふぇぇぇ、佳史くん、明久くんがぁ……」

「ウチは、ウチは……」

 

「ああ、はいはいよしよし。とりあえず季節考えような? 暑いし何かやたらと制服が湿ってきてるから。早く泣き止め。話はそれからだ」

 

「「はい……ズビーッ」」

 

「誰が人の体操服で鼻をかめと言った」

 

混乱していた女子二人を落ち着かせようとしたが、見事にそれが裏目に出た。横に転がしていた体操服がもう何かドロドロである。……どうするよコレ。今日体育ないけどさ。

 

「……さて、明久(バカ)。お前は朝からどんなわいせつ発言をしやがったんだ?」

 

「決め付けすぎじゃない!? それと今明久って書いてバカって読みやがったなこの野郎!」

 

「うるせぇ明久(バカ)明久(バカ)明久(バカ)らしく一生懸命明久(バカ)やって明久(バカ)なりに明久(バカ)の中の明久(バカ)を目指しとけこの明久(バカ)

 

「どうしよう秀吉。僕ここまで心を折られそうになったの初めてだよ……」

 

「さめざめと泣かれると困るのじゃが……」

 

久しぶりに全力で罵倒すると、どうやら明久のメンタルにクリーンヒットしたらしい。ざまぁ。

秀吉に泣きつく明久を放っておき、自分のちゃぶ台で不機嫌そうに頬杖をつく雄二に目を向ける。

 

「雄二」

 

「こいつを見てみろ」

 

そう言って放り投げられた携帯をキャッチし、開く。そこに写っていたメールの内容は酷いものだった。

 

 

【Message from 吉井明久】

 

雄二の家に泊めてくれないかな? 今夜はちょっと……帰りたくないんだ……

 

 

あかん。これはあかん。

 

「明久……お前……」

 

「へ? どうしてそんなに呆れてるの? 僕何かした?」

 

どうやら驚くべきことに明久はあのメールが持つ意味を全くわかっていないらしい。鈍感の極みというべきか、純粋だと褒めるべきか。全くわからない。

だが、明久の気持ちはわからないでもないのだ。何と言ってもあの玲さんとの二人暮らし状態なのだから。そりゃ逃げたくもなる。もし俺が明久と同じ状況になれば全力で逃げ出しているだろうしなぁ……。簀巻きにして物置に南京錠で閉じ込めなければおちおち風呂にも入れないだろうし。

 

「……明久」

 

「何?」

 

「もういっそのことバラしたらいいんじゃないか?」

 

「嫌だよ!」

 

予想通りに即答してくれやがったが、もう遅い。

 

「バラすとは……何をじゃ?」

 

「……気になる」

 

「佳史? アタシに隠し事はダメよ?」

 

秀吉と康太が今の発言に食いついてくる。ついでに何か変態も着いてきたが、それは放置で。

……って

 

「優子? 何でお前がここにいる?」

 

「佳史に会いに来る以外にこの教室に価値はないわ」

 

バッサリと斬り捨てる優子。おいおい、須川達がガチ泣きしてるぞ……。

 

「まぁ、それも一つなんだけど、本命は代表のお守りよ」

 

「霧島の? 」

 

「代表、坂本くんのことになると周りが見えなくなるし、たまに教室に戻ってこない時もあるからね」

 

「なるほどな……」

 

一瞬そんなわけないだろうとか思ってしまったが、光の無い目で淡々と雄二のトランクスを狙っている霧島を見たらもう何も言えない。

 

「つーか女子が男子のトランクス狙うとか前代未聞だろ。雄二も欲しいならやれば……」

 

「お兄様の肌着をもらえると聞いて!」

 

「甘いですね先輩! アタシはとっくに唯ちゃん経由で持ってますよ!」

 

「なん……ですって……!?」

 

「前言撤回だ。変態は教室に帰れ」

 

突如現れた先輩(へんたい)と、度しがたい優子(へんたい)は蹴り飛ばしてお帰り願った。

 

 

結局、この騒ぎは鉄人が教室に入って来るまで続いたのだった。


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