アホばっかのバカ達へ~アホメンパラダイス~   作:黒やん

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第45問

「……なんか、微妙な空気になったが……戦争にんなもん関係ねぇ! Fクラス、出陣()るぞ!」

 

『『おおっ!!』』

 

AM9:00。約二名のせいで若干微妙な空気になったが、雄二の一喝で気合いを入れ直してクラスのメンバー達は走り出す。

その一方で雄二、佳史、優子、将、ムッツリーニと言った主要メンバーの半数程はまだ教室内に残っていた。

 

「……通信電波も良好。盗聴機もトランシーバーも問題ない」

 

「ナイスだムッツリーニ。で、佳史。お前にトランシーバーの片割れを渡しておくから、タイミングは知らせてくれよ?」

 

「わかってる。将、康太死なせんなよ? 万が一壊れた時は康太がいないと困るからな」

 

「お前自分で直せんだろーが」

 

「有料だ」

 

「「お前ほんとブレねーな」」

 

躊躇いなく料金を請求するあたりいい性格をしている。

そして佳史は唯一静かにしている優子を一瞥すると、わざとらしく溜め息を吐いた。

 

「……で? なんで俺はコイツ連れていかないといけないんだ? 俺はいつも通り単独行動だったはずだろうが」

 

「何かあった時の為だ。お前に抜けられたらあの人のモチベーションが死ぬだろ?」

 

真っ赤な嘘である。正直雄二は佳史が戦死するなどとは微塵も考えていない。元々容赦が無いのに加えて今は半ギレモードでイライラしているのだ。むしろ相手側の方が心配である。主にドS的な意味で。

ちなみに、優子は雄二のフォローに対して佳史に見えないように綺麗なサムズアップをしていたりする。

佳史は嫌そうな顔を隠さないものの、納得はしたのか渋々引き下がる。

 

「……チッ。さっさと行くぞ木下」

 

「え、ちょっ、待ってよ!」

 

そんなこんなで、佳史と優子は慌ただしく教室を去っていくのだった。

 

「全く、素直じゃねぇな」

 

「「お前が言うな」」

 

「喧嘩なら買うぞ? おぉ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「こ、これは酷い……」

 

「ウチ達、来る必要あったの……?」

 

一方最前線。渡り廊下の制圧戦では、明久と美波が戦慄していた。その理由はこちらである。

 

 

数学

Fクラス 姫路瑞希 VS Bクラス 山下明美 他3名

462点 VS 平均146点

 

物理

Aクラス 佐藤美穂 VS Bクラス 金山昭宏 他2名

398点 VS 平均129点

 

酷いイジメである。明久のような特殊な場合を除いて、基本的にはテストの点数がそのままその人物の強さとなるのだ。

しかし、佐藤に対してならばまだチームでの集団戦をとって戦うことは出来る。現に今佐藤はそれなりに苦戦しているし、Fクラス数名のフォローも受けて戦っている。が、瑞希にはフォローすら必要ない。

 

「えと……えいっ!」

 

「うわぁっ!?」

「きゃあっ!?」

 

『くそっ、仲山がやられた!』

 

『Fクラスの女子は化け物か!? 戦争でも物理でも!』

 

近づけばその手に持つ巨大な剣で一閃。近づかなくても腕輪の能力である熱線で凪ぎ払われる。数学のフィールドはBクラスが文系が多いことも相まって正に瑞希無双と化していた。

 

「く、くそ! 社会や国語の先生はまだか!?」

 

「もう少しだ! もう少しで来る! だから耐えろ!」

 

Bクラスの中で互いに励まし合う声が聞こえるが、もはや時すでに遅し。Bクラスの数学フィールドに入ったメンバーは程なく瑞希に全員討ち取られるのだった。

 

 

 

「………本当に、僕ら何しに来たんだろうね」

 

「……あんまり考えないようにするわ。それより佳史の作戦通りに動くわよ!」

 

「あ、うん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「走れ! どうやら姫路さんが出たらしい!」

 

「くっそ……根本の野郎自分だけ安全なように周りを固めるから人が足りねぇ……」

 

新校舎三階、三年生のABCクラスの教室の前をBクラスの数名が駆ける。

その数は3人。その3人は前回の戦いを考えて自分の周りを固めた根本がしびれを切らして派遣した虎の子の雄二暗殺隊だったりする。

 

そんな任務を無理やり押し付けられるだけあって、この3人はBクラスの中でかなり上位の成績保有者だ。おそらく今の雄二なら2対1に持ち込めばまず間違いなく勝てるだろう。

 

「あら、廊下は走ってはいけませんよ?」

 

「え……? ってあなたは!?」

 

そんな急いでFクラスの本陣へ向かう中、突然前の教室の扉が開き、涼やかな声に引き止められる。そして、その人物を見た3人は思わず足を止めてしまった。

 

「初めまして、小暮葵と申しますわ」

 

「あ、は、はい!」

 

「よく存じ上げています! 小暮センパイ!」

 

扉から優雅な足取りで出てきたのは小暮葵だった。普段女子とあまり接点のない3人は突然の年上の綺麗なお姉さんの登場に、そして向こうから話しかけてくれたという事実に鼻の下を伸ばしてしまっていた。本当に単純である。

 

「ふふ、そんなに急いでどうなされたのですか?」

 

「い、いやぁ! 僕達試召戦争の真っ最中でして!」

 

「相手の、ああ! Fクラスの本陣へ向かう最中だったんですよ! な!?」

 

「おう! 僕達成績がBクラスでもトップクラスなんで!」

 

任務そっちのけで憧れのセンパイに猛アピールする。しかも表面上は仲が良いような会話をしているが、実は目で「引っ込んでろ! 小暮センパイは俺に話しかけてくれたんだよ!」「はっ! 妄想は大概にしとけよ。俺に話しかけてくれたに決まってんだろ」「まぁまぁ、醜い争いは止めろ。センパイは俺に話しかけてくれたんだ」と全力で牽制しあっているのだ。

……もう一度言おう。こいつら、実に単純である。

 

「そうでしたか」

 

「ええ! そうなんです!」

 

「では……先生、お願いしますわ」

 

「「「……え?」」」

 

泣く泣く小暮の前を通り抜けようとした瞬間、何故か張られる召喚フィールド。そして次の瞬間にはいつの間にか召喚されていた小暮の召喚獣に咄嗟に召喚してしまった3人の召喚獣が凪ぎ払われてしまう。

 

『………え?』

 

「ふふ、すみません。お兄様からこの廊下を通すな、と厳命されていましたので」

 

「戦死者は補修ゥゥゥゥゥゥ!!」

 

「て、鉄人!? ぎゃああああ!!……」

 

「いやだぁ! 補修はイヤだぁぁぁぁ!!……」

 

鉄人に連行される3人の目に映ったのは、「ああ、お兄様のご褒美って何なのでしょうか……。やっぱり定番の『俺色に染めてやるよ』とか『俺の物にしてやる』とか……。いえ、『お前は今日から俺のペットだ』とかも素敵ですわね……。ああ! 夢が広がります!」と言いながらクネクネと悶えている憧れ(だった)先輩(へんたい)の残念な姿だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「三階の閉鎖?」

 

「ああ。小暮センパイに三階をBクラスに通らせないように命じてある。恐らくは突破されない筈だ。根本が自分の周りを固めるのを止めて全員を攻撃に回せば話は変わるだろうが、まぁまずありえないな」

 

三階を守る戦力が無いのを聞いた優子の疑問に対する佳史の答えが上の会話だ。

現在、一階をゆっくりと歩いている佳史達だが、敵もいなく割と暇だったために優子が今の各階の状況を聞いたのだろう。

 

「でも、センパイに参加してもらうってルール違反なんじゃないの?」

 

「俺は『他学年に協力を求めてはいけない』なんて言った覚えはない。ついでに言えばこのための『味方にするのはクラス単位でなくてもいい』ってルールだ」

 

そう、二年生ではFクラスに味方する者は恐らくいなかった。だから他学年に協力を求めただけなのだ。遠交近攻を地でやったまでの話だ。佳史にとっては、の話だが。

 

そんな話をしていると、突然召喚フィールドが張られ、佳史達が召喚した瞬間に掃除用具入れの中から男子生徒が佳史に向かって斬りかかる。だが、佳史はまるで予想していたかのようにその男子生徒の召喚獣を斬り捨てる。

そのタイミングで、今度はその後ろに隠れていたのか、もう一人の男子生徒が刀を振り切って硬直している佳史の召喚獣に槍を向ける。だが、そんな中でも佳史は一切慌てた素振りを見せない。男子生徒が不審に思ったのも束の間、佳史のすぐ脇から突撃槍が突き出され、男子生徒の召喚獣を貫いた。

 

「戦死者は補修ゥゥゥゥゥゥ!!」

 

「くっそぉぉぉぉぉ!!」

「誰だ雜賀と木下が痴話喧嘩してるってデマ流したバカはぁぁぁぁぁ!!」

 

「……と、言うわけでルール的には全く問題ない。わかったか?」

 

「あ、うん。今のはスルーするのね……」

 

仲が良いのか悪いのか。イマイチよくわからない二人であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ところで、小暮センパイを釣ったご褒美って何するつもりなの?」

 

「ん? 適当に罵倒してやったら満足するだろ。あの先輩(へんたい)なら」

 

「そんなバカな……」

 

優子は知らない。小暮葵が残念な先輩(へんたい)だということを。












小暮センパイ……どうしてこうなったんだ……?

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