アホばっかのバカ達へ~アホメンパラダイス~   作:黒やん

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テスト終わったー!!


第41問

「……優子が、ごめんなさい」

 

「あはは、頑張ったけど止めきれなかったよー」

 

いつもの無表情で謝る翔子に、朗らかに笑いながらも申し訳なさそうにする工藤。

あの後すぐに翔子達Aクラスの女子勢がやって来て、即座に木下姉を鎮圧した。……ものすごい慣れた手つきだった。まさか日常的にやってんじゃねぇだろうな?

 

「つまり、Aクラスは別にFクラスに敵意があるわけじゃない、って認識でいいのか?」

 

「……うん」

 

翔子の言葉を聞きながら、俺は後ろに目を向ける。

 

『離しなさい! Fクラスのバカを殲滅して佳史を手に入れなきゃいけないのよ!』

 

『木下さん落ち着いて!?』

『ちょ、強っ!? 皆、早くロープ持って来てロープ! もしくは雑賀くん抱き枕!』

 

「……とか言ってるが?」

 

「「……本当にごめんなさい」」

 

もしかしたらAクラスで一番過激派なのって木下姉じゃなかろうか。

 

「……でも、優子の目的はわかりきっている」

 

「佳史との仲直り、だな」

 

「その佳史くんは……アレだけどね」

 

そう、佳史は今この教室にいない。Aクラスの女子勢が来た瞬間に「胸くそ悪い」と言ってどこかへ行ってしまった。……すっかり元通り(・・・)になっちまったな。

 

「……まぁ、あのバカは今は仕方ねぇ。多分木下姉でしかどうにもできん」

 

佳史は他人に頼りきる奴は大っ嫌いだからな。木下姉本人が何とかしないとどうしようもない。

 

「秀吉、佳史は?」

 

「うむ、屋上に行くと言っておった。ついでに明久もFFF団から逃げるために着いていったぞい」

 

あのバカは……。確かに佳史に着いていっとけば安心だろうが。

まぁ、明久が着いていったなら大丈夫だろ。

 

「……一大事」

 

俺がそんな風に考えていると、突然ムッツリーニが現れた。Aクラスの二人はやたらと驚いてるが、今は放っておこう。

 

「どうしたムッツリーニ?」

 

「DクラスとBクラスが戦争の準備を始めている」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

屋上で、佳史はフェンスに背を預けながら座って空を見上げていた。

何を考えているのかは本人しかわからないだろうが、眉間にシワを寄せていることから楽しい事ではないということは見てとれる。

そんな佳史が立ち上がると、それとほとんど同時に屋上の扉が開いた。

 

「た、ただいま……」

 

「明久」

 

そこから出てきたのは明久だった。何故かかなり疲れてはいたが、顔には満足感がありありと見てとれる。

 

「上手くいったのか?」

 

「清水さんが相手で上手くいく男子なんていると思う? これでもかっ! ってくらいにボロクソに言われたよ」

 

「だろうな」

 

「そんな他人事みたいに!?」

 

「他人事だからな」

 

「ひどい! 言いたいこと言って来いって言ったのは佳史じゃないか!」

 

鼻で笑う佳史に対して、必死にツッコミを入れる明久。その明久も若干笑っていることから、明久自身もただの掛け合いだということがわかっているのだろう。経験的に。

 

さて、話の内容からわかる通り、佳史は屋上に行く前に明久にある指示を出していた。

その内容は簡単、『今のうちに清水に言いたいこと言って来い』というものである。佳史に会わなければ恐らく何も言えなかったであろう明久ではあるが、今の明久はこれが正しいと思ったことは、自分の意見は割とハッキリ言える。でなければ佳史の友達なんてやってられなかっただろう。

まぁ、それでも言うことを促されないと滅多に言わない限り、ヘタレ具合は変わっていないのだが。

そして明久は佳史の言う通り、わざわざDクラスに出向いて清水に言いたいことを言いに行ったのだ。

『僕のことは別にいい。慣れてるし、僕が気付かなかっただけで何かやっちゃってたのかもしれないから。でも、佳史や雄二は違う。僕と違って頭いいから、絶対に何も考えてないなんてことはない。だから、あの二人にやったことだけは、しっかり謝ってあげて欲しい。それと、君が迷惑かけた女子たちにも』

この言葉を聞いた清水は当然激怒した。男に頭を下げるなど、清水の中ではあってはならないことだから。何か考えている? ありえない。ありえる筈がない。そんな下らない連中に頭を下げるなど、清水美春の歴史にあっていい筈がない。それが、清水の下した決断だった。

それ故に、清水は明久に罵詈雑言の嵐を浴びせた後、すぐにDクラスから叩き出した。

だが、それを見ていたクラスメイト達はどうだろうか。傍目から見れば、話し合いに来た相手を一方的に貶し、勝手に見下し、追い出したようにしか見えない。更に、明久の話の内容である。明久はバカということで学園中で知られているが、同時に嘘が吐けないことで有名でもある。その明久が言った『佳史と雄二に謝ってほしい』という言葉。たとえ嘘を吐いたとしてもすぐにバレる明久が言ったこと故に、本心でないとは思えない。その言葉から引き出される内容は……『清水が何かを明久、雄二、佳史にして、その結果が覗きであった』ということ。

加えて、『女子たちにも』。これから清水が何かを女子にもしていたということが伺える。今の女子勢がパッと思い付くのはただ一つ……初日に見つかった監視カメラ。

もし、あれが明久達の仕業でなく清水の仕業だったのなら? もし、冤罪の腹いせとして覗き騒ぎを起こしたのであれば? あの時明久達が集まっていたのが清水のことの相談だったのなら?

もし、ここにいたのが雄二なら、まずそんなことは考えなかっただろう。まず頭によぎるのが謀略という二文字なのだから。もし、ここにいたのが佳史であっても同様だ。

しかし、事実ここにいるのは明久なのだ。一年の時に同じクラスであった者や同じ寮の者は明久が滅多に女子に強く出ないことも知っている。であれば、清水への疑念は更に強くなる。

男子が覗きという犯罪行為をしたのは事実であり、その主犯のFクラスを攻めるのに反対はない。だが、清水への疑念は晴らすことはできない。

Dクラス女子に、内部分裂の兆しを作る。佳史の目論みは見事に成ったのだった。

 

「けど、何だったの? 僕本当に言いたいこと言ってきただけだよ?」

 

「いいんだよ、それで。それが目的なんだからな」

 

佳史の言葉に首を傾げる明久。佳史はやれやれとでもいう風に肩をすくめる。

 

「明久、お前単に戦うならBクラスとDクラス、どっちが楽だ?」

 

「そりゃあDクラスだよ」

 

「つまりそういうことだ」

 

「?」

 

尚も首を傾げる明久を見て、佳史はその後ろに目を向ける。

 

「ま、後でわかる。それより、早くミーティングやっとこうか」

 

佳史の視線の先には、秀吉がこちらに駆け寄ってくる姿が写っていた。

 

戦争は、もう始まっている。








活動報告にも書きましたが、今月は最低でももう一話投稿します

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