アホばっかのバカ達へ~アホメンパラダイス~   作:黒やん

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ギリギリR15だと信じています(笑)















第39問

「ーーふぅ……」

 

合宿最終日の夕方。俺は雄二の頼み通りにテストを受け直した後、頭をリラックスさせるためにロビーでソファーに座ってくつろいでいた。

覗き騒ぎに備えるためか、教師はおろか女子、男子も全く見当たらない。……これだけを見れば雄二はいい仕事したよな。

 

「……? お、雑賀じゃないか」

 

「須川?」

 

まだ覗き決行の時間まではしばらくあったので目を閉じて休もうとしたのだが、その直前に紙コップを持った須川に声を掛けられた。

 

「どうしたんだ? こんなところで」

 

「それは俺のセリフだ。お前ら覗きのために部屋から出ないように雄二に言われてなかったか?」

 

「まぁ、それはそうなんだが……」

 

雄二は前に食堂で奇襲されたのを警戒し、全男子に決行まで部屋から出ないように言い渡していた。瑞希や秀吉の写真のこともあって欲望がブーストされたバカ共なら忠実に従うもんだと思ってたんだが……

 

「今日で合宿も終わりだし、覗きの前にちょっとみんなと騒ぎたくてな。飲み物持ってトランプとかで遊んでたんだ」

 

どこか申し訳なさそうに頭を掻く須川。コイツはコイツで女さえ関わらなければそう悪い奴じゃない。ただ女がらみだと性根の腐ったゲス野郎に変化するが。

プラスしていざ自分が女子と話すとテンパるし。

 

「お、そうだ! 一本余ったし雑賀にもわけてやるよ!」

 

「いいのか?」

 

「ああ。本当は覗きが終わってからこっそり飲もうと思ってたんだけどな」

 

そう言って須川は缶ジュースを二つの紙コップにわけ始める。まぁ貰えるもんはありがたく貰っておくが。

 

「ほら」

 

「悪いな」

 

「そう思うなら覗きで頑張ってくれ」

 

そんなことを言いながら乾杯し、一気にその中身を煽る。

その直後、俺の目の前が真っ暗になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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~PM8:12~

 

廊下をゆっくりと、だけれどもどこかおぼつかない感じで歩く。

その人影は佳史であるとはっきりわかるのだが、雰囲気は少し前までのクールな雰囲気ではなく、ホストのような無意識に異性を魅了する甘いオーラに変わっていた。

 

「くっ……退きなさい君達!」

 

「絶対通さねぇ!」

「ここを耐えれば理想郷(アガルタ)が待ってんだ!」

「いつやるの? 今でしょ!!」

 

そして佳史の歩みの先には数学の長谷川先生を足止めするE・Fクラスがいた。

しかし、佳史は変わらない足取りでフラフラとその戦場に近づいて行く。それに気付いたEクラスの男子の一人が佳史に声を掛けた。

 

「雑賀! もう坂本たちは先に行ったぞ! お前も早く先に向かってくれ!」

 

「ん~? りょ~かいりょ~かい! んじゃお前らもしっかりな~」

 

「おう! 任せろ! 」

 

「ま、まさか雑賀くんまで覗きに参加するなんて……!」

「こんなことなら私もお風呂に……いやでもその場合他の男子にも……」

 

『『『早く行け雑賀ァァァァァァ!! 俺達の理性が嫉妬を抑えている間にィィィィィ!!』』』

 

「んだよ~……あいあい、さっさと行きやすよ~っと……」

 

『『『月のない夜には気をつけることだなァァァァァァ!!』』』

 

そんな色々と騒がしい中、佳史はフラフラと下へ向かう階段を下って行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「くっ、男子の力がここまで上がってるなんて……」

 

「そいつぁ当然ってもんよ!!」

「女子風呂の覗きは男子の永遠の夢!」

「それができるってぇならたとえ火の中水の中ってぇもんだい!!」

 

そして、その下の階では当然のように化学の布施先生とC・Dクラスの男子の戦いが繰り広げられていた。

 

「あっ! 佳史!」

 

「ん~……おいっすジミー! 元気に戦ってんな~!」

 

「……?」

 

フラフラしている佳史に違和感を感じながらも話しかけたのは黒崎一心(ジミー)だった。佳史の態度が気になったジミーだったが、今はそんなことを話している場合ではないと頭を切り替える。

 

「思ったより向こうの布陣が硬い! このままじゃ最悪突破されるぞ!」

 

「おお~」

 

「指揮官の玉野さえどうにかなればいいんだが……何か策はないか?」

 

ジミーの言葉に、しばらく頭をコテッと傾げていた佳史だったが、んー、と軽く伸びをすると、何故か屈伸を始める。

 

「け、佳史?」

 

「その玉野ちゃんがどうにかなればいーんだろー?」

 

「まぁその通りだが……って玉野ちゃん!?」

 

「行ってき~」

 

「おい佳史!?」

 

流石に色々とおかしな佳史を引き止めようとしたジミーだが、そんな暇もなく佳史はスルスルと敵陣に入り込んで行く。周りの人もあまりに堂々と進んでくる佳史に面食らって動けなかったようで、幸い勝負を挑むものはいなかった。そして……

 

「やあやあ、頑張ってんね~」

 

「お、お兄さま!?」

 

特に何の障害もなく、佳史は指揮官の玉野のところに辿り着く。玉野も普段は決して自分からは近づいて来ない佳史に驚いているようだ。

 

「まぁ、色々あるみたいだけど~、俺がめんどいから省くよ~。とりあえず……玉野ちゃん、いや、玉野」

 

「は、はい?」

 

玉野を見つめて、じっと動かない佳史。そしてそんな佳史にほのかに顔を赤らめながら上目遣いで見つめ返す玉野。ラブロマンスのようなピンク色のオーラが漂う場所をそこにいた先生を含む全員が戦闘をやめ、固唾を呑んで見守る。

そんな雰囲気の中、佳史はゆっくりと少し上気した表情の玉野の頭に手を乗せて……

 

「ーー伏せ」

 

「むきゅ!?」

 

そのまま地面に押し込んだ。予期していなかったからか、玉野は綺麗に頭を地面に付けられ、あたかも犬の伏せのような体勢になった。

そして佳史は満足そうに一つ頷くと、起きたもののその場にへたりこんでいる玉野の顎に手を添える。

 

「え、ちょ……え?」

 

「ククク……可愛い反応だな、美紀」

 

「$§%§¢′£*¢££%☆☆!?」

 

今自分がどういう状態なのかに気付いた玉野は、あらゆる意味でテンパっていた。そんな玉野の耳元に佳史は自身の顔を近付けると……

 

「美紀……俺の犬になれ。そうしたら俺がお前を飼ってやる」

 

『『『何言ってんのお前!!?』』』

 

全員総ツッコミである。そりゃそうだろう、どこからどう聞いてもただのド変態発言なのだから。

しかし、言われた本人はそんなこと一切気にしてないようにあうあう言って処理落ちしている玉野に囁き続ける。

 

「さぁ、美紀。全てを俺に捧げてごらん?」

 

「あう……で、でも……」

 

流石に人としてのプライドは捨てられないのか、玉野が珍しく攻められてタジタジである。

 

「俺はお前の考えを聞いている訳じゃないんだぞ?」

 

「で、でも……ひゃん!?」

 

「おいおい……返事の仕方が違うだろう? 犬がでもとか言うのか?」

 

「う……わ、ワン……」

 

「いい子だ」

 

顔を真っ赤にしてか細い声で答えた玉野に、計算通りとでも言うようにニヤリと悪どい笑みを浮かべて玉野を撫でる佳史。

 

「じゃあ美紀、俺が良いと言うまでここで待て」

 

「わ、ワン」

 

(ちょうきょう)完了。そう言わんばかりの満面の笑みで、佳史は凍り付く面々をスルーして下に向かうのだった。

……律儀にへたりこんだまま動かない玉野を残して。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「佳史! お前今まで何してたんだ!?」

 

「気にすんな!」

 

「ったく、まぁいい。早く久保達に加勢してくれ! 流石に久保にも高橋女史の相手はキツイみたいだ。幸い教科も古典だしな」

 

最下層、女子風呂に続く広間に辿り着いた佳史は、早速雄二に捕まっていた。

この時点では雄二も佳史の異変に気付いていなかったのか、いつものように話している。

 

「……さて、今日は何人が犬に変わるかねぇ」

「誰だ佳史に焼酎飲ましたバカはァァァァァァ!!」

 

が、それも佳史の不穏な呟きによって一瞬で手のひらが返された。

そんな雄二の叫びに驚いたのか、全員が雄二と佳史の方を見る。

 

「オイ女子! それと女性教師とついでに秀吉! さっさと逃げろ! 手遅れになる前に!」

 

『『……………え?』』

 

「よぉ、木下姉。こんなところで何を?」

 

「え……佳史……」

 

「クク……俺に名前で呼ばれないのがそんなにショックか?」

 

雄二が必死に叫ぶが、時既に遅し。目敏く優子を見つけた佳史は早くも玉野にしたように優子を苛め始めていた……女子風呂に続く廊下の真ん前で。

 

「……雄二、アレ何?」

 

あまりに雄二が必死だったので、その指示に従って広間の端に男子ごと全員が避難する。そして全員の疑問を代弁するように霧島が雄二に佳史のことを問いかけた。

 

「……佳史は日本酒全般ダメなの知ってんだろ? 正確にはアイツはダメなんじゃなくて極端に弱くなるんだよ。んで酒の種類ごとに酔い方が変わる。普通の日本酒ならキス魔、梅酒なら笑い上戸、んで濁り酒なら爆睡って感じだな。見たところアイツは焼酎……チューハイ飲んだんだろ」

 

「……焼酎は、何酔い?」

 

「……あー」

 

当然と言えば当然の霧島の質問だが、雄二は言葉を詰まらせる。

 

「……焼酎は、なぁ」

 

「……何?」

 

「……調教酔い?」

 

空気が、凍った。

 

 

 

 

 

そして、佳史が酒が回ったのかぶっ倒れた直後、佳史がいたためにあっさり女子を抜けた男子達(佳史と霧島に捕まっていた雄二、秀吉を除く)の悲鳴が響き渡った。

 

 

 

『処分通知

 

文月学園第二学年全男子生徒総勢149名

 

上記の者たち全員を一週間の停学処分とする』

 

 

ついムラッとしてやった。今は心の底から後悔している。

~とある生徒の反省文より抜粋~

 

 

危うく開けてはいけない扉を開けそうになった。今は人でいられたことが、佳史の妻になる資格を失わないでいたことが嬉しくて仕方がない。

……あ、名前読んでくれてない……

~女子生徒Y,Kさんの呟き~

 

 

ワン

~とある生徒の言葉~


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