ハイスクールD×D 精霊と龍神と   作:きよい

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3話

 紅蓮の炎の中から現れた、紅い髪の少女。

「……スカーレット、なのか? ハハッ、こいつは参ったね」

 小柄でしなやかな細身の体。

 透けるように白い肌を、炎のドレスが覆っている。

 そして、炎よりなおも紅い、紅蓮の髪の隙間からは、猫のような三角形の耳が覗いていた。

「マスター、いまこの状況。私はどうするべきでしょう?」

 マスター……。なるほど、どうやらスカーレットもマスター呼びか。エストと一緒だな。

「逃げれるなら逃げろ。あいつにはまだ敵わない……。イッセーたちにそう伝えておいてくれ」

 これでスカーレットは助かるはずだ。

 ここで逃げなければもう機会は多分無い。スカーレットだけでも逃がす。

「マスターを連れて逃げればいいんですね?」

「は……? い、いや違う! そうじゃなくておまえだけ逃げろって意味で――」

「ふざけすぎだ、獣よ」

 遅かった――。ダワーエはもう、スカーレットに視線を合わせている。

「さてさて、獣よ。おまえは中々に美しい。標本にでもして飾ってやろう」

 闇色の矢が放たれる。

 あいつの力、全部闇絡みなのか! 

 いや、それよりスカーレットは……。

「――遅いですよ」

 スカーレットの手の平から火球が生み出される。

 火球は音を立てずに矢へと迫り、簡単に消し去った。

「私に抵抗するなら、もう少し強くあるべきです」 

「ほお……。まさか消されるとは思わなかった。いい勉強になったところで、消えてくれ」

 ダワーエが手を上げる。だが、

「遅いと言ったはずです」

 火球がひとつ、瞬時にダワーエの下まで移動し、次の瞬間。凄まじい炸裂音を轟かせ、炎の火柱が上がる。

「これはこれは」

 燃え盛る中、ダワーエの声が届く。

「面白いと言いたいところだが、温い!」

 腕を振るうと同時に火柱が消え去る。なんて野郎だ……。

「だいじょうぶです、マスター。この程度は想定内ですから」

「そいつは頼もしいな」

 まあ、俺は体動かないからできることとかほとんど無いわけで。この場においてはスカーレットが頼みの綱ってところか。

「とわ言っても、私では倒せそうにありませんので、ここは一度退きます。マスターを連れて」

「……。……わかった。頼むよ」

 痛む体だが、ここで弱音を吐く気はさらさらない。仲間が一人でも居る限り、意識を手放すことはできないんだ!

「こわいものだ。まだその眼に光を灯すか。とうに消えかけの光を、無様にも繋ぎとめるとは」

「うるせえな。それに、ダメージだけならアンラ・マンユの方がよほど痛かったね……。手前なんぞ、次に会ったときは消してやるさ」

「次、か。すまないな、次が来るまで待ってはやれなさそうだ」

 スカーレットが俺の体を抱え上げる。

「行きますよ、マスター」

「逃がすか! 全てを染め上げるモノよ――」

 なにをするかわからんが、させるか! 

 手元から黒い魔弾を撃ち出す。

 その一撃は、ダワーエの顔面に迫り、

「当たらんよ」

 簡単に避けられる。でもな。

「それでいいんだ。当てるのなんて、次でいい」

 夜の闇に輝く、真紅の三日月。

 笑みを浮かべるスカーレット。

 憎憎しげに顔を歪めるダワーエ。

 そして――。

「焔よ、世界に紅き夜を――<紅蓮の裁断>」

 荒れ狂う劫火がダワーエを呑み込んだ。

 

 

 

 

「派手にやったもんだな」

「おかげで逃げられたじゃないですか」

「まあな」

 すでに戦闘の起きた場所からはだいぶ遠ざかった。いまはイッセーたちがいるであろう方角に移動してもらっている状態だ。

 ダワーエがどうなったかは大体の予想がついている。スカーレットの一撃が当たる瞬間、消え去るのがかすかに見えた。逃げられたってことでいいだろう。

 追撃が無かったのはありがたいが、なんだったんだ? いや、いいか。もう眠くて眠くて……。

「悪いスカーレット。処置はみんなにお願いしてくれ。少し、寝る……」

「はいマスター。ですが、急ぎますから寝ていられる時間は少しの間だけですよ」

「ああ……」

 優しい笑顔を見ながら、俺の意識はここで途絶えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

<イッセーSide>

 悪神ロキの襲撃をヴァーリの参戦により退けた俺たちは、安堵の表情を浮かべていた。

「ったく、こんなときにカイトはなにをやってやがる」

 アザゼル先生だ。

「あいつの足なら家からでもここまではすぐに来れるはずなんだがな」

 それもそうだ。カイトなら、すぐにでもここまで来れただろう。

「なにかあったのかしら?」

 そう聞くのは部長だ。

「わからないな。いや、少し待て。ああ、俺だ。なに? それは本当か? わかった」

 突然きた連絡に出る先生。部下の堕天使からだろう。

「近くで火柱があがったことと、なんでもばかみたいな質量の魔力が感知されたらしい。それと、近くにあった川の水が蒸発したとか……」

 俺たち全員に聞こえるように話す先生だが、すでに何を言いたいのかは決まっているのだろう。

「多分、カイトだ。火柱が敵側の仕業か知らないが、見てくる必要がありそうだ」

 そう結論づけた。

 カイトがここまで来れなかった理由は、ロキ以外の敵と交戦したってことか? でも、カイトなら大抵の敵は簡単に倒せるはずだ。それが連絡を入れても中々来れないってことは強い敵なのか? くそ、わからないことだらけだ。

「とにかく、おまえらはじいさんを連れて帰れ。俺が見に行く」

「待て!」 

 先生が指示を出し、飛んでいこうとした矢先、頭上から声がかかる。

「ティアマット!?」

 なんでこんなところに? いや、それより背中にイヅナとイリヤちゃん、クロエちゃんを乗せている。なんだなんだ? 

「どうかしたのか? ずいぶん焦ってるみたいだけど」

「どうもこうもあるか! 急いで来てくれ!」

「なんの話だよ! 頼むから俺たちにもわかるように説明してくれ」

 みんな混乱するだろ!

「説明している時間があるか! カイトが、殺される……」

 は? カイトが、殺される? 

「ど、どういうことだ!?」

「襲撃に遭ったのよ……。異様だったわ。あらゆる光がすべて消えていく様を見せられたら、どうしようもないわ」

 クロエちゃんが語る。

「カイトさん、一人で残って、私たちをすぐに避難させて……」

「カイト、また一人で無茶するはず。急がないと、本当に危ない」

 イリヤちゃんとイヅナが続く。

「相手は誰だ?」

 先生が冷静に聞く。

「大魔ダワーエ。そう名乗っていた」

 ティアマットの答えに、先生は舌打ちをした。

「厄介な相手が出てきたな。大魔ダワーエと言えば、アンラ・マンユに仕えるっていう悪神じゃねえか」

 悪神!? ろ、ロキと同じですか! そ、そんな奴を相手にしてるのか? 俺たちが全員でかかっても危なかったのに!

「言っておくがなイッセー。ダワーエはロキより強い。というか、性質が悪いとでも言えばいいか。とにかくロキと同じと思うな」

「な、なんで俺が思ったことわかったんすか?」

「顔に書いてあっただけだ」

 そ、そうですか。

「って、だったら急いでカイトを助けに行かないと! こうしてる間にも戦っているんでしょう?」

「行っておまえたちが相手になるとは思えない。俺とバラキエルだけで行こう。ティアマット、案内してくれ。と言っても、大体場所に検討はついてるが。一人でも多く戦える戦力が欲しい」

「無論だ。赤龍帝……はある意味危険か。リアス・グレモリー。イヅナたちを頼む」

「わかったわ。カイトをお願い」

 部長が連れて行かれない悔しさに耐えながらティアマットの頼みを了承していた。俺が危険って、なにがだよ!

「じゃあ行くか。ったく、どうしてこう面倒ごとが続くかねぇ」

「待ってください! マスターなら私が連れてきています!」

 先生が今度こそ飛び立とうとしたが、またも介入され呼び止められる。今度はなんだ! 

「か、カイト……!?」

 ティアマットの声。

 紅い女の子が、カイトを抱えている。だ、誰だ?

「ふむ、そういうことか。カイトが解放したのだな」

 一人納得するティアマット。

「誰か、マスターを治癒してください! このままでは本当に死んでしまいます! 体内を蝕んでいる闇を消し去ってください。仙術の使える方や、光を扱える者は協力してください!」

 俺たちの下まで来た紅い女の子は、そう大声を上げる。

 イヅナ、イリヤちゃん、クロエちゃんがその女の子に近づいていく。

「仙術なら私が」

 小猫ちゃんが駆け寄る。

「光なら俺がどうにかしよう」

 アザゼル先生もそれに続き。

「お願いします。これでマスターもどうにか助かるかと」

 事態についていけない俺ですが、どうやらカイトは助かりそうだ。

 何が起きたのか、あの紅い女の子に聞く必要がありそうだ。

 

 


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