ハイスクールD×D 精霊と龍神と   作:きよい

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2話

 朱乃さんと小猫はグレモリー眷属として、オーディンのじいさんの護衛に当たっている。確かイリナもそっちに居るはずだ。

 俺はそちらには着かず、別働隊として待機している。ようするに保険だ。一度に何箇所かで問題が起きた際に対処するためのな。

 だから、俺に連絡が来るのは、どこかに向かえという内容だと思っていたんだ。

「そっちに駆けつけろって、どういうことだよ」

 アザゼルからの連絡は、そうではなかった。

「緊急事態だ。ロキ――悪神ロキが襲撃してきやがった! いグレモリー眷属全員で相手をしているが、どうにも差があり過ぎて話にならねぇ。いまから俺も参戦するが、出来る限り速くおまえも来てくれ」

 悪神……。アンラ・マンユと繋がってないだけマシか。

「俺も相手になるかわからんぞ……。だが、急いで行くとしよう」

「頼むぞ。一人でも多く戦力が欲しいところだからな」

 切羽詰ってる感じか。アザゼル側から激しい攻防を繰り広げているであろう音が聞こえる。

「わかった。みんなを頼んだぞ」

 連絡を終える。

「聞いての通りだ、ティアマット。イヅナとイリヤ、クロを頼む。もしものときがあるとは思えないが――」

「いや、そもそもだ。我々がついて行くのはマズイのか?」

 ティアマットの問いだ。

「相手は悪神ロキだぞ? 正直、おまえたちに相手をさせたくない。ロキってことはフェンリルを飼っている可能性が高いからな。あれは神殺しとしてだけの存在じゃなく、普通に強い。ティアマットでも結構相手にするのは辛いと思うぞ。っと、急がないとな。悪いがもう行くぞ!」

「待て! 私たちも行く」

「いや、だから……」

「傷つかれて嫌なのが、おまえだけだと思うな」

 ……。

「全員、来る気か?」

 それに応えるように、首を縦に振る四人。

「……俺が逃げろって言ったら逃げろよ。特にイヅナとイリヤとクロ。おまえらは絶対だ。わかったら行くぞ。急がないと本当に危ない状況なんだ」

「ニャー」

 扉を開け、全員が揃うころになって、スカーレットが俺の肩に乗ってくる。

 なるほど。本当に家に居る奴総出って感じだな。

「いいぜ。ついてきな、スカーレット。さあ、急ぐぞ!」

 俺が駆け出すと、その後ろをみんながついてくる。

 

 

 だが、先頭の俺の足取りが完全に止まるのと同時に、その眼前を横一閃。闇色の光が切り裂いた。

「なるほど。なかなか勘のいい」

 頭上から声が聞こえる。

 いまの奇襲はこいつの仕業か。

「わざわざ俺たちの邪魔をしてくるってことは、ロキの手先かなにかか?」

「ロキ? ああ、悪神ロキか。私をあんなまがいものと一緒にしないでくれよ。今宵ここにいたのはただの偶然さ。そして、キミたちを見かけたのも偶然。力のある者だから攻撃しただけのこと」

 まがいもの……。

「なるほど、あんたも悪神ってことか?」

「ああ。まあそうなるかな。と言った手前、悪神と呼ばれてはいないがね。皆私のことは大魔と呼ぶ」

 ――大魔、だと……。俺はそう呼ばれる存在を一人しか知らない。

 そいつが名乗りを上げる前から、俺にはわかってしまった。

「さあ、いづれ消え行く者たちよ。今宵の出会いに感謝したまえ。そして、我が名をとくと心に刻み付けるよいい!」

 アンラ・マンユに仕える悪神。大魔と呼ばれる存在が居た。自らが悪神であるにも関わらず邪神に従う稀有な神。

「我が名は――大魔ダワーエ!」

 そう。眼前にいる相手は、俺が先日名を上げたばかりの悪神だった。

 こうも早々会うことになるとは。能力を知らないだけじゃない。こいつの戦闘に関する情報はひとつとして持っていない。

「俺たちになんの用だ」

「いやなに。少し試してやろうとな。我が主が欲する相手というのがいかほどの者か、興味がある」

 そういうことかよ……ッ! 全然偶然なんかじゃないぞ、これは。狙ってたってことだよな。

「あれ、強いの? 髪型がなんかツンツン尖っててダサいし」

 クロがそんなことを言う。

 確かにダワーエの髪型はツンツン頭だ。上に尖ってやがる。けど、こうもバッサリダサいと言うとは。

「ち、小さいお嬢さん……。ダサいとはいささか口が過ぎるな」

 ど、動揺してる?

「あの人、あんまり強くないんじゃないの?」

 その様子を見てか、イリヤが疑問を浮かべる。

「い、言ってくれるな……。いいだろう、そこまで言われては黙っておれんッ!」

 途端、変化は訪れる。

 街頭が点滅を繰り返し始める。いや、街頭だけじゃない。町全体の光が、同じように点滅している……? 

 そして、点滅を終えた光が消えていく。

 異様だ。その光景は、あまりにも。

「イヅナ、イリヤ、クロ。いますぐここを離れろ。それでもって、イッセーたちの所に向かえ。異常な光景に、向こうの戦闘も中断されるかもされない。もしそうあってくれたなら、急いでこっちに援軍を送ってくれるように頼んでくれ。今回ばかりは、相手が悪い。ロキなんかが可愛く見えるだろうよ。ティアマット。悪いが三人を送ってやってくれないか?」

「しかし……」

「頼む」

「……。……わかった。だが、無茶は――」

「わかってるさ。けど、できるだけ速く戻ってきてくれ。残念だが、いまのでわかった。だから、急いでくれ」

 それっきり言葉を交わすことはなく、ティアマットは半ば強引に騒ぐ三人を連れて行った。

「あ……」

 四人が去ってから気づいた。

 肩にはいまだスカーレットが乗っかったままだ。

「悪いな。おまえをここに残しちまったか。仕方ない。後ろに下がって隠れてろ。いいな?」

「ニャー」

 なんと言ったのかわからないが、俺の指示はわかったみたいだ。スカーレットは肩から降り、物陰へと身を潜めていった。

「なんだ、残ったのは貴様一人か?」

 つまらなそうにダワーエが言う。

「悪いな。あんたがあまりに風変わりな手品を見せてくれるもんだから」

「手品? ああ、光を喰ったまでだ。あまり気にすることはあるまい。さあ、話ばかりではあまりに退屈だ。今しがた私は貴様に力を見せたであろう? 次は貴様が私に見せてみろ。余興程度になればいい。それが終わったら、本番に入ろうではないか」

 俺の一撃をくらってから勝負にしようというわけか? 舐められたものだ!

「いいだろう。一太刀、その身で受けろ!」

 ったく、周りに民家がなくて幸いだった。ここでなら、思いっきりやれる。

 右手に<魔王殺しの聖剣>、左手に<真実を貫く剣>を握る。

「絶剣技、破ノ型――烈華螺旋剣舞、十五連!」

 縦横無尽の斬撃がダワーエを襲う。

 この一撃で終わらせてやる!

「なかなかに綺麗だ。白銀と闇のデュエット。だが――」

 その剣先がダワーエに届こうというところで、それは起きた。超神速の斬撃は斬るべき相手に届くことはなく――。

「――それではあまりに脆すぎる」

 いとも容易く、両手に握る剣は砕け散った。

「なっ……」

「おっと、これは失礼した。折れそうだったからつい手が出た」

 こいつ。いままで避けられたり、封印されたりしたことはあったが。まさか折られるとはな。

 一度折られると回復するまでに時間がかかる。どうがんばってもいまここでもう一度使うことはできないだろう。

「さて、余興は終わりだ。剣は折ってしまったがまだ戦う手は残っていよう。お相手願おうか」

「……クソッたれが。いいぜ。光の中に消えちまいな! 『光輝』!」

 右腕に光を纏う。

 今日は一段と輝きが強い。

「なんだ、それは?」

「おまえを消し去る光だ。かつて邪神に対抗した光。人々の希望が、願いが集まって創りあげられた」

「そうか。人々の希望か。フハハハハッ! それは面白い! いいぞ、いい趣向だ!」

 なにが面白いのだろうか。顔を歪め笑い出す。

「さあ、闘争を始めよう!」

 俺の光と対を成すかのような黒く禍々しい光がダワーエの右手を包み込んだ。

 あれがあいつの力? なんだろうと関係ないか。

「消し飛ばす! それだけのことだ!」

 同時に駆け出す。距離はすぐに詰まり、必滅の輝きを乗せた拳が互いを捉えた。

「ぐっ……あああああああっ!!」

「フハハハハハハハッ!!」

 どういう、ことだ? 

 俺の光が、次第に弱まっていく!?

「どうした、その程度か?」

「クソッ! なんで……」

「そうか。では、終わりだ」

 濃度が増した禍々しい闇の光が『光輝』の光を呑み込み、俺を貫いた。

「がっ……」

 地面に崩れ落ちる。

「一体、どうなってやがる?」

「不思議か。簡単なことだろう。幾人もの希望より、一人のエゴの方が強いのは当然のことだ。貴様の光なぞが敵うはずもない」

「ふざけるなっ!」

 出力は落ちるが、もう一度光を纏い殴りかかる。

「諦めの悪いことだなぁ!」

 が、その拳が届くこともなく弾かれる。

「まだだっ!」

「無駄だ。貴様の光が俺に届くことはもう二度とない」

「なに!?」

「貴様は終わりだ」

 二度目の拳を放った瞬間、闇色の光線が俺の希望を消し去った。

 光線は俺の体を貫くことはなく弾き飛ばすだけだったが、それだけではなかった。

「あぐっ……がああああっ!!」

「苦しかろう苦しかろう。絶望の闇がいまおまえの体を蝕んでいる。気分はどうかな?」

「最悪に、決まってんだろ……」

「いい顔だ。苦しみに耐える顔はいつ見てもいい。さて、これで貴様の希望は費えた。人の心から希望がなくなったとき、二度と光が蘇ることはない。消え去ったも同じだ」

 こうも簡単に負けるだと……。しかも、いまも俺の体は闇に蝕まれている、か……。いよいよもってマズイな。

「なぜこんな者に我が主は興味を示すやら。理解できないものだ。まあいい。それもここで終わり。フフッ、主には申し訳ないが、消えてもらうとしようか」

 どうする? どうすればいい? なにをすればこいつを倒せる? 

「はやいお別れだった。まあいい。さらばだ」

 漆黒の闇を携えた剣の切っ先が向けられる。

 やるなら、ここか! 

「うおお――」

「おっと」

 ザシュッ!

「ぐあああっ」

「いけないな。せっかく殺してあげようとしているのに、抵抗するつもりか? つい右腕を刺してしまった」

「この、野郎がぁ……」

 右腕に突き刺さったままの剣が抜かれる。

 その際にも体の内部を激しく痛めつける。

「つぅ……」

「まったく。もう動く気力もないだろう。いやなに、絶望の闇というのは中々に強力でな。そう簡単に動くこともできないはずなんだ。本来なら石造になってもおかしくない」

 闇。また闇か……。

 ふざけやがって! 毎回毎回闇なんぞに! 

「ほう、まだ立つか。大したものだ。だが、もう飽きた」

 鈍い音がした。

 同時に、体から完全に力が抜けていく。

 遅れて理解した。ダワーエの持つ剣が、俺の胸を貫いていた。

 今度こそ終わったか……。

「追撃はやめておこう。あとは消え去る時間の中、絶望しながら朽ちてゆけ」

 去っていくダワーエ。

 脅威が去ったせいか、側にスカーレットが近寄ってくる。

「ニャー?」

「悪いな。もしティアマットが間に合ったら、また遊んでやるよ」

 激戦ってわけでもなかった。ただ呆気なく、負けた。それほどにまで、力の差があったのだろうか。わからない。

「悪いな、スカーレット。いや、おまえには、他の名前があったな。考えてみれば、一度も呼んだこと、無かったな。<灼銀の戦姫>――オルトリンデ」

 刹那、紅蓮の炎がスカーレットの身を呑み込んだ。

「なんだ?」

 その光景に、ダワーエも反応を示す。

 そして――。

「マスター。こうも傷つくとは、予想外でした。でも、私の名前を呼んでくれたことは感謝します」

 荒れ狂う炎の中から、一人の少女が姿を現した。

 




さあ、やっとあの子の登場? ですよ。

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