ハイスクールD×D 精霊と龍神と   作:きよい

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放課後のラグナロク
1話


 休日、昼間だというのにイッセーたちから連絡が入った。

 ガブリエルさんはミカエルさんに呼ばれて天界に戻っている時期にだ。イッセーの話によると、なんでも突然の来客があって、わりと重要な人だという。

 グレモリー眷属全員に話があるから朱乃さんと小猫も連れて来いとのことだった。

「で、来てみれば……」

 兵藤家。最上階に設けられたVIPルーム。そこにはいま来た俺たち三人を除いたグレモリー眷属と、アザゼル。それともう一人堕天使がいるな。

「それで、なんでオーディンのじいさんが来てるんだ?」

 最後に椅子に腰を下ろした神さまに視線を向ける。

「日本の神々と話をつけにの。なに、おまえさんを勧誘しにきたわけじゃない」

 神さま直々に勧誘とかされて断れる人間がいるかっての。性質の悪い。

「俺に害がないなら問題ないさ」

 むしろ害がありそうなのは俺の後ろに居る人だ。この部屋に入った瞬間に機嫌が悪くなった。

「朱乃さん? どうかしましたか?」

「……なんでもないですわ」

 話かけてみるも、反応はこれだけ。明らかにいつもと違う。

 原因は――アザゼルの隣に立つ堕天使だろう。さっきからそちらにだけ視線を向けないからな。

 『女王』が動かないせいか、部長がオーディンのじいさんに対応していた。

「どうぞ、お茶です」

「かまわんでいいぞい。しかし、相変わらずデカいのぅ。そっちもデカいのぅ」

 朱乃さんを背後に隠す。

 このジジイ……。女の胸をこうも不躾に眺めるか。しかも小猫を見てため息を吐くとは……ッ!

 あとで消してやろうかしら。

「もう! オーディンさまったら、いやらしい目線を送っちゃダメです! こちらは魔王ルシファーさまの妹君なのですよ!」

 いつぞやのヴァルキリーの人がじいさんの頭をハリセンで叩いた。いいぞもっとやれ。

「まったく、堅いのぉ。サーゼクスの妹といえばべっぴんさんでグラマーじゃからな、そりゃ、わしだって乳ぐらいまた見たくもなるわい。と、こやつはわしのお付きのヴァルキリー。名は――」

「ロスヴァイセと申します。日本にいる間、お世話になります。以後、お見知りおきを」

 前回会ったときのような鎧姿ではなく、パンツスーツを着込んでいる。

 俺らとそうも年は変わらないだろうにじいさんのお付きか。やっぱ腕もいいんだろうな。

「彼氏いない歴=年齢の生娘ヴァルキリーじゃ」

 じいさんの追加情報。それに反応して、ロスヴァイセさんは酷く狼狽しだした。

「そ、そ、それは関係ないじゃないですかぁぁぁぁっ! わ、私だって、好きでいままで彼氏ができなかったわけじゃないんですからね! 好きで処女なわけじゃなぁぁぁぁいっ! それにいまは気になる人だって……ハッ! な、なんでもないんですぅぅぅぅっ!」

 あーあ……。また崩れ落ちたよ。恋愛ネタには弱いな。

 っていうか気になる人がいるならさっさと彼氏にしろっての。そうすればこんな酷い有様を見ることもないだろう。

「まあ、戦乙女の業界も厳しいんじゃよ。器量よしでもなかなか芽吹かない者も多いからのぉ。最近では勇者や英雄の数も減ったもんでな、経費削減でヴァルキリー部署が縮小傾向での、こやつもわしのお付きになるまで職場の隅にいたんじゃよ」

 ヴァルキリーに部署とかあるのか。北の方はなかなかに社会的だな。

「爺さんが日本にいる間、俺たちで護衛することになっている。バラキエルは堕天使側のバックアップ要員だ」

「バラキエル?」

 アザゼルの説明途中に、俺が問いかける。

「あー……悪いな。カイトには紹介していなかった。こいつはバラキエルっつって、堕天使組織グレゴリの幹部の一人だ」

 そう説明をしてくれた。なるほど。

 そのさい、朱乃さんが俺の服の端を掴んでいたのだが、理由がわからない以上、なにもしてやれなかった。

「俺も最近忙しくて、ここにいられるのも限られているからな。その間、俺の代わりにバラキエルが見てくれるだろう」

「よろしく頼む」

 言葉少なにバラキエルがあいさつをくれた。

「そんで、カイト。いつもで悪いが、おまえも護衛に参加してくれるか?」

「当然。そんなことを心配するなよ、アザゼル」

「頼むぜ。もしものときはこいつらを助けてやってくれ」

 イッセーたちを指差す。

「はいよ。それで、護衛って言うからには、なにか明確な敵でもいるのか?」 

「我が国の内情で少々厄介なもんにわしのやり方を批難されておってな。そいつと戦う可能性があることだけは覚えておいてほしい。まあ、今回はならんじゃろうて。そのために予定を早めて来たでのぉ。日本の神々といくつか話しをしておきたいんじゃよ。いままで閉鎖的にやっとって交流すらなかったからのぉ」

 厄介なもん、か。俺も厄介というかふざけた野郎に狙われてるからな。わからんでもない。

 厄介といえば、アンラ・マンユは最近動きを見せないな。なにか事を起こす準備をしてないといいが。そもそもあいつの勢力は少数でも一人一人が強い。

 ――大魔ダワーエ。アンラ・マンユに仕える者たちを束ねる者。絶対悪であるアンラ・マンユに従う悪神。悪神であるにも関わらず邪神に従う稀有な神。

 普通神が神には仕えないだろ。相手をしたことは無いし、能力も知らないが、いづれは消す相手だ。

 出会えば容赦しない。

 

 と、そうこう考えている間にオーディンのじいさんとロスヴァイセさん、アザゼルが部屋を出て行った。じいさんがおっぱいパブとか言ってたので、関わるのは留まった。護衛対象がどっか行くのは問題なのだが、誰が関わろうとするか!

 

 

 

 その後残された俺たちだが、もうこの部屋にいる必要はないだろう。

「帰るか」

「そうしましょう。はやく、帰りたい……」

 朱乃さんが急かしてくる。珍しいな。

「待ってくれ。朱乃、おまえと話したいのだ」

 部屋を出る前に、バラキエルに呼び止められる。

 はて、朱乃さんの知り合いであろうことはわかっていたが、誰だっけ?

「気安く名前を呼ばないで」

 はいバッサリ。朱乃さんが相手も見ないでそう言いきった。

「すいません、そういうわけなんで。どういう関係か知らないけど、俺ら帰るわ」

「関係、か……。教えよう。私は姫島朱乃の父親だ」

 ほう。父親ねぇ。例の朱乃さんが嫌いな堕天使か。

「それはそれは。じゃあ俺ら帰りますわ」

 朱乃さんと小猫の背中を押し、強引に外に押し出す。イッセーたちも視線で誘導し、同じように部屋の外に出て行ってもらう。

「すいません朱乃さん。ちょっと先に帰っていてください。小猫、朱乃さんのことを頼む。しっかり見てろよ」

「わかりました、先輩」

「か、カイト?」

「心配するなイッセー。だいじょうぶだって。なにも起きないさ」

 そうして会話を終え、部屋に俺とバラキエルだけを残し、扉を閉じた。

「なんの真似だ?」

「いや、あんたと話そうと思ってさ。大方、話はアザゼルから聞いてるんだろ? 例えばほら、いまどこに住んでるのかとか」

 あ、少し眉間にしわが……。

「そういうことか。確かに話は聞いている。いま現在、魔王聖女の家に世話になっているとな」

 魔王聖女流行らせるなし。あとで魔王少女に苦情を入れなくては。

「聖女と聞いてから、女だと思い込んでいた。ついでに、聖女なんぞと暮らして悪影響がないかと心配もしていた! そしたらなんだ! 男ではないか! しかも朱乃も満更じゃないだと!? おのれアザゼル! 俺をからかって楽しんでいたな!」

 途中から話が変わってきてるぞ。

 そうか、アザゼルは俺のことを女だと思わせていたのか。ま、まあ確かに女になることはできましたよ。不本意ですが……。

「悪かったな、男でよ。でもその件なら俺じゃなくてアザゼルを恨みな。それと、満更ってのはよく意味がわからないけど、まあスマン。やっぱよくわかんねぇや。あと悪影響は多分ないと思うぜ。聖女とか呼ばれてるけど、無自覚に周囲に影響を与えるようなモノは無い。俺が思うに、楽しく暮らせてると思うぜ」

「……」

 だんまりですか。そうですか。

「今日はもう帰る。朱乃さんと話したいことがあるなら、しっかり話せよ。――ある程度なら協力してやるよ。家族っては大事だからな。でも。でももしあんたがバカな行動を起こそうものなら消す。じゃあな」

 みんなが出て行って数分後。俺も部屋から出る。最後に残されたのはバラキエルただ一人。

 後姿しか見えなかったが、その背中は、とても寂しく見えた。

 


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