ハイスクールD×D 精霊と龍神と   作:きよい

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14話

 ぱーん! ぱーん! 

 空砲の音が空に鳴り響き、プログラムを告げる放送案内がグラウンドにこだまする。

「なんで、こんな姿……」

 普段見てるだけの女子生徒用の体操服。

 見渡せばいつも通り女子生徒が体操服を着ている。同じクラスのアーシアも例外ではない。

 そして――。

「よく似合ってますね」

 アーシアがそう感想を言った。

「体操服の予備があってよかったです。長袖しか無かったんですけど、暑くないですか?」

「うん、暑くないよ……」

 むしろ通気性ばっちりというか。

 アーシアがとうとう言葉にする。

「女の子用でも、少し大きいですね」

 女の子用――女子生徒用という意味だろう。そう、いま私が着ているのは、普段では決してありえない女子生徒用の体操服なのだ。

 しかも、アーシアより身長が低くなったせいか体操服のサイズが大きい。穿いてる短パンが服で見え隠れするくらいには大きい。

 下、穿いてないと思われないだろうな……。

「かわいいですよ、カイトさん」

「かわいいって言われても全然うれしくない」

「せっかく女の子になったんですから、いまだけでも女の子の気分でいた方が得じゃないですか?」

 損得じゃないと思うんだ、こういうのって。

「女の子になるって、面倒なだけだと思うんだけど」

「そうですか? 私はカイトさんが女の子になってくれて、距離が縮まった気がするからうれしいですけど」

 そういう考え方もあるのか。仕方ない、アーシアのために、現状に納得するしかないか。

「わかった。今日だけは楽しむよ。――アーシアと一緒に」

「カイトさん! はい、楽しみましょう!」

 うれしさいっぱい、という感じに抱きついてくる。

「そういえば、カイトさんはなんの種目に出るんですか?」

 聞かれて思い出そうとしても、答えが出てこない。はて、そもそも種目を決めたときの記憶がないな。

「お困りのようだね」

 後ろからの声。

 振り返ると、やはり居た。メガネのクラス女子――桐生だ。

「桐生さん、カイトさんの出る種目を知ってるんですか?」

「当然でしょ。当のカイトさんは寝てて覚えてないでしょうから教えてあげるわ!」

 うんごめん。寝てたんだね。道理で記憶がないはずだよ。

「種目はクラス対抗リレーと、あとは……障害物競走ね。がんばって」

「ありがとうございます、桐生さん」

「……ありがと」

「はいはい。どういたしまして」

 手を振りながら去っていく桐生。教えてくれるのは有難いが、去り際に「下もしっかり穿きなさいよ」と言っていくのはどうしたものか。

 もう穿いてるんだけどなー……。体操服のサイズが全ての現況である。

「それじゃあ私たちも行きましょうか」

「そうだね。部長たちも待ってるだろうし」

 待機場所はなぜか部活ごとに区切られているので、全校生徒が所属する部活動の待機場所に向かっていく。クラスごとに並べろよ教師。

 オカ研は――ああ、数ある部活動が並ぶ中、真ん中に待機場所が設置されていた。なんであんな人目のつく場所に……。

 グラウンドの横に部活動ごとに待機スペースが作られているのだが、丁度グラウンドを見渡せる真ん中の位置がオカ研の待機場所になっていたのだ。

 はあ……隅っこがよかったのに。

 理由は簡単。この姿がアホみたいに注目を浴びるからだ。男女問わずに。

 いまも、待機場所に向かう途中だが、男子生徒からの不躾な視線が不愉快すぎる!

 いまならよくわかる。見てくる大半の生徒がエロい視線を送ってくるのだ。どうせ、いやらしい妄想をしているに違いない。気持ち悪い……。

「カイトさん、調子が悪そうですよ?」

「だいじょうぶだよ。ただ普段女子がどんな気持ちで男子に見られているかわかっちゃっただけだから」

 みなさん大変ですね。

「あら、カイト。体操服もまたよく似合って――ちょっと、下も穿いてきなさい!」

 待機場所に着いてすぐ、部長が大声を上げる。

 またか!

「部長、よく見てください! もう穿いてます!」

 体操服をまくり上げ、下を見せる。

 部長からはきっと短パンが見えていることだろう。

「……驚いたわ。服が大きかっただけなのね」

「はい……」

 はやく男に戻りたい。なにこの不自由な感じ……。楽しむとか無理ですよ。

「カイト、オカルト研究部の名にかけて、負けないようにね」

「はい部長。正直いまなら誰が相手でも消せそうです」

「消してはダメよ?」

「もちろんです」

「いいわ。さあ、クラス対抗の体育祭でもあるけど、部活動としても負けられないわよ! 全員オカルト研究部の一員であることを忘れずに行動しなさい。最後に、ソーナたちと当たるときは本気で勝ちにいきなさい。さあ、いきましょうか」

『はい、部長!』

 ……なんでクラス対抗の運動会なのにここまで部活動の中で熱くなるのだろう?

 いや、この場は勢いで流してしまおう。

 そういえば、この場にはまだイッセーがいない。『覇龍』の影響で寝込んでしまったあいつは、いまもベッドの上だろう。

 来れればいけど。

 

 

「カイトー! そのまま行きなさい!」

「カイトちゃん、いいですわよ!」

「カイトせんぱーい、後ろが追い上げてきてますぅ!」

「先輩、ファイトです」

 部長、朱乃さん、ギャスパー、小猫が声援をくれる。

 いまはクラス対抗リレーの真っ最中。クラスメイトはなにを思ったか、私をアンカーに登録していた。まったく、寝てるからって最後に回すなんて酷いことをする。

 最終走者の中には匙もいたけど、部長に言われた通り勝つ気で走っている。

 アンカーはグラウンド一周である200メートル走るのだが、匙とはもう半周以上の差がついた。

 そしてそのままゴールを迎えた。

「よし。これでとりあえずはいいかな」

 と、こんな一面もあれば、障害物競走はネットが絡まったり、紐が食い込んできたり。まあトップでしたけどね。ちなみに、盗撮していた元浜と松田は埋めておいた。多分今日一日の出番はもう無いだろう。これで女子のみんなは安心して楽しめるというわけだ。

 

 お昼休憩では、本当に見に来ていたガブリエルさん、ティアマット、イヅナ、イリヤ、クロも交えての昼食になった。

「それじゃあ私たちの出た種目は全部録画していたんですか?」

「はいー。皆さんが後で鑑賞できるように全部ありますよ」

 部長とガブリエルさんの会話。どうやら今度鑑賞することになりそうだ。

「イリヤちゃんとクロちゃんはいつごろまで居られるんですか?」

「んー……。どうしようか?」

「決めてなかったんだね、クロ。でも本当にどうしよう?」

 疑問符を浮かべて話てるのはアーシア、イリヤ、クロ。本当にキミたちはいつまで居るんだろうね。

 他にもみんながワイワイと騒いでいる。が、

「さて、とりあえずカイトにはみんなを代表して話ておくことがあるわ」

 部長の一言に会話が途切れた。

 オカ研の全員が真面目な顔になり、私に視線を向ける。

「な、なんですか?」

 わけがわからない。

「今回、あなたとイッセー……いえ、私たちの仲に亀裂が入りかけたことに対して、本当に申し訳ないと思ってるわ。ごめんなさい。本当は、あなたに頼りっぱなしだったから、私たちが強くなるまで休んでいてもらおうと思っていただけなのよ。敵の主力と戦うのはいつもあなただったし、傷つくのもそう。だから、少しでも休んで欲しかったの。でも、それは失敗だったわね。カイトには普通に部活に来てもらって、私たちと過ごしていた方がいいのかもしれない。私たちが変に気を回しすぎて、逆にあなたにいろいろ考えさせる結果になってたのね……」

「そういうことでしたか。まあ、なんとなく気づいてはいましたけど。でも、私が仲間の矢面に立つのは当然のことなんです。ずっとそうしてきた。仲間を守るために」

「でも、それじゃあカイトだけに負担が……」

 心配そうな顔をするオカ研のみんな。

「だいじょうぶですよ」

「だいじょうぶじゃないわ! だって――」

「いや、だいじょうぶですよ」

 部長の言葉を途中で途切れさせる。

「いまは、横に立って戦う仲間がいますから」

 それだけで、誰のことかわかったのだろう。全員がここに居ない一人のことを考えているに違いない。

「それに、これからは部長たちもそうなるんでしょ? だったらなにも問題ありませんよ」

「――そうね。それじゃあカイト。あらためて、また私たちオカルト研究部の一員として、明日から部活に来てくれるかしら」

 やっとだ。やっと、その言葉を聞けた。

 聞かれる前から、そんなことは決まっている。当たりまえだ。

「了解です。明日から復帰ですね」

 俺はこうして、オカ研に復帰することになった。

 しばらく続いていた、ぎこちない俺たちの距離感は、たぶんこれで元通りだ。

 

 

 

 午後。慌てて駆けつけてきたイッセーとアーシアの二人三脚が始まり、俺たち全員の声援を背負った二人は、笑顔でゴールテープを切った。

 ぎりぎりの状況で戻ってこれたイッセーはその後部長に促されるようにアーシアと共に体育館裏へと消えていった。そこでなにがあったのかは、二人だけの秘密だろう。帰ってきた二人の幸せそうな顔から、察しがつかないわけじゃないが。

 そうして、慌しく過ぎていく時間の中、体育祭は終わった。

 


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