ハイスクールD×D 精霊と龍神と   作:きよい

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12話

 俺の一撃と、同等……。

 押し切るつもりだった。全力ではないにしろ、イッセーと拳を交えた瞬間に吹き飛ばすつもりではいたんだ。

 ――立ってやがる。

 目の前にはイッセー。空間に擬似的に造られた空は俺とイッセーの一撃で裂けてしまった。

「これほどのものかよ」

「ぐぎゅががあ」

 相手はやる気十分。次からの攻防は、手を抜いたら危ないかもな。

 俺の中に眠る神器は――イヅナのときと同じ。扱えそうにない。ディオドラにかけられた鎖に封じられてないから使えるかとも思ったが、ダメだ。

 発動条件があるってことはわかってきたが、一体条件はなんなんだ?

 ビュッ!

「んっとお!?」

 イッセーが切りかかってくる。

 さきほどの戦いでシャルバの腕を落とした奴だな。

「このっ!」

 『光輝』で応戦するが、本体に届く前に魔力で払われてしまう。

 どうすっかなぁ。一撃もらえば身体のどこかが消える。避け続けるのは思ってたより辛い。

 取れる選択肢は――。

 と、そこで空に映像が映し出される。

 どうやらイリナが持ってきた装置が作動したらしい。どれ、なにが映ってるんだ? 

 イッセーと一度かなりの距離を取り、余裕を持って上空を見上げる。

 と、イッセーも釣られるように上を向いた。

 そこには、たくさんの子供と、サーゼクスさまとアザゼル、魔王少女ことセラフォルーさんの姿があった。

 え、なにこれ……。

 そして、いい大人の三人は衝撃的な言葉を発した。

『おっぱいドラゴン! はっじっまっるよー!』

 え、いまなんて言った? おっぱい、ドラゴン……? はい?

 部長たちの方を向く。

 あ、なんかポカンとしてる! 誰もこの状況に着いていけていない! 

『おっぱい!』

 サーゼクスさんたちに続いて子供たちが叫ぶ。

 ダンスを始めるいい大人三人と子供たち。軽快な音楽が流れ始める。

 宙に文字――タイトルと歌詞が表示された。

 それは、ある意味当然だったのかもしれない。三人が出ていたことから想像できたはずだ。だが、あまりのことに考えることを放棄していた俺たちにとって、それは驚愕の事実となった。

 ――お ま え ら な に や っ て ん の。

  

「おっぱいドラゴンの歌(仮)」

 

 作詞:アザ☆ゼル

 作曲:サーゼクス・ルシファー

 ダンス振り付け:セラフォルー・レヴィアたん

 

 そう、ダンスを踊っている三人が、首謀者だった。いや、マジなにやってんの!?

 というか曲名! 曲名おかしいだろ! 

 そうして俺は思い出す。いまこの場に、子供が二人居ることに――。

 歌詞が流れ出す。マズイ!

「祐斗ォォォォッ! いますぐイリヤとクロの目と耳を塞げェェェェッッ!!」

「だ、誰だいカイトくん!」

「イリナをつれてきた二人だ! 急げ! 朱乃さん、手伝ってあげて!! はやーく!」

 俺の叫び。慌てだす祐斗たち。

「な、なに? わたしたち平気だから」

「子供は見ない方がいい!」

「え、ちょ、なに……ブフッ」

「あらあら、ごめんなさいねぇ」

 何人かの声が聞こえてくる。

 そして――。

 曲が流れ始める。

 イリヤとクロはどうなったんだ……。もし聞いてしまっていたら、親になんて謝ろう。

 そんなことを考えながら見ると、

 グッ。

 祐斗が親指を立ててくる。おおっ! 

 イリヤとクロが居ると思われる場所が魔剣で覆われている。

「少し強引な方法を取ったけど、魔剣の中に入れておいたよ。これであの映像を見ることはない」

「聴力の方も、少しの間奪っておきましたわ。すぐに元に戻ると思いますが」

 よかった……。これで少女たちが教育面で悪い影響を及ぼすこともないだろう。

 ちなみに、曲の方は酷いものだった。

 おっぱいという単語が嫌というほど使われている。他にも「ちゅーちゅー ぱふんぱふん」など、聞くに堪えない。

 中でも強調されているのが、「ポチッと ポチッと ずむずむ いやーん」という部分だ。呆れて力が抜けていく。

 あ、『光輝』が消えた……。希望の光が自ら消えるとか、どんだけ酷いんだよ。こんな風に能力が使えなくなるのは初めてだ……。

 魔王も堕天使の総督も、酷いものだ。こんなものをつくっているだと。全員呆気に取られるわどうしたらいいか反応にも困ってるっつうの!

 そしてなによりこの作品の出来――これは酷い。

 ようやく曲が終わる。

「……うぅ、おっぱい……」

 反応、した……だと…………。

 イッセーが頭を抱えながら言語を発した。

「反応したわ!」

 部長が歓喜の涙を流す。

「……そんな、こんな歌に反応するなんて」

 小猫は絶句していた。

「紫藤さん、もう一度流してちょうだい!」

「はいな、任されて!」

 ポチッと再生ボタンが押される。ああ、せっかく終わったのに!

「うぅ、おっぱい……もみもみ、ちゅーちゅー……」

 イッセーが苦しみだした。

 俺たちは呆れるだけでも、イッセーには効果絶大の様子。

「……ず、ず、ずむずむ……いやーん……ポチッと」

 イッセーの指がなにかを求めて押す仕草をする。その指にはもう鋭い爪もない。

「うん、あれなら近寄れる!」

『Vanishing Dragon Balance Breaker!!!!!』

 ヴァーリは瞬時に禁手化し、白き鎧を身に着ける。光の翼を羽ばたかせイッセーに近づき、光速とも言える速度で詰め寄った。

『Divid!!

 鳴り響く白龍皇の音声。同時に、イッセーの力がだいぶ減少した。

 近寄ることも無理とされていたヴァーリだが、歌に影響されている一瞬をうまく生かしたな。

「いまよ、リアス! あなたの乳首が求められているわ!」

「ええっ!?」

 朱乃さんの言葉に驚く部長。しかし、当然こうなるのは作戦で決まっていたこと。いまさら改めて言われて動揺しただけだろう。

「よく見てリアス。イッセーくんの指を。あれはあなたの乳首を押したくて何度も押す仕草をしているのよ!」

「そ、そうよね……。そうなのよね。わかってるわ朱乃。最初からこうするしかなかったの。私が、イッセーを救うわ」

 はは、ひでえ会話だ……。

 イッセーのほうへ足を進める部長。その歩みに迷いはない。恋する乙女、ここまでなのか! 胸をさらけ出すこともいとわないだと!

 ここからでは見えないが、イッセーの前で胸を曝け出しているのだろう。なんということだ……。イッセー、部長を大事にしろよ。

「お、俺の……お、おっぱい……」

 イッセーは求めるものを発見し、震える指を部長の胸へ――。

 数瞬のうち、鎧が解除されたイッセーの姿が映った。

 どうやら、無事なようだ。

 全員を見渡す。疲れきっている者、呆れている者、笑い転げる者。様々な反応だが、そこに危険な雰囲気はない。どうやらこれで終わりのようだ。

 

 それからイッセーは目をさまし、アーシアが無事だったことに感激していた。もちろん俺のことも心配してくれていたようだった。アーシア程じゃ無かったがな。

「ふう……」

「あれー? カイト疲れきった表情してるね」

 ヴァーリか。

「当然だ。あんな歌を聞かされちゃあな」

「あはは、面白かったじゃん」

「どこがだよ……」

「魔王が踊ってるとこ」

「歌関係ないな」

「まあねぇ。それよりも、そろそろだよ」

 なにが、と続くまえに変化が起きた。

 何もないフィールドの空を見上げる。

 バチッ! バチッ!

 巨大な穴が開いていく。そして、そこから何かが姿を現した。

「まさか――」

「ふふん。あれが今回あたしが見たかったものだよ」

 俺とイッセー、両方に聞こえるようにヴァーリが言う。

 真紅のドラゴン。

「『赤い龍』と呼ばれるドラゴンは二種類いる。ひとつは宿敵くんに宿るウェールズの古のドラゴン――ウェルシュ・ドラゴン。赤龍帝ね。白龍皇もその伝承に出てくる同じ出自のもの。けど、もう一体だけ『赤い龍』がいる。それが『黙示録』に記されし、赤いドラゴンだよ」

 口元をゆるくにやけさせるヴァーリ。

「『真なる赤龍真帝』グレートレッド。『真龍』と称される偉大なるドラゴン。自ら次元の狭間に住み、永遠にそこを飛び続けているの。今回、あれを確認するためにここまで来たんだよ。確かオーフィスも確認のために来てるよ。シャルバたちの作戦はどうでもよくて、あたしたちの本当の目的はこっち」

「でも、どうしてこんなところを飛び続けているんだ?」

 イッセーの問いだ。

「さあ? でも、あれがオーフィスの目的で、あたしが倒したい目標だよー」

 ヴァーリの目標か。随分デカイ目標だ。

「グレートレッド、久しい」

 なに? 

「お、オーフィス!?」

 イッセーが焦りだす。

 そういえば、会談のときに姿を見てるんだっけ。

 オーフィスはグレートレッドに指鉄砲のかまえでバンッと撃ち出す格好をした。

「我は、いつか必ず静寂を手にする」

 バサッ。

 今度は羽ばたき。

 ドスンッ! 

 巨大なものが降ってくる。

 アザゼルとタンニーンだ。バカなことした一人だ! 

「先生、おっさん!」

「おー、イッセー。元に戻ったか。俺もどうなるか怖かったが、おまえならあの歌で元に戻ると信じてたぜ。なんでもソーナとのレーティングゲームでのおまえを冥界の子供がとても気に入ったらしくてな。グレモリー家はおまえのアニメを製作するらしい。んで、あの歌は聴いたか? 俺が作詞したんだが、あれが主題歌だ!」

 う、うわー……。冥界の番組を家で見れたとしても絶対に見ないぞ、うん。

 それと、イッセーとタンニーンの会話が聞こえてきたが、タンニーンはグレートレッドに歯牙にもかけてもらえなかったらしい。相手にならないのかね。

 ちなみにサーゼクスさんは結界が崩壊したから観戦ルームに戻ったとか。

「オーフィス。各地で暴れまわった旧魔王派の連中は退却及び降伏した。事実上、まとめていた末裔どもを失った旧魔王派は壊滅状態だ」

「そう。それもまたひとつの結末」

「おまえらのなかであとヴァーリ以外に大きな勢力は人間の英雄や勇者の末裔、神器所有者で集まった『英雄派』だけか」

 英雄派。そこなら曹操もいそうだな。

「さーて、オーフィス。やるか?」

 先生が槍の矛先をオーフィスへ向ける。いや、やめろって。

 制止しようとしたところ、イッセーがなにかに気付いたように「あっ!」と声をあげる。

「カイトの神器を封じてる鎖なんだけど、俺の洋服破壊で壊せるかもしれない! 衣服と同じと思えばいんだ!」

「……おまえは男を裸に剥く趣味でもあんのか?」

「ち、違う! おまえ前に女の子になれただろ! その格好なら絶対にできる!」

「アホか! クソッ、まだ『覇龍』の影響があるのか? それとも後遺症なのか!? 大体好き勝手に性別を変えれるか! あれは一種の力の暴走みたいなもんだったんだぞ!」

 実際あれから変わったことなんて一度もないし! 

「カイト、性別変えたい?」

 釣られたようにオーフィスが俺に近づいてくる。

「え? い、いや……」

「レスティアとエスト、封じられてる。かわいそう」

「だけどな、オーフィス」

「我の力、安定しないのはわかる。無限、扱うのカイトには大変。今回だけ、我が安定させる。その代わり、一週間は戻らないと思う」

「な、何が?」

「性別。でもだいじょうぶ。男でも女でも、カイトはカイト」

 俺の意見を聞くはずもなく、オーフィスは唇を重ねてくる。

 力が新たに注ぎ込まれ、身体に馴染んでいく。

 俺とオーフィスを黒い魔力が覆っていき、周りの景色が見えなくなる。オーフィスの無限の力が安定してきているのかは、俺にはわからない。だが、黒い魔力が晴れるとともに、オーフィスが俺から離れた。

『ええっ!?』

 全員の声が重なる。その反応から察するに、どうやら俺の身体は女になったのだろう。

 部長たちは見るのが二度目だから、過剰に反応する人はいなかったのが救いだ。

 イリナとイリヤ、あとクロはちょっと信じられないって顔してたけどね。

 あ、髪が長い。それに――。

 下を向くと、胸の辺りに山がある。会談のあとと同じだ。完全に女の子になってると悟った。

「カイト、我帰る」

「あ、ああ」

 生返事。声がいつもよりだいぶ高い。

「待て! オーフィス!」

 タンニーンが制止するも、オーフィスは笑顔を浮かべるだけだった。

「タンニーン。龍王が再び集まりつつある。――楽しくなるぞ」

 最後に俺一瞥し、ヒュッ! 

 一瞬、空気が振動し、オーフィスは消え去った。

「あたしたちも撤退だー」

 見ると、ヴァーリたちも魔方陣に消えていった。

 残るは俺たちか。

「イリヤ、クロ。ありがとな」

「それはいいんだけど……」

「うん……」

 ん? なんか反応が変だ。

「どうかしたか?」

「女の子になれたんだ?」

 クロが聞いてくる。

「ああ、いやーえっと……。なれると言うより、いまは女の子が本来の姿と言うか……。結局男で女でも変わらないカイトであると言うのかな?」

「ふーん。でもいいわ。男よりは、女の子から魔力を貰いたかったの」

 そういうもの? クロの中ではそういうものになっているのかもしれない。

「そういえば、魔力をあげるって約束だったか。いいよ、あげる」

 言った瞬間、クロの瞳が光った気がした。

「あ、あわわ……」

 イリヤが慌てだす。

『あはー、録画の準備ですよ』

 その手に持つステッキもうれしそうに録画の準備。魔力供給するだけなのに録画って……。

 他のみんなも早く終わらないかなーという目。イッセーなんか洋服破戒する気満々だ。小猫、殴っておいてね。

 それはさておき、さっさとすませないと。

「ほら、クロ」

 うながすと、クロが近くに来た。

「それじゃ、いただきます」

 少し赤くした顔を俺――私に近づけ、そして――。

 キスをしてきた。

 

 


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