ハイスクールD×D 精霊と龍神と 作:きよい
<祐斗Side>
僕たちは一瞬なにが起きたのか理解できなかった。
いや、いまだによくわかっていない。
ディオドラ・アスタロトをカイトくんとイッセーくんが打倒し、捕らわれていたアーシアさんもイッセーくんが助け出した。だから、この場から退避するはずだった。
その瞬間、アーシアさんと、それにカイトくんが庇うようにまばゆい光の中に消えていった。
「案外簡単に消えたな。結界内に割り込んできた人間がいたから、どれほどのものかと思ったが、呆気ない」
聞き覚えのない声だ。
声のしたほうへ視線を送ると、見知らぬ男性が宙に浮いていた。軽鎧を身に着け、マントも羽織っている。
「誰……?」
部長が訊く。
「お初にお目にかかる、忌々しき偽りの魔王の妹よ。私の名前はシャルバ・ベルゼブブ。偉大なる真の魔王ベルゼブブの血を引く、正統なる後継者だ。ディオドラ・アスタロト、この私が力を貸したというのにこのザマとは。おかげで計画を変更する羽目になった」
――旧ベルゼブブ!
こんなときに! カイトくんもいないときに現れるなんて……。
「シャルバ! 助けておくれ! キミと一緒なら、赤龍帝を殺せる! 旧魔王と現魔王が力を合わせれば――」
ビッ!
シャルバが手から発射した光の一撃がディオドラの胸を容赦んく貫いた。
「哀れな。あの娘の神器の力まで教えてやったのに。それに、人間に圧倒される悪魔なぞ必要ない」
嘲笑い、吐き捨てるようにシャルバを言う。
ディオドラは塵と化して霧散していった――。
「さて、これでゴミの処理は終わった。サーゼクスの妹君。いきなりだが、貴公には死んでいただく。理由は当然。現魔王の血筋をすべて滅ぼす」
「直接現魔王に決闘を申し込まずにその血族から殺すだなんて卑劣だわ!」
「それでいい。まずは現魔王の家族から殺す。絶望を与えなければ意味がない」
「この外道! なにより、アーシアとカイトを殺したのはあなたね! 絶対に許さないわッ!」
部長が激高し、最大までに紅いオーラを全身から迸らせた!
朱乃さんも顔を怒りに歪め、雷光を身にまとう。
僕も許すつもりはない。僕の大事な友人たちを殺した罪……。このテロリストには死んでもらおう!
「アーシア? カイト?」
――っ。
イッセーくんがふらふらと歩きながら二人を呼んでいた。
「アーシア、カイト? どこ行ったんだよ? 帰ろうぜ。家に帰るんだ。アーシアのこと、父さんも母さんも待ってる。カイトとだって、やっと仲直りできそうだったんだ。か、隠れていたら、帰れないじゃないか。ハハハ、アーシアはお茶目さんだな。カイトも、悪ふざけがすぎるって」
イッセーくんは……二人を探すように辺りを見渡しながら、おぼつかない足取りで……。
「アーシア? カイト? 帰ろう。もう、誰もアーシアをいじめない。俺たちはカイトを理解したい。ほら、帰ろう」
――見ていられなかった。
その光景を見て、小猫ちゃんとギャスパーくんが嗚咽を漏らしていた。
朱乃さんは顔を背け、頬に涙を伝わせている。部長はイッセーくんを抱きしめ、やさしく抱いていた。
「部長。アーシアとカイトがいないんです。やっと帰れるのに、理解できそうなのに。先生に言われた通り、神殿の地下に隠れないといけなきゃ。でも、二人がいないと……。俺たちの大事な仲間なんです、家族なんですよ……」
うつろな表情でイッセーくんはつぶやき、部長は彼の頬を何度もなでてあげていた。
「滑稽だな。汚物同然のドラゴン。そんなものがグレモリーの姫君の好みか。趣味が悪い。そこの赤い汚物。あの娘と人間は次元の彼方に消えていった。すでにその身も消失しているだろう。――死んだ、ということだ」
イッセーくんの視線が宙に浮かぶシャルバを捉えた。
そのままじっと見続ける。その姿は異様に見えた。
『リアス・グレモリー、いますぐこの場から離れろ。死にたくなければな』
ドライグの声。僕たちにも聞こえるように発声したようだ。
離れろ? どういうことだ?
ドライグの声は次いでシャルバに向けられる。
『そこの悪魔よ。シャルバといったか?』
イッセーくんが部長を振り払い立ち上がる。
『おまえは――』
イッセーくんはシャルバのほうへ向かっていく。
そして、シャルバの真下に来たとき、ドライグの声音はイッセーくんの口元から発せられた! それは心身を底冷えさせるほど、無感情の一声だった。
『選択を間違えた』
ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッッ!!
神殿が大きく揺れ、イッセーくんが血のように赤いオーラを発する。そのオーラは次第に増幅していき、神殿内を照らし始めた。
肌に伝わるこのオーラは、危険だ……。
イッセーくんの口から、呪詛のごとき呪文が発せられる。
その声はイッセーくんだけのものじゃない。老若男女の声が入り混じっていた。
『我、目覚めるは――』
<始まったよ><始まってしまうね>
『覇の理を神より奪いし二天龍なり――』
<いつだって、そうでした><そうじゃな、いつだってそうだった>
『無限を哂い、夢幻を憂う――』
<世界が求めるのは――><世界が否定するのは――>
『我、赤き龍の覇王と成りて――』
<いつだって、力でした><いつだって、愛だった>
<<何度でもおまえたちは滅びを選択するのだなっ!>>
イッセーくんの鎧が変質していく。さらに鋭角なフォルムが増していき、巨大な翼まで生えた。両手足からは爪のようなものが伸び、兜からは角が形作られた。
――ドラゴン。その姿はドラゴンそのものだった。
そして、全身の宝玉各部から、絶叫に近い声が老若男女入り乱れて発声される!
「「「「「「「汝を紅蓮の煉獄に沈めよう――」」」」」」」
『Juggernaut Drive!!!!!』
ゴオオオオオオオオッ……。
イッセーくんの周囲が弾けとぶ! 床が、壁が、柱が、天井が、そのすべてが破壊される!
「ぐぎゅああああああああああああああああああああああっ! アーシアァァァァァッァァァァァッ! カイトオォォォォォォォッォォォォッッ!!」
獣の叫びにも似た声をイッセーくんが発し、その場で四つんばいになり、翼を羽ばたかせる。
そして、イッセーくんはシャルバへと飛行していった――。
僕たちは、どうしたらいいんだい、カイトくん……。
<祐斗Side out>
眼前にま様々な色が混ざり合ったような空。空? 万華鏡の中みたいだな。
そこで腕の中に重みを感じる。
「アーシアは無事か」
抱きかかえた状態のアーシアを確認。
察するにここが次元の狭間か? さっきの光の柱に呑まれて転移させられたってことでいいのか。
そうなると急いで脱出したいな。
俺は『光輝』やオーフィスからの加護でここでもなんともなく生活できそうだが、アーシアが心配だ。前にオーフィスに聞いた話だが、普通の状態でここに来ようものならその身が消失すると聞かされた。
『光輝』で守れればいいが……。頼むぞ。
周りの空間が光で染まる。
よし、あとはこの光をアーシアに届ければ――。
俺の意志に呼応するようにアーシアを光が包んでいく。
「成功、か?」
これでアーシアが消える心配はないな。もとのフィールドで泣いてるかもしれないイッセーのとこに早く返してやらないと。
「って言ってもなぁ。帰り方がわからん。俺は転移も使えないし。どうすっか……」
俺たちがいくら無事でも、帰れなければ意味はないわけで。いっそのこと力全部使って空間に穴でも空けてみるか。いや、そんな無茶を次元の狭間でやるのはかえって危険を招く事態になるかもしれない。ここは、外からの救援待ちか。救援に来たというのになんということか!
大体『光輝』は長時間使うには向いてない。希望や願いの光は長く扱うものじゃないんだ。
けれど、その心配は程なくして解消される。
視界に銀色の髪が映る。
夏休み。それ以前にも何度も遭った少女がそこにはいた。
「ヴァーリ?」
「え――カイト!?」
この偶然の遭遇に、俺は感謝した。
どうやらアーシアを返すのは思いのほか簡単にいきそうだ。
「あーなるほどなるほど。カイトも意外とドジだね!」
俺の説明を聞いていたヴァーリは開口一番。ドジ呼ばわりしてきやがった。
「ドジじゃねえ。避けようがなかっただけだ」
「その光の柱ごとカイトの力で消し飛ばせばよかったのに」
ああ、その手はありだったかもな。迎撃できるものであればな。
転移させるような光を防ぐ術なんか持ってない。
ヴァーリが俺のいたところまで来たのは、全てを埋め尽くすような光を見たからだと言っていた。つまり、先ほど俺が使った『光輝』の光を見たのだろう。
流石希望。ここまでヴァーリを導いてくれたんだな。
ヴァーリは一人で来ていたわけではないらしく、他にも美候と、聖剣を持つ男が一人。敵意が無いので放っているが、中々に手ごわそうだ。もちろん、イッセーたちの目線でものを言えばのことだが。俺にとってはそこまで強敵ではないだろう。
「それで、カイトは戻りたいってこと?」
「ああ、そうなる」
ヴァーリは思ったより素直に俺の言葉を聞いてくれる。
「うーん……。あたしたちももう用事は済んだしそれはいいんだけど、どこに行けばいいの?」
「ディオドラとリアス部長のゲームフィールドだ」
「今日レーティングゲームをやってる?」
「そうだ」
「ふーん、あそこが襲撃されたんだ? ってことはもしかしたら面白いものが見れるかも! いいよ、行こう行こう!」
いきなり機嫌を良くしたヴァーリが、残り二人に声をかける。
「悪いな」
「いいのいいの。カイトのお願いならある程度のことは聞いてあげるってぇ」
「そうか。なら今度、おまえのお願いも聞いてやるよ。……あー、前にイヅナを助けてもらったこともあるからな。二回聞いてやる」
そう言うと、うれしそうに笑い出した。
「やっぱカイトって不思議だよね。うん、いいね。凄くいい! じゃあ今度言うこと聞いてもらおうっとぉ」
そして、望みのそれは創られる。
次元の狭間に来てわずか数十分。帰還するための魔方陣が描かれ始めた。
「さあ、帰ろっか」
ヴァーリが手を差し伸べてくる。
アーシアの身体を片手で支え、ヴァーリの手を取る。
「ヴァーリ、そろそろ行きますよ」
後ろで男が促す。
「はいはーい」
「ヴァーリ、ありがとう」
「うん」
魔法陣が光始め、転移を開始する中、視界にヴァーリの笑顔を留め続けた。
敵対していなければ、毎日こうした顔を見れたのだろうか。そんな考えが、一瞬頭を過ぎった気がした。
ここでお知らせ。
DALの作品を新作で書き始めました!
以上です!