ハイスクールD×D 精霊と龍神と   作:きよい

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9話

「なんだ、それ……」

 目の前にいる悪魔、ディオドラが驚愕の表情で問う。

 本来なら、答えてやる義理も義務もないんだが、こいつには教えてから潰すのがいいだろう。

「これは光だ。そのものと言ってもいいかもしれない。かつて、人々の希望が、願いが集まった光。世界を覆い尽くす闇から、運命から抗おうとした人たちの光だ」

「そんなもの、あるわけが……」

「あるんだよ。かつて、ある邪神を倒したときに生まれたものだからな。二年間で世界は二度、邪神の闇に覆われ、危機を迎えた。だけど、倒すために希望を、力を紡いだんだ。絶望を塗りつぶす程の強大な光を!」 

「認めない、認めない!」

 俺の言葉を否定するがごとく頭を振る。

 育ちのいいクズ野郎は困るな。話をロクに信じない。

「確かに、いまの話はかなり過去の話だ。そういえば、世界は一度滅んだという話もあるな。三千万年前の超古代のだがな。多分、この世界とは違う文明を築いていたんだろうな」

「なんの話だ?」

 次はイッセーが首を傾げた。

「ようするに、この世界が全てじゃないってわけさ」

 余計に難しい顔をした。逆効果だったか。

「この話は別にいいんだ。とにかく、俺はその光を受け継いだ。それがこの『光輝』ってことだ」

「俺たちに影響はないのか?」

「いまならな。制御できてれば問題ない。もともとこの光は希望なんだ。俺の仲間に影響があってたまるかよ」

 念のため触れないべきだと思うけどな。

「くそ、くそっ! 認めないぞ! 神器を封じたのに、なんでそんな力が出てくるんだよ!」

 そんなこと言われてもなぁ。

 俺の力だし、ピンチになったら使うだろ。それほどピンチってわけでもなかったけどね。ただ、こいつを潰すのにこれは最適だろ。

「オーフィスの力を貰ったからだ。イラつくんだよ、おまえ。あいつから力貰うとか、なんの関係もない奴が図々しい。そんな奴を消すためなら、普通に『光輝』だって使うさ」

 昔はこの力で、最終的に世界を救ったらしいな。こんなことのために使うのもどうかと思われる。でも、俺はこの力を家族と仲間のために使うと決めているんだ。

「イッセー。さっさと殴りにいくぞ」

 中断されていた戦闘を再開すべく、イッセーに声をかける。

「ああ。カイトの力には驚いたけど、あいつを倒すことに変わりはないからな」

「よし」

 光が全身に巡る。

 すでに右腕だけでなく、体のいたるところが輝いている。

「すごいことになってるな」

「まあな。全身光るのはもう仕方ないんだよなぁ……。一箇所に集中させればそこだけにすることもできるけど」

「この話はまた後でな。そろそろ」

「ディオドラを倒すか」

 二人して睨むと、流石に先ほどのような強気の発言は無かった。そんな余裕はもうないだろう。

「俺は一発殴れればそれでいい。イッセー、おまえが突っ込め。サポートは任せろ」

「……わかった」

 イッセーが単騎ディオドラへと走り出す。

 俺は光を右腕に集め、いつでも射出できるように構える。

「人間がいくら強かろうと、赤龍帝一匹ならいくらでも対処できるん――がっ」

 ディオドラの体がくの字に曲がる。

 イッセーが瞬間的なダッシュで間合いを詰め、打拳を腹部に鋭く打ち込んだのだ。

 あの速度に対応できないか。俺が突撃しても結果は変わらなかったな……。つまらない奴。なんであんなのにオーフィスを利用されなきゃいけないのか。

 イッセーから逃れたディオドラは、後ずさりしながら叫ぶ。

「くっ! こんなことで! 僕は上級悪魔だ! 現魔王ベルゼブブの血筋だぞ!」

 手を前に突き出すと、イッセーに向け魔力の弾を無数展開した。

「キミのような奴はここで死ねェェェェッ!!」

 雨のように魔力弾が降り注ぐ。

 けれど。

「なんのために俺が後方で待機してるのか、忘れてるんじゃねえか? 『光輝』」

 右手から極太の光の槍が一線。

 神殿内の天井を染める。

「な……チクショウ!」

 ディオドラが悔しそうに顔をゆがめる。

 当然だ。イッセーに被弾する前に、全ての魔力弾を消滅させた。

 学習しない悪魔だ。

 その間も、イッセーはディオドラに詰め寄っていく。

 あいつが抵抗しようと放つ魔力弾は全て俺の力に呑み込まれていく。

「ど、どうして! 僕の魔力は相当なモノのはずなのに! どうしてあんな光に呑み込まれるんだ!」

「さっき教えてやっただろうが。これは人々の希望、願いの結晶だ。おまえみたいな奴には一生かけても追いつけない力なんだよ」

 俺の光が、ディオドラを捕らえる。

「『光輝』!」

 光の本流が、ディオドラの左腕を消し飛ばした。

「ぎゃあああああああッッ!」

「うるせえよ」

 続くようにイッセーがディオドラの体を持ち上げ、オーラのこもった拳を叩き込む。

「ぐわっ!」

 無様に地面を転がっていく。

「くそ、くそ、くそくそくそくそくそくそォォォォッ!! こんな腐れドラゴンとに人間なんかにィィィィィィッッ!!」

 イッセーが顔面に一撃を入れようとした瞬間、障壁が生まれ、その拳をとめた。

「ほら見ろ! 魔力は僕の方が上なんだ! パワーバカの赤龍帝が勝てるわけがない」

 その表情に勝ち誇る笑みを浮かべる。

「この……」

 悪あがきを。

 イッセーの位置まで移動し、同じように打撃を繰り出す。たった一発の拳。

 ガギィィィィン!

「カイト!」

「いくぞイッセー!」

 赤い魔力と光が混ざっていき、この一撃は強い衝撃波を生み出した。

 ピキッ。

 障壁にヒビが入る。ヒビは広がっていき、パリンッ! あっけなく砕けた。

「悪いな。一人でだめなら二人でだ」

「ひっ」

 勝ち誇った表情から一転、怯えた表情を見せる。けど、もう遅いな。

「俺ん家のアーシアを泣かすんじゃねえよ!」

「俺のオーフィスをクズが利用すんなッ!」

 俺とイッセーの一撃がディオドラを襲った。 

 グシャッ! 柱まで飛ばされ、床へと落ちる。

「ウソだ! 負けるはずがない……。アガレスにも勝った。バアルにも勝つ予定だ! その僕がこんな奴らに負けるはずがない! 僕はアスタロト家のディオドラなんだぞ!」

 魔力を再度展開する。

 もう飽きたな。こいつの相手をするのはあと一撃だ。

「次で決める」

「わかった」

 同時に駆け出す俺とイッセー。

「あああああああああッ!」

 死にもの狂いで魔力弾を撃ちだしてくるディオドラ。そんなあいつを嘲笑うがごとく、俺の光が魔力弾を消し去っていく。

「他人の力に頼って、女の子を泣かすような奴に俺たちは絶対に負けない!」

 イッセーの拳がディオドラの顔面を潰す。

「ぎゃばっ!」

「ああ、そうだ!」 

 メキッ!

 光を纏った一撃がディオドラへ深く突き刺さり、彼方まですっ飛ばす。

 ドゴォォォォンッ!

 柱を三本突き破り、力なく崩れた。

「……殺さなくていいのか?」

 俺の問いだ。ここまでしでかした悪魔を、上が生かすだろうか。

「あんな奴でも、いちおう魔王の血筋だ。殺しちまうと部長や部長のお兄さんに迷惑がかかるかもしれない」

 そうですか。甘いよな、その考え。

「おまえとあいつがどういう関係か知らないけど、言いたいことはしっかり言って解決しとけよ」

「わかってるよ」

 倒れているディオドラのもとに行き、イッセーとゼノヴィアが拳と剣を向けなにかを言っていた。遠くに飛ばしすぎたディオドラの位置が悪かった。ここからじゃなにも聞こえん。

 しばらくして、ディオドラを引きずってきた二人が戻ってきた。

 ご苦労様です。俺が飛ばしたというのにわざわざ。

 そして俺と祐斗にディオドラを見張らせ、他の女性陣とイッセーはアーシアのもとに駆け寄っていった。

 そういやアーシア捕まってるんだったね。

「キミと話すのも久々だね」

 アーシアを連れてくるまでの間、祐斗が話しかけてくる。

「そういえばそうだな」

「キミがいない部活は大変だったよ」

「よく言う。おまえたちが休ませたくせによ」

「そうだね、間違っていたのは僕たちかもしれない。カイトくんを休ませる必要はなかったんだね」

 笑顔を向けられる。

「そうだな。理由もだんだんわかってきてる。想像でしかないけどな。でも、そんな心配はいらないんだ。俺はただ、おまえたちが大事だから矢面に立つ。それを心配するのはいいけど、今回みたいなやり方は流石に困る」

 困ったようにわざと肩をすくめ、笑顔をつくる。

 はたして笑顔をつくれているか心配だが、それも杞憂に終わった。

「そうだね。僕たちもわかったよ。だから改めて、これからもよろしく」

「ああ、よろしく頼むよ」

 俺と祐斗は互いに手を掴む。

 だいじょうぶ。俺がイッセーや祐斗たちを見捨てることはない。そう確信を持って言える。

「高まれ、俺の性欲! 俺の煩悩!――洋服破壊ッ! 禁手ブーストバージョンッ!」

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!』

 イッセーの声がよく聞こえる。

 というか洋服破壊って……どういう状況だよ。

「なにかあったみたいだね」

「だな。とりあえず行ってみよう」

「うん。アーシアさんのことも心配だしね」

「そういうことだな」

 俺たちが様子を見に来た瞬間、アーシアの服が弾けとんだ。と同時に、金属が割れる音も響く。そっちが本命だったのか? 

「いやっ」

 屈んで身体を隠すアーシアに、魔力でアーシアに服を着せる朱乃さん。

 部長は部長で、イッセーの行動に対してブツブツと呟きながら考えている様子。

「イッセーさん!」

「アーシア!」

 イッセーにアーシアが抱きつく。ハハッ、状況が掴めないや。

「信じてました、イッセーさんが来てくれるって!」

「当然だろう。でも、ゴメンな。辛いこと、聞いてしまったんだろう?」

「平気です。あのときはショックでしたが、私にはイッセーさんがいますから」

 そう言い、笑顔を浮かべる。

 そしてゼノヴィアとも抱き合ったあと、俺たちの方を向く。

「部長さん、皆さん、ありがとうございました。私のために……」

 アーシアの一礼に、笑顔で応える。

「アーシア。そろそろ私のことを家で部長と呼ぶのは止めてもいいのよ? 私を姉と思ってくれていいのだから」

「――っ。はい! リアスお姉さま!」

 部長とアーシアが抱き合う。二人の距離も一歩前進か。家族はいいもんだな。

「さて、アーシア。帰ろうぜ」

「はい! と、その前にお祈りを」

 アーシアが天に向かって祈る。なんだろうな。

「アーシア、なにを祈ったんだ?」

「内緒です」

 笑顔でイッセーのもとに走っていく。

 その頭上が光るのと同時に、ほぼ無意識に俺の脚は動いていた。

「アーシ、よけろ!」

 叫んだところで間に合うはずもない。

 アーシアの下へ全力で跳躍し、アーシアを下に押し倒し庇う。

 直後、俺の視界が白く染まった。それが光の柱――敵の攻撃だと気付いたのは、俺とアーシアがそれに包まれた後だった。

 

 


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