ハイスクールD×D 精霊と龍神と   作:きよい

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8話

 見上げれば神殿の天井に突き刺さるディオドラ。

 前を向けば困惑した表情をしたイッセーの姿。そしてみんなも同じ表情を浮かべている。

 お、アーシアも無事そうだな。なんか捕まってるっぽいけど。

 さて。

「なにがどうなってるんだ?」

「おまえが乱入してくるからみんなが流れについていけてないんだよ!」 

 俺の疑問にイッセーが叫ぶ。

「乱入って言われてもなぁ……」

「そもそも、なんでここにカイトがいるんだ!」

「居ちゃ悪いか?」

「――ッ!? ……悪いとは言わないけど、俺たちはやっと、やっとおまえが俺たちに関わって傷つくことがなくなると思って納得してたのに」

 ははあ。そういうことか。

「とりあえず説明するよ。今回の一件において、アザゼルとサーゼクスさんから救援に来て欲しいということでやってきたわけだ。まあ一人じゃ冥界にも行けないから、ちょっと協力者がいるけどな。んで、来たからには義務を果たすためにこうしてここにきた。以上だ」

「以上ってあのなぁ……。義務を果たすためだけに来られても――」

「勘違いするなよ」

 なにか言いたそうにしていたイッセーの言葉を即座に切り捨てる。

「俺が義務だけでここまで来たと思うな。俺がここにいるのは俺の意志だ。そこにおまえらの考えも、サーゼクスさんの命令も介入はさせない。ここに俺が居るのは、他でもない俺の意志でだ」

「……」

「十日前のことは俺も悪かったと思ってる。だからその件については悪かったな。でも、説明もしないで勝手に動くおまえらもおまえらだ。なにを思っての行動かは知らないけどさ」

「おまえのためだったんだ。俺も、言い方が悪かったのは自覚してる。でもあれは全部、おまえのためを思ってのことだったんだよ」

 俺のため、か。そう思うのも結構だ。でもな、

「俺の意志は無視しておまえらで勝手に動いた結果がこれだ。もちろん、おまえらにも俺のことを考えての行動だったんだろう。でも、そこに俺の意志はあったか?」

「おまえの意志を聞いたら、おまえは反対するだろうからさ」

「反対? ホント、なに考えてたんだよ」

「それは――」

 会話はそこで途切れた。

「チッ」

 頭上から魔力の塊がいくつも降り注いできたからだ。

 俺とイッセーは互いに反対方向にそれをかわし、一定の距離をとる。

 こんなことしてくるのは、さっきぶっ飛ばしたクソ野郎か。

 頭上を見ると、こちらに手を突き出した状態のディオドラがいた。

「この僕を殴り飛ばすとはね。まったく、困ったものだよ。キミたち二人とも、血祭りにあげてあげるよぉッ!!」

 ……俺とイッセーに思いっきり殴られた奴がなに生意気言ってんだよ。しかも会話中に割り込んでくるってことは、それまでの間天井から抜け出れなかった、もしくは気を失ってたってことだろ?

 この数分間ずっとってことだぞ、それ。

 逆にこっちが血祭りにしてやろうか?

「イッセー。お互い言いたいことはまだあると思うが、どうだ?」

「どうって?」 

「イッセー。おまえあいつ倒すんだよな?」

「アーシアを傷つけたクソ野郎だ。当然だろ」

「そうか。俺もあいつを潰す理由があるんだ。コカビエル以来だな。今度は俺にしっかりついてこいよ」

「――おう!」

 この会話だけで俺の言わんとすることがわかったのだろう。力強い返事を貰う。

 さて、これでイッセーとの共闘二度目だな。あの時みたいに俺一人で戦ったりはしない。今度は本当の意味で、二人でやろうじゃないか。

 そんで、言いたいことは全部終わってから言い合えばいい。納得するまで、とことん。

「赤龍帝と実績を上げてきた人間か。いいよ、二人ともいまの僕にとっては敵じゃない! どちらかと言えば強いであろう人間の方もどうにかする手はある。さあ、かかってきなよ!」

 天井から手を離し、羽を広げて空中に滞在する。

 やべー、正直これエストで一撃入れればダウンさせられるんじゃね? なんかこう、強敵! っぽさが皆無だ。

 だからと言って手は抜かないけどな。

 右手に<魔王殺しの聖剣>、左手に<真実を貫く剣>を握り構える。

 いつでも特攻をかけられるように、イッセーも拳を握っていた。

「やる気だね。いいよ、かかってくるといい!」

 そうかよそうかよ。

 床を蹴り、一気に空中へと跳び上がる。

「言われるまでもなく、叩き潰してやるよ。絶剣技、初ノ型――紫電!」

「そうだよ。キミから仕掛けてくれるのを待ってたんだ」

「なに!?」

 ガチャリ。

 剣で突こうとした瞬間、左手首に妙なものをはめられた。けど、知ったことじゃない。このまま紫電で突き刺してやる!

「残念、もうその剣は使い物にならない」

 ピシ……。パリィィィィンッ!

 ディオドラに届く寸前のところで、<魔王殺しの聖剣>が砕け散った。同時に、左手に握る<真実を貫く剣>も砕けた。

「終わりだよ、人間!」

 動揺した俺に、ディオドラの魔力の一撃が降りかかる。

 ゴギャッ!

 モロに食らった俺は、抗うこともできずそのまま神殿の壁へとぶち当たり、壁に大穴を空け、そこに投げ出された。

「っ……んだよこれ」

 ダメージはそこまでないが、なにより剣が出てこない。何度試しても手元に現れる雰囲気はない。

「カイト、無事か!?」

 心配そうなイッセーの声が届く。

「無事なわけないだろう? 人間の体であそこにぶち当たったんだよ。とっくに体は壊れてるだろうね」

「このっ……。いますぐに――」

「待ちなさい、イッセー」

 この声は部長か? 

「ディオドラ。あなたいま、カイトの神器を破壊したように見えたけど、どういうことかしら」

「ああ、あれね。今回の協力者に無理を言って創ってもらったのさ。神器の一時的な封印といったところかな。彼にはめた鎖はそのとき所有者が扱っていた神器の力を封印するもの。まあ結界だね。協力者の奴も苦労したみたいでね、今回限りだと言っていてかな」

 なるほどね。神器対策か。

 俺が来なかったらイッセーにはめる予定だったな。

 これからどうするか。

 原因はこの左手にはめられた鎖でできたリングだろうな。……取れないか。

 破壊……もできないとなるとこれって神滅具並みのものの神器で創られたモノなんだろう。創るってくらいだし、神器が関与していない可能性は低い。

「さて、あとは赤龍帝だけだね。キミのような下級で下劣で下品な転生悪魔ごときに気高い血は負けないよ。かかってくるといい」

 頃合か。

 俺の神器が使えなくなったからと言って、出て行かない理由にはならない。

 壁に空いた大穴から飛び出し、着地する。

「勝手に俺が死んだ風な内容で進めるなよ」

「生きていたのかい? おかしいな……。体のつくりはただの人間だと思ってたのに」

 悪かったな、ただの人間じゃなくて。

「カイト! よかった。けど、だいじょうぶなのか?」

「神器のことか? エストとレスティアが実体化できなくて騒いでるくらいだ。相当厄介な状況だ」

「今回は俺が闘うから、カイトは休んでろよ。その鎖を壊す方法も後で考えようぜ」

「待て待て。俺も闘うから」

 イッセーを引き止めたことで、驚かれる。

「そうは言っても、おまえ神器使えないんじゃ大変だろ? 俺、おまえが神器使わないで闘ったとこ見たことないぞ!」

 あーそうだっけ? そう言われればそんな気もしなくもない。

「神器持ちがその力を使えなくなったらただの弱い人間だよ。とてもじゃないが僕の相手は務まらないよ。まあ、無残に殺されたいと言うのなら相手になるよ」

「……カイト、やめとけって。俺も赤龍帝の力がないと、なんにもできないからあいつが言ってることは理解できるよ」

 ディオドラに、さらにイッセーにまで言われた。

 けれど、俺にもやるべきことがある。

「なあディオドラ・アスタロト。おまえオーフィスから蛇は貰ってるか?」

「当然だよ。貰ったさ」

「そうか」

 事実か。ならもうあいつに助かる余地はない。

「俺は家族の力がどこぞのクソ野郎に利用されるのは嫌いでな。悪いイッセー。やっぱディオドラを潰さないと気が治まらない。闘うから、止めないでくれ」

「どうしてもか?」

「どうしてもだ。あいつは潰さないといけない相手なんだ」

「――わかった。危なくなったら俺が守る」

「悪いな」

 俺が視線を向ける先。そこには顔を歪め、不気味な笑顔を浮かべるディオドラの姿。

「そんなに殺してほしいならそうしてあげるよ。だいじょうぶ。僕は簡単には殺さないから、いたぶっていたぶって、最後に泣いて助けてくれと懇願するまでは生かしておいてあげるよ! アハハハハハハッ!」

 そう言って、俺たちに無限に等しい数の魔力弾を放ってきた。

 いや、たちじゃないな。狙いは――俺か!

「ったく、舐められたもんだ」

「カイト、危ない!」

 イッセー? こんなのなにも危なくない。

「俺が神器だけに頼って、昔リーダー張ってたわけじゃないぞ」

 久々だな。光は悪魔にとって有害だから使うのを拒んできたけど。いまならいいだろう。制御もできるし、相手も悪魔。消さない程度に調整して潰せばいい。

「俺には魔王の因子と聖女の因子がある。魔力を使える時点で、魔王の因子の方はなんとなくわかってるだろう。イッセーは会談のときにもその力の一端を見てるしな」

 言って、拳を握る。

 そこから光が溢れ出す。

「俺がなんで聖女と呼ばれるか。その理由、少しばかり見せてやるよ」

 途端、光の粒子が俺の体を取り巻く。その影響は拡大していき、間近に迫っていた魔力弾を包み、瞬時に消滅させた。神殿内に吹き荒れる嵐のごとく、右手から溢れ出した光がすべてを白く塗りつぶす。

 だが、激しすぎる輝きはすぐに収まることになる。それもそのはず。光はいつしか俺の右腕に収束した。吹き荒れることもなく、静かに俺の右腕を包み込み、光で染めている。

「な、なんだそれは!」

 不安感を隠しきれていないディオドラが叫びをあげる。

 そして、またも魔力弾を放ってくる。

 悪魔にとって光は有害。この光は、毒そのもの。

「俺が聖女と呼ばれる理由のひとつがこれだ。さあ、始めようか、『光輝(グリッター)』!」

 瞬間、先ほどの光景が繰り返されるように、魔力弾が光の本流に溶けて消えた。

 

 


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