ハイスクールD×D 精霊と龍神と   作:きよい

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7話

 オーフィス……。

 話したい。側にいたい。いま、目の前にいるのに。なのに。

 アザゼルには多少知られているとはいえ、サーゼクスさんは知らない。この人の前でオーフィスと親しく話すのは誤解を生みかねない。

 残念だけど、ここは無視するべきなんだろう。

 もう無難に再会のあいさつは済ませた。だから、ここでまたお別れだ。

 オーフィスに背を向け、イッセーたちのいる宮殿へと向かおうとする俺に、アザゼルから声がかかる。

「カイト。悪いな」

「……なにがだ?」

「おまえとオーフィスのことだが、俺が知ってることはサーゼクスとミカエルには話してある」

「なに!? 話したのか、俺たちのことを!」

 サーゼクスさんの表情をうかがう。ここで俺もろともオーフィスの相手をするつもりか?

「そう構えなくていい、カイトくん。キミのことは信頼しているから、オーフィスと関わりがあったとしても私はなにも疑っていないさ。それどころか、キミがオーフィスをこちらに引っ張ってくれればとさえ思っているよ。なに、心配しなくていい。安心して話してくれ」

「本当に、疑わなくていいんですか? 俺が『禍の団』に寝返る可能性だってあるでしょう?」

「それこそありえないよ。私の知るキミは、そんな人物じゃない。カイトくん、私の――私たちの知っているキミを押し付ける気はないが、聞いてくれ。私たちは誰一人、キミの行動を疑っていない。それはいままで起きた事柄に対しての活躍もあってこそだが、なにより信じているよ。仲間であるキミのことを」

 そこまで評価されてたなんてな。うれしい限りだ。

 まさかサーゼクスさんから『仲間』なんて言葉を言われるとは思ってもなかった。それだけで十分だ。この人はやっぱり、俺が信頼するに値する人だ。そして。俺が悪魔の中で唯一、頭を下げる方だということがわかった。

「まあそういうことだ、カイト。いまこの場にいる奴誰一人として、文句は言わせない。いいところは全部サーゼクスに持ってかれちまったがな」

 アザゼル……。

「タンニーン。悪いがここは目を瞑ってもらいたい」

 サーゼクスさんが、イリヤとクロを守っていたタンニーンにそう願い出る。

「もとよりそのつもりだ。オーフィスを止めれる者がいるなら喜んで見守ろう」

「そうか。聞いての通りだ、カイトくん。もうこの場にキミを縛るものはなにもない」

 サーゼクスさんの瞳が、「存分に」と告げていた。

 ここまでされて動かなかったら、この人たちのためにも申し訳ない。

「ありがとうございます! 正直、今回は無理だと思いますが、必ずオーフィスを取り戻します」

 そう、取り戻す。『禍の団』には渡さない。オーフィスは俺の家族だ。

「というわけでオーフィス。俺のとこに帰ってくる気はないか?」

 俺たちのやり取りを無表情で眺めていた彼女に話しかける。

「無理。いまの我、目的ある。そのために、蛇渡した」

「目的ってのはやっぱり」

「――静寂な世界。故郷である次元の狭間に戻り、静寂を得たい」

 それは知ってる。でも、俺の家に居ることはそれを実行に移したことはなかった。

 つまり、そのときが来たとでも言うのか? 

「わからないな、オーフィス。もう少し待てないのか? 俺がなんとかするそのときまで、待てないか?」

「わかってないのはカイト」

「俺が、わかってない? なにを……」

 オーフィスと向き合っていた俺は、不意にオーフィスの姿を視界から失う。

 その直後、至近距離で黒髪が舞った。

「我、カイトのこと大事。だから、危険な目遭わせるの勧めない。次元の狭間に戻ればそれもなくなる。カイトの手を借りずにそれ実行すれば、なにも起きない」

「……」

 次にオーフィスを視界に納めたのは、俺の体にピタッと抱きついたときだった。

 そのときにはもう、言葉を失っていた。なにも言えなかった。

 あのオーフィスが、そんなことを考えていたと、誰が想像する? 神すら手が出せない存在だぞ。そんなこいつが、なんで……。

「カイトが言うように、我もカイトのこと家族だと思ってる。だから我、危険なこと起きる前に帰る」

 満足したのか、抱きつき回していた手を離し、俺から距離をとった。

「カイト。カイトはもう関わるべきじゃない。我が与えた力をもって、アンラ・マンユにのみ集中するべき」

 言い残された言葉は、別れだった。家族と言われ、俺のことを気にかけたあいつの言葉は、別れだった。

 アンラ・マンユに集中するべき。これはもう、この争いに干渉するなという意味だろう。

 もう俺たちを気にすることなく、オーフィスは去っていく。

 このまま行かせていいのか? 次に会える保障はないぞ。でも、いまのあいつになにを言っても帰ってこない。だから。だからせめて――。

「ふざけるなよ!」

 ――言いたいことぐらいは言ってやれ!

「なに勝手に決めてんだよ! 俺はおまえをもう一度あの家に迎え入れてみせる! そう決めた! 危険な目に会うのは勧めない? もう関わるべきじゃない? 悪いが却下だ。とことん関わってやるよ。おまえが帰ってくるの、待ってるからな」

 言い終わるが早いか、オーフィスは姿を消した。

 消え去る瞬間、あいつは俺の声を聞いていただろうか? いや、聞いてないはずがない。

 言ったからには実行だ。

 手始めにディオドラでも蹴散らすか。俺のオーフィスの力を利用した奴だ。許せん。というか力を返したとしてももう許さねえ。

「さて、すいません。そういうわけですからオーフィスの件はもう少し時間をください」

「わかった。それではカイトくん。ここに来たからには協力してもらうよ」

「当然です」

 そもそもここにはイッセーたちの救援と、ディオドラを潰しに来たのであって、いままでの行動がイレギュラーな状態だったのだ。

「では、リアスたち眷属の救援に向かって欲しい。キミの仲間だ。頼めるね」

「はい。自分の中で、答えは出ています。彼らは俺の仲間です。やるべきことをします」

 サーゼクスさんは俺たちのここ数日の状態を知ってるっぽいからな。やはり心配ではあるんだろうな。

「来たからには義務を果たしますが、俺個人の意志として行動します。イッセーたちは任せてください」

 返答はいらない。

 聞きたいことは聞けただろうから。これ以上の会話は必要としない。

 ここからすべきことは、行動で示す。

「イリヤとクロを頼みます!」

「カイト! これまでに今回の首謀者であるクルゼレイ・アスモデウスはサーゼクスが消した。残り一人! 旧ベルゼブブの子孫が残っている! 注意していけ」

「了解!」

 アザゼルから情報が入る。

 首謀者はあと一人。そいつも蛇を貰ってるだろうから、見つけたら消してもいいよね。

 さあ、まずは目下のディオドラ! 待ってろ、すぐに潰してやるから!

 

 移動速度がどんどん加速していく。

 そして俺は、神殿に向かった。

 そのころイッセーたちが、アーシア救出のためディオドラとその眷属と戦闘を繰り広げ、すでにディオドラと戦闘中であることを知らなかった。知っていたなら、イッセーとディオドラの一対一の戦いに横槍を入れたりしなかったのに……。

 しかし、時すでに遅く。

 ドゴォォォォォンッ!

 壁をぶち破り、ディオドラがいると思われる部屋に進入する。

 そして、その存在を発見する。

「……いた」

 そこからの行動は、我ながらはやかった。

 黒い魔力を拳に纏わせ、一発。ディオドラに肉薄し、その右頬に突き刺す! 俺の一撃と同時に、赤い魔力を纏った拳が、ディオドラの左頬に突き刺さった。

「あ、が……?」

 なにが起きたかわからないであろうディオドラは、奇妙な声を漏らし真上に回転しながら吹っ飛んでいった。

「さあ、オーフィスから蛇を貰ったクソ野郎! 報いを受ける時間だぜ!」

「アーシアを傷つけたクソ野郎! てめぇだけは絶対に許さねぇッ!」

 拳を放つタイミングだけでなく、台詞を叫ぶときまで重なるか。ったく、本当にここ数日はなにやってたんだかな。ここまで息ピッタリの相手を無視していたとは。

「カイト、おまえなんで……」

 ようやく俺の存在に気づいたそいつは、困惑した表情を見せていた。

 だから俺は、こう言ってやった。

「ようイッセー。おまえたちを助けに来た」

 それが俺とイッセーの、十日ぶりの会話だった。

 

 


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