ハイスクールD×D 精霊と龍神と 作:きよい
もう夜明けか。
結局一睡もできなかった……。
携帯で時間を確認しようとすると、
「うわぁ……」
着信履歴がたんまりと。
朱乃さん、小猫、イリナ、イヅナ、ガブリエルさん、祐斗、部長。まったく。って、全員何回かけてきてるんだよ。一人五回はやりやがったな?
けど、こっちから連絡を入れるのもなぁ……。ああ、でも学校行かないと。
とりあえずイリナにでも連絡入れとくか。
休むか休まないかはともかく、連絡だけはしておこう。捜索でもされたら面倒だ。
それと、ついでだ。朱乃さんにも、今後のことを話しておこう。
その連絡を終えてしばらく。
――俺はまだ、公園から動けないでいた。
<イッセーSide>
カイトとケンカに近い状況になってしまった俺は、翌朝にあったことを部長たちに話していた。
「そう……。いろいろ考えていたことが裏目に出たってことね」
「すいません、部長。俺ももう少し言い方を考えればよかったんですけど……」
「イッセーのせいでも、カイトのせいでもないわ。けど、どうしようかしら」
部長がそう言ってくれた。けど、カイトと衝突しかけたのは俺で――。
そして、やっぱり一番傷つくのはカイトだ。
「部長。やっぱり、カイトはこのままにしておきましょう。俺たちと違って、本当なら悪魔、天使、堕天使と『禍の団』との戦闘にも、俺たち個人の問題にも関わりは無かったんです。今回、こんな形にはなりましたけどあいつはもう俺たちに協力しないと言ってましたし、普通の生活に戻るいい機会なんじゃないすかね」
俺たちのために、カイトが傷つくことはこれでなくなるだろ。本当なら、カイトはこっち側にいるべきじゃない。あいつにはあいつの戦いがある。
そのためにも、俺たちにかまっている場合じゃないだろ。
こんなことしか考えられない俺は、間違っているのかな……。
「確かに、これでカイトは私たちのためにがんばることもなくなるけど……。当初の目的と大分違う結果になってしまうわ」
「今朝、カイトくんから連絡がありましたわ。私と小猫ちゃんはこのまま家に住んでくれてかまわない。好きに使ってくれって」
――ッ!? それって、それって……。カイトはもう、帰ってこないつもりなのか? 昨日家に帰ってないことは聞いていた。部長もカイトに連絡を入れていたし。
俺は心配していても、昨日の一件があるからと連絡できなかった。
「カイトくんは、これからどうするつもりでしょうか?」
木場が心配そうに聞く。
「とりあえずはゆっくりすると。悪魔との協力関係をどうするか、少し時間を置いてから話したいとしか聞いていません」
「こうなった以上は、当然の結果ね……。悪魔とも関わらない方が、完全に自由にできるもの」
俺たちの中では、すでにカイトを諦めるという意見で決着しているように感じる。実際、それは正しいのかもしれない。いままでがおかしかっただけ。これからは、正常な状態に戻るだけのことだ。
「本当に、それが正しいんでしょうか?」
「え?」
アーシアが突然、話に入ってきた。
「私にもわかりませんが、カイトさんの言葉は本心からのものなんでしょうか? 本当に望んでいることを言っているのか、私にはわからないんです」
「アーシア……」
「カイト先輩の気持ちがどうであれ、私は先輩にここに居て欲しいです」
「小猫ちゃん」
でもそれは、俺たちの意思でもう一度カイトに頼ることになるんじゃないのか。また、カイトを不条理に巻き込む結果になるんじゃないのか?
「それでも、私たちがこれ以上カイトを縛ってはいけないわ」
「……」
部長の一言に、みんなも黙ってしまう。
カイトを縛る。
その言葉が意味することは、とても大きい。いまになってわかる。いままでの戦闘で最前線にいたのはカイト。その状態に甘んじていたのが俺たち。いつのまにか、カイトを眷属の一員のように扱ってしまった。そして、任せてしまった。
だから、これ以上カイトを巻き込むのはやめにしよう。そういう話だ。
「俺たち、カイトとはこれからどう接していけばいいんですか?」
「すぐには難しいかもしれないけど、ただのクラスメイトとして接してちょうだい。本当は、少し休んでもらうだけの予定だったのだけれど。でも、これでよかったのかもしれない。だからみんな、お願いね」
返事はなく、ただ無言の時間が続いた。
全員の表情に、迷いが見えていた。それでも、誰も反対意見を出すことはなかった。
それから十日間。カイトは家に帰らず、でも学校には来る生活を送っていた。俺たちは距離感が掴めず、話すことは無かった。互いが互いを避けているのとは違う。カイトは普段通りだった。ただ、あいつの中に俺たちが映っていないだけのような気がした。俺たちは、意識的に避けてしまっていた。関係のとり方としては、どっちが正しいのだろうか。
その日の深夜。俺たちはオカルト研究部の部室に集まっていた。今日は決戦日。ディオドラとのレーティングゲームの日だ。カイトの声が聞こえない、初めてのゲーム。
けどいまは、ゲームに集中しよう。だいじょうぶ、パワーだけなら負けない。相手が突っ込んできたら返り討ちにしてやる!
でも、まずはディオドラだ。アーシアが魔女と呼ばれる理由を作った張本人。そして、アーシアを我が物にしようとしてきたクソ野郎。あいつにアーシアは絶対に渡さない。俺が、アーシアを守る!
全員が中央の魔方陣に集まり、転移の瞬間を待つ。そのさい、アーシアが俺の手を不安げに握ってくる。
俺は無言で微笑み、手を握り返した。
そして、魔方陣に光が走り、転送のときを迎えようとしていた――。
<イッセーSide out>
この十日間、結局一度も兵藤たちと話していない。こんなことは初めてだ。あいつらは俺を見ると自然と避けていくし、俺もそれに倣うように、映らないものとして扱った。
なにを考えていたのかは最後までわからなかったが、もういいか。
十日間は家の近くに建つマンションの空き部屋を使っていた。金には困ってないから部屋を借りることに抵抗もない。
五日ほどまえだろうか。アザゼルから連絡があった。その日から数えてちょうど今日。グレモリー眷属が他の若手悪魔とのレーティングゲームに臨むとのことだ。相手はディオドラ・アスタロト。夏休みに一度顔を見た奴だ。胡散臭い奴だった覚えがある。
「まあそれも、どうでもいいことか」
深夜。誰もいない公園で、俺の声だけがよく聞こえる。もはや俺に役目はなく、出番も必要とされていない。ただのゲームだ。なにか起こると考える方がおかしい。
けれど、俺の考えはこの後すぐに崩れ去った。
公園に携帯の着信音が響く。誰だよ……。
アザゼルからの着信?
「……どうかしたのか?」
『どうかしたのかじゃねぇ。周りを見てないのか? 敵だらけだろうが』
「なにを言ってる? この公園に敵なんかいない」
『公園!? カイトおまえ、こっちに来てないのか? リアスたちについて来てるものだと思ってたんだがな』
「悪いな。それで、敵がどうしたって?」
『ディオドラ・アスタロトの裏切りだ。オーフィスから「蛇」でも貰ってたんだろう。急激なパワーアップもあったしな。そんでもって、イッセーたちのレーティングゲームは「禍の団」旧魔王派の襲撃を受けている。ゲームのフィールドも、近くの空間領域にあるVIPルーム付近も旧魔王派の悪魔だらけってわけだ。そいつらをいま、各勢力が協力して撃退してるってわけだ。それと、旧ベルゼブブと、旧アスモデウスの子孫が首謀者として挙がっている。最悪なことにイッセーたちはディオドラに捕まったアーシアを助けるって聞かねえしよ。それともうひとつ最悪な事態だ。ゲームフィールドごと結界で覆われてて、そんじょそこらの奴らじゃ救援として入ってこれない』
「なるほどな。それでか」
『ああ。無理にとは言わないが、来れるようなら来てくれ』
通話はそこで途切れた。
アザゼルは俺とグレモリー眷属の状況を聞いてないのか? 来れるようならか。
そもそも俺一人じゃ冥界にも行けないっつうの。それを、次元の狭間に作ってるようなフィールドに力任せに入って来いって……。
「大体、助けてくれなんて言われてないし、協力もいらないって言われたばかりだっての」
もう俺が関わる案件じゃない。あいつらも俺を必要とはしていない。
「なら、行く必要もないじゃないか」
『話は聞いていましたよ』
「ちょっと、もしかして手伝うつもり?」
「……でも、困ってそうだし」
「それで助けてたら助ける人なんて減らないわよ」
「で、でも……。私たちと同じ感じがするの、あの人」
『仕方ないですねぇ。それじゃあ少しだけ力を貸してあげましょうか』
「はあ……もういいわ。さっさと済ませましょう」
勝手なことを言い合う二人が、俺を見ていた。ピンクの衣装と、赤と黒の時代を間違えたような服装の少女たち。そして、声を発するステッキ。
表現するなら、魔法少女が適切だろうか? まあ、それはこのさい無視だ。
「なんの用かな?」
「お兄さんの、お手伝いをしに」