ハイスクールD×D 精霊と龍神と   作:きよい

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4話

 よし、ひとまずわかったことは、ピンクの衣装はただのコスプレであること。

 二人の女の子が従姉妹の関係であることがわかった。いや、似すぎだろおい。

「で、そっちのえーと……。名前聞いてないや」

「クロエ・フォン・アインツベルン。クロって呼んでね。それでそっちで落ち込んでるのが」

「イリヤスフィール・フォン・アインツベルンです……」

「長いからイリヤで問題ないと思うよ」

「わかった」

 日焼けしたように黒い方がクロエで、ピンク衣装の方がイリヤか。にしてもへこんでるなぁ。

「気にしなくていいぞ。うちにも恥ずかしい格好してた黒猫がいたからな」

「猫と同じ扱い……」

「猫と言っても普通の猫とは大分違うけどな。まあそういう衣装には慣れてるから、気にしなくていい」

 さて、どうにか話はできているが、この子たちはここでなにやってたんだか。訊いても答えが返ってくる感じじゃないし。それよりここで魔力を感知したガブリエルさんの話を聞くことが先か。

「ところで二人はいつもこの公園にいるのか?」

「最近は結構」

「じゃあ聞きたいんだけど、昨日の夕方変な人たちを見たりしてないか? 何かを話してたり、魔方陣を書いてたりする不思議な人たち」

 二人は顔を見合わせ、

「見てないよ」

 そう答えた。そこに嘘の色は感じられない。

「そうか……。ということは感知した魔力はやっぱ間違いか? いや、それともこの公園には他にも意外な隠れ場所があるのか?」

「魔力?」

「ああ、いや! なんでもないなんでもない!」

 つい漏れた言葉を聞かれたので、反射的に焦りが先行してしまった。あ、怪しまれたか?

「……」

「……」

 しばしの沈黙の後、口を開いたのはクロだった。

「まあいいわ。それでお兄さんはその変な人を探してるの?」

「あ、ああ。まあな。この町にとってそいつの発見はわりと重要なことなんだ」

「この町?」

 そろそろいいだろう。この子たちは無関係。それでいい。

「昨日イリヤには言ったが、この町には悪魔、天使、堕天使がいるんだよ。そいつらと争ってる連中だっている。というわけで、遅くならないうちに帰るんだぞ。じゃあな」

 なにかを言いたそうにしていたイリヤを見なかったことにし、二人に背を向ける。

 さてさて、あの子たちじゃないとしたらどこの誰だか。

 いや……。あの子の衣装。あれがやはり――。

 やめよう。関係ないと決めたはずだ。人を傷つける子たちじゃないとわかっただけでいいじゃないか。一番の問題は、そこじゃない。

 いま一番の問題は、俺の中にある――いや、俺の周りをとりまく環境と言えばいいだろうか。

 あいつらにとって、俺はどれほどの意味を持つのだろう。

 

 

 

「行っちゃったね。あーもうビックリした……」

「ルビーが声を出さなくてよかったわ」

『あはー。それはもう。あんな方に目をつけられたらいまのイリヤさんじゃ終わりですからね』

「別に悪いことしてないんだけど」

「そうね。それにしてもあの人も効率よさそう」

「ダメだからね!? また勝手にああいうことするの!」

「なにイリヤったらやきもち? だいじょうぶよ。イリヤから貰うから」

「そ、それもなんだか……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日も、朱乃さんと小猫は帰ってくるのが遅いらしい。

「二人ともなにかあるのかしら? ねえカイトくん」

 部長たちから話を聞いていないのか、事情を知らないイリナが俺へと問いかけてくる。

「グレモリー眷属に依頼が来ていて、結構大変らしいよ」

「ふーん……。部員なのにカイトくんは手伝わないの?」

「オカルト研究部の活動じゃなく、グレモリー眷属の活動だからな。俺は休みだってよ」

 本当なら、それも不自然に思う。

「不思議ですね。カイトさんはいままでライザーさまとのレーティングゲームに、聖剣回収のとき、私たちの参加していた会談でのときもグレモリー眷属のみなさまと一緒に行動していたのに」

 ガブリエルさんが俺と同じ考えに至ったのか、そう口にした。

 そう、まさにその通りだ。なのに今回だけ外された。

「みんなはみんなでなにか考えがあるのかもしれない。それを邪魔するわけにはいかないからな。依頼が終わってみて、話せることなら話してくれるだろ」

「お、大人の対応すぎるわ……」

 ガブリエルさんは頷き、イリナはよくわからんが憧れの眼差しらしきものを送ってきた。こわい。

「……じゃあ俺はもう寝るよ。おやすみ」

「おやすみなさい」

「おやすみ、カイトくん」

「おう。イリナ、ガブリエルさんと仲良くな」

「ま、任せて!」

 緊張してはいるだろうけど、力強い言葉だった。

 イリナが一歩的に感じている溝は、多分もうじき埋まるだろう。

 反対に、俺とみんなの溝は、だんだんと広がってきている気がした。でも、それを認めたくは無かったのだろう。

 気づいていても、それを言葉にする人は誰もいなかった。

 

 

 

 

 

 

 朝、か……。

 カーテンを開けると、窓から外の景色が見える。

 まだ五時。しかし、家の扉を開け、外に出て行く影がふたつ。朱乃さんと小猫だ。

 こんな早くから家を出ないといけない程、今回は大変なのか? ということはイッセーや祐斗ももう集まっているのかもな。

 俺も、今日ははやめに学校に行くか。

 思うがはやいか、俺は制服に手をかけた。

 

 

 

 六時半。学校に来るには早過ぎた。

 聞こえるのは運動部の掛け声くらいのものだ。

 クラスに来たはいいものの、当然誰もいない。部活に顔を出したいところだが、それはしない方が懸命だろう。みんな朝早くから夜遅くまでがんばっているのだ。横から割ってはいるのも憚られる。仕方ない、ここは読書でもして暇潰しだ。

「あ……」

 まいったな。家を出るのがはやかったせいか。

「本持ってくるの忘れた……」

 ただ座っているのも暇というものだ。たまには学校の散策でもしてくるかな。

 かばんを机の横に置き、席を立った。

 それから一時間ほど、俺の散策は続いた。

 そして、ちらほらと生徒が登校してくる時間になった七時半。俺は正門前にいた。そこで思いもよらない人物を発見した。

 グレモリー眷属のみんなはいま、旧校舎の部室にいるはずだ。朱乃さんが書いたであろう置手紙にそう書いてあった。間違いない。

 だというのに。

「なに呑気な顔して登校してきてやがる……」

 そいつも俺に気づいたのだろう。軽く手をあげあいさつしてきた。

「あ、おうカイト。どうした、正門で突っ立って、っておい! カイト!?」

 俺はそいつを引っ張り、人気のない校舎裏へと連れてきた。

「カイト、何の真似だよこれは」

「なあ、今日朱乃さんと小猫は朝早くから依頼のために出掛けていったよ。夜も帰ってくるのは遅いし、がんばってるのはわかる。なのに、なんでおまえはこんな時間に登校してきてるんだ?」

 俺は自分の中で制御しきれなくなった感情を、いま眼前にいる相手――イッセーに向けた。

「か、カイト? なに怒ってるんだよ」

「その感じから察するに、おまえが他の場所で依頼のために別行動をしてたわけじゃなさそうだな。俺が聞きたいのは、なんでおまえはこんな時間に登校してきたかってことだ」

「……。朱乃さんと小猫ちゃんはもう来てるんだよな?」

「ああ。依頼のためだって言ってた。だから、おまえも来てると思ってたんだけどな」

 イッセーはなにかを言う素振りを見せてから結局口を閉じた。

「俺は今回なにも出来ないし、させる気もないのはなんとなく伝わってきたよ。だからこそ、おまえたち全員が必死になってがんばってると思ってたよ。なのになんだよ、おまえときたら。みんなのこと心配してる俺が――」

「うるせえよ!」

「なに?」

「勝手なことばっか言ってんなよカイト! おまえの考えを勝手に俺に押し付けるな! 今回だって、俺たちはいろいろ考えてやってきたことなんだよ。それをおまえに言われる筋合いはないだろ! そもそもこんな事態になってる原因はおまえなんだよ! いや、それはいい。とにかく、おまえはもう口出しするなよ、体育祭までの辛抱なんだから。おまえの協力がなくたって、俺たちはどうにかできるようになるまでにはまだ時間が必要なんだ。俺たち全員が、おまえに負担をかけないためにも――」

「うるさいのはおまえだ」

「――ッ!?」

 ああ、やっちまった。この声は、優しくない。

「俺はおまえらのためにできることがあればいつでもやるつもりだった。朱乃と小猫を見てて思った。今回は大変そうだって。だから、手遅れになる前に協力させてくれればいいと思ってた。悪かったな。俺の勘違いだったようだ。だって、おまえらは俺を必要としないんだろう? いままでと違って、これからは」

「そういう意味で言ったわけじゃなくてだな、俺たちはただ、今回は俺たちだけで大丈夫だってことを言いたくて」

「だから、俺は必要ないんだろ?」

 思っていなかったわけじゃない。今回外されたことに、なにも感じなかったわけじゃない。不満が無いかと聞かれれば、間違いなく答えはNOだった。

 だから、感情が抑えきれない。

 それは人として、当然のことに思えた。

「……ああ、そうだな。俺たちはそうなりたいと思ってる。だから、今回俺たちはおまえの協力はいらない。しっかり休んでくれればそれでいい」

 そんな状態だから、イッセーが言いたかったことを、しっかりと理解できない。

「そうか。ならせめて、さっさとみんなのところに行ってやれよ」

「まだ言うのかよ! ああ、行くよ。いまの会話で疲れたからな!」

 言われたのが二回目のせいか、苛立ちと怒気を含んだ声を発しながらイッセーは離れていく。

「協力がいらないことは理解した。安心しろよ。もう俺が勝手になにか言うことはない。おまえに考えを押し付けることもない。そして、おまえたちを助けることも、ない――」

 兵藤の背に向かいそう投げかける。

 それで会話は終わった。

 俺は兵藤に背を向ける。

 この日、俺は初めてグレモリー眷属の誰とも話さなかった。そして、夜になっても家に帰ることはなかった。

 俺はこの日初めてわかった。イッセー……。いや、兵藤は俺の力を必要としていなかったことに。

 星空を見ながら、いくつもの思いが頭を過ぎっては消えていく。

 結局、何の答えも導き出せないまま、町外れにある公園で夜明けを迎えた。

 




今回の章はあまり長くせず終わらせる予定です。前章みたく長くなったりはしません。

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