ハイスクールD×D 精霊と龍神と   作:きよい

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3話

 謎を残していった少女と別れ、家に着いたのだがどうしよう。家の前に少女が一人いるではないか。他人のフリをして家に入りたいところだ。

 キョロキョロ。タタタ。ピタッ。オロオロ。

 忙しない。

 というか挙動不審気味だ。人の家の前で辺りを見渡し、扉の前まで走っていき止まり、今度は入っていいのかどうか迷っている感じだろう。

 その少女だが、別に知らない他人というわけではない。むしろつい最近俺の家にやってきた住人だ。誰かというと――イリナだ……。

 なにを考えているのか、家に中々入らない。やめろ! それ以上はご近所さんに変人認定されるぞ!

 というか俺が家に入れないだろ!

 イリナを後ろで観察していた俺が言えたことでもないが、変人度で言えば圧倒的にイリナの方が上だ。

 そんな俺に気づいたのか、ビクッと体が跳ね、直後顔が真っ赤に染まる。

「せ、聖女さま!? い、いたなら声をかけてくれればいいのに!」

「まず、その聖女さまって呼び方をやめろ。聖女なんて柄じゃない。家のみんなはカイトって呼ぶし、それでいいだろ?」

 このイリナ。うちに来てから俺のことを『聖女さま』としか呼ばない。

 流石に外や学校で呼ばれるのは困るので、はやめに手を打つ必要があると判断しての行動だ。

「じゃ、じゃあ……カイトくんって呼ぶわ! 聖女さまを名前で呼ぶのは恐縮だけど、呼ぶわ!」

 この子、洗脳されてるんじゃないかってくらいの信仰心だ。

「よ、よし。じゃあこれで俺の呼び方の問題は消えたわけだ。それで、なんで奇怪な行動とったんだ?」

「それは……」

「それは?」

「家にガブリエルさまがいると思うと、ドキドキして入れなくて……」

「おい……」

 キミはなんのためにうちに来たのよ。ガブリエルさんがいるからでしょう?

「うちに住むんなら、住居人を避けてもらっちゃ困るぞ。うちではみんな仲良く、上下関係なしの生活を送ってるんだ。おまえだけそれができないとかなしだからな」

「が、がんばるわ……」

「んじゃあもう中入ろうぜ。あまり奇怪な行動をとる前に」

「そ、それは言わないで!」

 最後に周りの目がないことを確認し、家に入った。

 

 

 

 平日、この時間家に居るのはガブリエルさんとティアマットだけだ。家の住人の半分以上が学生だから仕方の無いことではあるが。

「あら~カイトさん。おかえりなさい。今日は帰ってくるのがはやいですねぇ」

「ああ、まあその……。部活の方はなんだかグレモリー眷属だけで依頼にあたるそうですから、俺は必要ないそうです」

「そうですか。そんな話は聞いてませんが。あら、イリナちゃんも一緒でしたか。おかえりなさい」

「た、ただいま……です」

 ぎこちねー。

 まあいい。これから慣れさせるだけだ。

 ガブリエルさんはどうやら地図と睨めっこしている様子。

「なにかあったんですか?」

「少し前に、魔力がはねました。ごく僅かですが私たち天使、悪魔、堕天使のものとは違う系統のものだと推測されます」

 僅か、か。道理で俺が感知できないわけだ。

 けど、ガブリエルさんはよく感知できたな。

「それで、場所はわかったんですか?」

 そう聞いたのはイリナだ。

「大体の場所なら。町外れにある公園ですね」

「なに?」

「どうかしたの?」

 イリナが不思議そうに聞いてくる。

「今日、帰ってくるまでにその公園を通ってきたんだけどな……。見たのは女の子一人だけだぞ。なにかの間違いじゃないか?」

「いえー。間違ってないかと。見えないところに人がいた可能性もあります」

「……」

 そう言われてはなにも言い返せない。

 仕方ない。明日また行ってみるか。事態は急を要するわけでもない。

「なにかまずいことが起きたわけでもないでしょうし、今日のところは放っておきましょう。もし俺たちの敵なら、そのときに潰せばいいだけです」

「……わかりました。ではそういうことで」

「なにがどうなったの?」

 イリナには後で特別講座を開いてやろう。

 

 思い出してみれば、さきほどガブリエルさんはグレモリー眷属に依頼が来ていることを知らなかった。天界側の人だし、知らないこともあるだろうが、なんだか不自然だ。

 部長の言葉にしても、突発的すぎる。

 普段のあの人なら何日も前に話していてもおかしくない。

 ……。なにかあったか? いや、介入されたくない事態があったと考えるのが普通か。結局のところ本人たちに訊くしかないんだが、いま訊いても話してはくれまい。

 依頼とやらが終わってから訊けば解決か。少し遠い話だ。

 

 この日、朱乃さんと小猫は帰るのが遅くなると連絡があった。

 どうやら依頼の件で手間取っているらしい。

 なにかあれば協力したいところだけどなぁ。できれば、手遅れになる前に――。

 

 

 

 

<イッセーSide>

 カイトが帰り、ディオドラがアーシアと自分の眷属を交換しないかという話を持ちかけてきてから、三時間が経つ。

 もちろんディオドラの野郎には話を聞く前に帰ってもらった。

 部長もゼノヴィアも、他のみんなも少しピリピリしてるぜ。

 それと、若手悪魔同士でのレーティングゲームだが、会長たちに続いて、次の相手が決まった。そう、ディオドラだ。絶対負けねえし、アーシアも渡さない。

 だけど、いま話をしているのはそのことじゃない。

 カイトのことだ。

「私たちがはやめに帰ると疑われる可能性もありますわ」

「依頼の話を訊かれたりしたら、なにを話せばいいですか?」

「そうね。カイトのことだからそんなに深くは訊いてこないと思うけど、もしものことがあったら大変だわ。少し依頼内容を考えておきましょう」

 いまも朱乃さん、小猫ちゃん、部長で会議が行われている。

「大変そうだね」

「だな。カイト一人休ませるのにここまでする必要があるなんてな」

「それだけみんな、カイトくんのことが大事なんだよ」

 木場がそう言う。

 何度も助けてもらったし、俺たちのことをよく考えてくれている。カイトが俺たちの仲間であることはもう覆らない事実だ。

「だからこそ、一人にだけいろいろ背負わせるわけにはいかない、か……」

「そうだね。ここらでカイトくんには少し休んでもらわないと」

「わかってるさ。だから俺たちもクラスでなに訊かれてもいいように対策を考えますか」

「そうだね」

 朱乃さんと小猫ちゃんがカイトへ帰るのは遅くなるという連絡を入れている。

 俺は木場とアーシア、ゼノヴィアと作戦会議だ。カイトは鋭いとこあるからな。しっかりしてないとばれちまいそうだ……。とくに俺が原因で。

 俺、がんばります! 仲間のために!

 

 

<イッセーSide out>

 

 

 

 

 

 さて、部活に来なくていいと言われてから二日目だ。放っておくと部室に足が向いてしまいそうなので放課後は素早く学校から抜け出した。

 そして、昨日と同じように町外れの公園へと出向く。

 昨日となにも変わらない、人なんていない公園だ。

 だけど、声が聞こえた。

『それ――失敗す――です……』

「才能の――だいじゃな――」

「く、ク――それ――ひどい!」

 昨日聞いた声だ。ボールを渡した女の子。

 それと、他に二人?

 茂みの奥へ入っていくと、広い空間があった。

「へえ。この公園って実は広かったのか」

「「『え!?』」」

「ん?」

 三人分の驚きに満ちた声が聞こえる。

 そして俺は俺で疑問ばかりが頭をよぎる。眼前の景色。うん、最近の小学生はおかしい。いやいや、これが最近のファッションなのか?

 昨日会った女の子と、その子によく似た……というか同一人物とも思える容姿の女の子。ただ日焼けしてるのか、肌の色が少し濃い。

「昨日ボールを渡してくれた人!?」

 流石に覚えていたらしく、俺を指差してくる。こらこら、人を指で差すんじゃありません。

「最近の小学生は、そんなピンクの衣装が流行ってるのか?」

「あっ……」

「逃がすと思ってるの?」

 自身の格好を思い出してか、脱兎のごとく逃げ出そうとした昨日会った少女を、隣にいた女の子が捕まえる。

 こっちの子は普通の服だ。

 流行ってる……わけじゃないのね。

「く、クロ!? 放して! 私このままじゃ変な人だからぁ!!」

「だいじょうぶでしょ。そっちのお兄さんはどう見ても一般人じゃないから」

「へえ? 俺、一般人側なんだけどなぁ。とくにこの町ん中じゃ」

 悪魔と天使に堕天使の蔓延る町だ。ちょっと特殊な人間なんか、一般人だろ。

 目の前の女の子の言葉に、どんな意味が込められていたかは知らないけどさ。

「まあいいや。とりあえず、少しお話しようか」

 


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