ハイスクールD×D 精霊と龍神と 作:きよい
1話
夏休みも終わり、すでに新学期――二学期だ。
始業式も終え、駒王学園は九月のイベント、体育祭の準備へと入っていた。
体育祭って、俺やイッセーたち悪魔が本気を出せないからなぁ……。出したら圧倒的すぎてつまんないし。
それでも楽しく感じるのは、やっぱみんなが側にいるからだろうか?
どちらにしろ、去年とは違って、少しは楽しみだ。
「お、おい! 大変だ!」
突然、クラスの男子の一人が急いで教室に駆け込んでくる。なんだ? よっぽど衝撃的なことでもあったのか?
そいつは友人から渡されたミネラルウォーターを一口あおり、気持ちを落ち着かせると、クラス全員に聞こえるように告げる。
「このクラスに転校生が来る! 女子だ!」
一拍あけて――。
『ええええええええええええええええっ!』
クラスの全員が驚きの声をあげた。俺を除いて。
いや、だって……。どうでもいいじゃないですか。
そう思った俺は、冷めているのだろうか? いや、無関心なことにはいつでもこうである。
「えー、このような時期に珍しいかもしれませんが、このクラスに新たな仲間が増えます」
先生の言葉にみんながわくわくしていた。
近くの席に座るイッセーなんかテンションが高まっている。そりゃ女子だもんな。イッセーはテンション上がるよな。
「じゃあ、入ってきて」
先生の声に促されて入室してきたのは――。
「「「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおっ!」」」」」」
歓喜の声が男子たちからわき上がる。
入室してきたのは、栗毛ツインテールの美少女だった。なるほど、男子どもが騒ぐのも納得の容姿だ。
さて、ここで問題だ。
イッセーが喜ぶより先に驚きの表情を見せている。見れば、アーシアとゼノヴィアも似たような感じだ。
さて、どうやら転校生は悪魔に関わりのある人物らしい。
その彼女がペコリと頭を下げたあと、にこやかな表情で自己紹介してくれる。
首から下げているのは十字架か? そうなら悪魔じゃないな……。
「紫藤イリナです。皆さん、どうぞよろしくお願いします!」
紫藤、イリナ……。はて、なんだか少し前に聞いたような気もする名前だがどうだっただろうか?
いや、思い出せない時点でそこまで深く関わった仲ではないのだろう。
それはつまり、会っていても、協力していたとしても、彼女は俺の仲間ではないということに他ならない。その他大勢の一人だ。
こう考える俺を責める友人は何人いるだろうか?
「紫藤イリナさん、あなたの来校を歓迎するわ」
放課後の部室。オカルト研究部メンバー全員、アザゼル、ソーナ会長が集まり、イリナを迎え入れていた。ちなみに俺の膝の上には小猫、横には朱乃さん。おいおい、小猫はともかく、朱乃さんは『女王』でしょ? 部長の横にいなくていいんですかー?
「はい! 皆さん! 初めまして――の方もいらっしゃれば、再びお会いした方のほうが多いですね。紫藤イリナと申します! 教会――いえ、天使さまの使者として駒王学園にはせ参じました!」
パチパチパチ。部員のみんなが拍手を送る。
話を聞くと、天界側からの支援メンバーらしい。確かにここには悪魔と堕天使が多くて、天使なんてガブリエルさんしかいないし、この主に地域で活動してるってわけでもないからな。そういう意味では、うれしい増援なんだろう。
それはそうと、俺は確認したかったことがあったので、イッセーに耳打ちする。
(なあイッセー)
(なんだ、カイト)
(あのイリナって誰だっけ?)
(はい?)
(いや、だからさ。なんとなくひっかかるんだけど、イリナって誰?)
ここまで聞いてイッセーは絶句していた。
(じ、冗談だろ!? コカビエルのときにゼノヴィアと一緒に聖剣回収に来てただろ!?)
(聖剣回収――ああ、緋夥多か。悪い悪い。ヴァーリと緋夥多と祐斗のことが印象強すぎて忘れてたわ。いたいた、うん、いたよ)
(忘れてたのかよ……)
(とくに接点なかったし)
思い出せるとスッキリするな。確かにゼノヴィアと一緒にいて、学園まで案内した気もする。
でもやっぱりほとんど接した覚えもないし、忘れてても仕方ない。
(あのころのカイトって、黒歌とオーフィスに振り回されてたし、部活のみんなのこともあったものね)
(だよな。俺、悪くない)
レスティアからの弁護? もあり、とりあえず今回のことは記憶の底に埋めることを決めた。
ちなみに、思い返してみると信仰心の強いイリナだが、神の死の話をアザゼルが始めると、大分ショックだったらしく、知った当時は七日七晩寝込んだということを語っていた。こいつやばい。
いまでも思い返すと大号泣する始末だ。やばい。
そんな状況も、アーシアとゼノヴィアに支えられ復活していた。
復活したイリナはふいに立ち上がり、祈りのポーズをする。――すると、パァァァァァと彼女の体が輝き、背中からバッと白い翼が生えた。
へぇ。天使化か。
同じ考えに至ったであろうアザゼルが質問すると、
「天使化!? そんな現象があるんですか?」
イッセーがつれた。
「いや、実際にはいままでなかった。理論的なものは天界と冥界の科学者の間で話し合われてはいたが……」
「はい。ミカエルさまの祝福を受けて、私は転生天使となりました。なんでもセラフの方々が悪魔や堕天使の用いていた技術を転用してそれを可能にしたと聞きました」
色々考えるね。三大勢力が協力すると可能になることが増えるわけだ。
さらにイリナが話を進める。
「四大セラフ、他のセラフメンバーを合わせた十名の方々は、それぞれAからクイーン、トランプに倣った配置で『御使い』と称した配下を十二名作ることにしたのです。カードでいうキングの役目が主となる天使さまとなります」
「なるほど。『悪魔の駒』の技術か。あれと堕天使の人工神器の技術を応用しやがったんだな。ったく、伝えた直後におもしろい開発するじゃねぇか、天界も。悪魔がチェスなら、天界はトランプとはな。まあ、もともとトランプは『切り札』という意味も含んでいる。神が死んだあと、純粋な天使は二度と増えることができなくなったからな。そうやって、転生天使を増やすのは自軍の強化に繋がる」
これも可能になったことのひとつか。
「そのシステムだと、裏でジョーカーなんて呼ばれる強い奴もいそうだな。十二名も十二使徒に倣った形だ。まったく、楽しませてくれるぜ、天使長さまもよ」
くくくとアザゼルは楽しげに笑みを漏らしていた。本当に、技術とか、その手の話が大好きだ。
「それで、イリナはどの札なんだ?」
イッセーが気になったのか訊く。するとイリナは胸を張り、自慢げに言う。
「私はAよ! ふふふ、ミカエルさまのエース天使として光栄な配置をいただいたのよ! もう死んでもいい! 主はいないけれど、私はミカエルさまのエースとして生きていけるだけで十分なのよぉぉぉぉっ」
おお……。輝いてらっしゃる。おもに目が。あ、左手の甲に「A」の文字が。
にしても天使版『悪魔の駒』の運用か。こりゃ近い将来『悪魔の駒』と『御使い』のゲームも実現できるかもな。それならそれで楽しみだ。
「その辺りの話はここまでにしておいて、今日は紫藤イリナさんの歓迎会としましょう」
ソーナ会長と部長が笑顔でそう言ってくれる。
イリナも改めてみんなを見渡して言った。
「悪魔の皆さん! 私、いままで敵視してきましたし、滅してもきました! けれど、ミカエルさまが『これからは仲良くですよ?』とおっしゃられたので、皆さんと仲良くしていきたいと思います! というか、本当は個人的にも仲良くしたかったのよ! 教会代表としてがんばりたいです! よろしくお願い致します!」
どうやら、彼女も駒王学園に仲間入りらしい。これからは忘れないよう、少しは接していこう。多分、これは勘でしかないことだが、彼女も守る対象に入る日がくるだろうから――。
その後、生徒会のメンバーも合流して、イリナの歓迎会がおこなわれた。
そして、誰が言ったか不用意な発言が、その後の彼女と俺の接する点を、大きく増やした。
「ところでイリナさんはどこに住むんですか?」
「考えてなかったんですけど、ミカエルさんが家を増設してくたそうなのでそこに――」
「天使って言えば、カイトの家にはガブリエルさまがいた。てっきりガブリエルさまと一緒に住むのかと思ってたよ」
「ガブリエルさまが、この地域に?」
「訊いてなかったのかい? カイトの家にいるはずよ」
「カイト? 聖女さま!? だったら私もそこに住む! ガブリエルさまと聖女さまが一緒にいるのってなんだか凄い気がしてきたわ! ミカエルさまに許可をもらわないと!」
そんな会話が途切れ途切れに聞こえてくる。
俺の家、そんなに人集めてどうすんだよ……。しかも、性質の悪いことに俺の家に人が住むと言ったとき、俺の意見が通ったことはない。つまり、住みたいと言った奴が必ず勝つ。
結果、俺の家には人が増えるばかりだ。
ああ、今回の入居者は、すでに一般的な考え方を持ってない方だとわかってるからなおさら頭が痛いぜ……。
そんな俺を見てか、イリナたちの会話が聞こえてか。
祐斗だけが、俺の味方であるかのようにため息をこぼし、俺の肩を叩いていった。