ハイスクールD×D 精霊と龍神と 作:きよい
堕天使たちが儀式をする教会の入り口まで来た俺たちは、勢いよく扉を開き聖堂の中へと足を踏み入れる。
そこには、白髪の神父が待ち構えていた。
「はぁい、ご対面! 再会だねぇ! 感動的だねぇ!」
「誰だコイツ」
俺知らないんだけど。
再会とかって兵藤とかに言ってるのか?
「カイトくんは居なかったもんね」
ああ祐斗よ。俺は今回まったくのノータッチだったからな。
「彼はフリードと言って――」
「敵だろ?」
「ああ、もちろんそうだけど」
「それだけわかればいいよ。あいつ自身に興味があるわけじゃない」
そう。倒していい相手がどうかだけわかってればいいんだ。
「てめぇら、アーシアたんを助けにきたんだろう? ハハハ! あんな悪魔も助けちゃうビッチな子を救うなんて悪魔さまはなんて心が広いんでしょうか! てか、悪魔に魅入られている時点であのクソシスターは死んだほうがいいよね!」
死ぬ? というかコイツに会うのは初めてだが、印象最悪だな。
コイツこそ死ねばいいよ、本当に。
「おい! アーシアはどこだ!」
「んー、そこの祭壇の下に地下への階段が隠されてございます。そこから儀式が行われている祭壇場へ行けますぞ」
……。コイツ、俺たちの足止めしに来たんだよね? 俺たち全員殺せると思ってるのか、ただアホなのか。
とにかく、居場所がわかったのならこいつと遊んでる時間はないな。
祐斗は鞘から剣を抜き取る。
小猫は――すでに長椅子を神父に投げ飛ばしていた。
「祐斗、ここで勝負つけるぞ!」
「もちろんだ」
祐斗と共に剣を振り、神父に迫る。
俺が神父の拳銃を弾き、祐斗が剣の光を喰らう。
「――『光喰剣』、光を喰らう闇の剣さ」
「て、てめぇも神器持ちか!?」
闇の剣か。レスティアの方が綺麗だ。
(あら、ありがとう)
本音だからな。
「兵藤、いまだ!」
大きな隙はここしかない!
「プロモーションッ! 『戦車』ッ!」
「プロモーション! 『兵士』か!?」
行け、兵藤!
「『戦車』の特性! あり得ない防御力と!」
兵藤の拳が神父の顔面に食い込んだように見えた。
いや、惜しかったな。
「バカげた攻撃力だ」
神父が後方へ大きく倒れた。
右の頬が腫れ上がっているだけか。まあ、剣の柄で防いでたもんな。
「おーおー、これはもしかしてピンチってやつですか? 武器ぜーんぶ飛んじゃいましたよぉ。俺的に悪魔に殺されるのは勘弁と思う心情なので、退散したいねぇ。悪霊退治できないのが心残りだけどよぉ、でも死ぬのは嫌だよね!」
瞬間、眩い光に視界が奪われる。
目くらましか! 最近の神父ってのはやけに準備がいい。
「おい、そこの雑魚悪魔……イッセーくんだっけ? 俺、おまえにフォーリンラブ。絶対に殺すから」
神父の声だけが聞こえてくる。
視界が戻ったころ、神父の姿はどこにも無かった。
逃げたな……。
「いまは救出が先か。神父は放っておこう」
俺たちは互いに頷きあい、祭壇の隠し階段から地下に向か――
「三人とも、すまん。先に行ってくれ」
「は?」
俺は気づいた。
俺たちの入ってきた扉のあたり。そのあたりから、闇が俺を見ていた。
「はやく行ってくれ。俺は俺で相手をするべき存在がいるみたいだ」
「……。兵藤くん、行こう」
悪いな、祐斗。でも、ありがとう!
「兵藤。もしコイツを放っておけば、必ず俺たちの邪魔をしてくる。俺はコイツを知ってる。そういう奴なんだよ! だから、はやく行ってくれ。おまえはおまえの友達を救え!」
「負けねぇだろうな」
兵藤は心配なのか、なかなか行こうとしてくれない。
「負けるわけないだろ。俺はあいつが大嫌いなんだからさ」
「……わかった。でもカイト。帰ったら俺のことはイッセーって呼べよ! 絶対だからな!」
「ああ、帰ったらいくらでも呼んでやるよっ!」
三人は振り返ることなく、地下へと向かっていった。
俺はすぐさま窓を破壊し、場所を教会の外へと移し、
「さて、こんなところまでなんの用かな」
闇へと投げかけた。
「おまえを連れて行くために決まっているだろう?」
「勧誘は何度も断ったと思うけど」
何度も出てきやがって、面倒なんだよ!
「断られては困る。君は真の闇になるべき存在。闇の因子を持つ君こそが、私が求めている人材! 絶対悪である存在の私には必要な人材だ!」
「ふざけるな! 俺はおまえの言う闇は受け入れない! 例え俺が闇に祝福されて生まれてきた存在だったとしても、魔王の力を引き継いでいようと! 俺は闇になりはしない!」
目の前の闇は姿を変え、人の形を取る。
「君は人間以外の存在に好かれやすい。龍、悪魔、天使、堕天使、神仏。挙げていけばきりがない。だからこそ、私は君が欲しい。君が私の下で闇となれば、その他の力も自然と集まってくるだろう?」
欲の深い奴だ。これが絶対悪。
邪龍であるアジ・ダハーカを生み出した存在なだけある。
「悪いけど、あんたの言う理想は俺の理想とは違うんだよ。だからこそ、俺はあんたを認めない。存在から、おまえがやったこと全部なぁ! 忘れたわけじゃないだろ? 俺の居場所を奪ったのはてめぇだもんなぁ! 何人殺した? 何人の涙を見捨てた? どれだけの血を見てきた!」
「知らんなぁ。欲しいものを手に入れるのに、手段は選ばないぞ。血なんぞ流れるのは当然だ! 涙? そんなものこの邪神にとっては無いも当然! 殺したのも君の居場所を無くし私のところへ来るようにしたかったに過ぎない!」
「……ふざけるな。ふざけるなよアンラ・マンユ!!」
俺の右手に<魔王殺しの聖剣>が出現する。
「殺す! 殺してやる! おまえだけは絶対に!」
「そうだ、その憎悪のみに占められた瞳! その感情を大事にしろ! 君を闇へと導くのは、君自身の感情だぁ!」
闇が俺を包む。
なんだ? なにが起こっている?
(これが闇だ。おまえはこれから「悪」を受け入れる。おまえ自身が真なる闇へなるために)
悪意が俺へと流れてくる。俺を俺ではないナニかに完成させるために。
やめろ! やめろ! 俺は求めてない!
(抗うな。おまえだって本当はわかっているだろう? おまえこそが<悪>そのもの。<闇>そのものなのだ。――受け入れろ。それだけでいい)
「……俺は……俺、は……ああ、あ……アアアアアッ!」
((カイト!))
両手に握っていた剣の重みが消える。
変わりに、俺の身体を包み込む温かさが生まれる。
視界の端には、銀色と闇色の髪が映りこむ。
俺の身体を優しく包み込む、小さな身体。
「……エスト、レス、ティア……?」
俺の声はかすれていた。
だけど、闇に呑まれかけていた俺の意識を、確かに引き戻してくれた。
「もう大丈夫です、カイト」
「あなたは私が認めた者だもの。他の闇に呑まれないで。あなたは私が『魔王』に導くのだから」
そう囁いて、二人は俺に回していた手に一層力を込める。
離れないように、離さないように。
「ありがとう。ありがとう、二人とも。俺はもう大丈夫だ」
俺は二人から静かに身体を離す。
「ほう、闇を受け入れないのかい? 残念だよ。今日のところは失敗だ」
「ああ。ご退場願うぜ。おまえの出番はもうねえんだよ!」
ククク、と不気味な笑い声をあげる闇。
あいつは実体がなんなのか、今一摑めない。トカゲのようだったり、ヘビのようだったり。時に今日のような闇だったり。人の姿をしてみたり。
でも、この闇の形を取っているときが一番気味悪い。
最初会ったときも、この姿だったのをいまでも思い出す。
背中から冷えていく感じがする。
手が震える。
これが闇であり悪。邪神アンラ・マンユ……。
でも、
「エスト、レスティア……。付き合ってくれ。あいつを、倒す!」
「はい。私はあなたの剣、あなたの望むままに」
「ええ。待っていたわ。あなたから頼ってくれるのを」
二人が本来の姿――<魔王殺しの聖剣>、<真実を貫く剣>へと変わる。
剣を握るだけで、震えが止まる。
恐怖が消えていく。
「――ここで、終わりにしよう」
俺は地面を蹴り、闇――アンラ・マンユへと駆ける。
「絶剣技、破ノ型――烈華螺旋剣舞・十連!」
怒涛の斬撃が、凄まじい威力を誇った。
白銀と宵闇の剣閃が闇を斬り裂いていく。
その様はまるで、夜空を埋め尽くす星屑のように、間を空けずに剣を振り続けた。
「あ、ああああッ!!」
最後の一振りが、闇をこの空間から完全に消し去った。
『やってくれたな。今日のところは完敗だ。一端退こう。だが次は――』
それ以降、声すら聞こえなくなった。
終わった、のか?
そういえば、兵藤たちは!?
ガッシャァァァァン!!
突如鳴り響いた破砕音とともに、堕天使――レイナーレがこちらへと吹っ飛んでくる。
……そうか、おまえもなんとか乗り越えたってことか。
近くに、レイナーレが落ちていくのが見えた。