ハイスクールD×D 精霊と龍神と 作:きよい
はい、すいません。これ以上章内の話を増やすのもあれなんでカットです。
ゲームが開始してすぐのことだ。俺の見てるモニターでは、すでにイッセーと匙が対面していた。互いに同時期の『兵士』として思うところもあるだろ。
面白い。ライバル同士の対決ってことかな。
匙からいくつものラインが伸び、イッセーに、そして自分にくっついているのが見える。
それに、よく聞こえる。
匙の思いが。そして、命をかけ、この戦いに臨んでいることが。
会長たち全員が、レーティングゲームの学校を建てること、教師をやることにどれだけ本気かが伝わってくる。
いまや自身の生命力を糧に魔力の精製をしてやがる。だけど、これをバカだと笑うことはできない。上層部にも、きっとこの熱意は、気持ちは伝わるだろう。だけど。だけど――。
それはどれだけ、自分を犠牲にするやり方だろうか。見ていて、いいものじゃないのは確かだ。多分それは、昔の……。いや、もしかしたらいまだって。俺のやり方と、どこか同じように映るからだろうか。そう思ってしまう。
でも、ただ一つ言えることがあるならば。俺はきっと、もっとひどい戦い方をしているんだろう。
そんなことを思いながら、俺はこのゲームをずっと眺めていた。
「イッセーの奴、結構苦戦してきた上に、相手の本気も知った。使うなら、そろそろか?」
隣のアザゼルが俺に聞いてくる。
そうか、そうだったな。あの場はイッセーのお披露目でもあるし。
「使うだろうな。そういう奴だ。本気には本気で応えるだろ」
「そうか。なら、あいつらの反応が楽しみだな」
「ああ」
悪い顔して言いやがる。まあ、俺も似たような笑顔を浮かべているんだろうな。
互いに笑みを交わしあった直後、周りが騒ぎ出した。
始まったか?
周りにつられるようにモニターに視線が泳ぐ。
「俺も命をかけさせてもらうぜ。こんなところで立ち止まるわけにはいかないんだ。匙! 行くぜぇぇぇぇっ! 輝きやがれっ! ブーステッド・ギアァァァァァァアアッ!」
そこではちょうど、イッセーが叫んでいた。その叫びに呼応して、神器が音声を鳴り響かせる。
『Welsh Dragon Balance breaker!!!!!』
赤く特大のオーラがイッセーを包みこみ、それは鎧へと変化する。
ゲーム開始から十分ってとこか。
数日前に見たあの鎧姿が、いま再び視界に映る。それは、イッセーが禁手に至った事実を全員に知らせる合図となった。
「まさか、すでに至っていたのか。カイトくん、これをキミは知っていたのかい?」
驚きもそこそこに、サーゼクスさんが聞いてくる。
「ええ。なんたって、俺があいつのトリガーを引かせたんですから。結構大変でしたよ? でも、悪魔にとっては大きな収穫でしょう」
「それはそうだが。教えておいてくれればよかったものを」
「ああ、そいつは悪かったな」
俺の代わりにアザゼルが応える。
「アザゼルは知っていたのか」
「……まあな。あとタンニーンも知ってる」
「そうか」
「いや、すまん。驚くあいつらの顔が見たくてな」
アザゼルが指差す方向。他の上級悪魔たちだ。やれなんだのこうだのとやかましい。禁手になった瞬間を見た驚き顔はもう見れたから黙っててくれないだろうか。
あ、黙らせるのもいい手だよね!
実行はしない。サーゼクスさんの手前ね。
「まあ、今回はそのおかげでいい盛り上がりだから問題ないが。これは本当に驚いたよ。このゲーム、さらに面白くなりそうだ」
サーゼクスさんが笑顔をつくり、再びモニターへと視線を戻した。
どうやら、黙っていた件はもう決着したようだ。
「あとは……」
「ああ。会長がこの現状を知ってどう動くかだな」
イッセーの禁手お披露目はまあ成功だ。それに続くようにしてもうひとつ。俺をうれしくさせる出来事が起きた。
小猫が仙術を使って、相手チームの『兵士』を倒したのだ。
「ほお。小猫も克服できたか。なあカイト、あれもおまえの仕業か?」
アザゼルが興味深そうに視線を向けてくる。
「いや、あれは小猫が決意して一歩踏み出した成果だろう。俺の仕業じゃないさ」
「……。……そういうことにしといてやるよ」
あれー? しといてやるって、俺なにか間違ったこと言ったか?
俺が疑問に思う中、先ほどより興奮した雰囲気が流れるなか、ゲームの状況は加速していった。
「……決まりだな」
ふとアザゼルがそうこぼした。
が、それには俺も同意するしかないだろう。
いま、匙が崩れ落ちた。
負ければ失う物があるのは当然であり、なにかを授かることは間違っている。それは勝者のためにあるのだから。
だが、この一戦。敗者も授かる物がある。
観客席を見ればそれがよくわかる。禁手に至ったイッセーに何度も何度も挑みかかった匙。自分の意地、夢、すべてを込めて拳を振るう姿はきっと、この会場に来た者たちに届いただろう。
だからきっと、会長たちも得るものがある。
今回だけは、勝者と敗者。両方にいいことがあってもいい。
結局、イッセーが禁手に至っていたのが、すべての計算を崩したのだ。匙のラインはすべて一瞬で消し飛び、さらに他のグレモリー眷属の士気を高めるに至った。
それだけ、あいつが禁手に至るのは大きい意味を持つんだ。
途中、『反転』とかいう力で危うい場面はあったが、それも結果的には祐斗に破られた。
見れば、結果は明らか。
朱乃さんが雷光を放ち、シトリー眷属最後の駒も撃破した。残すは会長一人。グレモリー眷属は全員残っている。
夢のために命をかけ、全力で挑むのはいい。
「アザゼル。あの『反転』はどれくらい影響があるんだ?」
「……寿命を縮めるか、才能を潰すかだろうな」
「そうか。なら、これ以降は使用禁止だな、あれ」
「もちろん、そうさせるために動くさ」
それならいい。
俺たちの話が終わるのを見計らったように、ひとつのアナウンスが響いた。
『投了を確認。リアス・グレモリーさまの勝利です』
終わったか。
今回はいい戦績だったのではないだろうか。部長は駒を失うことなく勝利を収めた。
会長は……。頼ったな、あれは。夢を掴むためというなら、『反転』なんぞ後付の力に頼る戦法を用いるべきじゃなかった。匙以外の眷属は、後付に頼った。その点、匙は自身の力だけで戦いに臨んだ。信じるべき夢のために、自らの力で進んだんだ。
「このゲーム、真に強かったのは匙だけだな。他のシトリー眷属がグレモリー眷属に勝てないのは、ある意味当然かもしれない」
「どういうことだ?」
ふと溢してしまった発言に、アザゼルが食いつく。
そうなれば、無視はできない。
「他の力に頼って夢のためにとか言ってるうちは、本当に勝てるわけないってことだよ。グレモリー眷属は、ただただ愚直なまでにいままでの自分を見つめ直し、どう在りたいかを考え、そんで修行してたよ。その過程で、いままでの自分を乗り越えた奴らもいる。……匙はそいつらと近いよ。だから、あいつの言葉だけは頭に残ってる。他のみんなは、夢を語るけど、なに言ったか覚えてない。つまり、どれだけ本気だったか、その差だろ」
当然、シトリー眷属は全員本気だったはずだ。それでも、なお本気で、夢のためにすべてをかけていたのは匙だけだったっていう話さ。
いまはわからないかもしれない。けど、いずれわかるときもあるだろう。
後付の強力な力に頼らず、自分だけでどうにかしたいことがあったことも。
俺は静かに部屋を後にし、一人、病室に足を向けた。
たぶん、彼はそこにいるだろう。
言いたいことがあるわけでもない。慰める気もない。称えることもない。
ただ、なんとなくだ。俺が足を動かす理由は、それだけでいいように思えた。
次回、やっと終わるかな? そろそろ今回の章も終わりが見えてきました。