ハイスクールD×D 精霊と龍神と   作:きよい

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22話

 さて、パーティーも無事終わり、もうじきグレモリー眷属とシトリー眷属のレーティングゲームが始まろうとしている。

 ライザー戦のときのように俺が参加するわけではないので、今回は観客席で見守ろうかな。参加したらしたでどっちにつくのかで一悶着あるんだろうけど。

 いまはゲーム前のみんなと行動をともにしている。もう少ししたら俺は観客席へ。みんなは控え室にでも行くのだろう。ちなみにガブリエルさんはすでにお偉いさんたちの席へと連れて行かれた。なんとかイヅナをガブリエルさんに預けることはできたが、俺は一般席かな。少し残念だ。

 まあそれは仕方ないことか。っと、俺もそろそろ退室して席の確保に行こうかね。

「じゃあみんな、やれるだけやってみろ。しっかり見てるから。……イッセー、禁手の使いどころ、間違えるなよ」

「ああ! カイトにあそこまでしてもらったんだ。大丈夫さ」

「そうか。あとはあんまり感情的にならないでくれよ。熱いのはいいけど正面突破でどうにかしようとするなよ」

「うっ……。気をつけるよ」

 グレモリー眷属は正直言うと力押しだからなぁ。戦術うんぬんより、力を頼りに暴れても同世代の悪魔より強い分、相手が戦術を練りに練ってくるタイプには弱い。

 例えば今回のシトリー眷属。会長の修行も見に行ったが、なにやらいろんなパターンを想定してひとつひとつに対処法を組んでたっけ。

 不公平になるからどっちの修行内容も、その経過具合も話してないけど。つまりグレモリー眷属は会長の作戦を何も知らないし、シトリー眷属はイッセーが禁手に至っていることを知らない。それどころか、イッセーの禁手を知ってるのはグレモリー眷族とタンニーン、アザゼルくらいのものだ。彼らにしか話してないからな。

「そんじゃ俺はこのへんで。楽しみにしてますね、今回のゲーム」

「ええ。みんなあなたのおかげで強くなったわ。その成果、見せてあげる」

 部長が全員を代表して宣言する。

 その台詞を最後に、俺はみんなといた部屋から出た。

 

 二人ほど、余分に引き連れて。

「……どうした? ゲーム前なんだからみんなと一緒に居るべきだろ?」

 振り返り、ついて来てしまった朱乃さんと小猫に話しかける。

「もうすぐですから、だからこそですわ」

「カイト先輩が、前に言ってくれたから来たんです」

 強い意志は感じる。でもなんだ? このすがるような意思が混ざってる気がするのは……。

「『一歩踏み出す勇気が出るといいな。必要なら、俺も手貸すからさ』って。そう言ってくれました」

 なるほど。だからか。だからそう見えたのか。

 そっか。黒歌に会わなくても、決心はついたか。

「俺でよければいつでも手ぐらい貸すよ。イッセーのときとは少し違うけど、仲間のためなら喜んで」

「仲間というより、私たちは違う感情で動いている気もしますけど」

「……。……私はそんなことありません。……多分」

「あらあら」

 差し出した両手に、それぞれ朱乃さんと小猫の手が重ねられる。

 黙っていてもよかったんだろうが、二人の気持ちをしっかり聞いておくのも大事だと思う。

「それで、二人は、俺に何を求めてるんだ?」

 二人が互いに視線を交わしたあと、朱乃さんが口を開く。

「戦う覚悟はありますわ。……今回、私の中に流れるもうひとつの力を使うかもしれない。それが怖いの。嫌なのよ」

「それでも、決めたんですね?」

「はい。でも、やっぱり不安ですわ。カイトくん。カイトくんは、私が光の力を使うところ、見てくれますか? カイトくんが見守っていてくれるなら、私も一歩踏み出せる気がするんです」

「見てますよ。それで朱乃さんが一歩を踏み出せるなら、絶対に」

 いい終わるとすぐに、朱乃さんが俺の首に腕を回してきた。

 顔を寄せ、耳元で「……うれしい。それなら、絶対に見ていて」とつぶやき、

「うふふ、私はもうだいじょうぶですわ。ありがとう、カイトくん」

 そのまま部長たちのいる部屋へと戻っていった。

「それで、小猫は?」

「私も、勇気が欲しいんです」

 俺の手を握る力が増す。

「カイト先輩は、猫又が怖くないんですか?」

「怖い? まさか。そうだな、そろそろ教えといてもいいか」

 なにを? という感じに小猫が首を傾げる。

「できれば秘密にしといてほしいんだけど、俺の家にはある黒猫が住み着いていたんだ。そいつはもう自由に俺の家を使ってて、気づくと側にいて」

「黒猫……」

「まあ、そいつも猫又なんだけどさ。俺は普段から見てきたから、小猫なんてまったく怖くないんだわ。それとな、小猫は知らないかもしれないけど、おまえの姉ちゃんは十分すぎるほどにシスコンなんだよ。いまはまだわからなくてもいい。けどな、絶対悪に比べれば、あいつは優しすぎるくらいだよ」

 驚いた表情を見せる小猫。当然だ。こんな身近に、自分の姉さんを知ってる人がいればな。

「カイト先輩の家に住み着いてた黒猫って、本当は――」

「言いたいこと、他にあるんだろ? ゲーム前だ。時間もあまりないだろ。本当に言いたいことだけ、聞かせてくれ」

 迷いを見せる表情だが、やがて本当に伝えたいことがなにかわかったのだろう。

「……今回、猫又の力を使ってみようと思います。私も、一歩を踏み出したいですから。そうしないと、皆さんの役に立てないかもしれませんから」

「そうか。姉ちゃんみたいになるのは嫌か?」

「嫌です。でも、カイト先輩の話をもっと聞けたら、少しは考えがかわるかもしれません」

「なら、今度聞かせてやるよ。あいつがどれだけおまえの話を俺にしてきたかをな。それと、猫又の力。安心して使っていいぞ。これでも黒猫を止めてきた俺だ。おまえが暴走しても、必ず助けてやるよ。約束だ」

「約束ですよ。……それと、カイト先輩の家に住み着いていた黒猫の話は、私と先輩だけの秘密です」

 少し顔を赤くさせながら、朱乃さんと同じように俺から離れていく。

 今回のグレモリー眷属は強敵だぞ、シトリー眷属さんよ。なんたって決意して、しかも自身の中の問題を乗り越えようとする者、禁手に至った赤龍帝。それに祐斗もいる。こりゃいくら夢のための戦いとはいえ、厳しいだろうな。

 あーあ、ちょっとグレモリー眷属に肩入れした形になったかな、これ。今度会長の方にも埋め合わせに行きますかね。 

 悪いと思うが、今日のみんなが負けるなんて、俺には思えないんだよなぁ……。

 

 

 

 

 

 

 みんなと別れて一人席を探していると、ガブリエルさんを発見した。

 こんなところに一人でいるなんて、なにやってるんだろうか。

「あ、カイトさん。やっと来たんですかぁ」

 あれ? 俺待ち?

「なにかあったんですか?」

「魔王さまと堕天使の総督さまがカイトさんも連れてきていいとのことでしたので、お迎えに」

 へぇ。俺もお偉いさんと見ていいってことか。いいね。

「わざわざすいません」

「いいんですよぉ」

 ほんわか言ってくれるが、イヅナを預けてから一時間は経ってるはずだ。この人、どれくらい前から待っててくれたんだか……。ついさっきからならいいんだけど。

「それじゃ、案内しますね」

 というか俺は四大セラフの一人にこんなことさせてていいのか…………。

 

 

 そんな不安を抱きながらも案内された部屋には、サーゼクスさん、魔王少女さんにアザゼル、ちっこくなってるタンニーンなど、何人か見知った顔がいた。

「お、来たな。カイト、さっそくだが質問だ」

 アザゼルか。来て早々に質問とは急がし奴め。

「なんだ?」

「おまえがリアスの対戦相手なら、グレモリー眷属の中で確実に誰を取る? これはさっき俺もサーゼクスに聞かれたことなんだがな」

 存外まともな質問が来たな。もう少しくだらないことかと思ってたんだが。

「そんなもんイッセーに決まってるだろ?」

「ほお。理由は?」

「眷属のみんなは、部長含めわかってないと思うけど、精神的支柱はイッセーだからな。あいつがいると全員のテンションが高い。多分諦めずに突っ込んでいけるゆえだろうな。だからこそ、イッセーを失ったら脆いと思うぜ。ただ問題なのは――」

「眷属のほとんどが『赤龍帝』としてのイッセーの敗北を見たことが無い、か?」

「そうだよ。目の前で負けたことなんてないだろうさ。アンラ・マンユのときだって、結局最後まであいつは立ってたしな」

 懸念すべきはやっぱそこだよな。てかアザゼル。もうばれることだからいいけど、上層部の悪魔が多いところでイッセーが至ったと取れる発言は控えろよ。知ったときどういった反応するか楽しみなんだから。

「サーゼクスさん、会長はどう動くと思いますか?」

 俺はアザゼルの隣に座るサーゼクスさんにも話をふる。

「……狙うだろうな。ソーナなら、必ず。彼女はそういったことは鋭いから確実に気づいているさ」

 サーゼクスさんは心配か? 妹が。

「でも多分、今日は負けませんよ。会長たちシトリー眷属は知らない。イッセーのことを。そして、朱乃さんと小猫の決意を。だいじょうぶ、負けません」

「ついでに捕捉しておくと、その二人と祐斗の野郎は仮にイッセーが取られてもそこまでの動揺は見せねえかもな。カイトが見てるということを信じてる限り」

「またよくわかんらんことを言うな……」

 俺たち多くの者が流れを予測しながら見守る中。

 ――ついにゲームが始まった。

 




はい、次回はレーティングゲームですかね。多分簡単に流してしまうだろう。
黒歌襲撃イベントはこの話にはありません。つまりイッセーは胸で禁手には至らなかったわけです。

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