ハイスクールD×D 精霊と龍神と   作:きよい

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20話

 眼前には俺に後ろから聖剣で貫かれた部長、それを見て涙を流すイッセーの姿。

「カイト……。ふざけるなよ。ふざけるなふざけるなふざけんなぁッッ! てめぇよくも部長を! 俺の部長をォォッ!」

 普段ならここで普通に突っ込んでくるところなのだが、今日は違った。

 イッセーの全身を、赤いオーラが包みだした。

 ふう、もう一押しだ! 

「なあイッセー。部長だけどよ、おまえより先に俺が貰ってやろうか?」

 この一言が、最後の引き金になったのだろう。

 ティアマットとタンニーンとの修行でも至れなかった。俺を加えた体制になっても、結果は変わらなかった。

「……やればできるじゃん」

 いま、俺の前で――。

『Welsh Dragon Balance Breaker!!!!!!』

「禁手、『赤い龍帝の鎧』ッ! 覚悟してもらうぜカイトォォォォッッ!!」

 ――イッセーが禁手に至った!

 だが、喜んでるのもつかの間。怒りに怒ってるイッセーが全力でこちらへと突っ込んでくる。

 その勢いはいままでと違い、イッセーの放つオーラで周囲が吹き飛ぶほどだ。

「やばっ……」

 すぐさま聖剣を部長から引き抜き、部長とイヅナを横に飛ばす。

 その瞬間、タッチの差で二人を逃がせた俺は、イッセーの殴打をモロに食らって吹っ飛ばされた。

 イッセーに殴られた程度で響く体ではないが、木々を何本倒しても止まる気配がない。おいおい、どんだけ力込めて殴ったんだよ……。

 仕方ないので、足でブレーキを促し、ザザザザザッ。

 足の裏が地面と盛大に擦れる音を数秒間聞いたのち、俺の体が静止する。

 これ、部長に当たってたらシャレにならねえぞ、イッセー。もう少し力の使い方を覚えろと言うべきか、周りをよく見ろと言うべきか。熱いだけじゃ生き残れないっての。

「真っ直ぐなことは、いいことだけどな」

 一直線に吹っ飛ばされたのだろう。倒れた木々の先、そこにイッセーが見える。

 部長を背後に庇い、俺を睨んでいた。

 そろそろ潮時……いや、結果は出たから終幕ってとこか?

「イッセー、もういい。やめよう。終わりだ」

「……なに言ってやがる! おまえを倒すまで、終わるわけねえだろ!」

「はあ!?」

 やっぱ部長を聖剣で貫いたのまずかった? でもあれはイヅナの――ああ、気絶してやがる! イッセーの一撃で起きた風圧にでもやられたのか……。あいつ戦闘中じゃないとてんで弱いからなぁ。

「仕方ない、禁手に至ったわけだし、どれだけ闘えるかテストしてやるか」

「ごちゃごちゃうるせえよッ!」

 俺に突貫してくるが、

「さっきから叫んでるのはおまえだよ」

 突き出されるイッセーの拳と俺の拳。クロスカウンターの要領で互いの顔面に直撃する。

 ゴォォォンッ!

 イッセーは後ろへと吹っ飛び、俺はその場から一歩も動かない。

 そう、イッセーの一撃はまだ弱い。真正面からやりあえば負けるのはイッセーだ。俺は無限の力の一部を貰ってるからね。いくら赤龍帝でも、禁手したばかりの状態じゃあな。

 ここから修行重ねてけばいずれ俺を超えるかもしれないけど、いまはまだ。俺の方が上だ。

 と、イッセーの方から赤い点が見える。

 魔力の弾か。でもあれはいつも少し溜めがいるからな。すぐには撃てないだろ。

 ドッ! その油断が、この結果を生み出した。

 一瞬の発射。それはいとも簡単に、俺へと衝突した。

 刹那――。赤い閃光が視界いっぱいに走る!

 って、ふざけんなよ! という俺の思いもむなしく、

 ドッドッォオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!

 辺りに轟音が響き渡った。

「ゴホッ、ゴホッ……。くそ、これをイッセーが撃つとは考えにくい。ドライグめ、入れ知恵しやがったな」

 多少の傷は負ったな。にしても、また飛ばされた? 俺、今日はそういう運命にあるのかな。

「俺の勝ちだな、カイト。今後二度と俺たちの前に現れるな。そう誓うなら、逃げていい」

 ……。この一撃が当たっただけで、勝ったと思ってるのか? だから甘いんだよ、おまえは。

「なあイッセー。おまえ、本当にこの意味がわからないのか?」

「なんのことだよ」

「俺がおまえを怒らせた意味をだよ。本当に、わからないのか?」

「わかるかよ。おまえは部長を傷つけて、ほかのみんなも殺そうとした。それだけだろ」

「それもすべて、あなたのためよイッセー。まあ、少し強引なやり方だったけどね」

 さて、これで俺の役目も終わりかな。

 眷属のことはすべて、『王』が解決すればいい。

「ぶ、部長!? 無事だったんですね!」

「無事もなにも、傷ひとつ、初めからついてないわ」

「え?」

「カイトの隣にイヅナがいたでしょう? あの子の力で、聖剣の刀身は全部私の前に出てくるように空間跳躍をしてもらったわ。だから、前から見たら貫かれているように見えても、実は無傷なの」

「え? ええ!? そ、それって……」

 ここでイッセーはすべてを悟った……すべては無理か? でも大半のことは理解できたのだろう。

「カイトの言ったことはすべてが嘘よ。あなたが禁手に至れなくて落ち込んでるみたいだからどうにかしたい。だから手を貸してくれって私に言ってきたの。こんな作戦、初めはどうかと思ったけど、結果は最高なものになったわね」

 部長はうれしそうに、鎧の上からイッセーの頬をなでる。

 だがイッセーはすぐに鎧を解除し、

「い、イッセー?」

 俺に土下座した。

「カイト、その、ごめん! 俺本気で殴ったり撃ったり……。その、」

「あー、そんなこと気にするな。本気で怒るように仕組んだのは俺だ。むしろおまえがその通りに動いてくれて助かったよ。これでも禁手に至らなかったらどうしようかと思った」

「でも、なんであんなこと言ったんだよ」

「おまえを怒らせるためさ。ドラゴンを宿す神器は単純な性格の方が力を引き出せる。おまえはそれにピッタリな性格してるからな。それを強い意志の一点にのみ集めれればいいかなと思ってさ。悪かったな、嫌な気分になったろ? 部長もすいませんね。こんなことのためにわざわざ危ない目に会わせて」

「気にしてないわ。イッセーが強くなったのだもの」

 そうですか。

 まあ部長がいいならいいですよ。ま、これでイッセーも目標達成ってとこか。

 それにしても、仲間のためとはいえ今回は少し乱暴なやり方だったな……。まあいい。ケンカするほど仲がいい、だ。たまのケンカも悪いことじゃない。

「か、カイト……。ありがとな。それと、ごめん」

「もう謝るなよ。お礼で終わっとけって。それに、これも修行だと思えばいい。そう思えば、後々まで引きずらないだろ、お互いにさ」

「――! ああ、ああ! わかったよ、カイト。ありがとな」

「おう」

 いろいろ言いたいことはあるけど、いまはいいか。せっかく禁手に至ったんだ。今日はもう、このまま終わろうじゃないか。

「じゃあ戻りましょうか。イッセー、カイト。お疲れ様。明日はパーティーなんだから、しっかり休みなさい」

「「はい」」

 さて、じゃあ俺はイヅナを回収してから帰りますか。

「あ、イッセー。レーティングゲームまで体を休めたいかもしれないけど、パーティーが終わったらもう少し修行しよう。せっかく禁手に至ったんだ。慣れようぜ」

「おう、頼むぜ!」

「はいよ。しっかりしごいてやる」

 イッセーと部長とはここで別れ、俺は一人、イヅナの回収に向かった。

 

 

「ったく、かわいい寝顔だこと。……やっぱ、こういう表情の方が似合ってるよなぁ。あの闘ってる表情よりは」

 回収したイヅナをおぶりながらその寝顔を見てて、素直にそう思う。

 と、俺の服を無意識にだろうが掴んでくる。

「ん……。にいさま、だいす……き…………」

 そんな寝言まで言うか……。

 にいさまって、昔俺を呼んでたときの呼び名じゃねえかよ。

 

 暗闇ですべてが隠れるなか。きっと、俺の顔が赤いのも隠れているのだろう。久々に仲間から言われた『好き』という言葉は、なんだか照れくさかった。

 ――いや、恥ずかしかっただけなのかもしれない。けど、いまはそっと、聞かなかったことにしておこう。

 

 

 このあとイヅナを連れて部屋に帰ると、当然のようにガブリエルさんが待っていた。

 そして、イッセーと戦闘で服の端々が焦げていたこともあり、なにかあったことは見抜かれていたので、ことの顛末を話した。 

 そしたら「ケガが治るまではおとなしくしてください。本当にカイトさんはいけませんね、め」と笑顔で言われてしまった。そのまま膝枕をされ、回復させられていたのだが、なんでガブリエルさんが笑顔だったのかは、最後までわからなかった。

 

 

 

 

 

 次の日の夕刻。タンニーンの眷属にも協力してもらい、グレモリー眷属、シトリー眷属、俺の勢力――ここで言うガブリエルさんとイヅナはパーティー会場入りした。っていうか、ガブリエルさんは天界の勢力だよ! いつも俺の側にいたから俺の勢力としちまったじゃないか。

 すいません、天界のみなさん。

 会場に来るまでに、イッセーと匙はなんだかライバル同士のような会話で、互いに「負けない」とか言ってたな。グレモリーもシトリーも、互いに掲げる夢がある。

 真剣に、大事にしてる夢が。

 俺はどちらか一方を応援できる立場ではないが、今回のレーティングゲーム。互いの夢のために全力で挑む姿は楽しみにしてる。

 でもいまは、このパーティーをどう乗り切ろうか?

 

 


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