ハイスクールD×D 精霊と龍神と 作:きよい
俺に引っ付いた少女は、まるで離れる素振りがない。
それどころか、抵抗しなければさらに引っ付いてくる始末だ。現状すでに俺の右腕はこの少女に抱きつかれ使い物にならなくなっている。
「それで、今日はなにしに来たんだ? 新しい情報でも手に入ったか?」
「はいってるよー。情報は後でデータを送ってあげるね」
「ありがとよ」
データ送るならそもそもなんで会いに来た、と聞きたいところだけど。
「カイト、そろそろいいかしら? その子とあなたはどういう関係なの?」
部長が疑問を投げかける。
まあもっともな疑問だ。誤解を生まぬよう、しっかり答えよう。
「こいつは俺の――」
「妹だよ!」
「人の台詞に被せてくるな! 確かに何分の一かは妹かもしれないけど!」
おまえの遺伝子のうち、俺の家系の遺伝子は全体の数パーセントだろう。半分以上は違う奴の遺伝子なんだから。会ったこともないどっかの強かった警官やら、どこぞの強者ばかりを集めた集合体みたいなものだ。
「正しくは俺の協力者ですよ、部長。俺の仲間は各地に協力者を持ってた奴もいたんで、その伝手でいまでも協力してもらっている人たちがいるんです。で、こいつはその組織の一員なんですよ」
「……カイトの周辺はもうある意味ひとつの勢力みたいなものね」
なんか呆れられてる!?
というか、俺の周辺だけでひとつの勢力として成り立つわけないでしょ! さすがに悪魔、天使、堕天使みたくはなりませんよ。
「それで、彼女は排除しなくてもいい人なのよね?」
「はい、そうしていただけると助かります」
「わかったわ。それにしても、そういった協力者はどのくらい居るのかしら?」
それを気にしますか。
今後のことを考えれば教えておくべきか。アンラ・マンユ襲撃後も裏で俺に力を貸してくれる連中だからな。ここで黙っておいて後々問題にされるのは嫌だし。
「世界各地にいますけど、大まかな人数でいえば知り合いは30人程度で、組織ぐるみとなるともうわかんないですね。といっても、戦闘に参加してくれるわけでなく、情報をたまに流してくれる程度の協力者なんですけど」
「その30人の名前は?」
「教えるわけないでしょう? 情報漏洩致命的なんですよ、情報収集班は」
「それじゃあ仕方ないわね」
納得してくれたかな。しなくても話さないけどさ。こればっかりはな。協力者の存在を明かすことで、彼らの危険が増すことは避ける必要があるんだ。
「で、おまえは今日本当に何しに来たんだよ」
部長との会話を切り上げ、真横にいる少女に話しをふる。
「最近お兄ちゃんがいろんな女とイチャイチャしてるからちょっと釘刺しにきたんだよ。ダメだからね……。お兄ちゃん、妹こそ最強なんだからね」
こいつも本当に妹から離れないな……。本当の妹がいなかったからわからないが、どこの家の妹もこんなにお兄ちゃんっ子なのか? というか、前半。俺は女とイチャイチャなんかしてないだろうに……。否定? しないさ。しても妹には勝てないのだ。きっと、お兄ちゃんと呼ばれる人種は、妹に抵抗できないように神様がつくったのだろう。もういない神、恨むぞ。
「それじゃあお兄ちゃんにも会えたし私はもう帰るねー。またなにかあったら来るから、そのときはよろしくね」
楽しげにぱちん、とウインクをして、景色に溶けるように消えていった。
まったく、人騒がせな奴だ。
「なんだたんだ、あの子」
「話してた内容で大体はわかったけど、彼女のことはよくわからなかったね」
イッセーと祐斗はそんなことを言っていたが、同じ立場ならおそらく俺もそう思っていただろう。
これは後で説明しとく必要があるな。あいつのことも含め、人工天才のことも話さなくてはならないときがくるかもな……。
ゼノヴィアなんか突然のことに処理が追いつかなかったのか固まっちゃってるよ。
その後、今回のことは一旦頭の隅に追いやった俺たちは、先ほどのことを誰に話すこともなかった。
いまはイッセーの部屋に部員全員が集まり、今回の修行内容を話していた。この場にはアザゼルもガブリエルさんもいる。先ほど全員にイヅナを紹介したのだが、イッセーが危険な目つきになったりしたので怯えてしまったのか、俺の後ろから出てこない。服の端を掴んで離してくれないこともあり、俺は座った場所から動けないでいた。
そういえば、話を聞いてると、
「みんな別荘か山小屋で暮らしてたってさ、イッセー……」
一番長い期間修行を見てきたイッセーがかわいそうになってくる。俺も何日か体験したが、小屋なんか無く、野宿だった。枕も布団もなく、葉っぱを敷いたり、たまに残ってくれたティアマットの上で寝るとかだったよ。
あ、イッセーがキレた。アザゼルになんか文句言いまくってる……。わからんでもないから放っておこう。
アザゼルはアザゼルで、イッセーが禁手に至らないことに対してはさほど残念ではなさそうだった。その可能性は予想していたんだろう。
ちなみにあと一ヶ月篭ればなんとかなるんじゃないか? とアザゼルに言われた拍子には、部長に会えないとつらいだのぬくもりを思い出しながら葉っぱに包まって寝るだの、タンニーンが手加減しないで襲ってくるとかティアマットが本気で殺す気だったとしか思えないやら。最後には俺のことまで死神だの殺人鬼だの言ってくる始末だ。もちろん泣きながらだが。
イッセーの中ではこの二週間は本当の地獄だったんだな。もう行きたくないことがよく伝わってくる。
「さあ、報告会は終了だ。明日はパーティだ。今日はもう解散するぞ」
アザゼルの一声で報告会は終了した。
みんなが散っていくおかげか、やっとイヅナが手を離してくれた。少し前は攻撃的だったから忘れていたが、普段のこいつはおとなしい性格なのだ。それに気も強くはない。
そんなイヅナをガブリエルさんに預け、先に部屋に帰ってもらい、俺は部長の後を追った。
「あらカイト。どうかしたの?」
ここからは、少し危ないことになるが、仕方ないだろう。
「はい。少しばかり。それで、イッセーなんですけど――」
「カイト、なんだよ話って。というか、なんで夜にこんな森まで来なくちゃいけないんだよ」
「悪いなイッセー。いやなに、少し話しをしたいと思ってさ」
部長とはすぐにわかれ、俺はイッセーと二人でグレモリー本邸から離れた森の中に来ていた。
「話?」
「ああ。俺さ、おまえの修行を見に行くまえ、他の組織から勧誘を受けたんだよ。なんとあの『禍の団』。そいつらさ、イヅナの救出に力貸してくれてさ、いい奴らだったんだよね」
俺の最後の一言に驚いたのか、イッセーは慌てた様子を見せる。
「断った、んだよな。勧誘は」
「ああ、その場では断ったな。でもさ、俺はそれもいいことなのかもって思ってるんだよね」
「おまえ、なに言って――」
「俺、まじめだよ? まじめに、それ言ってるんだ。今回のことでわかった。あいつらとなら、本当に俺の仲間を救えるかもしれないって。そのためなら、向こうについてもいいかもしれないってさ」
これには頭にきたのか、俺の胸倉を掴んでくる。
「カイト! それ本気で言ってるのか!? あんなテロリスト側に入るなんて、本気で言ってるのかよ!!」
俺はイッセーの手を振り払うとともに、
「だから言ってるだろ? まじめな話なんだよ、これは」
「カイトォ……」
さあ、ここからだ。ここからが大事な話なんだよね。
「それでさ、考えたんだよね。俺の情報をいま一番持ってるのはおまえたちグレモリー眷属だ。
他の組織に、それもテロリスト側に降るなら、その情報をできるだけ無くしときたいじゃん?」
「どういう、意味だ?」
おいおい、まだわかんないのかよ……。
「察し悪いな、イッセー。いいよ、教えてやるよ」
おまえは俺と同じように、仲間思いだからな。これ聞いたら、どう思うのかな?
「おまえ含めて、グレモリー眷属は全員――殺す」