ハイスクールD×D 精霊と龍神と   作:きよい

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15話

 眼前のイヅナ自身の能力は曹操によって封じられた。

 だけど、あの闇自体の力は封印できないみたいだ。

「っと、なんだ、彼女の力とは関係なく襲ってくるのか?」

 封じた側である曹操は、イヅナが攻撃してくることに疑問を抱いたみたいだけど。

「あれはイヅナとは関係ない力だし、そもそも女性の異能じゃない! 全く別と考えたほうがいいぞ」

「そうみたいだね。よし、次いくか」

 次? 余裕の表情だけど、なにか策はあるんだろうな? なんでもヴァーリと曹操の二人でイヅナから切り離せるみたいだけど……。

 闇は手強いはずなんだが。

 でも、なんだろう? この二人となら、できる気がする。イッセーと共闘したときより、心地いいこの空気はいったい、なんなんだ? 

 ……確かめよう、この一戦で。この、俺の中にある感情がなんなのかを!

 

 

「さて、そろそろ真面目に次の行動に移る。カイト、悪いがサポートと、闇を切り離した際の攻撃の準備にも入っていてくれ」

「……だいじょうぶなのか?」

「安心していいよ、カイト。これでもあたしと曹操は『禍の団』でもトップクラスの実力なんだよ」

 それはそうだろうよ。おまえらより遥かに強い奴なんてオーフィスくらいのもんだろ。

 ああ、考えると会いたくなるな、オーフィス。

「カイト? もう始めちゃうけど、カイトの方こそだいじょうぶ?」

 っと、考えごと禁止だな、いまは。

「だいじょうぶだ。絶対仕留めるし、イヅナは救う」

「よし! 曹操、あたしから突っ込むから、タイミング外さないでね?」

「当然だ。ヴァーリとの共闘なんて滅多にないからね。失敗なんてできないさ」

 共闘、あまりしないのか。そこまで仲が良くないのかな? 

 ああ、派閥が違うとかかもな。どこの組織も派閥が違えば多少のいざこざがあるか。

「――さあ、あたしと楽しく踊りましょうか!」

 ヴァーリの力が増大するのを感じる。

 そのまま、躊躇なくイヅナのもとへダッシュし始める。

「なにする気だ?」

「簡単なことだよ。俺もしっかりやらないと」

 ヴァーリが駆け抜ける中、イヅナも闇の力で造り出した魔弾を撃ち出す。

 絶対悪と呼ばれるアンラ・マンユに近い力だ。ときおり掠める魔弾によって、ヴァーリの鎧が削られる。

「アハハ、思ったより威力あるねぇ! でも、直撃しないなら平気平気!」

 畏縮するどころか、戦意増してきてるな。

 戦闘狂ってすげぇ……。

「さて、カイト。キミにもサポートを頼みたい」

 曹操がヴァーリの様子を確認しながら話をふってくる。

「なにをしろと?」

「もう少ししたら、俺とヴァーリの真ん中辺りの位置まで移動してほしい。そのとき、不安かもしれないが、俺の方を――彼女に背を向く形で立ってくれ。そうしたら、こちらで闇を切り離す」

 攻撃を食らうリスクを背負う必要がある、か。

「いいぜ。それでなにかがうまくいくってんならやってやる」

「そうしてくれると思っていたよ。合図はこちらで出す。――俺たちを信じてくれ」

「あたりまえだ。もうとっくに信じてるさ」

「――そうか」

 ……少しだけ、わかってきた。俺の中にある感情。この二人もまた――多分、俺はそう思っているんだろうな。

 

 

 ヴァーリがあと少しでイヅナに肉薄するといったところで、曹操から指示が飛ぶ。

「カイト、そろそろ頼む!」

「わかった!」

 指定されたとおり、曹操とヴァーリ、二人の位置から見て真ん中程度のところまで来る。

 さて、それで曹操の方を向くんだったな。

 と、振り返った瞬間、

 ギャリンッ!

 左手が勝手に動き、後ろへと向いたかと思うとなにかとぶつかる音が響く。

「な、なんだ?」

(なにも考えずに後ろに振り返るから、私が魔弾を逸らしただけよ)

 レスティアか? 悪いな。

(いいから、しっかりしなさいよ。彼らの協力もあるからって、気を抜いてはダメ) 

 ……抜いてなんかないさ。むしろ、入りまくってるよ。

(ならいいわ)

(カイト、頑張ってください) 

 ありがとな、エスト。

 二人も、変わらず俺に力を貸してくれよ。多分、ここからが一番重要なとこだからさ。

(その言葉を待ってたわ、カイト)

(はい、カイト。私はあなたの剣。あなたの望むままに)

 二人の言葉と重なるように、両手の刻印が輝きを放つ。

 よし、これで最高の状態で備えることができた。

 あとは頼むぞ、曹操! ヴァーリ!

 

「――馬宝。任意の相手を転移させる」

 曹操が球体のひとつを俺の側を通り抜けさせ、ヴァーリとイヅナの近くへ移動させる。

 お互いの距離がゼロに近かった二人へと向かった瞬間、それは起きた。

 後ろにいることで、姿までは見えなかったヴァーリとイヅナが、俺の眼前へと移転移してきたのだ。

 なるほど、これをしたかったから、イヅナは自分を空間跳躍で跳ばせるのか俺に聞いてきたのか。この一手を、イヅナの力によって覆されないように。

 で、ここから闇を切り離すんだな。そうしたら、俺はそれを斬ればいいだけ。

 ――そして、すぐにそのときはやってくる。

 

 

 

「ヴァーリ!」

「わかってる! この子は狙わないで、闇の力だけを半減すれば――」

 ヴァーリが、特に侵食が進んでいるイヅナの三尾に向け半減の力を行使する。

『Divide!』

 その瞬間、絶対悪である闇の力が感じられなくなるほどに小さくなった。

「あとは俺だな。神器は想いの力に応える! 『黄昏の聖槍』、俺の意志に応えろ!」

 曹操の叫びに、聖槍の輝きが増す!

 そして、あろうことか曹操はイヅナの体を横一線に聖槍で薙ぎ払いやがった!?

「この……ッ!」

 怒りに任せて曹操を斬りに駆け出した瞬間、変化が起きた。

 聖槍が絡め取ったように、イヅナの体から黒い塊を抜き取る。イヅナは――。

 気を失って倒れてはいるが、傷は負ってない!

 やってくれるな、曹操。まさかイヅナを傷つけずにそんな芸当をできるなんて!

 駆けながら、感謝をするばかりだ。俺じゃ、そんなことはできないからな……。

 イヅナの体から追い出された黒い塊――闇を斬るべく、両手に握る剣を構える。

「決めろ、カイト!」

「これで、あたしたちの勝ちだよ」

 ああ、そうだな。

 これで――。

「絶剣技、破ノ型――烈華螺旋剣舞・十五連!」

 俺たちの勝ちだ!

 ――ッ!?

 白銀と闇色の閃光が周囲を縦横無尽に駆け巡る中、俺はそれを見た。

 闇が斬り裂かれる寸前、形を変えたことを。

 間近にいた俺以外は、絶剣技と聖槍の光によって見えていなかったかもしれない。だが、俺は見た。あの闇が、三つ首の龍の形をとったことを――。

 それはきっと、新しい問題に直面した瞬間だったと思う。でもいまは、いまだけなら。

 闇が完全に消滅したことを見届け、すぐにイヅナのもとに駆け寄る。

「イヅナ。とりあえず、おまえの中にあった闇は取り除いた。ここからだ。今度はちゃんと、話し合おうな。あのときのこと、今日までにあったこと、全部」

「すぐに目を覚ますと思うよ。俺も聖槍も、このときだけは傷つけることを優先しなかったからね。ただあの闇を弾き出すことだけを意識したんだ」

 曹操が後ろから声をかけてくる。

「ああ。おまえ、よくあんなことできたな」

「……それはあれだ。信頼してくれる共闘者がいたから、仕方なくだ。本来の俺はそんなことを考えたりもしないはずなんだけどな」

「曹操~照れてる? 照れてるの?」

 そんな曹操をからかいにかかるヴァーリ。

「照れてない。元々俺はクールなんだ。そんなわけないだろう」

「ふーん……?」

 ヴァーリの半減がなかったら、曹操もあんな簡単にはいかなかったのかもな。それこそ、イヅナと同化しかけてたんだから。

 きっと、半減したおかげでイヅナとの同化も弱まったからこその芸当か。

 本当に、今回だけは二人に救われたってわけだ。

「大体、ヴァーリがだなぁ!」

「えー、そこあたしのせいにしちゃうのかぁ」

 とうの二人がいまだなにかを言い合ってるなか、

「……ん…………。カイ、ト……?」

 小さな声で、俺の名を呼ぶ声があった。

 先ほどまでの邪気がまるでない、あのころと変わらない声。まだ話すことはたくさんあるけど、そうか。俺は取り戻せたんだ。

「おはよう、イヅナ。久々の再会だな」

「……おはよう、カイト。よくわからないけど、久しぶり?」

 やっとだ。あの日から、やっと一人。

 俺は、仲間の一人と本当の意味で再会したんだ――。

 だからいまだけは、全部の問題を無視して、喜んでもいいよな?

 


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