ハイスクールD×D 精霊と龍神と   作:きよい

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12話

 さて、イッセーはどうしてるだろうか? 

 そろそろ禁手に至ってほしいころなのだが……。会長たちとの戦いまであと八日間。その間に至れていなければ……。いや、五日前には休息期間をとるから、実質あと三日しかないか。

 シトリー眷族の修行も見に行ったが、まあ個々としてはグレモリー眷族が数段強い。ただ、策を用いたチームプレイなら、また話は別だろうな。それこそ、みんなが力を奮うのを制限されたら、結構追い込まれるんじゃないかなぁ。パワーによるゴリ押しだし。

 あと三日……。明日にはイッセーのところに行ってみるか。どうなったのか不安で仕方ない。

 まあ、明日まで俺が無事だったらの話なのだが――。 

 そんなことを考えながら、俺は静かな森の中を歩いていた。理由なんてひとつしかない。グレモリー眷族とシトリー眷族のレーティングゲームまでに、問題事は減らしておきたいからだ。

 いまの仲間が関わるイベントの最中に邪魔されても困る。

 それに、小猫との会話の中で、どうあるべきか改めて知ったんだ。迷っていても、その中で決めた答えを覆すことは、もう無いだろう。アザゼルにも言われた。俺は仲間のために、やるべきことをしよう。今のオカ研のみんな、そして俺の本来の仲間たち。どちらにも、できる限りのことをしようじゃないか。

「さって、今日襲ってくれば片がつく。襲ってこなければまた次回ってことになるけど……。流石に一人のときを狙わないほどおバカさまじゃないよな、俺の仲間は」

 でなければ、修行を見に行くのをサボってここまで来た意味がない。不発とか笑えないからな……。

 イヅナの能力は空間跳躍が主体になってる。仕掛けてくるなら、遮蔽物の多い森だろうと考えてたが、甘かったか? ああ、そういえば他にも変わった術使うもんな。ここである必要が無いのかもな。だとしたら見通しが甘かったか? 

 俺を憎んでるなら喜んで襲ってくると踏んでいたんだが……。

「気配どころか、物音ひとつしないじゃないか」

 このまま待っていても無駄かもしれない。

「……ま、仕方ないか。今日のところは帰るとするよ」

 

 来た道を戻るために後ろを向いた瞬間だった。

 

「――!?」

 周辺一帯を取り巻く気配が、一変した――。

 

 

 

 

 

 

「いまになってお出ましかよ、イヅナ! やっぱまだ俺を殺したいか?」

「……」

 姿を見せなければ、答えが返ってくることもない。

 それでも、近くにいることはわかる。

「イヅナ! 一度ゆっくり話そうぜ? そんで、そのときにおまえが思ってることを聞かせてくれよ。恨みでも、憎しみでも、なんでもいい。素直な気持ちを、おまえの本当の気持ちをさ」

「……そんな必要、ない」

 今日初めてイヅナの声が辺りに響く。

 その瞬間から、俺たちの戦いは始まった。

 仕掛けてくるのはもちろんイヅナだ。俺はイヅナの正確な居場所がわからないおかげで、防戦一方だ。

 八方から飛んでくる短刀を落としてばかりではなにも変わらないというのに、イヅナはそればかり続ける。

「無駄だ! んなことはおまえもわかってるだろ!」

「ええ、よくわかってる。この一撃一撃はとても弱いから、カイトに届かない。でも、束ねた力は、必ず届く!」

 束ねた力? これからなにかするつもりか? 

 だったらはやいとこ見つけて、話ができるくらいになるまでは相手するか。本当は仲間にケガとかさせたくないけど……許せよ。

「エスト、レスティア。少しの間おまえたちに体の所有権を譲る。俺がイヅナを見つけるまでの間、俺を守ってくれるか?」

 二人の協力があれば、きっとイヅナの場所がわかるはずだ。でも、その間は集中しなきゃいけない。だからこそ、短刀を防いでくれる協力が必要なんだ。

(当然よ。任せて、全て落としてあげる)

(私はあなたの剣。カイトを守るのは当然です)

「ありがとな、二人とも。それじゃ、頼むよ」

 不安なんてない。この二人なら、必ず向かってくる短刀全てに対処してくれる。

 だから俺は、安心して行動に移れるんだ。

 腕が勝手に動いていることを確認するまでもなく、俺は目を閉じた。

 

 イヅナは必ず近くにいる。それこそ、俺の位置を正確に確認できる範囲には。

 でも、簡単に見えるところにはいないだろう。

 だからこそ、視覚ではなく聴覚のみに集中するんだ。あいつは短刀を投げてきている。いくら空間を捻じ曲げて俺へと飛ばしてこようと、投げる際のわずかな擦れる音は消せないぜ? 

 元々静かな森だ。聞こえるのは短刀を弾く音、それに、森に吹くわずかな風のひゅうひゅうという音だけが鳴っている。

 他には――もっと、もっと集中しろ。剣の音なんて、聞こえなくてもだいじょうぶだから。

 風に揺れる草木の中に、僅かに異なる音を探る。

 ――聞こえた! 

 左前方に、草木の揺れとは異なる動作をする音を、俺の耳が捉えた! 

「エスト、レスティア。ありがとな。おかげで見つかったよ」

 それと同時に、腕の感覚が俺に戻ってくる。二人のおかげで、俺は傷ひとつなくイヅナの居場所を知ることができたわけだ。

「さあ、第二ラウンドに行こうか、イヅナ!」

 叫ぶと共に、両足に力を込める。

 イヅナに居場所がバレてることを気づかれる前に接近するには、一直線に駆け抜けるしかないな。飛んでくる短刀を捌きながらだと、多分逃げられる。

「たまには、回避することに専念するか。どうせすぐに気づかれるんだろうけど、そうなっても逃がさないからな」

 さあ、いけ! 駆け抜けろ!

 これまでと違い、飛んでくる短刀を全てかわす。

 真正面から顔面に一直線にくるもの、四角から急所を狙うもの。それら全てを視覚、聴覚で認識し可能な限り小さな動作でかわしていく。

 もちろん、その間に足を止めることはできない。

 多分、そろそろイヅナも居場所がバレてることに気づいただろう。

 短刀の数が増えてきている。

 けど、

「狙いに気づくのが遅かったな!」

 そう、俺はもうおまえの背後まで迫ってるんだよ。

「これでやっと、おまえに会える――」

 瞬間、目の前にイヅナが姿を晒した。

 

 手に持つ銃が、俺に向けられた状態で。

 確かあれは、昔駿が造った、自身の魔力を数段階跳ね上げた威力の魔弾を撃つやつじゃないか!?

 くそ、あの野郎イヅナに持たせてたのかよ! 

 考える暇もなく、向けられた銃口が火花をあげ、オレンジ色に光った。

 発射された魔弾は――。

 ああ、いい狙いだ。このままなら、俺に当たるだろうな。

 これ、当たったら致命傷だよなぁ……。

 でも、どんなに威力のある攻撃でも、当たらなければ意味は無い。

「甘かったな、イヅナ。突然のことで驚きはしたが、それだけだ」

 俺は迫りくるその魔弾を――体を少し斜めに倒しやりすごした。

 的をなくした魔弾は頭上を越え、背後へと消えていった。

「俺にそんなもんは当たらないよ」

「……カイトこそ、忘れたの? 私の能力が、空間跳躍だってことを!」

 背後から、ゴウッ! という風を切る音が聞こえた。

「なっ……!?」

 俺は振り返ることもせず、地面を思いっきり蹴り、横に跳んだ。

 直後、俺の頭があった位置を、先ほどの魔弾が横切っていった。

「アハハ、自分の力に余裕持ちすぎだって。どうせ、私のこと話し合えるくらいに、とか、ケガさせたくないけど、とか、自分が勝つの確定で考えてたでしょ? ダメだよ、そんなんじゃ私には勝てないってぇ。いまの私は、カイトの知ってる力以外にも、使える力があるんだから」

「……」

 どうやら、俺の考えが間違っていたらしい。

 確かに、俺はどこかでイヅナを簡単に倒せるのだと考えていたのかもしれないな。だからそこに隙ができた。

 ったく、なにやってんだか……。なにも言い返せないじゃないか。

「で、俺の知らない力ってのは、披露してくれんのか? そんだけ言っといて見せないってのはないよな」

「もっちろん。でもカイト、きっとこれ見たら死んじゃうね。――楽しみ」

 再び銃口が向けられる。

「ねえ、カイト。私ね、とっても強い力を手に入れたんだよ。あなただって、倒せると思えるくらいの力を」

 再び銃口からオレンジ色の火花があがる。

 そして、次に撃ちだされた魔弾は、俺の心拍数を急激に上げた。

 どこで、どこでその力を手に入れた? その魔力は――。

 黒く、黒く。全てを塗りつぶすかのような色をした魔弾が、俺に迫ってくる。

 俺は、この魔力を知っている。

 ここ最近、見た覚えが、感じた覚えがある。

「イヅナ……。おまえ、接触してたのか?」

 当然、魔弾はかわす。

 再びイヅナの力により出現するだろうが、関係ない! 

「答えろ、イヅナ! おまえは接触してたのか!」

 コカビエルのとき、会談のとき。

 緋夥多、そしてアンラ・マンユと遭遇したときに、俺は見た! 

「イヅナ! おまえは、アンラ・マンユに会っていたのか!?」

 俺の叫びに、応える声はない。

 どうなってるんだよ……。だってあの魔力は、あれは、アンラ・マンユの力と同じものじゃないか――!

 

 困惑する俺の眼前で、二発目の魔弾が発射された――。

 


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