ハイスクールD×D 精霊と龍神と 作:きよい
「いま、なんて言いました? ガブリエルさん、いま、なんと?」
「聞こえませんでしたかぁ。やはり、カイトさんをあのとき天界で保護するべきだった、と言いました」
……聞き間違いじゃない、か。
ガブリエルさんは、昔の俺を知っている? あのとき? 会談の暇で、俺は一度もこの人と会ったことは無かったはずだ。
いや、それ以前に、この人は――
「あのときっていうのは、いつですか? 俺に仲間がいたころ、ここ数年のことですか?」
そう聞くと、ガブリエルさんは首を横に振り、否定の意志を示した。
「私がカイトさんを初めて見かけたのはまだあなたが一人だった頃――いえ、神器と三人でいるころです。それ以降は消息が掴めず、一度も見かける機会はありませんでしたが」
なるほど。まさに仲間を集め始める少し前から少し後ってところか? レスティアとエストがいたってことは後かな?
まあそれはいい。それより、それ以降消息が掴めなかったのは当然といっちゃ当然か。俺の仲間にはいろいろな種族がいたが、みんな半端者ばかりだったからな。発見されて討伐されないようにと策を講じたもんだ。いくら天界や冥界でも、簡単に俺たちの勢力を発見できるものじゃない。
「それで、なんで俺を天界で保護するべきだったと?]
「さきほども話たように、天界には神器持ちの子供を育てる施設があります。当時孤児だったあなたは、やはり天界で保護するべき存在だった……」
――するべきだった。
それは、できない理由があったのか? 当時、天界には俺を歓迎できないなにかがあったと見るべきか。
「いまのあなたは、せっかくできた仲間も失い、深い悲しみを味わったというのに……。あのとき保護できていれば、そんな目にあうこともなかった」
「……それだと、俺の仲間が本当に死んだみたいじゃないですか」
「え……?」
「つい最近、一人だけですけど会いましたよ。本人は俺のこと、相当恨んでましたけどね」
ああ、もう泣きたい……。仲間に嫌われるって、心に響くぜ……。
「そうでしたかぁ。それは、いいことですね」
嬉しそうにしながら、俺の頭を撫でてくる。俺よりも嬉しそうに笑っちゃって。
ああ、膝まくらしてもらう体勢を変えてもらったらガブリエルさんの顔も見えるようになったよ。
そういえば、俺たちは仲間であり、家族であった。その中でも、俺はみんなの兄であり続けようとした。当然だ。俺と他五人で仲間を集め出したんだ。俺が率先すべき立場にいるのはあたりまえのことなんだから。
だからだろうか? ガブリエルさんは、なんとなく姉ちゃんっぽく感じる。
ハハ、これは初めてのことだな。そうか、俺はもうとっくに――。
ガブリエルさんを仲間として見ていたのか。
なら、聞くべきことはしっかり聞こうじゃないか。この人の思っていることを、全て――。
「話、続けてください」
「……。当時、天界では神滅具の所有者を施設で育てていました。彼は天界にとって、大事な人材です」
「その彼と、俺はなにか問題でもあったんですか?」
「直接はなにもありませんでした。ただ、当時まだ力の加減ができてなかったカイトさんから邪悪ななにかを嗅ぎ取ったようで、システムへの影響と、なにより、自分自身への被害を恐れた上層部の手によって、あなたの存在履歴の全てが抹消されたんです」
なるほど。どこも上は考えることが同じだ。半端者は恐れられ、虐げられる。
何度も見てきた光景じゃないか。それと同じことが、天界でも起きていただけのこと。
「そして何より、神滅具の所有者があなたに干渉されるのを防ぎたかったのでしょう。下手に干渉させるのも困る、それともうひとつ。強大な力を持つ子供を二人も同時に育てる余裕も度胸もなかったんです」
「それでも――」
ただ、そんな中にも一握りの人たちだけは。
「それでもあなたは俺のことを思ってくれていたんでしょう?」
「――カイトさん……」
誰かが悪いわけじゃないんだ。それはわかってるし、理解もしてる。
自分の世界を守りたいのは当然のことだから、納得できる。だから俺は、そうやって弾かれた奴らを積極的に仲間にした。――最後の、拠り所として。居場所として、温かい場所であれるように――。
きっと、ガブリエルさんの話てくれたときに天界に保護されていれば、俺はこんなこと思わなかったし、仲間とも会えなかっただろう。だから、天界を恨みもしないし、むしろ感謝する。
「俺は、俺の境遇全てに感謝してますよ。まあ、いまはアンラ・マンユのせいでイラつくことの方が多いですけどね……」
「どうして……そんなこと」
「だって、そうでなければイヅナたちや、イッセーたちもそう。多くの仲間に会えなかったんですから」
「そう、ですか……。私はずっと、あなたのことで後悔していましたが、カイトさん自身がそう思ってくれているのなら、余計なことだったかもしれませんねぇ」
「そんなことないですよ。確かに、チビのころの俺ならなんて言うかわかりませんけど」
「そうでしょうねぇ」
少し寂しそうに微笑む。
「でもいまなら、俺はこう言いますよ。――ありがとう。他の勢力の人からそう思われていたのは初めてです。ガブリエルさんが仲間でよかった」
その一言が合図だったのだろうか?
ガブリエルさんは綺麗な双眸から雫をおとしながら、俺を力いっぱい抱きしめてきた。
そして俺を撫でながら、アザゼルが俺を呼びに来るまでずっとそうしていた――。
「にしても驚いたよ。まさかおまえがガブリエルをおとすとはな」
「堕ちてないだろ?」
ガブリエルさんと一度分かれた俺は、アザゼルと話ながら小猫の部屋に向かっていた。
にしても、アザゼルは何を言ってるんだか。堕天使にはなってなかったぞ。
「おまえ……。はぁ、イッセーといいカイトといい……無自覚ってのは恐ろしいねぇ」
「ため息ついてると婚期が逃げてくぞ、アザゼル」
「うるせぇ! いいんだよ、俺は! 抱ける女は大勢いんだよ」
なのに一人身って……。いや、なにも言うまい。
「それよりも俺はおまえたち二人の無自覚っぷりが心配になってくるぜ」
「俺にも理解できるように言ってくれ」
そう愚痴ると、アザゼルは悪い笑みを浮かべる。
「それを教えたら見ててもつまらないだろ? 俺は悪い堕天使さまだからな」
「だったらもう黙ってろよなぁ……」
と、言い合っていると、イッセーと部長の姿が視界に入った。
「もう着いてたか。カイト、俺は待ってるから、おまえはあいつらと一緒に小猫の様子を見て来い」
「あ、ああ。わかった。じゃあまた後でな」
アザゼルと別れ、イッセーたちへと駆け寄る。
「イッセー、小猫の状況は?」
「カイト! いや、俺もいまから入るところだったんだ」
丁度だったか。
部長が俺のことを一度見返し、部屋の扉を開いた。
部長はもう話は済ませたらしく、入室したのは俺とイッセーだ。
寝室の方には朱乃さんが待機していて、ベッドには小猫が横になっていた。
ああ、やっぱりか。黒歌の妹だからなぁ……。
黒歌と同じように、小猫の頭部にも猫耳が生えていた。
俺とイッセーが入ってきたことで、小猫の表情が明らかに変わった。不機嫌そうにぶすっとしたまま、俺たちを一瞥してそっぽを向いたのだ。
……これは大変そうだ。イッセーは――猫耳を見てもあまり驚いてないし、話を訊いてるのか? でも、上辺だけかもしれないな。いまのイッセーと話させるのは逆効果かもしれない。
「仕方ない……。小猫、少し俺と話しをしようか」
俺が本心を訊くとするか。
まあ、なにを考えてるかは、大体のところはわかってるつもりなんだけど……。バカ姉め、今度会ったら絶対に連れてきて本当のことを話させてやる。