ハイスクールD×D 精霊と龍神と 作:きよい
朝、イヅナの襲撃後、俺とアザゼルはイッセーが起きるのを待ち、朝食にする予定で話をしていた。なんでもアザゼルが朝食を持ってきてくれているとのことだ。
「しっかしよくもまあイッセーをこの期間中に呼び戻そうなんて考えたな」
「リアスの母親殿がな」
「ああ、あのなんか企んでそうな人か」
「十中八九イッセーを――」
「だろうな。あいつも大変な立場になりそうだな。だからこそ、はやく禁手に至ってほしいもんだ」
じゃなきゃ幸せを見る前に死ぬぞ、イッセーは。
まあ、そんな簡単に殺させはしないけどさ。それは俺の役目だし。
「それよりも、イヅナは三尾の妖狐みたいだがどういった経緯で仲間にしたんだ?」
アザゼルはイヅナに興味でも持ったのかな? まあ、三尾ってあまり聞かないかもしれないけどさ。
協力してもらうわけだし、話ても問題ないだろう。アザゼルはなんとなく、話しやすい。
「イヅナはさ、京都の生まれなんだよ」
「京都……。九尾の大将の地か。なるほど、続けてくれ」
「あそこの妖怪どもは割りと仲間に優しい奴らで、三尾まで妖怪としての成長が止まってしまったイヅナを責めることはなかったんだ」
「成長が止まった?」
「半妖なんだ、あいつ。そのせいか、力も不安定でな。完全な九尾にはなれないんだよ。宿った力も妖怪のものとは言えない異質なもので、さっきの裂け目もその一部だ。はみだし者、なんだよなぁ……。それがコンプレックスなのか、仲間の優しさに応えられない悔しさからなのか、京都の町に戻ろうとしないで彷徨ってたところを保護したってわけだ」
「……そうか。おまえも随分と優しい性格をしてるみたいだな。初めは冷徹な奴かと思ったが、ただの甘ちゃんかもな」
アザゼルは特に表情を浮かべるでもなく、その言葉を何事もないかのように言い切る。
「甘ちゃんで結構だよ。それでもいいさ」
「だろうな。おまえが甘いのは仲間が絡んだとき――自分がどうにかしなければいけないときのみみたいだしな。仲間が絡まないおまえはどう考えても冷酷だよ」
「評価ありがとよ」
「可愛げねぇなぁ」
「あったらどうにかなったのかよ」
その問いに応答はなかったが、代わりにアザゼルは笑顔を浮かべていた。
なんだよ、気持ち悪い。
「おまえは仲間のこと、本当に大事にしてるんだよな?」
なんてことを思ってると、そんな質問を唐突にされた。
さっきから仲間の話をしてるのになんのつもりだよ。
「あたりまえだろ?」
「それはいまのグレモリー眷族全員もか?」
「ああ」
「朱乃は――どう思う?」
「どう? ああ、もちろん守りたい人の一人ですよ?」
「そうじゃなくてだな……。いや、そうでもあってほしいんだが……」
なんか言い出したぞ。
この話はいったい何処に向かっているんだ?
というか、そろそろ待つのあきたぞ、イッセー。起きろよなぁ。
「なあカイト」
ああ、アザゼル。まだ話は終わってなかったのかな?
「朱乃が堕天使の娘であることは知ってるな? 俺はそのダチの代わりに朱乃を見守らないといけない部分もあってな」
この人も本当に仲間のことになるといろいろやってるな。そういうところは素直に尊敬できるぜ。
「そこでだ。朱乃を一人の女性として、どう見る?」
……これはどういう意味だ?
一人の女性? ――ああ、朱乃さんが心配ってこと言ってたし、年頃の男子に評判も聞いときたい、みたいな感じか! 確かに現在や将来に影響することだもんな。普段近くに入れる機会が少ないから、そういうことを聞きたいってことか。
「朱乃さんは綺麗ですし、可愛いですよ。お姉さんぽいと思うとなんだか幼く見えることもありますし」
「彼女にしたいとかは?」
「思いますよ」
「――そうか!」
なんだなんだ、嬉しそうにして。
「なにも心配する必要はなかったわけか。カイト、朱乃のことはおまえに任せる」
「任せる? なにを?」
「気にするな。そのまま、いつものように接してやれ」
「ああ……わかったよ」
なんか釈然としないな。結局一番言いたかったことはなんだったんだ?
……まあいいか。それはそれだ。
とりあえずは――
「そろそろ起きろコノヤロウ!」
イッセーを蹴ってでも起こそうじゃないか。
俺は脚を上げ、目標に向け振り下ろした。
数瞬後、山中に悲鳴が響き渡った。
「一度帰るのはわかったけど、あの起こし方はないだろ……」
座ってブツブツ文句を言う寝起きのイッセー。
いやいや、帰るって言ってるんだから早起きしてもらわないと。
「悪かったって。でもなイッセー、早く起こしたのは朝食があるからなんだよ。
「マジすか?」
「ああ。これだ」
アザゼルがいくつかの弁当箱を取り出す。――取り出す?
「なあアザゼル。いまその弁当箱たちをどこから出したんだ?」
「…………」
「おい、アザゼル?」
「……カイト、世の中には知らなくていいことと知らなくてはならないことがある」
なんの話だよ……ってああ! 目がマジだ!
「そしてな、堕天使の技術力なら四次元ポケ――」
「ストップ、先生!」
あ、イッセーに口塞がれた。最後なに言おうとしてたんだろ。
「ットというのを開発するくらい造作もなくてだな」
自分の着ているスーツのポケットを指しながら言うアザゼル。
なんかすげーいい顔してるぞ。さっきの流れはなんだったんだよ……。結局自慢したかったのか?
「先生、マジですか? それなら俺のお宝もそこに隠せば解決できます! ぜひ俺にも!」
「というのはウソだ」
「へ?」
「すまん、イッセー。まさか食いついてくるとは思わなくてな」
「そんな……。俺の希望が……」
地面に膝をつき項垂れる。
イッセー、もうそういうのいいから。
「話がそれたな。ほら、おまえら二人の弁当だ。作ってた二人にしっかり届けろと脅されたんだからな。食い残すなよ」
うわー、なんか穏やかじゃないな……。
って、おお! 結構量あるな。定番のおかずにおにぎりに、水筒の中はスープか? いいね、体に染みる。
「うまいな」
イッセーの方を見ると、俺のとは違った弁当がふたつほど。「うみゃい! うみゃいよぉぉぉぉおおっ!」とか言って緩みきった笑顔で食していた。
なにがあったんだ?
「いい食いっぷりだな」
「あれ、どうしたんだよ」
「いや、つくったのがリアスとアーシアだということを伝えただけだ」
「なるほど」
そうか。そりゃイッセーが喜ぶわけだ。
じゃあ俺のもか? でも中身がまるで違うよな。
「ちなみに、おまえの弁当をつくったのは朱乃だ」
俺の疑問に気づいたかのように答えてくれる。
アザゼルのさっきの問いといい、なんか陰謀を感じるが、朱乃さんにそんな気持ちはないだろう。
弁当うまいし。下心があったらこんな味にはならないものだ。
ありがとうございます、朱乃さん。
その後、イッセーの修行状況を知ったアザゼルは、タンニーンに一度イッセーを連れて帰る話をつた。他にも、イッセーが帰る理由を説明していたが、
「帰る間に伝えることがある。小猫がオーバーワークで倒れた」
「あせってるのかもな」
アザゼルの報告にそう返す。
「心当たりがあるか?」
「なんとなくな。わかった、小猫の件は少し俺とイッセーで話してみるよ」
「頼むぞ。オーバーワークで筋力なんかを痛めると今後の修行にも響く」
「任せてくれ」
小猫――。なにやってるんだよ。
おまえの気持ちはなんとなくわかる。あせった原因がなんなのかもわからないわけじゃない。でもな、それはきっとおまえ自身が自分を、自分の力を拒んでいるからそうなるんじゃないのか? ったく、黒歌……。おまえを小猫にさっさと会わせてやりたい気分だ。
「おい、おいカイト」
「カイト? 話聞けって」
アザゼルとイッセーの声が聞こえる。
少しのめり込み過ぎたか。周りの声が聞こえてなかったみたいだ。
「悪い、なんだ?」
「おまえは帰ったらガブリエルのところにいけ」
「はい?」
「なんでも、話があるようだった。三すくみの会談のときにできなかった話をしたいんだとよ」
あのときか。確かになにか言おうとしていたっけ。
あまり気乗りしないけど、ガブリエルさんの話なら聞かないとな。
いくつもの思い、考えがまとまり、浮かび上がる中。俺たちは数日ぶりに、グレモリー家本邸に戻ってきた。