ハイスクールD×D 精霊と龍神と   作:きよい

62 / 113
6話

 それにしても、よくやるものだ。

 修行を始めて数日。

 今日も眼前ではイッセーがティアマットとタンニーンに追いかけまわされている。

 普通の学生の夏休みではあり得ないことだ。あいつも本来なら好きなことをしたいだろうに。

 ドゴオオオオンッ!

 タンニーンの噴いた火により、あたりの木々が消し飛ぶ。

 ズギャァァァァンッッ!!

 ティアマットによってあたりの景色が一変する。

「うわぁぁぁぁああんっ!」

 イッセーの叫び声。それらの一撃を掻い潜り、ギリギリの中で生き残っている模様。 

「なんだかんだでいい感じね」

 頭の上からレスティアの声が聞こえてくる。

「そうだなぁ……。あのニ龍を相手によくやってる。まあ、相当手加減されてるっぽいけど」

「それは仕方のないことよ」

「わかってるさ」

 いまのイッセーでは、タンニーンだけだとしても相手にできるはずがない。タンニーンが少しでも本気を出せば一瞬で消し炭だ。それはティアマット相手でも同じことなのだが――。なにはともあれ、つまりは相当手加減されてない限り、イッセーが今日まで生き残っているはずはないというのは、全員がわかりきっているのだ。

「それよりも、私としては彼の野性的なところの方がよっぽど不思議だわ」

「あー……。川で魚捕ったり木の実を食ってたり。煮沸にウサギみたいな生物焼いてたりしたもんな」

「私にはとてもじゃないけど無理よ……」

「だろうね」

 俺もレスティアとエストにそんなことは求めてないから。

 さて、そろそろ気になっているころだろうか? いま、俺がどんな体勢でいるのかを。

 簡単に言っちゃえば、

「私の膝は気持ちいいでしょ、カイト。このまま寝ててもいいのよ? イッセーの修行が終わったら起こしてあげるから」

 膝枕されてる状態だ。

 というか、おいおい! 話ながらどんどん顔を近づけてくるなよ!

 レスティアがどうしてもというので思うがままにされていたんだが、本当にやりたい放題だな……。

「カイトにそれ以上顔を近づけるのは禁止です」

 と、そこで俺の体の上から声がかかる。

 上? レスティアの顔を眺めていて気づかなかったが、確かに多少の重みを感じる。

「せっかくの私とカイトの時間を邪魔するなんて……」

「いいえ、カイトと私の時間です」

 レスティアと言い合いを始めたのは、俺のもう一人の相棒、エストだった。レスティアだけが出てくるのに不満でもあったのだろうか? 自然に俺の上に乗っかっている。

「エスト、早く私のカイトから離れなさい?」

「いやです」

 エストが俺に抱きついてくる。

 それを見て、ムッ、っとした表情をしたレスティアは、自身の膝にある俺の頭を抱え込み、まるで猛獣から守るかのような姿勢をとる。……ってちょっと待て!?

 抱え込むのはいいけど全身でかかえこむなよ! するならせめて手だけにしてくれないか!

 という俺の叫びがレスティアに聞こえるはずもなく。いや、声が出せないんだよ、その……。

「カイトの顔からその胸を退けるべきです」

 エストが俺の考えていたことを指摘する。

 そうだエスト、もっと言ってやってくれ! あまり大きな声では言わないでほしいが……。

「あら、いいじゃないこれくらい。……ああ、そうね。エストはできないものね。残念ね、カイトこれで私のモノよ」

「……私だってそれくらいできます!」

「…………」

「せめてなにか言ってくださいよ」

「その、頑張ってね」

「うるさいです」

 エスト、レスティア……。その辺にしておいて、そろそろ俺の現状に気づこうよ!

 も、もう流石に息が――。

「ちょ、カイト!? どうしたの、急に暴れて!」

「か、カイト……! あまり動かないでください。お、落ち――」

「「きゃっ……!?」

 ……ギリギリだな。

「脱出、成功!」

 ああ、空気を吸える。素晴らしいことだな。

 いや、あの感触も素晴らしかったけどね。

「カイト、なにするのよ」

「まったくです」

 二人が言い合っていた間の俺の状態を知らない二人はそう詰め寄ってくる。

「いや、おまえらのおかげで結構危ない経験をしたからね!?」

「「……?」」

 なにかわいく首傾げてるんだよ。

 でも言うのは抵抗あるしなぁ。もうこの話は流すか。

「なんでもないよ。とりあえず、二人は仲良くしろよ?」

「……」

「……」

 互いを見合う二人だが、しばらくして口を開く。

「カイトがそう言うなら仕方ないわね」

「同じくです」

「ならいいよ」

 二人の相手に疲れ、イッセーを確認する。

 お、まだやってるな。今日は昨日より長いんじゃないか? 

「イッセー、頑張れよ!」

「おうっ! って、カイト! おまえもこの修行受けろよォォォォ! くつろいでないでないでさ!」

 よし、まだ文句を言う元気は残ってるな。

「タンニーン、ティアマット! もう少し続けてもだいじょうぶそうだ」

「いいだろう。ほら、逃げまわってないで反撃してこい」

「だから私を最初に呼べと――。おのれ赤龍帝! カイトに最初に呼ばれないのもおまえのせいだ!」

 タンニーンとティアマットがやる気を出しイッセーに更に攻撃していく。

「そ、そんなことで怒るか普通! り、理不尽すぎるだろアンタッ!」

「うるさい!」

「うおぉぉぉぉっ! あ、あぶねぇ……」

 ティアマットの一撃、よく避けたな。けどその先って、

「よく来たな。さあ、どこからでも仕掛けてこい」

 タンニーンが待ち構えてるよね。

「無理でしょ! アンタにパンチしたところでダメージなんてないし、どうしろと!?」

「それを考えながら戦うことで禁手への道が開くかもしれん。さあ、どうした。かかってこい!」

 タンニーンの言葉を聞き、拳を握るイッセー。

「クッソォォォォッ!!」

 ガムシャラに突っ込んでいき、彼はタンニーンと正面から衝突した。

 

 日も暮れ、夜になるまで修行は続いた。と言っても、これはいつものことだが。

「おまえ、少しは周り見て戦えよ」

 結局、突っ込んだ矢先潰されたよ、イッセーくんは。

「しょうがないだろ……。多少の無茶しないと、禁手になんてなれない」

「その意気込みはいいけどよ。いや、いまはそんなんでもガムシャラに進むべきかもな」

「……カイト」

 そんな嬉しそうに見つめてくんなよな……。

 確かにイッセーは頑張ってるし、努力もしてる。でも、会長とのレーティングゲームまでに禁手に至るには、きわどいな。

「さあイッセー。明日からもまだまだたくさんしごかれるぞ。早めに寝とけ」

「そうだな。俺もう疲れきってるんだよ。おやすみ」

「おう、おやすみ」

 イッセーはそこいらで拾ってきたやけにデカイ葉を布団代わりにし、さっそく夢の世界に入ったようだ。いびきがよく聞こえる。

「では、俺も眠るとしよう。兵藤一誠が起きたら声をかけてくれ」

「わかった」

 タンニーンもイッセーに続き目を閉じた。

 ちなみに、ティアマットには毎日魔方陣から帰ってもらっている。

 家に残してきたスカーレットの世話をしてもらっているのだ。一緒に連れてくればよかったな。……そうか、ティアマットに連れてきてもらえばいいんだ。さっそく明日頼むか。

「さて、少し顔でも洗ってるかな」

 近くに川があったはずなので、俺はそちらに移動する。

 イッセーたちからは少し距離があり、まず気づかれないだろう。

「そろそろ出て来いよ。いまも俺のことを観察してるんだろ?」

 虚空にそう呼びかける。夏休み、冥界に来る前から俺の周囲にあった気配。まさか冥界にまでついて来るとは思ってなかった。少々考えが甘かったと、若手悪魔が集まったときに思わされたね。

「フフッ、やっぱわかるか。流石リーダー」

 後ろから声がする。

 やっぱり、聞き覚えのある声だ。

「……いろいろ聞きたいことはあるけど、まずは――」

 そちらに振り向く。

「生きててくれて嬉しいよ」

 腰まで届く金髪をなびかせる少女。瞳は赤く、夜の闇によく映える。そして、彼女を見たら真っ先に目に留まるのはやはり、シュルシュルと動いている三本の尻尾だろうか。頭部に狐の耳があることから、妖狐だというのがわかる。

「服装、いまも巫女服なんだな」

「もちろん。好きだから」

 月光に照らされた彼女は、髪や尻尾が淡く輝き、綺麗だった。前と、まったく変わらない。

「こうして俺のところに来てくれたってことは、帰ってきてくれたんだよな。なあ――イズナ」

「――……ううん。今日はお別れを言いに来たの。もうあなたはリーダーじゃない。アンラ・マンユ襲撃のとき、あなたは仲間を見捨てて逃げた臆病者だ。仲間の仇――討たせてもらう」

 このとき、思いもよらない言葉が俺を貫いた。

 いままで笑顔だった少女の顔は、憎悪に染まっていた――。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。