ハイスクールD×D 精霊と龍神と 作:きよい
短くですがどうぞ!
一睡もできなかった夜は明け、俺たちはグレモリー家の広い庭の一角に集まっていた。
俺とアザゼルが横に並び、その前方に部長率いるグレモリー眷族のみんなが並んでいる。みんなジャージ姿でのミーティングだ。俺? もちろん私服ですよ。
「さて、これから俺たちが言うのは将来的なものを見据えてのトレーニングメニューだ。すぐに効果の出る者もいるが、長期的に見なければならない者もいる。そのことは十分に理解しておけよ」
アザゼルが話始める。
「そんじゃ、まずはリアス。おまえだ。おまえはこのまま普通に暮らしていても、大人になるころには最上級悪魔の候補になってるだろう。だが、いま強くなりたいんだろ?」
「ええ。もう負けたくないわ」
部長は力強くうなずく。
「なら、この紙に記してあるトレーニングを、決戦日直前までこなせ」
アザゼルが紙を部長に渡す。
その後もミーティングは進み、朱乃さん、祐斗、小猫、アーシア、ゼノヴィア、ギャスパーと修行内容を言っていく。
そして、最後に残ったのはイッセー。
こいつの内容だけは悩んだ。どこまでやっていいのか、やれるのか。でも、禁手に到るには、やるしかないだろ。
「さて、最後はイッセーだ。おまえは……」
アザゼルが俺に視線を送ってくる。
はいはい、俺が言いますとも。なんたって、この修行をさらに厳しくしたのは俺だからな。
「先生を呼んだから、そいつと修行だ」
「先生?」
イッセーが問う。
「ああ、もうすぐ――ああ、来たな」
空を見上げると、猛スピードでこちらに向かってくるドラゴンの姿。
そいつは地響きと共に眼前に飛来した。
「アザゼル、よくもまあ悪魔の領土に堂々と入れたものだな」
「ちゃんと魔王さまから許可をもらってるんだぜ? そんなこと言うなよ、タンニーン。それならこのカイトも同じだろ?」
俺を指しながら文句を言うアザゼル。俺だって許可もらってるっての。
「彼は悪魔の協力者だとサーゼクスから伝わっている。なんでもすでにかなりの功績をたてているだとか。まったく、サーゼクスの頼みでなければ来なかったということを忘れるなよ」
「ヘイヘイ。――てなわけで、イッセー。こいつが先生だ」
タンニーンは俺のことも知ってるわけか。『魔龍聖』タンニーン。元龍王の一角。いまじゃ最上級悪魔か――。まさかこうも早くにその姿を拝むことになるなんてな。イッセーの修行のためとは言え、少し豪華すぎる……。でもそれを言ったら俺も呼んじまったからなぁ。
「……マジですか?」
とうのイッセーはなんかもう死にかけみたいな表情してるし。でもな、
「ゴメン、イッセー。呼んでるのはタンニーンだけじゃなくてな」
俺の言葉を待っていたかのように、魔方陣が展開される。そこから姿を現したのは、青銀の髪を腰まで伸ばした女性――ティアマットだ。今日は人間の姿できたか。
肌は病的な程白く、すぐにでも壊れてしまいそうだが、吊りあがった目に宿る悪戯を企むような、闘志に燃えるような感情が、その儚さとは対象的な印象を与えてくる。
そんな俺の使い魔――仲間だ。
「ほう、タンニーンか」
「ティアマットだと? そうか、おまえが今回の修行の相方というわけか。よくおまえが赤龍帝の修行に付き合うと言ったな」
「……カイトに頼まれてな。仕方なくだ、仕方なく! でなければあんなのすぐに消している!」
うわー、おっかねーな、おい!
今回の修行のために彼女を呼んだのは俺が。相当しぶったが、最後は向こうが折れてくれた。替わりになにかいう事をひとつ聞くことで決着させられたけど……。
「タンニーン、ティアマット。悪いが――」
「なぜ先に私を呼ばない! わ、私の方がおまえの中では優先順位は上だろ!?」
ティアマットが俺に詰め寄ってくる。なにに怒ってるんだおまえは……。
「……」
「……」
互いに視線を絡めたまま、無言の時間が続く。
退かないなー……。
「……」
あ、なんか顔赤くなってきてるし。これはあれか? 怒る前兆か? それはちょっと……。
しかもなんか泣きそうだ。これはあまり見てられないし、仕方ない、面倒だが――
「ティアマット、タンニーン」
「言いなおしたわね」
「言いなおしたな」
「言いなおしたね」
みんなが同じ反応を見せる。クソッ、うるせーよ!!
ティアマットもなんでそんなに笑顔になってんだ!
「悪いがこの赤龍帝、イッセーの修行に付き合ってほしい。ドラゴンの力の使い方を教えてやってくれ」
「……言いなおしたな」
「うるせーよタンニーン! 修行前にてめぇから鍛えなおしてやろうか!?」
「面白い。それもいいが、いまはやめておこう」
この――
「なあ、カイト」
弄られた挙句潰す機会もないのかと模索しているとき、イッセーから声をかけられる。
「なにもあんな強そうなドラゴンに頼まなくても、おまえか先生が教えてくれればいいだろ? ドライグだっているんだし、直接教わればいいだろ?」
「それだとすぐに限界がくるんだよ。ドラゴンの修行ってのはやっぱり――」
「実戦方式だ。なるほど、つまり俺たちにこの少年をいじめぬけと言うのだな」
タンニーンが俺の言葉を繋ぐように言う。
「ドライグを宿す者を鍛えるのは初めてだ」
『手加減してくれよ、タンニーン。俺の宿主は予想以上に弱いんでな』
ドライグ……。いや、確かに言っておかないと危ないけどさ……。でもそれだと、
「死ななければいいのだろう? 任せろ。限界までで留めてやる」
さらに厳しくなりそうなんだよなぁ。
ほら、イッセーも「死んじゃう! 俺、殺されちゃう!」って感じですげー慌ててますよ。
アザゼルはタンニーンの言葉にうんうんと頷いている。
「私はカイトの頼みだから殺さない程度に相手してやる。――間違って殺しても許せ」
「最後怖すぎるんですけど!?」
イッセーがティアマットの発言に反応し叫ぶ。
「だいじょうぶだイッセー。ティアマットが嫌いなのはおまえじゃなくてドライグだ」
「つまり?」
「あっ……。どのみちダメージ食らうのはおまえだったわ」
「カイト!?」
諦めろイッセー。禁手はそんな簡単にできるものじゃない。
「さあ、そんじゃ各自頑張れよ。二十日後、おまえらがどれだけ変わるか楽しみにしてるぜ」
アザゼルはそう言い残し、手を振りながら去っていった。
「それじゃあ私たちも修行メニューをこなすわよ」
「「「「「「はい」」」」」」
部長が全員に指示を出す。
「イッセー、頑張りなさい!」
部長がメニューをイッセーに渡す。アザゼルの以外にも追加かな?
「リアス嬢。あそこに見える山を貸してもらえるか? こいつをそこに連れていく」
「ええ、鍛えてあげてちょうだい」
タンニーンは今度は俺に視線を向ける。
「おまえはどうする?」
俺か……。まあ、決まってるんだけど。
「イッセーについてく予定だ」
「そうか。ならおまえも参加するか?」
「たまにね」
それだけ話すと、タンニーンはイッセーを掴み羽ばたく。
「カイト、おまえは私が運んでやろう。乗れ」
ドラゴンの姿になったティアマットが背中を見せる。
「頼むぜ」
俺がそこに座ると、タンニーン同様羽ばたき、後を追う。
「部長ォォォォォォォォォォッ!」
途中、助けを請うイッセーの声と、手を部長に伸ばす姿も見えたが無視した。
始まってもないのに逃げちゃ、なにもできないからな。
期限は二十日間。その間に、禁手に至らなくちゃいけない。
それはイッセーが考えてるほど、簡単にはいかないんだろうな……。そして、俺が考えてる程度には、過酷なものになるだろう。