ハイスクールD×D 精霊と龍神と 作:きよい
列車での冥界入りか……。
いろいろ言いたいことはあるが、一番に言いたいことはこの状況だ。
揺られながら、下に視線を向ける。
そこには、規則正しい寝息をたてながら、俺の膝を枕代わりにして眠る女性――ガブリエルさんの姿があった。
「……普通、少し前まで敵対してた悪魔の移動列車の中で寝るか?」
この人、本当に四大セラフの一人なんだろうか。たまに思うことなのだが、どうなのだろう?
まったく、少しはアザゼルを見習って――うん、間違いなくガブリエルさんは四大セラフの一人だ。
俺が逸らした視線の先には、すでにお眠りモードに入ってたアザゼルの姿。
各組織のトップ陣は、こんな人ばかりだ。よく考えれば、魔王少女がそうじゃないか。
「……うみゅ」
あ、なんかガブリエルさんが変な声出した。
うなされてんのか?
……たまには、こういうのもありか。
俺は静かに、ガブリエルさんの頭を撫でた
心なしか、ガブリエルさんが笑ったように見えたのは、気のせいだろう。
「カイト……俺もあんな美人に膝枕したい……」
イッセーが前方の席からそう言ってくる。
いやいや。
「おまえは部長とアーシアがいるだろ? 二人にしてやったらどうだ? 多分喜ぶと思うぞ」
「……そ、そうか?」
「ああ。というか、朱乃さんはだいじょうぶか?」
俺はそのことの方が心配だ。
列車に乗り少し経ったころだ。
発進するというので、席を決めたのだが、『女王』なら『王』の隣に居るべきだろうという話になり、朱乃さんは部長の隣に座らされた。
なんでも、本当は俺の隣がよかったらしいのだが……。それは阻まれたんですよね。
なので俺は一人で景色でも見ようと思っていたんだが、ガブリエルさんが話し相手がいないといい、隣に来たんだ。
まあ、そこまでは別に良かったんだけど、寝るとは聞いてねー……。
それも気持ちよさそうに。
もう結構経つぞ。
「はあ……。とは言っても、ガブリエルさんも毎日忙しいのかもな。せめて目的地に到着するまでは、このままでいるか」
「いやいや、待てカイト……。せめて撫でるのはやめといたほうがいいって! なんか朱乃さんから殺気が」
なにを慌ててるんだ、イッセーは。
「俺が撫ででたところで、朱乃さんがなにに怒るんだ?」
「カイト……」
なんでか知らないが、イッセーが肩を落としたのがわかった。
あとで説明を要求するか。
「そろそろね。カイト、ガブリエルさまを起こしてちょうだい。もうすぐ着くから、イッセーは窓を閉めて」
部長の指示のもと、各々が降りる準備を始める。
「ガブリエルさん、起きてください。そろそろ降りるみたいですし」
「……う、ん?」
眠そうな目を何度か擦りながら、ゆっくりを起き上がる。
「どこでとまるんですかぁ?」
「グレモリー本邸前ってアナウンスがありましたよ」
「そうですかぁ。では、私はあとで合流しますので、カイトさんは降りてください」
「はい?」
ガブリエルさんのその言葉と同時に、列車が停止する。
降りない? 車両の中を見渡すと、アザゼルも同様に、降りる気配がない。
「おうカイト。はやく降りねぇと置いてかれるぞ」
「おまえらはどうするんだ?」
「俺とガブリエルはこのまま魔王領へ行く。サーゼクスたちと会談があるんでな。もちろん、後でグレモリー本邸には向かう。だから、先に行ってあいさつくらいしておけ」
なるほど。こっちでも会談か。
組織のトップだからな。やっぱり忙しいらしい。
「わかった」
ガブリエルさんに控えめに手を振られながら、俺はみんなに続いて最後に列車を降りた。
「じゃあアザゼル、ガブリエルさん、あとでな」
「お兄さまによろしくね、アザゼル」
俺と部長の言葉にアザゼルも手を振って応えてくれる。
改めて、アザゼルとガブリエルさんを除いたメンバーで駅のホームに降りた瞬間――。
『リアスお嬢さま、おかえりなさいませっ!』
怒号のような声。それに、花火が上がり、兵隊たちが銃を空に向けて放ち、楽隊が一斉に音を奏でたり。
その中にはメイドさんや執事が混ざっていたりもする。
『リアスお嬢さま、おかえりなさいませ』
部長がそちらに近づくと、そう迎え入れてくれた。
「ありがとう、皆。ただいま。帰ってきたわ」
部長も満面の笑みで返していた。
その後、再会したグレイフィアさん先導のもと、馬車に乗せられながらお屋敷へと向かった。
馬車が停まりドアが開かれた。執事と思われる方があいさつしてくれる。
すでに降りていた部長やイッセーたちのいる場所まで着き、全員が揃うと、両脇にメイドと執事が整列し道をつくった。
「お嬢さま、そして眷族の皆さま、カイトさん。どうぞ、お進みください」
グレイフィアさんが会釈をして、俺たちを促す。
「さあ、行くわよ」
部長が歩き出そうとしたとき、メイドの列から小さな人影が飛び出し、部長のもとへ駆け込んだ。
「リアスお姉さま! おかえりなさい!」
紅髪の少年?
「ミリキャス! ただいま。大きくなったわね」
抱きついてきた少年を、部長が抱きしめた。
というか、誰?
「あ、あの、部長。この子は?」
イッセーが、俺たちを代表して訊く。
「この子はミリキャス・グレモリー。お兄さま――サーゼクス・ルシファーさまの子供なの。私の甥ということになるわね」
へぇ。サーゼクスさんの子か。
ここから、眷族全員と、俺があいさつをしたのだが、いやー、よくできたお子さんで。
にしても子供だというからにはサーゼクスさんには相手がいるはずで……。
誰なのかはぜひとも知りたいな。
「さあ、屋敷へ入りましょう」
俺の思考を邪魔するかのように、部長が歩き出す。
にしても門は多いし、扉も多いし。迷子にならないといいけど。
そうして少し歩くうちに、やっとホールとおぼしき部屋に着いた。
シャンデリアに、運動会もできそうなくらい広いホール。いいな、ここ。俺の家も今度広くしたいなぁ。せめて30人は余裕で暮らせるくらいには――。
「お嬢さま、さっそく皆さまをお部屋にお通ししたいと思うのですが」
グレイフィアさんが手をあげると、メイドが何人か集合した。
その申し出に、部長とグレイフィアさんがニ、三話し合ったあと、俺たちはそれぞれの部屋で休むこととなった。
「それと、お父さまがみんなに会いたいって話だったから、その時間は――」
「夕餉の席がよろしいかと。皆さま、その時刻近くになりましたら迎えを出しましょう」
部長に続く感じで言葉を紡いだグレイフィアさん。
というか、
「あの、それって俺もなんですか?」
「当然です。カイトさまには、みなさまがお会いになりたいと申しておりましたよ」
なんででしょうねぇ……。
俺、悪魔業界でなにかしたっけ? いや、なにもした覚えがないぞ!
と、困惑する俺を他所に、部長の母親――ヴェネラナ・グレモリーさんとみんなが会っていたこともあった。見た限りでは、部長とあまり変わらない。いや、少しお姉さんらしい容姿をしていた。どうやらイッセーに対して少し企んでいることがあるみたいだな。
そんな1コマもあったわけだが、俺はやっと一人で休める状態になった。
個人部屋っていいよな。
俺の荷物、無いと思ったらすでにここに運び込まれていた、なんてことはあったけどさ。
にしても、今年の夏休みは一年前より大分マシだな……。
去年までは、酷かったもんだ。この夏の時期は、いつもいつもいつも夢に見る。
そりゃそうだ……。俺の仲間がいなくなったのは、丁度この時期なんだから――。
だから悪夢はいつだって、この時期により濃くなって俺に襲い掛かってくる。でも、今年は違う気がするんだよな。
「今年は、悪夢なんてないと思うんだ。――あいつらのおかげ、かな?」
「冥界に行くっていうから予定が狂うかと思っちゃったよ。でも、こっちでも一人になる機会はありそうだね。フフッ、よかったよかった。それにしても、酷いこと言うね。今年の悪夢は――もっと濃いぞ。その短絡的な考え、いまに塗り替えてやるよ。あの夏の日、私たちを見捨てて逃げただけの英雄さん。今年の夏、キミは私に殺されるんだ。カイト、キミの――仲間の手でね」