ハイスクールD×D 精霊と龍神と   作:きよい

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2話

 列車での冥界入りか……。

 いろいろ言いたいことはあるが、一番に言いたいことはこの状況だ。

 揺られながら、下に視線を向ける。

 そこには、規則正しい寝息をたてながら、俺の膝を枕代わりにして眠る女性――ガブリエルさんの姿があった。

「……普通、少し前まで敵対してた悪魔の移動列車の中で寝るか?」

 この人、本当に四大セラフの一人なんだろうか。たまに思うことなのだが、どうなのだろう?

 まったく、少しはアザゼルを見習って――うん、間違いなくガブリエルさんは四大セラフの一人だ。

 俺が逸らした視線の先には、すでにお眠りモードに入ってたアザゼルの姿。

 各組織のトップ陣は、こんな人ばかりだ。よく考えれば、魔王少女がそうじゃないか。

「……うみゅ」

 あ、なんかガブリエルさんが変な声出した。

 うなされてんのか?

 ……たまには、こういうのもありか。

 俺は静かに、ガブリエルさんの頭を撫でた

 心なしか、ガブリエルさんが笑ったように見えたのは、気のせいだろう。

 

 

「カイト……俺もあんな美人に膝枕したい……」

 イッセーが前方の席からそう言ってくる。

 いやいや。

「おまえは部長とアーシアがいるだろ? 二人にしてやったらどうだ? 多分喜ぶと思うぞ」

「……そ、そうか?」

「ああ。というか、朱乃さんはだいじょうぶか?」

 俺はそのことの方が心配だ。

 列車に乗り少し経ったころだ。 

 発進するというので、席を決めたのだが、『女王』なら『王』の隣に居るべきだろうという話になり、朱乃さんは部長の隣に座らされた。

 なんでも、本当は俺の隣がよかったらしいのだが……。それは阻まれたんですよね。

 なので俺は一人で景色でも見ようと思っていたんだが、ガブリエルさんが話し相手がいないといい、隣に来たんだ。

 まあ、そこまでは別に良かったんだけど、寝るとは聞いてねー……。

 それも気持ちよさそうに。

 もう結構経つぞ。

「はあ……。とは言っても、ガブリエルさんも毎日忙しいのかもな。せめて目的地に到着するまでは、このままでいるか」

「いやいや、待てカイト……。せめて撫でるのはやめといたほうがいいって! なんか朱乃さんから殺気が」

 なにを慌ててるんだ、イッセーは。

「俺が撫ででたところで、朱乃さんがなにに怒るんだ?」

「カイト……」

 なんでか知らないが、イッセーが肩を落としたのがわかった。

 あとで説明を要求するか。

 

 

「そろそろね。カイト、ガブリエルさまを起こしてちょうだい。もうすぐ着くから、イッセーは窓を閉めて」

 部長の指示のもと、各々が降りる準備を始める。

「ガブリエルさん、起きてください。そろそろ降りるみたいですし」

「……う、ん?」

 眠そうな目を何度か擦りながら、ゆっくりを起き上がる。

「どこでとまるんですかぁ?」

「グレモリー本邸前ってアナウンスがありましたよ」

「そうですかぁ。では、私はあとで合流しますので、カイトさんは降りてください」

「はい?」

 ガブリエルさんのその言葉と同時に、列車が停止する。

 降りない? 車両の中を見渡すと、アザゼルも同様に、降りる気配がない。

「おうカイト。はやく降りねぇと置いてかれるぞ」

「おまえらはどうするんだ?」

「俺とガブリエルはこのまま魔王領へ行く。サーゼクスたちと会談があるんでな。もちろん、後でグレモリー本邸には向かう。だから、先に行ってあいさつくらいしておけ」

 なるほど。こっちでも会談か。

 組織のトップだからな。やっぱり忙しいらしい。

「わかった」

 ガブリエルさんに控えめに手を振られながら、俺はみんなに続いて最後に列車を降りた。

「じゃあアザゼル、ガブリエルさん、あとでな」

「お兄さまによろしくね、アザゼル」

 俺と部長の言葉にアザゼルも手を振って応えてくれる。

 改めて、アザゼルとガブリエルさんを除いたメンバーで駅のホームに降りた瞬間――。

『リアスお嬢さま、おかえりなさいませっ!』

 怒号のような声。それに、花火が上がり、兵隊たちが銃を空に向けて放ち、楽隊が一斉に音を奏でたり。

 その中にはメイドさんや執事が混ざっていたりもする。

『リアスお嬢さま、おかえりなさいませ』

 部長がそちらに近づくと、そう迎え入れてくれた。

「ありがとう、皆。ただいま。帰ってきたわ」

 部長も満面の笑みで返していた。

 その後、再会したグレイフィアさん先導のもと、馬車に乗せられながらお屋敷へと向かった。

 

 

 

 馬車が停まりドアが開かれた。執事と思われる方があいさつしてくれる。

 すでに降りていた部長やイッセーたちのいる場所まで着き、全員が揃うと、両脇にメイドと執事が整列し道をつくった。

「お嬢さま、そして眷族の皆さま、カイトさん。どうぞ、お進みください」

 グレイフィアさんが会釈をして、俺たちを促す。

「さあ、行くわよ」

 部長が歩き出そうとしたとき、メイドの列から小さな人影が飛び出し、部長のもとへ駆け込んだ。

「リアスお姉さま! おかえりなさい!」

 紅髪の少年? 

「ミリキャス! ただいま。大きくなったわね」

 抱きついてきた少年を、部長が抱きしめた。

 というか、誰?

「あ、あの、部長。この子は?」

 イッセーが、俺たちを代表して訊く。

「この子はミリキャス・グレモリー。お兄さま――サーゼクス・ルシファーさまの子供なの。私の甥ということになるわね」

 へぇ。サーゼクスさんの子か。

 ここから、眷族全員と、俺があいさつをしたのだが、いやー、よくできたお子さんで。

 にしても子供だというからにはサーゼクスさんには相手がいるはずで……。

 誰なのかはぜひとも知りたいな。

「さあ、屋敷へ入りましょう」

 俺の思考を邪魔するかのように、部長が歩き出す。

 にしても門は多いし、扉も多いし。迷子にならないといいけど。

 そうして少し歩くうちに、やっとホールとおぼしき部屋に着いた。

 シャンデリアに、運動会もできそうなくらい広いホール。いいな、ここ。俺の家も今度広くしたいなぁ。せめて30人は余裕で暮らせるくらいには――。

「お嬢さま、さっそく皆さまをお部屋にお通ししたいと思うのですが」

 グレイフィアさんが手をあげると、メイドが何人か集合した。

 その申し出に、部長とグレイフィアさんがニ、三話し合ったあと、俺たちはそれぞれの部屋で休むこととなった。

「それと、お父さまがみんなに会いたいって話だったから、その時間は――」

「夕餉の席がよろしいかと。皆さま、その時刻近くになりましたら迎えを出しましょう」

 部長に続く感じで言葉を紡いだグレイフィアさん。

 というか、

「あの、それって俺もなんですか?」

「当然です。カイトさまには、みなさまがお会いになりたいと申しておりましたよ」

 なんででしょうねぇ……。

 俺、悪魔業界でなにかしたっけ? いや、なにもした覚えがないぞ!

 

 

 と、困惑する俺を他所に、部長の母親――ヴェネラナ・グレモリーさんとみんなが会っていたこともあった。見た限りでは、部長とあまり変わらない。いや、少しお姉さんらしい容姿をしていた。どうやらイッセーに対して少し企んでいることがあるみたいだな。

 

 

 そんな1コマもあったわけだが、俺はやっと一人で休める状態になった。

 個人部屋っていいよな。

 俺の荷物、無いと思ったらすでにここに運び込まれていた、なんてことはあったけどさ。

 にしても、今年の夏休みは一年前より大分マシだな……。

 去年までは、酷かったもんだ。この夏の時期は、いつもいつもいつも夢に見る。

 そりゃそうだ……。俺の仲間がいなくなったのは、丁度この時期なんだから――。

 だから悪夢はいつだって、この時期により濃くなって俺に襲い掛かってくる。でも、今年は違う気がするんだよな。

「今年は、悪夢なんてないと思うんだ。――あいつらのおかげ、かな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「冥界に行くっていうから予定が狂うかと思っちゃったよ。でも、こっちでも一人になる機会はありそうだね。フフッ、よかったよかった。それにしても、酷いこと言うね。今年の悪夢は――もっと濃いぞ。その短絡的な考え、いまに塗り替えてやるよ。あの夏の日、私たちを見捨てて逃げただけの英雄さん。今年の夏、キミは私に殺されるんだ。カイト、キミの――仲間の手でね」

 

 

 

 

 

 


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