ハイスクールD×D 精霊と龍神と 作:きよい
ギィ、という音と共に扉が開かれる。
「やっと放課よ。これであなたもある程度の自由を得られるわね――イト」
そこから顔を覗かせたのは、部長だった。
ああ、朱乃さんだけじゃなく部長にまで『イト』が広まった……。
「ふふふ、咄嗟に考えたものですけど、思いのほか好評でしたわ」
部長に続いて、朱乃さんも私を見てくる。
咄嗟に考えて名前つけるくらいなら、よく考えてもらってからの方がまだマシですよ……。
「で、でも」
ここで、部屋の中から声が聞こえる。
声のした方に私たち三人の視線が集中する。
そこには、ダンボール箱があるだけだ。いや、これが声の主なんだけどさ。
「どうかしたの、ギャスパー?」
私が話しかけると、ダンボールは一度ビクッ、と動き、少しだけ前に前進してから声をあげた。
「は、はぃぃぃぃ。いまの月夜野先輩もかわいいですぅぅぅ!」
……うん、わかってはいたけどさ……。かわいいって言われるのは精神的にダメージ大きいよ。
ちなみに、ギャスパーは夏休み明けからクラスに復学するとのこと。それまでの間は、この旧校舎の中で案外自由に動き回っている。
そのおかげか、部長たちが来るまではギャスパーと話をして時間を潰していた。一人でいることは暇だったから、丁度よかったよ。
「イトちゃんはかわいいですものね。ギャスパーくんの感想もわかりますわ」
朱乃さん、わからないでください。現状、あなたが一番危ないんですからね!
「それはそうと、もうすぐみんなも来るわ。イト、あなたのことは話すけどいいかしら?」
「はい、それはもちろん。一刻も早くもとの状態に戻りたいですし」
「わかったわ。でも……」
部長は一度朱乃さんに視線を向ける。
「……そうですわね」
な、なんですか、二人して。なんでそんな心配そうな表情をするの?
も、もしかして……。
「もとに戻る方法がない、とかじゃないですよね?」
私の言葉を聞いた瞬間後ろを向く二人。
え? え? 冗談だったんだけど……?
「ごめんなさい、カイト」
イトじゃなくカイトって呼ばれて謝られた!?
「冗談、ですよね?」
「カイトくん。私たちはですね……」
な、なんか凄く言い難いことを言うような雰囲気なんですけど!
そして、二人同時に口を開いた。
「「あまりにかわいらしいからこのままの状態がいいと思うの」」
……。
言葉が出ない……。そんなことが言いたかっただけですか。
でも、私は戻りたいです。
だって朱乃さんが怖いもん! だから――。
「絶対に戻りますからね!」
私の叫びが部室にこだました。
「おうカイト。やっぱりまだ戻ってないか。どうすっかねぇ……。俺らのところに来て検査でもするか――もう少し様子を見るかなんだが」
部長たちより少し遅れて、アザゼル先生が来てくれた。
そうか、まだ方法は見つかってないんですね。
「なら、もう少し様子を見てみましょう」
「おまえがそう言うならそうしておくが、なにかあったらすぐ言えよ」
「はい」
「んじゃ、俺は一度職員室に戻る」
あの人、仕事の合間に様子を見に来てくれたのかな?
やっぱ、堕天使の総督にしてはいいところ多いなぁ。
と、それと入れ違うように、足音が聞こえてくる。結構大きい音がするから、残りのみんなが全員来たのかもしれない。
「こんにちはー」
「……こんにちは」
と、オカ研のみんなが次々に入ってくる。
「こんにちは!」
最後に入ってきたのはイッセーだ。
そして、入ってすぐさま私の姿をその視界に捉えた。
「おおっ! 部長、誰ですか? あのめっちゃかわいい美少女は!」
すでに興奮状態で大声をあげる。
「落ちつきなさい、イッセー。いまからその話をみんなにするところなの」
部長が手招きをして私を呼ぶ。
それに応え、横まで移動すると、一歩前に立たされる。
「いい、みんな。いまから話すことは本当のことよ。だから――信じなさい。実は――」
その後、数分をかけて私――カイトの現状の説明が部員みんなになされた。
「えっと……。つまり目の前にいる美少女さんがあのカイトだということですか、部長?」
「ええ。その通りよイッセー。彼女がカイト――イトちゃんよ」
やめて! その名前を定着させないで!
「なんてこった。この部活にまたかわいい女の子が増えるなんて! 俺としては大歓迎です!」
手を挙げ自分の意見を言うイッセー。
嬉しそうだね、おまえは。
「それで、もともと男なんだし、その……。触ってもだいじょうぶだよな」
「へ? えっと、なにを……?」
なんか、嫌な気しかしない。
「おっぱいだよおっぱい! 男だったんだからそれくらいされても平気だろ! というわけで!」
私の言葉を聞く前に手を伸ばし始めるイッセー。
ちょ……サイテーだと思うんだけど。
ってああ、そんなこと考えてる場合じゃない! 早く対処しないと!
「もらった!」
私が動くよりはやく手が胸に近づいていた。これ、ダメかも……。
「やっぱりサイテーです」
諦めかけた瞬間、横から声が届いた。
ドゴッ!
そして、少し遅れて大きな音が響く。
「だいじょうぶですか、カイト先輩」
「小猫……。うん、だいじょうぶ」
なんと、小猫がイッセーを殴り飛ばしてくれたのだ。
「ありがとね」
私より少しだけ低い頭をなでながらお礼を言う。
いまの身長だと、少し高いくらいなんだよね……。視線が低くなってると新鮮に感じるなぁ。
「それはそうと、カイト先輩は男からいきなり変わったのに、少しずるいです」
「え? なんの――」
視線で気づいた。
胸ですか。ま、まあ確かに小さくはないと思うけど、大きいわけでもなくて。
「ずるいです……」
そういい、遠慮なく私の胸を鷲掴みしてくる!?
「ちょ、やめて! 小猫! ダメだってばぁ!」
その後も小猫に掴まれたり、朱乃さんや部長に着せ替え人形にされたり。
ほかにも部員のみんなと普段と変わった生活を送ることになったりした。
なお、この間イッセーは五回ほど小猫に殴り飛ばされることとなった。
結局、夜になり家に帰ってきてからも、状況に変化は訪れなかった。
まあ、みんなこの姿でも普通に接してくれたし、なにより受け入れてくれた。このままでも、仲間を救うことも、守ることもできる……。
だったら、特に関係はないじゃないか。それよりも、これがオーフィスの力であるのなら、いま私の中にはその力が流れていることになる。
その力を扱えるようになることの方が、案外重要なのかも。
そうしたらしたで、男の姿に戻るまでが大変そうだけど……。学校にも、手を回してもらわないと行けないしなぁ。
このままでいなくちゃならなくなったら、することも必然的に多くなる。
でもそれは、また明日から考えればいいかな。
今日はもう寝よう。
そうして私は目を閉じ、意識を手放した。
なにがあったのだろう。
朝、起きた私は、ある違和感におそわれた。
そして、すぐに気づくことになる。
――戻ってる。
下を向いても、もう胸に山はない。
そう、『俺』はたった一日で、もとの状態に戻ったのだ。
「……なんていうか、今日も一日大変なことになりそうだ。とりあえず、学校いくかぁ」
みんなになんていわれるか想像し、騒がし一日が待っているであろうことを思い浮かべながら、俺は朝食の準備を始めた。
俺の身体、面白いことになってきたな……。ハア、とっとと力安定させれるようになろう……。
この力もきっと、俺の助けになるはずのものだから。
オーフィス――。おまえのくれたものなら、信じて使えるさ。必ず、掌握してやる。
とりあえず次からは夏休みに突入させようかと。
カイトくんはこれから度々女の子になったり戻ったりするかもしれません。
ああ、夏休み中にカイトの仲間一人くらい出せたらいいな……。