ハイスクールD×D 精霊と龍神と 作:きよい
なにがあったのだろう。
朝、起きた俺は、ある違和感におそわれた。
結局、夜には朱乃さんの引越しは終わらず――というのも、なぜかみんなに対して依頼が一度に来て、手の空いてる人がいなくなったからなんだけど。
だからいま、うちに朱乃さんはいない。
ガブリエルさんもまた、天界への報告で一度帰還してしまった。
だからいま、家には俺以外いないわけで、決して誰かのいたずらなどではない。
ふと下に視線を移す。
胸には、程よい大きさの二つの山。
次に、鏡の中の自分を確認する。
いままでと違い、鍛えた体ではなく、きめ細やかな肌に、くびれて、細くなった腰。
黒髪も普段と違い、腰をくすぐるほどにまで伸びている。
「……俺、なにがあったんだ?」
おまけに、声まで高くなっており、綺麗な声音になってしまっている……。
俺――カイトは、どこからどう見ても、女の子になっていたのだ――。
さて、どうしたものか。
今日は最悪なことに学校への登校日だ。夏休みはまだほんの少し遠い。
この格好で学校に通っていいものだろうか?
そして、平然と自分の席に座ろうものなら、明日からの俺の居場所がなくなる可能性すらある。
「……とりあえず、部長たちに相談かな」
自分の声とは思えないかわいらしい声を聞きながら、俺はため息を漏らした。
「よく考えたら、この姿見て俺だってことわかるのか? いやいや、悪魔なんだから大抵のことは信じてくれるよな!」
もし信じてもらえなかった場合、俺はどうなるのだろう……。最近はテロも起きたからな。その手の者と間違われて消されるかも――それはないか。いまのみんななら、俺一人でそうにでもできるし、逃げることも容易い。
最悪、逃げればいいだけの話だ。
とりあえず……――着れる服探すか。いまのままだとサイズ合わなくてダボダボなんだよね。
とりあえず、服はまくって、なんとか着れる範囲にまで縮めた。
この姿で部室――旧校舎まで来たわけだけど、いやー大変だったね。まさか男子生徒に五回も捕まるなんて。
おかげで来るのが少し遅れた。まあ、この話は早急に記憶から削除しよう。
「……おはようございまーす」
控え気味に声をあげ、扉を開ける。
「あら、誰でしょうか? ――オカルト研究部ですが、なにか御用で?」
出迎えてくれたのは朱乃さんだったが、俺が誰かわかってない様子だ。
多分、一般生徒と勘違いしているんだろう。
ま、まあ仕方のないことだとは思うけど……。
「すいません、朱乃さん。わからないとは思うんですけど、俺はカイトです」
「カイトくん、ですか……?」
訳がわからないという顔をする朱乃さん。ですよね! 俺だってわからない!
「えっとですね、とりあえず説明すると――」
その後、俺は朝から起きてるこの現象の内容を朱乃さんに説明し、部長に話を通してもらった。
俺の正体がカイトであろうことは、知っている情報、使える力などから証明することができた。信じてもらうまで数十分かけたけどね。
「それで、カイトくんだということはわかりましたけど、どうしてこんな姿に? 身長も大分縮みましたし」
朱乃さんが俺のことをジロジロと見て、そんな感想を漏らす。
確かに、身長はかなり縮んだと思う。
普段が175だが、いまは150程か? 見える世界が全然違うなぁ。朱乃さんを見上げることになってるくらいだし。
「それに、その……思いのほかかわいいわね」
朱乃さんに続き、部長までもが感想を伝えてくる。
いいよ、かわいいとかいわなくて!
「せっかくだから、話し方も女の子らしくしてみたらどうかしら?」
「それはいいですわね。カイトく――ちゃんもいまの話し方だと違和感がありますし」
ああ、これはもうわかるぞ。
絶対に抗えないフラグが立ったのが、目視できた気がした。
「それで、こいつがカイトだというわけか」
この姿では授業に出られない私は、オカ研の部室で一日を過ごすことになった。
あの後、朱乃さんと部長に言葉遣いを直され、さらには女子の制服を着せられた。
途中朱乃さんが、『この先も女の子でいるなら、いろいろ知っておく必要がありますわ。さあ、あちらで私と楽しい授業をしましょうね』などと言ってくるものだから、それだけは必死で抵抗したよ。
二人とも、授業の合間にちょくちょく様子を見に来てくれた。
普段の私とは違い、この容姿だから、ついつい構いたくなっちゃうのかな? そういうところは、よくわからない。
で、今は昼休み。
なんと二人が連れて来てくれたのは、アザゼル先生だった。
「一応、そうなんですけど……。なにがどうなってるのかさっぱりです」
「だろうな。だがな、話を聞いたときから、なんとなく心当たりはあるぜ。おいリアス。少しカイトを借りてくぞ」
私はアザゼル先生に連れられ、前日にイッセーと話していた場所まで来ていた。
「それで、なんでこんなところまで移動して話す必要があるんですか?」
「他の連中に聞かれると立場的にも危ない話だからだ。なあカイト。おまえ、テロが起きたとき、オーフィスになにをされた?」
その問いに、あのときの記憶を呼びさます。
「アンラ・マンユによってできた傷を治してもらったかな」
「やはりか。おそらくだが、それは治癒したというより、自分の力を流し込むことによって傷をなくしたんじゃないかと俺は推測している。だから、いまおまえの中には多かれ少なかれ、オーフィスの力が混在している可能性があるわけだ」
なんとなくだが、先生の指摘に関しては気づいていた。
「でも、それがなにか関係あるんですか?」
「あるとしか言いようがない。力が安定していないんだ。もともと、オーフィスの力ってのは簡単に扱えるようなものじゃない。無限を司る存在の力なんだからな、当然だ。でもな、その力が強大すぎて、どこにどう作用するかわかったものじゃない」
そこで先生は一度話すのをやめ、私の姿を見てくる。
な、なんですか?
「だからこそ、おまえのようなイレギュラーな状態にもなるってわけさ。おまえのそれは、俺から見たら力が安定してない証拠だ。まあ、オーフィスから力を流し込まれたかどうかはおいおい調査する必要があるな。――それはそれとして、この発想は面白いものがある。性別を変える、か……面白い。今度こんな銃をつくろうじゃねぇか! というわけでカイト。とりあえず感触も再現されてるのかちょっと協力してくれや」
途中から先生の発明心を刺激したのか、嫌な予感のすることを口走りながら、私の胸に向けて両手を伸ばしてくる!
ちょ、それはダメだからね!
私が<魔王殺しの聖剣>を右手に出現させるより早く、私と先生の間に雷が落ちた。
「危ない危ない……」
「おおっとぉ」
私は一撃目以降避ける必要はなかったが、先生はいまも断続的に雷を落とされている。
「ダメですわ。女の子には優しく接しませんと」
こんなことできる人は、私たちの仲間で一人だ。
「朱乃さんですか。ありがとうございます」
「ふふふ、窓からふと景色を見ていたら危ない光景が映ったものですから。つい窓から飛び出してしまいましたわ」
……そんなことしないでくださいね。昼休みは一般の生徒さんも自由に過ごしてますからね。見られたりしたら大変ですし。
「まったく、危ないことするな。俺はちょっと研究のために協力をだなぁ」
「女の子の胸を軽々しく触ってはいけませんわ。特に堕天使なんかは」
「カイトは男だろ」
「いまは女の子ですわ。ほら、こんなにかわいいんですから」
朱乃さんは、先生に渡すものかと私に抱きついてくる。
ちょ、ちょっと苦しい!
「ハッ――!」
と、圧迫されかけていたところで拘束が解かれる。
見ると、朱乃さんがなにかに気づいたような表情をしていた。
「お、おい朱乃。どうした? カイトを元に戻す方法でも思いついたか?」
いや、力が安定してないだけなら、安定させれば元に戻りますよね? まさか、安定したらこの状態で安定するってことじゃないですよね!?
だったら普通に戻る方法欲しいかも。
「い、いえ。そうではなくて。私、気づいたの」
元に戻る方法じゃないのね。
「百合もいいわね、カイトちゃん」
「はい?」
「バラキエル……おまえの娘はなにか新しいものに目覚めたかもしれん。悪いな、俺にはどうすることもできない……」
先生!? 悔しそうに拳を握りながら、なんか空を見上げて朱乃さんの父親であろう堕天使の名前呼んでるけど、あなたたちは天に向かってそんな話をするんですか?
というか助けて! 今日の朱乃さんは少し異常な気がします!
「女の子のカイトくんはかわいいですわ。ふふふ、このままだったら毎日私とお風呂に入ったりお着替えさせてあげたり、楽しいことしましょうねぇ」
……やばいよね、これは。
なんとかして、早く元に戻らないと!
オーフィスには感謝してるけど、もしこの現象が彼女の力が原因だったら、是非とも安定させてほしいな。
もちろん、男性の姿でね。
「さあ、カイトちゃん……というのも呼びにくいですし、イトちゃんにしましょうか。イトちゃん、私と女の子の生活について学びましょうねぇ。思っている以上に、女の子は大変ですから。お風呂に髪や肌の手入れ。下着や服のことも学ばないといけませんね。さあさあ、いきましょう」
いまだアザゼル先生が天を仰ぐ中、私は朱乃さんに押され、旧校舎へと戻されていった――。
テロの後から、夏休みに入るまでの少しの期間の日常を数話だけ挿んでいこうかと。