ハイスクールD×D 精霊と龍神と   作:きよい

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17話

 結局、今日はあの後、俺はなにも手伝うことがなく、みんなより早く家に帰された。

「ここがカイトさんのおうちなんですねぇ」

 ちなみに、ガブリエルさんは夏が終わるまでは、俺の家に滞在する気らしい。

 ミカエルさん、この町に天界スタッフが暮らすマンションでも建ててください。お願いしますから!

「それにしても広いですねぇ」

 そんな俺の気持ちなぞ知らないガブリエルさんは、俺の家を見ての感想を述べた。

「まあ、本来なら十人そこらでも生活できますからね。確かに、俺たち二人だけだと広く感じます」

 俺は一度、家の中を回り、確認する。

 ……どの部屋にも、オーフィスや黒歌がいた痕跡がない。それどころか、長年使われてなかったかのように感じるほどだ。

 本当に、ここに帰ってくる気はなさそうだな……。

 みんなと敵対しないため、か……。――俺としては、おまえたちと一緒にいるのも、悪くなかったんだけどな。たとえ、イッセーたちと敵対したとしても。

 でも、それは望んでないんだな……。

「悲しそうな顔……」

「え?」

 俺がうつむいていたせいか、ガブリエルさんにそう言われてしまった。

「私たちはいまも、あなたのような人ばかりを助けられないんですねぇ……」

 よくわからない発言と共に、俺はガブリエルさんに抱きしめられた。

「あ、あの……」

「なにがあったのかは聞きません。でも、そんな全てが終わったような目をするのはダメですよ」

 耳元で声が聞こえる。

 そうか、そんな目をしてたんだ、俺……。そりゃ、心配するよな。

 だからか? 俺がこんな状態なのをみんなは理解していたからこそ、早めに帰されたのか?

 だとしたら――。

 もし、もしオーフィスの願いが、イッセーたちの側に俺を居させることだとしたら。

「俺はそれに応える必要もあれば、俺自身がそう望んでいることも、わかってる」

 それは俺が望んだことだ。

 でもな、オーフィス。俺はひとつはっきりしたぞ。

「今日はもう休みましょうかぁ。悲しいこと、辛いこと。それらは全部私が話しをいつでも聞きますから、今日はもう休むのがカイトさんの仕事ですよぉ」

 俺の肩に手を置き、クルリと半回転させ、押し進めてくる。おお、どんどん浴場に近づいていってる。

 テロが鎮圧された後に俺を抑えていたことといい、天界一の美女は思いのほか力も強力らしい。

 その後、押されるがままに浴場に入れられた俺は、この日一日、ガブリエルさんの生活リズムに合わせ、夜早くに眠りについた。 

 

 

 

 

 そんな日々を一週間ほど送っただろうか。

 毎日部活には顔を出し、祐斗や部長、アーシアとも、普段通りに会話をしていた。朱乃さんからイタズラされたり、小猫とゼノヴィアの特訓に付き合ったりと、なにもしていない時間の方が少なかった程だ。

 だが、その間イッセーとだけは、何も話さなかった。

 そうして一週間たったわけだけど――。

「カイト。いま、少しいいか?」

 今日、イッセーからお呼びがかかった。

「ああ、いいぜ」

 俺はイッセーに連れられて、旧校舎の外に出た。

 いまの時間帯は夕方ということもあり、外にいると風が気持ちいい。

「それで、オーフィスのことか?」

 ここ数日間、俺も聞こうとしていたことだ。

 イッセーも、そうなのだろう。表情が驚きに彩られているからな。

「よくわかるな。それで、その……」

「変な気遣うなよ。聞きたいことがあるなら言ってくれ。おまえは、俺とオーフィスの関係を知ってるんだろ?」

「あ、ああ……。家族、なんだろ? でも、だからこそ、聞きたいんだ。俺が関係ないのはわかってるんだけどさ。放っておくこともできないから」

 少し困ったように、頭を掻きながらそう言う。

「それで?」

「辛くは、ないのか? 家族いなくなってさ、一方的な感じだったから、おまえだいじょうぶかなって」

「……」

「…………!?」

 俺がしばらく黙っていると、イッセーは「しまった!」という顔をし、

「わるい、カイト! やっぱり触れないほうがいい話だったよな……」

 勝手に謝ってきた。

 俺としてはその対応の方がビックリだ!

「わるいわるい。俺が黙ってたのは、まだイッセーの話が続くのかと思って待ってたんだ」

「はあ!? 普通そんなこと考えるかぁ!?」

 速攻でそう返してくる。

「だってさ、あまりに普通のこと聞いてくるから、これから本題に入ると思うじゃん?」

「いや、それはおかしいだろ」

「おかしくないさ」

「なんでだよ」

 本当にわかってないのか、イッセーは。ったく、言葉にしないといけないのか。面倒だな。

「俺はだいじょうぶなんだよ。確かに、オーフィスはどっかいっちまったけど、今回は生きてることはわかってるし、自分の意志でやったことだ。だから、納得もいく。それに、家出したなら、連れ戻せばいい。あいつら『禍の団』より俺のところの方がいいってことを、再度認識させてやればいいんだよ」

「カイト……」

「決めたんだ」

 俺は、夕暮れ時。微かに輝きを放ち始めた月を見ながら呟く。

「もう誰一人、俺は仲間は失わないって。それはオーフィスも、例外じゃない。だから、連れ戻してみせるよ、絶対」

「そうかよ。よっしゃ、なら俺も協力するぜ!」

「イッセー……」

「おまえのことを知ってるのは俺だけだからさ。まあ、俺頼りないけど、それでも協力するからな!」

 お人よし――いや、俺と同じか。仲間を大事にしてくれる、俺の仲間。

 全然頼りなくなんかないさ。最高だ。

「よろしく頼むぜ、イッセー」

「おう!」

 俺らは拳を重ね、互いに笑顔を浮かべた。

 

「おうおう、青春だねぇ。なあ、お二人さん」

 そんな俺らに、もう大分聞きなれた声で話かけてくる人物がいた。

「……アザゼル」

「よう赤龍帝。カイトも元気そうだな」

 ここで堕天使の総督さまの登場か。流れからいって、こりゃ話全部聞かれてたな。

 俺とオーフィスの間に関係があることは、ばれたな。

「なんだか楽しい話をしてたみたいだが」

 うん、完全に聞かれてました。

「ち、違うんスよ! これは、その……」

「オーフィスの件だろ。全部聞いてたさ」

「……いや、確かにオーフィスは『禍の団』のトップかもしれませんけど、悪い奴って感じはしなくて、悪意もまるで感じなかったんですよ!」

 イッセーのこの発言に、アザゼルは確信を持ったような表情を見せる。

「そうか、やはりか。あのとき、邪神を退けた少女がオーフィスだったんだな」

 いよいよもってやばいな。

 このままだと俺もイッセーも処罰されかねない。

 最悪、俺がアザゼルと戦わないといけないことも――

「そういやな、ヴァーリからもメッセージが届いていた。内容は、『さっそくなんだけど、オーフィスに会ってみたんだよねぇ。それで結構話してみたんだけど、悪意や邪気とか、そういった負の感情まったく持ってないんだよ。なんでうちのトップにいるのかわかんないくらい純粋な子だよ? もしかしたら、利用されてるだけかもしれないから、最悪アザゼルたちの方へ送るかも』だとよ。まさかと思ったが、赤龍帝もそう言ってるし、案外その通りなのかもな」

「アザゼル……それじゃあ!」

「こっち側に引き込める可能性が、カイトにはあるんだろ? だったら俺は黙っておくさ。真正面からやりあっても、俺たちの被害を増やすだけだからな。だから、しっかり取り戻せよ、カイト」

 黙秘か。

 この総督さまは、案外いい奴なのかもしれない。少なくとも、俺たちのこの問題行動を受け入れてくれるぐらいには。

「ありがとう。それと、悪いな。あんただって、これは問題行動のはずだろ?」

「いいんだよ。俺としては、そっちの方が好ましい」

 と、それだけ言い、立ち去ろうとするが、なにを思ったか俺たちへと問うてきた。

「そういや、おまえらこれから部室に戻るか?」

 俺らは二人して顔を合わせ、頭上に「?」マークを浮かべてから頷いた。

 

 

 

 

「てなわけで、今日からこのオカルト研究部の顧問になることになった。アザゼル先生と呼べ。もしくは総督でもいいぜ?」

「んでアザゼル。なんでこんなことになってるんだ?」

「『先生』をつけろ! もしくは総督だ! セラフォルーの妹に頼んだら、この役職だ! まあ、俺は知的でチョーイケメンだからな」

 頼んだだけで受理されるのかよ。会長、いいんですか、こんなの学校においといて。さっきは黙秘されることで助けられたばかりだから強く言えないが。

「俺の美貌に釣られてきた女生徒でも食いまくってやるぜ!」

 本当に! 本当にこんな奴を学校に置いとくつもりか!

 危険だから考え直してください、会長……。

「って、その腕は? 片腕失いましたよね?」

 イッセーがアザゼルの腕を指しながら問う。

 そういや、なくなってたっけ。

「ああ。これか。神器研究のついでに作った本物そっくりの義手だ。光力式レーザービームやら、小型ミサイルも搭載できる万能アームさ。一度、こういうのを装備したかったんだよな。片腕失った記念に装着してみた」

 してみた、ってそんなノリで……。本人わりと気に入ってるみたいだし……。いや、納得してんならいいけどさ。

「俺がこの学園に滞在できる条件はグレモリー眷族の悪魔が持つ未熟な神器を正しく成長させること。まあ、神器マニア知識が役立つわけだ。他にも、眷族全体のレベルアップだな。ヴァーリは自分のチームを持ってる。それに対抗できるほどの力はつけて貰うぜ」

 なんだか、この場所がさらに賑やかになりそうだな。

「ククク、ブーステッド・ギアに聖魔剣。さらに『停止世界の邪眼』だ。おまけに未知の神器であるカイトの神器が数個。俺の研究成果をたたきこんで独自の進化形態を模索してやる」

 楽しげな笑みを見せるアザゼル。でもどっちかというと危険な笑みだ。

 ……実験体はイッセーで十分かな! 

 

 そんなわけで、俺たちの部活に顧問という形で、アザゼルが追加された。

 心強いと共に、不安になるような方が来たわけだ。

 

 

 

 と、俺がそんなわりと平和なことを考えていた少し後のこと。

 アザゼルが部員全員の現状を把握し、今後どのように特訓しているか模索している最中。

 唐突に部長から発表があった。

「突然だけど、みんなに伝えることがあるわ。今日から、朱乃はカイトの家に住むことになりました」

 ……――はい? 当事者の俺、初耳……。

「マジですか!?」

 食いついたのはイッセーだ。

「ええ。朱乃の強い要望があってね。カイトに急で申し訳ないのだけれど、話を聞いた限りなら、いきなり一人増えても対処できるわよね?」

 こ、このことかぁ……。なんか前に朱乃さんが意味深なこと言ってたもんな。

「……できますが、俺の家でいいんですか?」

「朱乃はいいって言ってるわよ」

 朱乃さんの方へ視線を向けると、笑顔でこちらを見つめる朱乃さんと目があった。

 あ、逸らされた。いや、これ嫌われてるんじゃないかな?

 本当に俺の家でいいのか!?

「カイト、だいじょうぶ? いいならいいでそちらで暮らす準備をしたいのだけれど」

 これ、拒否する権利は多分俺にはないんだろうな。

 まあ、今更か。

 少し前までは黒歌が入り浸ってたし、今は今でガブリエルさんも来てるし。

 あと一人増えても、対して変わんないな。

「わかりました。俺の家でよければ、好きに使ってください」

「ありがとうございます、カイトくん」

 お礼を述べる朱乃さん。

「それじゃあ、いまからみんなで引越しの手伝いでもしましょうか。今夜中に終わらせるわよ!」

「「「「「はい、部長!」」」」」

 部長の指令のもと、部室には今夜も楽しげな雰囲気が流れていた。

 

 問題は山積みだし、俺もやるべきことが多すぎる。でも、この時間を楽しみながらちょっとずつ前進していくのは、悪くない。

 みんなに続き、俺も準備に取り掛かるために立ち上がる。

 ――眼前には、俺を待つみんなの姿がある。

 

 

 今度こそ、守るさ。俺は、俺の大事なモノを、二度とあいつに奪わせない。

 俺は静かに、自分の中で、そう呟いた。

 


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