ハイスクールD×D 精霊と龍神と   作:きよい

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いつもより短くまとめました。
それではどうぞ。


16話

 意識がハッキリとしてくる。

 それにともなって、柔らかい感触が後頭部に押し付けられているのがわかった。

 心地よくて、全く起きる気になれない。いや、意識はハッキリしてるんだけどさ。

 起き上がろうって気力が湧かないんだよな……。

「あ、ミカエルさまぁ。意識が戻ったみたいですよぉ」

 若干間延びした女性の声が上から聞こえてくる。ああ、この声は覚えてるぞ。

「……ガブリエルさん?」

「はい、その通りですよ」

 やっぱり正解だったか。で、上から聞こえた声と、後頭部に感じる柔らかい感触。つまり――。俺は目を開き確認する。

 

 

 視界に映るのはウェーブのかかったブロンドの髪。

 そうか、そういうことなのか。

「なんで膝枕なんかしてるんですか?」

 俺は結論を口にした。なんでこうなったし。 

「それは、あなたが倒れたっきり起きなかったからですよ。カイトくん」

 俺の問いに答えてくれたのは、ミカエルさんだった。

 周囲から爆発音とか聞こえないし、もうテロも鎮圧されたのか?

 って、そうだ! アンラ・マンユ!

 俺は即座に起き上がり周囲を確認しようと試みるが、立ち上がることはおろか、上半身を起こすことさえ叶わなかった。

「……あの、ガブリエルさん?」

 俺の肩に置かれた彼女の手が、俺の動きをゆるやかに停めていたのだ。

「ダメですよ。まだ当分起きることは許しませんからぁ」

 優しく怒られてしまった。

「すいませんね、カイトくん。ガブリエルはあなたのことを心配していましたので。少しの間我慢してください」

 心配? そういえば、会談のときに俺に話しがあるみたいなことも言ってたっけ。

 なんだろうな……。

「起きてるじゃねぇか、カイト。黒服の少女になにかされてたときは心配したが、特に異常は無さそうだな」

 アザゼルが俺に気づき、話しかけてくる。

「よくわかんないけど、俺なら平気っぽいな。アンラ・マンユはどうなった……?」

「自分の怪我が治ってることはスルーか。まあいい。アンラ・マンユなら消えたよ。今日のところは退散したぜ。詳しくは兵藤一誠にでも訊きな」

 退散か。誰かが倒したってことだな。

 気になるし、あとでイッセーに訊きに行くか。

「それで、おまえにはいくつか訊きたいことがあるんだが」

「なにをだ?」

「アンラ・マンユとの関係や、あの蒼色の塊を撃った神器についてだよ」

「あー……」

 俺が露骨に嫌そうな表情を向ける。

「そんな顔するなよ。訊かなきゃ始まらないこともある」

 そうは言ってもなぁ……。イッセーたちに話すのさえ渋ったのに?

「まあ、そう焦っていま訊くこともないだろう、アザゼル。彼も今日は疲れきっているだろう。死にかけていたんだからね。あそこから完治したのも驚きだが、その分疲労が溜まってるだろう」

 そんな俺に助け舟を出してくれたのはサーゼクスさんだった。

「チッ、しかたねぇな。……今日のところは休んどけよ。話は――」

「少し先になるが、リアスたちが夏休みに冥界に来るんだ。そのときに一緒に来たまえ、カイトくん。そこで話を聞こう」

 まだ多少の時間はあるな。俺もその間に話す内容でもまとめとくか。

「わかりました。ならそのときに」

「だがなサーゼクス。天界側はどうするんだ? 聞いた内容を後で送る気か?」

 アザゼルがサーゼクスさんに問う。

 それもそうか。いや、だからっていまってわけにはなぁ。

「それなら心配ないでしょう。そのときまで、カイトくんの側にはガブリエルをつけます。大分豪華すぎる気はしますが、本人が承諾しているので問題ないでしょう」

 ……マジですか。なにさらっと重大発言してくれてるんですか!

「おいおい、そりゃ豪華すぎるだろ。四大セラフが側にいるって。よかったなカイト。なんか加護があるかもしれねぇぞ。それに相手は天界一の美女だ」

 なにがどうなってるんだか……。

「さて、いい感じに話がまとまりましたし、私は一度天界に戻り、和平の件と、『禍の団』の対策を講じてきます。あちらの二人の件も叶えなくてはいけませんからね」

 そう言うミカエルさんは、破壊された校舎や校庭の復興作業を手伝っているイッセーと祐斗を見た。

 そうか、部員のみんなは向こうで手伝っているのか。

「なら俺も

「ダメですよぉ。言うこと聞かない子は、めっ♪」

 かわいく言ってくれてるが、やってることは俺の身体の圧迫だ。

 寝起きだと全然力が入らねぇ……。

 クソッ、俺には寝てることしかできないのか!

(むしろ寝てなさい。今日は危なかったのよ)

(本当です。カイトは無茶し過ぎです。反省して寝ていてください)

 俺の中にいる相棒たちにまでそう言われてしまった。

 なにかしてた方が気がまぎれるんだけどな……。オーフィス……。ここにきてこんな記憶置いてくなよな……。

 

「さて、んじゃ俺も帰る。後始末はサーゼクスに任せるぜ。ああそうだ。カイト、サーゼクス。赤龍帝とリアス・グレモリーに伝えておけ。当分ここに滞在するから、そっちの『僧侶』ともども世話してやるってな。制御できてないレア神器を見てるのはムカつくからな」

 アザゼルはそれだけ言うと去っていった。

 それに続くように、ミカエルさんもまた、天界へと戻っていく。

「それではガブリエル。あとのことは任せましたよ。こちらは三人でなんとかしておくので、できるだけ早い帰りを待っています」

「はい、ミカエルさまぁ」

 去り際にそんな会話をし、姿を消した。

 俺はというと、いまだガブリエルさんの膝の上だ。

「ありがとう、カイトくん」

 横から声がかかる。

 ――サーゼクスさんだ。

「なんのことですか?」

「今回の一件も、コカビエルのときも、ライザーのときも。キミの存在は、とても大きい。キミのおかげで、リアスも、その眷族のみんなも助かっている。だから、そのお礼を言いたくなったのさ」

 悪魔にしては珍しいタイプだよな、やっぱ。

 こんな半端者に素直にお礼言って来る悪魔なんて早々いないよ。それも魔王様だもんな。

「そういうことでしたら、礼なんていいんですよ。俺はただ、仲間のためにできることをしてるだけですから。だから、俺は俺のやりたいようにやったまでです」

「――そうか」

「そうです」

 俺たちは互いに視線を交わし、笑った。

 なんとなく、この人が魔王である理由がわかった気がする。上に立つべき人だよ、この人は。

 

 

 

 それからしばらくして、イッセーたちが俺のもとへ来てくれた。

「カイト! よかった意識が戻ったん――なにしてんだ!」

 イッセーが真っ先に俺に話しかけ、安堵の言葉が途中で絶叫に変わった。

「見ての通りだ」

「いや、見ての通りって、なんだよその綺麗なお姉さんは! 膝枕!? クソッ、俺も意識を失ってれば」

 知るかよ。って、そんなことで涙を流すな……。

「カイト。あんな傷をおったときは心配したわ。でも、よかった」

 部長も瞳に涙を浮かべていたが、こっちは俺を心配していたことがよく伝わってくる。

 他にも祐斗や朱乃さん、みんなが俺に言葉をかけてくれた。

「カイト。ひとつ大事な話があるのだが」

 ゼノヴィアがそう言う。

「大事な話?」

「ああ。おまえが邪神を吹っ飛ばしたときなんだが、これを拾ってな。これは元々おまえのモノなのだろうと思ってな。持ってきたんだが」

 控えめに見せてくれたのは、なんと<レーヴァテイン>だった。

 まさか、返ってくるなんて……。

「カイト、いるだろ?」

「ああ、ありがとな、ゼノヴィア……ありがとう」

 いまは持てる――持たせてもらえない状況だったので、<レーヴァテイン>は後日引き取ることになった。それまでは、ゼノヴィアがデュランダルと同じように収納しておいてくれるらしい。

 それはいい。とても喜ばしいことだ。

 でも、さっきから俺の意識は、まったく別のことを考え続けていた。

 オーフィス。

 俺の目の前から姿を消した少女のことを。

 

 

 

 俺は、また、家族を失ったのか……?

 


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