ハイスクールD×D 精霊と龍神と   作:きよい

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14話

 眼前で起きていることに、俺も、他のみんなも驚きを見せていた。

 それはそうだろう。

 腹を貫かれ、動けるはずのないカイトが、俺に迫っていた邪神の腕を掴み、停めていたのだから

「こんなときに……いや、こんなときだからこその防衛反応か?」

 唯一冷静さを取り戻していた邪神だけが、カイトに話しかける。

「チガウナ。俺はアクマデ、カイトノ一部。タダ、強イ意志ニ動カサレテイルダケダ」

 対してカイトは、普段とは違う声音で返す。普段のカイトを知ってるからこそわかる。

 これは、カイトじゃないなにか異質なものだ……。

 そういえば、邪神は魔王の因子の暴走とか言ってたっけ? なにか、原因があるのか……。

「強い意志か。それはなんだ?」

「仲間ヲ守ル。ソレガ、カイトでアリ、ソレヲ支エル俺ノ意志ダ」  

「魔王の因子である貴様まで、カイトの意志を尊重するというのか? わからんな。カイトの中にいる因子であるおまえがその身体を乗っ取れば、好き勝手にできるというのに」

「カイトの中にイルダケの俺に、ソコマデの権利はナイサ。俺はタダ、カイトのシタイコトを手助けスルノミダ」

 次第に、カイトの声音に温かみが戻ってきているのを、俺は感じた。

 それと同時に、感じる魔力の質が上がってきていることも――。

 

「ダカラ――オマエはもう、消えろ」

 瞬間、俺の制服の襟元を掴んでいた邪神の腕が斬り飛ばされた。

「ぐ――ッ!?」

 突然のことに、邪神は数歩後ずさり、斬り飛ばされた自身の腕を眺める。

「離レテイロ、赤龍帝。アイツは、俺が相手スル」

 その間に俺の方へ向き、そう伝えてくるカイト。

 傷口からは、いまだ血が流れ続けている。

「おまえ、その状態で平気なのか?」

 俺だって同じような目にあったことはあるからこそわかる。あれは立っていられるか以前に、意識を保てるかどうかという程の問題だ。

 それなのに……。

「イマの俺カラスレバ大したコトはナイが、身体自体はモタナイダロウナ」

 発せられた言葉は、無慈悲にも、危険だということを指していた。

「だったらもういい! 下がってアーシアが来るまでおとなしくしてろよ! それまで、邪神の相手は俺たちがする」

「相手に、ナラナイダロ? 白龍皇も、赤龍帝も、マダ弱イ。イマは、俺が適任ダ」

「おい、ふざけん――」

 俺の言葉が紡がれる前に、カイトは邪神へと向かっていてしまった。

 

 

「部長。俺、こんなにも弱いんすね……。重傷の仲間一人、止められねぇ…………」

「イッセー……」

 俺の言葉に、部長は悲しそうな目をする。

 けど、いまの俺に部長の表情を変える気力もない……。

 俺には、カイトを停めることも、邪神を倒すだけの力もない。

「そんなにへこむ必要もないぞ、兵藤一誠」

 話しかけてきたのはアザゼルだ。

「確かにカイトは強い。そんでもって、いまのあいつは異質だ。本来ならすぐにでも戦うのを停めたいが、それをしたらおまえたちが全員連れて行かれる……。俺は魔法使いどもの露払い。状況が最悪だからこそ、カイトには動いてもらう他ない。でもな、それとおまえさんが弱いかってのは、話が違うさ」

「なにが言いたいんだ、あんた……」

「そう悲観的になるなってことさ。いまのおまえは弱いかもしれないが、それがどうした。だったらとっとと強くなって、カイトの隣に立ってやれよ。支えてやれ。いま悔やむんなら、それくらいしてみせろよ」

 カイトの戦う姿を眺めながら、独り言のように呟くアザゼル。

 そうかよ、そうですか。

 やっぱり、いまの俺が弱いことは決定みたいだな。

 でも、ひとつわかったよ。いま弱いことを受け入れて、さっさと強くなるさ。守られたぶん、カイトを支える。だから、勝って、生きてやろうぜ、カイト!

 そんでもって、次はおまえの隣に、今度は俺が守るために!

 

 

 

 ――眼前で、ふたつの影が火花を散らす。

 押されていたのは、邪神――アンラ・マンユだった。

 次々と生み出す魔力の弾は弾かれ、斬られ、接近戦に持ち込んでも、優劣は変わらなかった。

「……解せないな。なぜ、私が押されている? いまの私ならば、片腕を失ったとしてもキミに遅れはとらないはずなんだが……」

 マジですか……。邪神の力ってそんなに強いのかよ……。

「ナンダ、まだ気ヅカナイのか?」

 カイトは<真実を貫く剣>を横一閃。大振りに振り、邪神を後退させる。

 剣を肩に乗せながら、不敵な笑みをこぼす。

「さっきカイトも言ッテタダロ? おまえは俺の仲間を甘く見すぎてるッテナ。オマエは気ヅイテナイかもシレナイが、さっきからリズムがドンドンズレテきてるぜ? おかげで攻撃がヨク通ル。赤龍帝と白龍皇のダメージが残ッテルノサ。今にナッテも気ヅカナイノカ」

 そんなことを言って、俺の方へ視線を向けてくる。

「少シは役に立ッテルてことさ」

「そんなことが、あってたまるか! 私は本気を出していなくても圧倒していただろう!?」

「デキテナカッタんだろ? だから、俺に苦戦スル」

「そんなことが!」

 邪神はこちらに振り向いたままのカイトに魔力の弾を撃ち出す!

「危ない!」

 横から部長の叫び声が聞こえる。

 だがカイトは全く動じず、ただ軽く左手を振った。

「……不意撃ち、カ……。所詮借り物の身体。コノ程度か」

「因子の暴走……。自我を持つだけでなく、こうも動きが変わるか……。いずれ貴様は邪魔になりそうだな」

「余裕がナクナッテキタな」

「そう、見えるか? なら――終わりだ」

「ンナワケナイダロ?」

 カイトは即座に邪神のもとへ近づき、

「――死を呼ぶ閃光!」

 闇色の魔剣から放たれる無数の黒い雷撃。

 しかし、直撃するよりもはやく邪神は上空へ逃れていた。

「逃ゲンノカ?」

「そんなはずないだろう。キミ以外を消して、今日はお開きだ。私は次の機会を待とう。もしくは、この一撃の余波で更に弱ったキミを連れて行くさ」

 なにかする気だ! 

 それも、俺たちを全員消せるようななにかか!?

「クソッ、そんなことさせるわけにいくか!」

 アザゼルが叫びざまに特大の光の槍を投げつける! 最初ッからやってください!

 だが、

 パキィィィィンッッ!

 槍は邪神のもとへ届く前に、破砕音とともに砕け散った。

「なに?」

 怪訝な表情を見せるアザゼル。

「無駄だ。この一撃は、全てを呑み込み糧とする」

 上から邪神の声が振ってくる。

「……欲の深い邪神がやりそうな手だな、ったく」

「でもそれだと、俺たちは見てることしかできないんじゃ!」

 打つ手がないぞ、これ!

「そうなんだよな、これが。どうすっかなぁ……」

 アザゼルが愚痴るようにこぼす。

「――ナラココカラは、俺の出番だな」

 後ろから声がかかる。

 振り向くと、いつもの調子で、少しだけ苦しそうにだが笑顔を見せるカイトの姿があった。

 ――戻ってる。いつもの、カイトに。

「おまえ、もう状態は戻ったのか」

 アザゼルがカイトに問う。

「ああ。おかげで、死にかけになっただけだけどな……。俺自身が頑張ってくれたみたいで、なんとかなったみたいだな。悪かったな」

 俺たちにではなく、自分へ言葉をかけるが、なんだか、いまはそれが自然のように見える。

 確かに、さっきまでのカイトは別人のようだったからな。

 っていうか、

「カイト! おまえ怪我は!?」

「治ってるわけないだろ。でも、一撃分くらい撃てる体力は貰った――回復できた。さあ、出てきてもらうぜ。あの闇の中で一度だけ見た神器!」

 胸に手を置くと同時に、カイトの手から光が漏れる。

 その光はやがて、カイトの左手に纏わり、そして、形状を拳銃のように変えた。

「これも、神器なのか? こんな神器、俺は知らないぞ……」

 神器マニアのアザゼルがまた知らない神器を出すって、カイト!? おまえ何個レア神器持ってんの!?

「俺も、なにも知らないさ。でも、いまここでなら使えると思っただけさ」

 多少回復しているらしく、声はしっかりとしている。

 というか、カイト自身も把握してない神器をここで使うって、どんだけですか……。

「さあ、アンラ・マンユ。今日のところは終幕だ!」

「ああ、そのようだな」

「「――おまえの負けだ!」」

 二人の声が重なった瞬間。

 アンラ・マンユの手元から、莫大な量の魔力の塊が放出される。

 対して、カイトは――す。

 

 ゆっくりと照準を魔力の塊の先にいるであろう邪神に合わせた。

 その銃口が、蒼色に輝き始める……!

 銃口に灯る蒼色の光は、次第に輝きを強めていく。

 それに比例して、感じる質量が増している!

「とんでもない力ね……。カイトは、こんな力を持っていたというの?」

 隣から、部長のつぶやきが聞こえてくる。

 

 あれは、なんだ……? 

 あんなにも強大で、強い輝きと、力を感じるのに、温かく、優しい……。

 

「さあ、アンラ・マンユ! 終わりだ!」

 ――――――ぱぁっ!

 蒼色の光が銃口から飛び出した瞬間、俺たちの眼前まで迫ってきていた魔力の塊と衝突し、そして――。

「こんなことが……」

 邪神の一撃を綺麗に消し去った。

「私の一撃と、引き分けた、だと……。あり得ない、あり得ない!」

 狼狽しだす邪神。本気だったのだろう。いま撃てる五割の力で撃ったんだろうな……。

「まだ、終わってないぞ。アンラ・マンユ」

 だが、カイトは指差し、そう宣言する。

 焦ったような顔をして、すぐさま地上に降りてくる邪神。

 その数瞬後、いままで邪神がいた場所を蒼色の光が透過して――弾けた。

 破片は校庭へと降り注ぎ、俺たちを囲むようにして、それ以外の場所にいた魔法使いたちへと落下していく。

「なんだ、これは……」

「これはな、おれ、の……仲間を、守るための……力さ……」

 それだけ言い残し、カイトは再び倒れた。

 って、そうだよ! カイト重傷なの忘れてた!!

 俺はすぐさまカイトの側に駆け寄り、この場からカイトを連れていこうとする。

 だが、

「逃がすと思うか、赤龍帝――」

 俺の逃げ道を塞ぐように立ちはだかる邪神がいた。

「白龍皇は潰した。カイトの一撃には肝を冷やした。まさか呑み込まれないとは……だが、やっとだ。今日やっと、私はカイトを手にいれる」

 手を伸ばしてくる邪神。

 対して俺は、もう禁手の状態を保っていられる時間も少ない。

 対抗策が……。

「我、それ許さない……。胸騒ぎ、して来たらこの状況。我、おまえを敵と見なす」

 俺が決死の覚悟でと拳を握ったときだった。

 後方から、女の子の声がきこえた。

「……こいつは、最悪だ。どうも今日は、イレギュラーな事態ばかり起こる」

 邪神が疲れきった表情を見せた。

 なんだ、なんだっていうんだ?

「あなたが出てくるとは思ってもなかった。あなたも、カイトの味方かな?」

「そう。カイト、我の――家族」

 黒いゴスロリ衣装を着た女の子は、そう言った。

「なるほど。あのとき、カイトの仲間を闇に引きずりこんだあと、一瞬姿を見せたのはあなたでしたか。あのとき、なにか細工をしましたね?」

 丁寧な口調に変えた邪心は、厳しい表情をし、女の子に問う。

「我、カイト、助ける」

 だが、邪神の問いに答えることはなく、女の子はそう宣言した――。

 

 




章が増えるにつれてその章の話数も増えていく……。
一章から見てくとどんどん増えてきてます。
今回も終われず。でもきっともうすぐ終わるよね、会談の話も。
最後に登場した女の子のせいで、どれだけ戦場が無茶苦茶になるやら。

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