ハイスクールD×D 精霊と龍神と 作:きよい
眼前で起きていることに、俺も、他のみんなも驚きを見せていた。
それはそうだろう。
腹を貫かれ、動けるはずのないカイトが、俺に迫っていた邪神の腕を掴み、停めていたのだから
「こんなときに……いや、こんなときだからこその防衛反応か?」
唯一冷静さを取り戻していた邪神だけが、カイトに話しかける。
「チガウナ。俺はアクマデ、カイトノ一部。タダ、強イ意志ニ動カサレテイルダケダ」
対してカイトは、普段とは違う声音で返す。普段のカイトを知ってるからこそわかる。
これは、カイトじゃないなにか異質なものだ……。
そういえば、邪神は魔王の因子の暴走とか言ってたっけ? なにか、原因があるのか……。
「強い意志か。それはなんだ?」
「仲間ヲ守ル。ソレガ、カイトでアリ、ソレヲ支エル俺ノ意志ダ」
「魔王の因子である貴様まで、カイトの意志を尊重するというのか? わからんな。カイトの中にいる因子であるおまえがその身体を乗っ取れば、好き勝手にできるというのに」
「カイトの中にイルダケの俺に、ソコマデの権利はナイサ。俺はタダ、カイトのシタイコトを手助けスルノミダ」
次第に、カイトの声音に温かみが戻ってきているのを、俺は感じた。
それと同時に、感じる魔力の質が上がってきていることも――。
「ダカラ――オマエはもう、消えろ」
瞬間、俺の制服の襟元を掴んでいた邪神の腕が斬り飛ばされた。
「ぐ――ッ!?」
突然のことに、邪神は数歩後ずさり、斬り飛ばされた自身の腕を眺める。
「離レテイロ、赤龍帝。アイツは、俺が相手スル」
その間に俺の方へ向き、そう伝えてくるカイト。
傷口からは、いまだ血が流れ続けている。
「おまえ、その状態で平気なのか?」
俺だって同じような目にあったことはあるからこそわかる。あれは立っていられるか以前に、意識を保てるかどうかという程の問題だ。
それなのに……。
「イマの俺カラスレバ大したコトはナイが、身体自体はモタナイダロウナ」
発せられた言葉は、無慈悲にも、危険だということを指していた。
「だったらもういい! 下がってアーシアが来るまでおとなしくしてろよ! それまで、邪神の相手は俺たちがする」
「相手に、ナラナイダロ? 白龍皇も、赤龍帝も、マダ弱イ。イマは、俺が適任ダ」
「おい、ふざけん――」
俺の言葉が紡がれる前に、カイトは邪神へと向かっていてしまった。
「部長。俺、こんなにも弱いんすね……。重傷の仲間一人、止められねぇ…………」
「イッセー……」
俺の言葉に、部長は悲しそうな目をする。
けど、いまの俺に部長の表情を変える気力もない……。
俺には、カイトを停めることも、邪神を倒すだけの力もない。
「そんなにへこむ必要もないぞ、兵藤一誠」
話しかけてきたのはアザゼルだ。
「確かにカイトは強い。そんでもって、いまのあいつは異質だ。本来ならすぐにでも戦うのを停めたいが、それをしたらおまえたちが全員連れて行かれる……。俺は魔法使いどもの露払い。状況が最悪だからこそ、カイトには動いてもらう他ない。でもな、それとおまえさんが弱いかってのは、話が違うさ」
「なにが言いたいんだ、あんた……」
「そう悲観的になるなってことさ。いまのおまえは弱いかもしれないが、それがどうした。だったらとっとと強くなって、カイトの隣に立ってやれよ。支えてやれ。いま悔やむんなら、それくらいしてみせろよ」
カイトの戦う姿を眺めながら、独り言のように呟くアザゼル。
そうかよ、そうですか。
やっぱり、いまの俺が弱いことは決定みたいだな。
でも、ひとつわかったよ。いま弱いことを受け入れて、さっさと強くなるさ。守られたぶん、カイトを支える。だから、勝って、生きてやろうぜ、カイト!
そんでもって、次はおまえの隣に、今度は俺が守るために!
――眼前で、ふたつの影が火花を散らす。
押されていたのは、邪神――アンラ・マンユだった。
次々と生み出す魔力の弾は弾かれ、斬られ、接近戦に持ち込んでも、優劣は変わらなかった。
「……解せないな。なぜ、私が押されている? いまの私ならば、片腕を失ったとしてもキミに遅れはとらないはずなんだが……」
マジですか……。邪神の力ってそんなに強いのかよ……。
「ナンダ、まだ気ヅカナイのか?」
カイトは<真実を貫く剣>を横一閃。大振りに振り、邪神を後退させる。
剣を肩に乗せながら、不敵な笑みをこぼす。
「さっきカイトも言ッテタダロ? おまえは俺の仲間を甘く見すぎてるッテナ。オマエは気ヅイテナイかもシレナイが、さっきからリズムがドンドンズレテきてるぜ? おかげで攻撃がヨク通ル。赤龍帝と白龍皇のダメージが残ッテルノサ。今にナッテも気ヅカナイノカ」
そんなことを言って、俺の方へ視線を向けてくる。
「少シは役に立ッテルてことさ」
「そんなことが、あってたまるか! 私は本気を出していなくても圧倒していただろう!?」
「デキテナカッタんだろ? だから、俺に苦戦スル」
「そんなことが!」
邪神はこちらに振り向いたままのカイトに魔力の弾を撃ち出す!
「危ない!」
横から部長の叫び声が聞こえる。
だがカイトは全く動じず、ただ軽く左手を振った。
「……不意撃ち、カ……。所詮借り物の身体。コノ程度か」
「因子の暴走……。自我を持つだけでなく、こうも動きが変わるか……。いずれ貴様は邪魔になりそうだな」
「余裕がナクナッテキタな」
「そう、見えるか? なら――終わりだ」
「ンナワケナイダロ?」
カイトは即座に邪神のもとへ近づき、
「――死を呼ぶ閃光!」
闇色の魔剣から放たれる無数の黒い雷撃。
しかし、直撃するよりもはやく邪神は上空へ逃れていた。
「逃ゲンノカ?」
「そんなはずないだろう。キミ以外を消して、今日はお開きだ。私は次の機会を待とう。もしくは、この一撃の余波で更に弱ったキミを連れて行くさ」
なにかする気だ!
それも、俺たちを全員消せるようななにかか!?
「クソッ、そんなことさせるわけにいくか!」
アザゼルが叫びざまに特大の光の槍を投げつける! 最初ッからやってください!
だが、
パキィィィィンッッ!
槍は邪神のもとへ届く前に、破砕音とともに砕け散った。
「なに?」
怪訝な表情を見せるアザゼル。
「無駄だ。この一撃は、全てを呑み込み糧とする」
上から邪神の声が振ってくる。
「……欲の深い邪神がやりそうな手だな、ったく」
「でもそれだと、俺たちは見てることしかできないんじゃ!」
打つ手がないぞ、これ!
「そうなんだよな、これが。どうすっかなぁ……」
アザゼルが愚痴るようにこぼす。
「――ナラココカラは、俺の出番だな」
後ろから声がかかる。
振り向くと、いつもの調子で、少しだけ苦しそうにだが笑顔を見せるカイトの姿があった。
――戻ってる。いつもの、カイトに。
「おまえ、もう状態は戻ったのか」
アザゼルがカイトに問う。
「ああ。おかげで、死にかけになっただけだけどな……。俺自身が頑張ってくれたみたいで、なんとかなったみたいだな。悪かったな」
俺たちにではなく、自分へ言葉をかけるが、なんだか、いまはそれが自然のように見える。
確かに、さっきまでのカイトは別人のようだったからな。
っていうか、
「カイト! おまえ怪我は!?」
「治ってるわけないだろ。でも、一撃分くらい撃てる体力は貰った――回復できた。さあ、出てきてもらうぜ。あの闇の中で一度だけ見た神器!」
胸に手を置くと同時に、カイトの手から光が漏れる。
その光はやがて、カイトの左手に纏わり、そして、形状を拳銃のように変えた。
「これも、神器なのか? こんな神器、俺は知らないぞ……」
神器マニアのアザゼルがまた知らない神器を出すって、カイト!? おまえ何個レア神器持ってんの!?
「俺も、なにも知らないさ。でも、いまここでなら使えると思っただけさ」
多少回復しているらしく、声はしっかりとしている。
というか、カイト自身も把握してない神器をここで使うって、どんだけですか……。
「さあ、アンラ・マンユ。今日のところは終幕だ!」
「ああ、そのようだな」
「「――おまえの負けだ!」」
二人の声が重なった瞬間。
アンラ・マンユの手元から、莫大な量の魔力の塊が放出される。
対して、カイトは――す。
ゆっくりと照準を魔力の塊の先にいるであろう邪神に合わせた。
その銃口が、蒼色に輝き始める……!
銃口に灯る蒼色の光は、次第に輝きを強めていく。
それに比例して、感じる質量が増している!
「とんでもない力ね……。カイトは、こんな力を持っていたというの?」
隣から、部長のつぶやきが聞こえてくる。
あれは、なんだ……?
あんなにも強大で、強い輝きと、力を感じるのに、温かく、優しい……。
「さあ、アンラ・マンユ! 終わりだ!」
――――――ぱぁっ!
蒼色の光が銃口から飛び出した瞬間、俺たちの眼前まで迫ってきていた魔力の塊と衝突し、そして――。
「こんなことが……」
邪神の一撃を綺麗に消し去った。
「私の一撃と、引き分けた、だと……。あり得ない、あり得ない!」
狼狽しだす邪神。本気だったのだろう。いま撃てる五割の力で撃ったんだろうな……。
「まだ、終わってないぞ。アンラ・マンユ」
だが、カイトは指差し、そう宣言する。
焦ったような顔をして、すぐさま地上に降りてくる邪神。
その数瞬後、いままで邪神がいた場所を蒼色の光が透過して――弾けた。
破片は校庭へと降り注ぎ、俺たちを囲むようにして、それ以外の場所にいた魔法使いたちへと落下していく。
「なんだ、これは……」
「これはな、おれ、の……仲間を、守るための……力さ……」
それだけ言い残し、カイトは再び倒れた。
って、そうだよ! カイト重傷なの忘れてた!!
俺はすぐさまカイトの側に駆け寄り、この場からカイトを連れていこうとする。
だが、
「逃がすと思うか、赤龍帝――」
俺の逃げ道を塞ぐように立ちはだかる邪神がいた。
「白龍皇は潰した。カイトの一撃には肝を冷やした。まさか呑み込まれないとは……だが、やっとだ。今日やっと、私はカイトを手にいれる」
手を伸ばしてくる邪神。
対して俺は、もう禁手の状態を保っていられる時間も少ない。
対抗策が……。
「我、それ許さない……。胸騒ぎ、して来たらこの状況。我、おまえを敵と見なす」
俺が決死の覚悟でと拳を握ったときだった。
後方から、女の子の声がきこえた。
「……こいつは、最悪だ。どうも今日は、イレギュラーな事態ばかり起こる」
邪神が疲れきった表情を見せた。
なんだ、なんだっていうんだ?
「あなたが出てくるとは思ってもなかった。あなたも、カイトの味方かな?」
「そう。カイト、我の――家族」
黒いゴスロリ衣装を着た女の子は、そう言った。
「なるほど。あのとき、カイトの仲間を闇に引きずりこんだあと、一瞬姿を見せたのはあなたでしたか。あのとき、なにか細工をしましたね?」
丁寧な口調に変えた邪心は、厳しい表情をし、女の子に問う。
「我、カイト、助ける」
だが、邪神の問いに答えることはなく、女の子はそう宣言した――。
章が増えるにつれてその章の話数も増えていく……。
一章から見てくとどんどん増えてきてます。
今回も終われず。でもきっともうすぐ終わるよね、会談の話も。
最後に登場した女の子のせいで、どれだけ戦場が無茶苦茶になるやら。