ハイスクールD×D 精霊と龍神と 作:きよい
正面から敵対してよくわかる。
バケモンだよ、あのアンラ・マンユって奴は。
コカビエルのときなんか比べ物にならないくらいの殺気を感じる。
でもな、俺だって仲間を、おっぱいを守んなくちゃいけないんだ! あんなヤロウに俺の大事なモン全部持ってかれちゃ困るんだよ!
「宿敵くん。あたしが斬りこむから、その間に特大の一撃、よろしくね。だいじょうぶ、隙はつくってあげるって」
並び立つヴァーリから指示を受ける。
「だいじょうぶなのか? おまえ、もうさっきのでボロボロだったけど」
「宿敵くんが突っ込むよりは、時間稼ぎになると思うよ。じゃ、よろしく!」
俺の意見を聞くより速く、上空へと飛び出していってしまう。
ま、まあ確かにヴァーリの方が圧倒的に強いんだけどさ……。こういうのは普通男の役目というか。
「はあ……。気分切り替えて、やるか!」
俺は邪神に向け、手をかざす。
ヴァーリとの戦闘で動き続けていて、照準が合わない。でも、言ったからな。隙はつくるって。
なら、信じるしかないだろ!
左手に魔力の小さな塊を作り出す。
まだだ、まだ足りない! 今回ばかりはこんなんじゃ倒せやしない!
「もっとだ! もっとよこせ! 俺の仲間を守れるだけの力を!!」
『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!!』
音声が何度も壊れたように繰り返される。そのたびに俺の力が高まっていくのを感じる!
そのまま、決定的瞬間が訪れるのを待つ。
ヴァーリと邪神が拳を打ち合う中、その瞬間はやってきた――。
邪神から放たれた拳を掴みとり、その場に固定させる。
「捕まえたぁ」
『Divide!!』
その位置から離れられなくなった邪神の力は半減され、ガクッっと感じる力量差が減少する。
邪神も力が半減し、ヴァーリから逃げることができなくなった。
「宿敵くん、いま!」
「おう!」
ヴァーリの合図に合わせ、邪神へと照準を合わせる。
「いっけぇぇぇぇッッ!!」
籠手によって高められた膨大な魔力の一撃が前方に放たれる。
いままでで一番の攻撃だ! やられてもらうぜ、アンラ・マンユ!
「ちょ、大きすぎるわ、イッセー!」
後方から部長の叫び声が聞こえる。大きいって何が……。
「宿敵くんのバカ! もっと一点に集中して絞って撃ってよ! ああ、もうっ!」
アンラ・マンユを抑えていたヴァーリからも叫び声があがる。
そう、俺もいまわかった。
感情の高ぶりに呼応してか、俺の放った魔力の塊は、大きすぎたんだ。人一人ならすっぽり覆えるほどには。
自分も巻き込まれると悟ったヴァーリの行動は、早かった。
寸前まで引き付けて、あと少しで直撃というところで、
「この、貴様――ッ!」
「じゃあね、邪神さん」
邪神を蹴り飛ばし、俺の放った一撃に突っ込ませ、巻き込まれるのを回避したんだ。
「結果、オーライ……?」
「まあ、そうかな。でも宿敵くん。ちょっとは力の使い方覚えようよ……」
残念な子を見る目で言われてしまった。
ごめんなさいね、力の扱い下手で。
ドォォォオオオンッッ!!
そんなやり取りをしている間に、俺の放った一撃が大爆発を起こし、轟音を上げた。
「流石にこれなら……」
「宿敵くん。さっき、あたしが単独で戦ったとき、あいつの力の片鱗を見たよ。あれは間違いなく――異質だ」
仕留めたと思った俺のもとに、そんな言葉が放たれる。
要するに、ここからが本番ってわけか。
「まったく、いやになるぜ。なんでこう、俺の周りには強い奴らしか来ないかね」
「いいじゃん、それ。あたしだったら最高だけどなぁ」
「嬉しそうに言うなよ。俺はな、俺は部長たちと楽しくエッチな生活を送りたいんだよ!」
「……宿敵くんはなんていうか、残念な子だよね、ホント……。宿敵なのがガッカリだよ。せっかくいい感じに実力つけてきてるのにさー」
「うるせえな! 懸命に頑張った俺の姿がいまの俺ってだけでだな――」
文句でも言おうとした矢先、爆発で起きた煙が消え去っていく。
だんだんと上空の様子が見えるようになっていき――
「流石に焦ったぞ、赤龍帝、白龍皇。力が半減したときにはどうしたものかと思ったさ。まあ、今のが最初で最後のチャンスだっただろうがな」
アンラ・マンユは、何事もなかったかのようにその場にたたずんでいた。
ところどころ火傷の跡や、煙を上げているみたいだが、それ以外にダメージを受けているようには見えない。
異質、か。俺が戦ってきた中じゃ、完全にこいつが一番強い。
俺とヴァーリ。二人を相手にしてこれだもん。
俺だけだったら瞬殺されてるって、ホント。
「あーあ……。全然効いてないよね、あれ。強い存在がたくさんいるってのは嬉しいけど、いまあたるには早すぎるかな」
ヴァーリも余裕はなく、邪神を睨み続けている。
「そう警戒するな」
だが、力んだ様子のない邪神は、そう一言告げた。
「警戒なぞ、するだけ無駄だ」
次に声が聞こえたのは、俺のすぐ近くだった。
――ッ!? 俺とヴァーリはすぐさま後ろに飛び退く。
まるで見えなかったぞ! 気づいたときには、俺たちの目の前にまで邪神の姿が迫っていた。
「これしきも見えないか。ならやはり、私を倒すことは不可能。最初の一撃で終わらせるべきだったな、赤龍帝!」
クソッ、こんなときまで俺は未熟だってことを思い知らされるのかよ!
「だがまずは、白龍皇――」
「カハッ……ッ!」
ズドンッ! という音と共に、ヴァーリが宙に殴り飛ばされる。
いまの一撃、一瞬だったけど、空間が歪んだ!?
見ると、殴られたであろう箇所の鎧は弾け飛んでいた。
一撃であの威力って、やばすぎるだろ!
「ヴァーリ!」
俺は、彼女が追撃されることを恐れ、アンラ・マンユに挑みかかる。
「少し、待っていろ。あと一撃で、白龍皇は戦闘不能だ。そうしたら、カイトと共に連れて行く」
俺の拳はかるくかわされ、カウンター気味に顔面に一発貰ってしまう。
「がはっ!」
兜が破壊され、俺は数メートル飛ばされた。
でもなぁ、こんなもんで寝てられねぇんだよ! 俺は立ち上がり、左手を強く握る。
まずは一撃。そっから始める!
背中の噴出口から魔力を一気に噴かせて一直線に向かう。
「突貫か? そういったバカは嫌いじゃないぞ。――だが、力量差を考えろ」
拳が届くよりはやく、今度は魔力の弾で弾かれる。
ガシャァァァァンッ!
今度は校舎へと突っ込む。
ぐ……いてぇ。俺ひとりだと、拳すら届かないのかよ……。
カイトはこの先、あんなのを相手に闘おうっていうのかよ……。いまの俺じゃ、歯が立たない。
けど、立とう。俺の仲間は誰一人、あんなヤロウに連れてかせねぇ!
兜を直し、ダメージにより痛む体を引きずり、校庭へと出る。
「遅かったな、赤龍帝。いま、終わったところだ」
始めに、邪神の声が聞こえた。
そちらに視線を向けると、邪神の横には、ヴァーリが倒れ伏していた。
綺麗な銀髪は血により真っ赤に染まり、鎧なんてどこにも無かった。
「最後までいい抵抗をしてくれたぞ。おまえがもう少し実力をつけていたら、こうはならなかったかもな。いや、カイトが油断していなければ、そもそも私が負けていた可能性もあるかな。ああ、そうだ、次はそこのリアス・グレモリーだ。強く綺麗な女はいい。私の手元で飼いならしてやろう」
「――黙れよ」
フツフツと、怒りが感情を支配してくる。
ああ、やっとわかった。今の俺の中にある感情。これが殺意なんだ。
「カイトも惨めだな。この程度の実力の者に協力するとは。おかげで、簡単に手元に置けそうだがね。力は弱いが、他にも何人かいい女がいるな。向こうの校舎の方。金髪に黒髪、青髪もいたな。全員連れて行こうか」
会議室のある校舎を指しながら、笑みを浮かべる邪神。そっちは、アーシアたちがいる場所だろ。
こいつは、なにもかも奪う気か?
「そして全員、俺の――」
「黙れっつってんだろうがァァァァッッ!!」
『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!!』
俺の周囲が弾け飛んだ! 俺の全身はかつてないほどの質量のオーラに包まれていた。
「ほう。怒りによりドラゴンの力が跳ね上がったか。ヴァーリに届きうるな。面白い」
邪神の声が聞こえるなり、すぐさま俺の正面へと移動してくる。
「もう少し遊んでや
「うるせぇ!」
その瞬間に、拳を放つ。
ムカつくその、顔面へ、鋭く撃ち込む!
「グッ……!? この……。まさか私のスピードに順応したのか?」
「そんなことできてねぇよ。俺はただ、正面に来たおまえを殴っただけだ」
そう、俺は決してあいつの動きを見えているわけじゃない。ただ、攻撃に移る際にその位置に来て停まる瞬間を狙っただけだ。
「そういうことか。なら――」
俺が拳を握りなおした瞬間だった。
「――手加減はやめにしよう」
その一言が聞こえるよりはやく、俺の体は宙に舞っていた。
頬のあたりが痛む。
そして、今になって気づく。兜がまた、破壊されている!?
どうなってんだよ、これ!
いや、それより速く、ますは体勢を立て直さないと!
「遅い」
「ぐあ……!」
向きを反転させた俺に、魔力の弾がいくつも当たる。
当たった箇所の鎧は壊れされ、修復が追いつかない。
「やはり、この程度か。もういい」
振り下ろされた拳に、抵抗できず殴られる。
ドシャッ。
俺はなにもできず、地面に叩きつけられた。
「やはりまだ未熟だったか。もしやと思ったが、ベースとなる本人が弱すぎるな」
俺の襟を掴み、持ち上げつつそう呟く。
「赤龍帝。恨むなら、カイトと出会ったことを、協力関係を持ったことを恨め。彼の存在は、私のもとこそふさわしい。とは言ったものの、よく頑張った。最後は楽に――死ね」
手刀の形をつくり、オーラを纏わせていく。あれで一撃死ってやつか?
ああ、抵抗したいけどできねぇ……それだけの力が残ってない……。これで死ぬのは、二度目か。
すいません部長。俺、俺……。
無慈悲にも、邪神の手が俺へと突きこまれた。
「どういう、ことだ……?」
聞こえるのは、狼狽した邪神の声。
俺の体には、まだ痛みはない。それどころか、突きこまれたはずの手は途中で止まっている。いや、止められている?
「アンマリ、スキカッテ、スルナヨ」
普段とは違い、ゾッとするような声。無感情で、それでいて冷たい。
「まだ、動けたとは驚きだ」
「アア。キョウセイテキニ、セイギョ、ウバッタ。アイツノノゾミダ」
いつものように笑みを見せ、そいつは言った。
「オレノナカマ、キズツケンナヨ」
「――カイト……。なるほど、中に宿る魔王の因子の暴走か。どうせなら闇に覚醒してほしかったよ」
普段と雰囲気がまるで違うカイトが、アンラ・マンユの腕を掴み、止めていたんだ。