ハイスクールD×D 精霊と龍神と   作:きよい

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12話

 最初に気づいたのは、俺――兵藤一誠だった。

 

 カイトの後ろに、突如として出現した、白い物体。

 それがなんなのかわかったのは、カイトが貫かれた後だった。

 

 緋夥多の面影を残した、白い肌の男性。

 だけど、浮かべる表情は、緋夥多よりも歪で、凶悪だ……。

 

 そして、俺はまだ信じられない。

 ライザーにも、コカビエルにも臆せず突っ込み、そして圧倒していたカイトが、こんなにも簡単に倒されたことが、信じられないんだ……。

 カイトは、血まみれになって伏している。

 このままにしてちゃいけない。

 今度は、俺たちが助ける番だ! 

 

 

「……アン、ラ・マン……ユ……。テメェ、どうやって……ここまで来た。いや、その体――緋夥多のもの、だろ……。どう、やった?」

 掠れた声を出しながら、懸命に問うカイト。

「中の闇を再び活性化させた。緋夥多を内側から食い尽くし、空っぽになった肉体に私の意志を入れたまでだ」

「この、外道が……」

「ふふ。そう睨むな。急所は外してやったんだ。すぐには死なんさ」

 どういう、ことだ?

 そもそも、あの白いのが緋夥多だってのはわかる。でも、感じる殺気は、その数倍にも感じる。

 あれは、誰だ?

「部長、イッセーくん。彼は、アンラ・マンユ……。例の、邪神です」

 祐斗が指さし、緋夥多の体を捉える。

「なんですって!?」

「おいおい、そりゃ冗談じゃすまないぞ! 片腕の俺が倒せるかどうか怪しいじゃねえか」

 部長とアザゼルが同時に驚きの声を上げる。

 っていうか、アザゼルでも怪しいのかよ! 前に話してたアンラ・マンユってのはそんなに強いってのか!?

「これじゃあ、カイトを助けようにも……」

 部長が、邪神の足元に倒れているカイトを見ながらそう呟く。

 そうだ。カイトを助けるには、カイトからあいつを引き離す必要があるんだ!

 でも、俺らで倒せるのか……? いやいや、そんなことは関係ない! 仲間は――助ける。

 俺が一歩を踏み出したときだった。

 

「ねぇ、あたしの邪魔、しないで」

 俺たちの横から、強大なオーラを放ちながら口を開いた奴がいた。

「白龍皇か。なんだ、カイトに用があったのか? それは悪かったな。だが、私も彼には大事な役目を果たして貰う予定なんだ。邪魔しないでもらおうか。それとも、キミも私と共に――」

「あたしとカイトの戦いの邪魔、するな」

 邪神の話も終わらないうちに、ヴァーリは飛び出していった!

 白い輝きを放つ全身鎧に包まれ、背中からは光の翼が展開する。そのまま白い軌跡を描きながら、邪神と激突する。

 ――禁手か。あれなら、邪神を退かせることもできるかもそれない!

「これが今代の白龍皇の力か。面白い。だが、私を退かせるには、まだ足りない」

「どうかな。少なくても、いまのあなたよりは、あたしの方が――強い!」

 邪神を殴り飛ばし、大きく後方へと仰け反らせる。

 そのまま追撃し、邪神の体が宙を舞う。

「部長! いまのうちにカイトを!」

 この状況に驚いている部長に声をかけ、カイトのもとへ駆け寄る。

 ヴァーリ……。俺の宿敵であったとしても、カイトを助けてくれたことは感謝するぜ!

「カイト! カイト!」

 俺はみんなより逸早くカイトの側に駆け寄り、呼びかける。

「……イッセーか……」

 良かった。まだ意識がある!

 急所を外したってのもウソじゃなさそうだ。 

「部長! カイトなら無事です! はやく治療を!」

「――ッ! 祐斗!! アーシアを呼んで来て! 急いで!」

「はい!」

 部長に叫ばれた木場は、戦闘時よりも速く思える速度で、校舎へと向かっていった。

「カイト。もうじき、アーシアがくるからな。気張れよ!」

「…………ああ、もちろんだ」

 すぐ、来るよな。

 周囲は魔法使いだらけだけど、木場なら、きっとすぐに……。

「おい、ありゃまずいんじゃねぇか? 魔法使いどもの中にも何人か有名どころがいやがる。こりゃ苦労するぞ、聖魔剣使い」

 アザゼルがそんなことを言う。

 そんな……。それじゃあ、アーシアが来るのが遅れちまう!

「……あんたが、助けにはいけないのか」

「無茶を言うな、兵藤一誠。――俺がいなくなったら、おまえらを守る砦が消えちまうだろ」

 ――ッ! そんなこと、考えてたのかよ……。クソッ、情けねぇ! 俺は!

「いや、待てよ……。アーシアのときも、俺のときもそうだった。部長! 悪魔の駒でカイトを転生させれば!」

 そうだよ、これしかない! 俺やアーシアだって、木場もだったっけ? 死に際からでも転生することでどうにかなったじゃんか!

 これでカイトだって、

「ごめんなさい、イッセー……。それはできないの」

「え? 部長、できないって……」

「いまの私の残りの駒は、『戦車』ひとつのみ。それも、キャスリングの所為で会議室の中。それに、持っていたとしても……」

 ここで、部長は顔を俯けた。

「持っていたとしても、なんですか、部長?」

「それでも、カイトは転生させられない。駒の価値が、まったく足りないの……」

 なっ!? なんとなく、薄々わかっていたことだけど、それじゃあ! それじゃあカイトをどう救えっていうんだよ!

 悔しさから、拳を地面に叩きつける。

 もちろん、それでなにかが変えられるわけじゃない。でも、でも!

「イッセー!」

 再び拳を振り上げたとき、下から声がかかる。

「……カイト」

 息も絶え絶えだというのに、無理して声を張ったのだろうか。そうでなければ、いまのような声はもう出ないはずだ。

「あんまり焦るなよ。まだ、だいじょうぶだから……。アーシアも、来てくれんだろ。だったら、それまで絶対持ってみせるよ。だから……おまえはおまえので、きることをやれ……」

 気丈なフリをして、言葉を紡いでいく。

 見え見えだっての。でも、おかげでわかった。

 俺は――

 ドゴォォォォンッ!

「な、なに!?」

 俺たちの近くに、何かが降ってきた!?

「……いったいなぁ。反則でしょ、いまの……」

 土誇りが収まると、そこには上を見上げながら倒れているヴァーリの姿だった。

 負けた、のか……。

「ヴァーリがあそこまで一方的か。こりゃ希望も大分薄れてきたぞ」

 アザゼルも上空を見ながら呟く。

 見たくなかったよ、あの光景は。

 

「頑張ったほうか。少しまえの状態なら、ベースが緋夥多だから弱っちかったんだがな。いまは私の本来のスペックの半分ほどまでなら出せる。白龍皇であっても遊べるぞ」

 たからかに語るのは、始めのニ撃分だけしか食らった様子のない邪神。

 余裕の表情かよ!

「……あれで、二割程度だろう、な……」

 カイトが俺に教えてくれる。

 そうですか、あれで二割ね。じゃあ俺たちなんか簡単に倒せるでしょうよ。

 ヴァーリも鎧が壊されてもうなくなってるしね。あれ、禁手も解けてるだろ。

「まだ逃げてなかったか、カイト。それに、この場には美女が多い。そいつらも貰っていくか。そこの白龍皇もいいな」

 このヤロウ! まさか部長たちを連れていこうってか!

「おいカイト。確認までに訊くぞ。アンラ・マンユ――邪神は欲が深いのか?」

 アザゼルがカイトに問う。

「……当たり前だろ。それも邪神の……邪神たる所以の、ひとつだからな」

「なるほど。おい兵藤一誠。おまえ、コカビエルのときも、乳を吸うためだけにやけに強い力を発揮したらしいな。ヴァーリからの報告を冗談だと思ってたが、頼るに他はなさそうだ。いいか、よく聞け!」

 アザゼルは真剣な面持ちで叫ぶ。

「邪神を放っておけばおまえの主、リアス・グレモリーは連れていかれるだろう。そして、おまえの眷族の女、全員な。そしてここからが重要だ。もしそんなことになれば、リアス・グレモリーを抱くのは、あの邪神になり、おまえは抱くことができないぞ。それどころか、乳を吸うことも……いや、拝むこともできなくなる」

 …………。

 ――――っ。

 はい? 俺はかつてないほど思考が飛び、脳内は疑問符だらけとなった。

 理解できなかった。

 

 毎日のように拝むことのできてるあのおっぱいが、見れなくなる。

 

 まだ吸わせてもらってないのに、その可能性が消える。

 

 部長を抱くことは、一生ない。

 

 

 部長へ視線を向ける。

 ああ、部長のおっぱい素敵。素敵なおっぱい。俺の大好きな! 俺のすべて。俺の世界。俺の――。

「……ふ」

 悪い、カイト。おまえのことも、忘れてないからな。おまえのためにも。そして――部長たちのためにも、俺は決めた。

「ふざけンナァァァァァァァァァァァァァァァッッ!!」

 あの邪神はここで倒そう――。危険すぎる――俺の敵を!

「貴様ッッ! カイトだけじゃねぇ! 部長のォォォォ! 部長のおっぱいは絶対に渡さねェェェェェェェェェェェェェェェッッ!!」

『Welsh Dragon Over Booster!!!』

 俺の怒りに呼応して、神器が真っ赤で強大なオーラを解き放ち始める。

 アザゼルから貰ったリングも作用したのか、俺は『赤龍帝の鎧』を何の犠牲も払わず装備できていた。

 しかし、左腕の籠手に、カウントダウンらしきものが発生している。時間的には十五分もない。それでも、あの邪神を殴り飛ばす時間は大いにあるか。

「なんてこった。今代の赤龍帝はあんなことで、擬似的にでも禁手になれるってのかよ! アッハッハッハッハ! こいつは希望が見えてきたぜ! なあヴァーリ!」

 アザゼルが笑いだし、ヴァーリの名を呼ぶ。

「そうだね、アザゼル。あたしももう少し、頑張ってみようかな」

 さっきまで倒れていたヴァーリが、俺の隣に並び立っていた。

「協力してくれんのか?」

「もっちろん。カイトをとられるのは嫌だし、あんな風にして邪魔してきたのは絶対に許さない。――禁手化」

『Vanishing Dragon Balance Breaker!!!』

 力強い言葉と共に、再び白い全身鎧を纏うヴァーリ。

 まだまだ力は余ってるってことか?

 頑丈なことで。最近出会う女の子はみんな強い方々ばかりだ。でも、だからこそ。

「心強いよ。そんじゃいっちょ」

「うん」

「「共同戦線といこうか!」」

 赤と白。

 宿敵同士である俺たちは、共通の敵に向け、拳を向けた。

 

 

 俺のおっぱいと仲間は渡さないぜ!

 

 




カイトが重症だというのに、イッセーはイッセーだぜ!
と思うが、一応仲間のために戦うイッセー。一応。
アンラ・マンユはいまだ本体が出てきません。意識だけ出てきてます。
つまりここで倒したとしても本体にさほどダメージはないという……。というかここでイッセーとヴァーリの共闘ですね。この作品のイッセーはヴァーリをそこまで嫌ったりとかしません(予定)。

感想や意見、いつでもお待ちしております。
批判は作者のメンタルが持たないから勘弁ね?

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