ハイスクールD×D 精霊と龍神と   作:きよい

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10話

<イッセーSide>

 

 おいおい、なんかやばい状況なのはわかったんだけど、俺たちは俺たちではやくギャスパーを助けにいかないと!

「カイト。祐斗とゼノヴィアと共にこの場はお願いしてもいいかしら?」 

 部長がカイトにそう言う。

「……」

「……カイト?」

 返事が返ってこないことを不審がり、部長が再度呼びかけるが一向に返事はない。

 俺もカイトの方へ視線を向ける。

 そこには、窓から凝視するように外の様子を覗いているカイトの姿があった。

「……なんで、いや……。あいつはもう、いるはずがない……」

 一人でそんなことを呟きながらも、視線は窓の外だ。

「……カイトくん、だいじょうぶかい?」

 木場も心配になったのか、カイトの肩へと手を置く。

「――ッ!?」

 大きく肩を揺らし振り返る。

「……祐斗? どうしたんだ?」

「カイトくんが外に視線を向けたまま僕らの話が聞こえてなかったみたいだったからね」

「……。……悪い」

「なにかあったのかな」

「見知った奴がいた気がしたもんでな。……気のせいだとは思うけど」

 それからもう一度外へと視線を向けるが、今度はすぐに俺たちの方へと戻した。

「それで、なんの話だったんだ?」

 カイトの問いに、部長が答える。

「私とイッセーはギャスパーの救出に行くわ。カイトは祐斗たちと一緒にこの場を手伝ってちょうだい」

「わかりました」

『狙われているというのに、随分余裕ですね』

 カイトが普段通りに戻ったとき、声が響き渡った。

 それと同時に、床に魔方陣が浮かび上がる! これ、悪魔か!? もしかして増援!?

 でも狙われてるとか言ってましたよね!

「そうか。そう来るわけか! 今回の黒幕は――」

 舌打ちするサーゼクスさま。え? どうしたっていうんですか?

「グレイフィ、リアスとイッセーくんを早く飛ばせ!」

「はっ!」

 グレイフィアさんは俺と部長を会議室の隅にいくよう急かせると、小さな魔方陣を展開した。

「お嬢様、ご武運を」

「ちょ、ちょっとグレイフィア!? お兄さま!」

 転送の光が俺と部長を包み込んでいく――。

 

<イッセーSide out>

 

 

 イッセーと部長が転移してすぐに、会議室の床に展開された魔方陣から一人の女性が現れた。

「ヴァチカンの書物で見たことがあるぞ。――あれは旧魔王レヴィアタンだ」

 ゼノヴィアが魔方陣を見てそう呟く。

 旧魔王か。魔王少女の先代だな……。いまになってここに現れるってことは、彼女もまた、『禍の団』に身を置く者の一人ってことか。

「ごきげんよう、現魔王のサーゼクス殿」

 不敵な物言いで、サーゼクスさんにあいさつする。

「先代レヴィアタンの血を引く者。カテレア・レヴィアタン。これはどういうことだ?」

「旧魔王派の者たちはほとんどが『禍の団』に協力することを決めました。今回の攻撃も我々が受け持っております」

「――クーデターか」

 現魔王派に対する旧魔王派の反乱ってことか。

 このままだとカテレアって奴も参戦してきそうだな。

 そうなると単純な戦力が増えるわけだが……減らせるうちに減らしとくか。

「サーゼクスさん、話の最中悪いけど、俺は外の奴ら倒してくるよ。そっちはそっちでやるべきことがあるんだろ?」

「……すまないね、カイトくん。それでは頼むよ。木場祐斗くん。キミも一緒に行きたまえ。その禁手を妹と仲間のために揮ってくれ」

「はっ!」

 いいね、祐斗も参加か。

「ゼノヴィア、キミも一緒に来てくれ!」

 祐斗がゼノヴィアにも呼びかける。

「ああ、私も仲間のために剣を揮おうじゃないか!」

 本人もやる気十分だ。なら、問題ないな!

「よし、いくぞ二人とも!」

 俺たちが会議室から出て行こうとしたとき、カレテアの手から魔力が溢れ出す。

 おい、こんなところでやる気か!?

「させるとでも――」

「おっとぉ! カテレア・レヴィアタン。若い奴らの邪魔なんて無粋なことするんじゃねぇよ。おまえは俺たちの相手でもしてろ」

 前に出て挑戦的な笑みを浮かべるアザゼル。

 丁度、俺たちの進路を確保するような立ち居地にアザゼルはいる。

「この……ッ!」

 悔しがるカテレアを他所に、俺たちはそのまま、校庭へ出ることができた。

 アザゼル――。

「ったく、借りができたな……。祐斗、ゼノヴィア。いくぞ!」

 

「いくとは、どこへかな?」

 瞬間、火で形成された獣が俺たちに襲い掛かってきた。

「はっ!」

 だが、それはいとも容易く祐斗の聖魔剣に両断される。

「おや? 強度が足らなかったかな。これは残念だねぇ」

 その声、忘れてねぇぞ。

 

「随分探し回ったよ、カイトくん。今日はいないのかとさえ思ったものさ。だ・け・ど――見つけた」

 

 赤い剣を握った、腰まで届く髪を無造作に伸ばした男。

「……緋夥多」

 コカビエルの一件以来の再会だった。

 俺は瞬時に、<魔王殺しの聖剣>と<真実を貫く剣>を両手に握った。

「キミなら私と戦ってくれると思っていたよ。前回のような失態はもう見せない! 今度こそキミを殺す」

「アンラ・マンユはどうしてる?」

「さあ? 私はもう知らないからね。あの方へ協力はもうしていないのでなんとも言えない」

 裏切ったか……。

 それじゃあもう、あいつの新しい情報は得れそうにないな。

「それで、そんな奴がどうしていまこの場にいるんだ?」

「キミを倒すために決まっているだろう? そのためにあの方と縁を切ったのだからね」

 それだけのためにか。アンラ・マンユ、この男を放っておくつもりか? レーヴァテインも持たせたままで……。

「どちらにしろ、おまえを倒したところでアンラ・マンユの情報は手に入らないんだろう?」

「昔のでいいのなら、手にはいるかもしれないよ?」

「昔のじゃあんまり意味ないんでね。いらないさ」

 俺はそれだけ言い残し、緋夥多とは別の方向へと走り出す。

「祐斗、ゼノヴィア! 遅れるな!」

 前方から襲い掛かってくる魔法使いたちを薙ぎ払いながら前進する。

「カイトくん、よかったのかい? 彼――緋夥多を放っておいて」

「うん、私もそれは思ったぞ。前回のカイトはやけに固執していたように見えたんだがな」

 追いついてきた二人が各々そう言っている。

 よく見てることで。

「まあ、なんだ。その――」

「私を無視していこうとは許せないなぁ、カイトくぅん!」

 緋夥多も諦める気がないようで、追従してくる。俺としてはもうあいつに興味ないんだけどな。――レーヴァテイン以外。

「――紅炎戯曲三番・千華狼!」

 レーヴァテインから溢れ出た炎が幾重にも分かれ、一つ一つが狼の形になり殺到してきた。

「させないよ!」

 祐斗が瞬時に魔剣を地面から生やし狼を串刺しにする。

「私はカイトくんにしか興味ないんだよ。邪魔をしないでくれるかな、聖魔剣の少年」

 その間に追いついてきたのか、緋夥多が俺たちの前に立ちはだかる。

「カイトくん、前はあんなに私に執着していたじゃないか。今日も斬り合うためにここまできたんだ。なんならそこの二人は逃がしてもいい。さあ、私と戦いたまえ!」

「……俺は、おまえに興味ない。あるのはレーヴァテインだけだ」

「この剣かい? なら、私と戦って、勝ったら持っていくといいよ。」

 挑発するように、見せびらかすようにレーヴァテインを掲げる。

 あれは元々仲間の剣だ。あいつが持ってていいものじゃない。

 でも、それでも――俺は緋夥多に背を向けた。

「……解せないな。どうして、私に背を向けるんだい?」

 アンラ・マンユの情報が手に入らない以上、レーヴァテインが手元にあってもなんの意味もない。

 それは仲間の武器であって、そのものじゃない。確かに、取り戻しておけば仲間が戻ってこれたときに喜ぶかもしれない。でも、それより先にいま、やるべきことが俺にはあるじゃないか。

 ごめんな、みんな。俺、ちょっとわがままになるわ。

 いまこの場にいる仲間のために。

「バカにすんなよ、緋夥多。いまの仲間を守ることより、おまえの相手をすることを優先する理由がどこにある」

「カイトくん」

「カイト」

 嬉しそうな笑みを浮かべた祐斗とゼノヴィアが、俺の側に寄ってくる。

 なんだよ、おまえら揃って……。

「笑ってないでさっさといくぞ。みんなのためにも、魔法使い共を片っ端から倒してまわる」

「うん」

「任せておけ」

 俺たちは駆け出し、敵に向かっていく。その際、一瞬だけ視界の端に捉えた緋夥多は、ブツブツとなにかを呟きながら、放心している様子だった。

 そんなに相手にされなかったことがショックだったのか?

 だが、次の瞬間。

 背筋に悪寒が走った。

 俺は咄嗟に飛び退き、後方を確認する。

 異形だ。異形の闇が、緋夥多を包み込んでいた……。

「まち、たまえよ……カイトくん……。……ま、て。カイト。迎えに、きたぞ」

 違う……この声は緋夥多のものじゃない。

 イッセーと堕天使との一件の際に聞いた、この声は――

「……アンラ・マンユ…………」

 闇と一体化した緋夥多が、その場に佇んでいた。

 


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